近年、労働者のメンタルヘルス不調が原因による過労死、過労自殺などが社会問題になっています。こうした状況を受け、2015年には職場でのメンタルヘルス対応として「ストレスチェック制度」が施行されました。
この制度は、職場で労働者のストレスの状況を定期的に検査することで、個人のメンタルヘルス不調を防止することをねらいとしたものです。
さらに、検査結果の集団的な分析から職場環境を改善するという目的もあります。このストレスチェックは、主に職場の産業医によって実施されることが望まれています。
産業医とは、私達が普段利用する病院の医師のような診察はせず、事業者に選任され、労働者の健康状態のチェックや業務の遂行可否を判断する医師のことです。
しかし、そもそも産業医の数自体が不足しているうえ、これまでの業務に加えてストレスチェックにも対応できる産業医がどれくらいいるのかは疑問視されています。
そこで今回の記事では、ストレスチェックをはじめとしたメンタルヘルス対応に強い産業医の必要性について詳しく説明します。是非参考にして、貴重な人材をメンタルヘルス不調から守るための産業医について考えてみてください。
目次
メンタルヘルス対応に産業医が求められる3つのケース
まずは、メンタルヘルス対応に産業医が必要とされる具体的な3つのケースを見てみましょう。
①ストレスチェックの実施
ストレスチェック制度では、事業者がその実施者を医師、保健師、もしくは一定の研修を受けた看護師、精神保健衛生士の中から選定します。その中でも、普段からその職場の状況を把握している産業医が実施者になることが望ましいとされています。また、実施者を外部の機関から選定する場合であっても、その職場の産業医が関与することが望ましいです。
②ストレスチェック後の面接指導
ストレスチェックの結果、高ストレス者として判断された労働者で、必要があると認められた場合に受けるのが医師による面接指導です。この面接指導も、ストレスチェック同様、その職場の産業医による実施が推奨されています。 面接指導は精神科医や心療内科医でなくても実施できますが、労働者によっては専門機関への受診を勧めなければいけない場合があります。よって、面接指導を行う産業医にはメンタルヘルスに関しての知識が求められてくるのです。
③メンタルヘルス不調者の復職判定
メンタルヘルス不調により休職に入っている労働者の復職の可否を判断するのも、産業医の役目です。 休職から職場復帰する場合、労働者は事業者に主治医の意見を記入した診断書を提出します。しかしそこには日常生活における症状の回復具合しか記載されていないことも多く、産業医によって職場での業務遂行が可能であるかを判断する必要があります。
産業医の多くはメンタルヘルス対応が満足に行えていない
職場でのメンタルヘルス対応には、産業医の協力が不可欠であるということが分かりました。しかし産業医の多くは、こうしたメンタルヘルス対応が十分に出来ていません。
2017年に医師専用のコミュニティサイトを運営する株式会社Mediplatが500名の産業医を対象に行ったアンケートによると、その8割がメンタルヘルス対応に自信がないという結果が出ました。
その大きな理由に、精神科分野の専門知識が不足していることが挙げられています。やはり一口に産業医といっても、精神科医や心療内科医でないとメンタルヘルス対応は難しいというのが現状なのです。
まとめ
近年のメンタルヘルス不調者の増加により、産業医にはストレスチェックの実施やその後の面接指導、メンタルヘルス不調者の復職判定といった対応が求められるようになりました。
しかし、この分野の専門知識を持ち、メンタルヘルス対応に自信のある産業医は少ないのが実情です。求める条件を満たす産業医が見つからない場合には、独自のネットワークを持つ専門機関などを利用するのも一つの選択肢でしょう。
今後貴重なリソースである人材をメンタルヘルス不調から守るためには、単なる法令順守では不十分です。
産業医と人事労務担当者が密に協力し、法定外の業務も含めて対応することが必要になってきます。そうすることで、多くの企業が課題としている労働生産性の向上やリスクヘッジ、医療費の削減にもつながっていくでしょう。