【健康経営と睡眠】睡眠の質は心身の健康や生産性に直結する

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

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「睡眠」と聞いて、思い浮かぶイメージはどのようなものでしょうか?
・身体を休める
・脳を休める
・食事、仕事と並び、生きていく上でなくてはならないもの 
など、基本的に「休める」といったイメージが並ぶと思います。

健康経営、働き方改革が叫ばれている現在、「睡眠の質を高める」ことが起床後の活動や心身の健康、生産性の向上につながると言われています。

日本人は「睡眠するのが下手!?」―睡眠障害は国民病

2002年にフランスの大手製薬会社が行った国際的な疫学調査によると、全体で不眠に悩んでいる人は約25%で日本では成人の5名に1名、約21%が不眠に悩み、うち約15%が日中に眠気を自覚しているという結果でした。

これを受けて、厚労省からも睡眠指針を策定しており、2014年に内容が改訂された「健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条~」が発表されています。その8条には、「勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を」とあり、疲労回復には良質な睡眠が重要であることが訴えられています。

「睡眠」の仕組みー「睡眠」で疲労回復・細胞の修復が行われている!

睡眠中は、深い眠りの「ノンレム睡眠」と浅い眠りの「レム睡眠」を繰り返しています。レム睡眠中には基本的に筋肉は動かないようになっていますが、脳は活動をしており夢を見ています。

ノンレム睡眠は「レム睡眠ではない眠り」という意味で、深さに応じて4つのステージがあります。このうち、脳を休めるのは、主にステージⅢとⅣの深いノンレム睡眠です。このステージⅢとⅣは、デルタ波という緩やかな波長の脳波が増えてくるため、「徐派睡眠」とも呼ばれていて、脳の疲労を回復させます。

眠りは浅いステージⅠのノンレム睡眠から始まり、1時間ほどでステージⅢとⅣのノンレム睡眠に至ります。この徐派睡眠のときに脳の疲労回復が進められると同時に、体の器官の新陳代謝を促なす「成長ホルモン」が分泌されます。

徐派睡眠から次第に眠りが浅くなり、2時間ほどでレム睡眠にスイッチします。レム睡眠では、脳が活発に働いているので、日中にインプットした記憶を整理し、学習を強化するなどをしています。

以後、ノンレム睡眠とレム睡眠は、4-5回ほど繰り返します。つまり、寝入ってから約3時間の間に深い眠り=ノンレム睡眠に達すれば、脳もカラダも休ませることができるため、朝起きた時に「ぐっすり寝た」という満足感を得ることができるのです。

また、睡眠中は日中に仕事や運動で大量に発生した「活性酸素」と「疲労因子FF(fighting factor)」をリカバーするために、「疲労回復因子(fighting recover factor)が増え、酸化・損傷された細胞の修復を始めます。

日中に激しく活動しても、寝付きの良い良質な睡眠がとれていれば、疲労因子FFによる酸化・損傷を回復させるに十分な疲労回復因子FRが分泌されるため、脳の疲労は回復します。

逆に、睡眠時間を削ったり、良質な睡眠がとれていないと、疲労因子FFによる酸化・損傷を完全にリカバーするだけの疲労回復因子FRが分泌されず、脳疲労が回復しにくくなるといえます。

「6時間寝てすっきりした」人もいれば、「10時間も寝たのに、疲れが取れない」という人は、「最初の寝付き」による差で、十分な疲労回復が追い付いていない、ということかもしれません。

脳の疲労回復は睡眠がカギー仕事のパフォーマンスにも影響!

前述したように、睡眠が全身の細胞の修復を行い、疲労を回復させてくれます。日中の仕事や運動による負荷で「疲れた」と感知するのは、「脳の自律神経の中枢である視床下部や前帯状回」です。

この脳の自律神経が十分に休めていないと、「脳疲労」が蓄積し、脳の回復がされずに「疲労感」として自覚します。

健康な人における疲労とは、日本疲労学会で「一般に運動や労力などの身体作業(運動)負荷あるいはデスクワークなどの精神作業負荷を連続して与えられたときにみられる、身体的あるいは精神的パフォーマンス(作業効率)の低下減少」と定義されています。

脳疲労は日々の睡眠でしか取り戻せない!

成人の脳を構成する神経細胞は細胞分裂を終えた細胞です。そのため、他の皮膚のような体の器官のように、細胞分裂で新陳代謝をして新たに生まれ変わることはないのです。

一部の神経細胞は大人になってからも新生することがわかってきましたが、大部分の神経細胞は生まれ変わることはありません。そのため、慢性的な脳疲労は自然と脳の老化を招くことになります。

脳の急な老化を防ぎ、高齢になっても認知機能を保っておくには、毎日の生活=睡眠で脳疲労を溜めない工夫が必要だといえます。

また、脳を構成する神経細胞のエネルギー源は糖質です。脳の神経細胞がどれだけ糖質を取り込んでいるかは、脳のパフォーマンスのバロメーターといえます。

マウスを使った実験では、丸1日眠らせないでいると、脳で代謝される糖質は約60%まで低下し、5日間眠らせないでいると約40%にまで低下します。そして5日間眠らせないでおいても、1日の睡眠で糖代謝のレベルが元通りになることがわかっています。

健康でいれば、日頃あまり意識していませんが、睡眠は驚くような疲労回復効果、パフォーマンス向上の力を秘めています。

良質な睡眠をとらずに細胞の疲労を放置すると生活習慣病のリスクが高まる!

体は「神経系」「内分泌系」「免疫系」のメカニズムの相互の働きによって、体内環境を一定のコンディションに保とうとするホメオシタシスという仕組みがあります。ストレスなどホメオスタシスを乱すような出来事があると、まずは神経系の自律神経が素早く反応します。

神経系は素早く反応できるのが良いところですが、何日間も続けることができないため、負荷が数日続くと自律神経失調症のような症状を起こします。そうなると次に対応をするのは内分泌系です。

疲れやストレスが長期化すると、脳からの指令で腎臓の隣にある副腎皮質という器官から「ステロイドホルモン」が分泌されます。このステロイドホルモンが、ホメオスタシスを守るために、外的刺激が多いと働いてくれます。

しかし、このステロイドホルモンは大量に分泌されると血管を老化させて動脈硬化のリスクを高めるなど、生活習慣病の引き金となってしまいます。また、このステロイドホルモンは、血糖値を下げるインスリンの効き目を悪くする「インスリン抵抗性」を引き起こし、高血糖や肥満をもたらします。

高血糖、肥満を放置していると、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病にかかりやすくなるのは、明白です。

睡眠不足で脳が疲れ、メンタルヘルス不調につながる!

国立精神・神経医療研究センター・三島和夫部長らの研究グループが、2013年2月に睡眠不足で不安・抑うつが強まる神経基盤を解明しました。

研究結果として、睡眠不足時に、不快なネガティブな情動刺激(感情ストレス)を受けると、熟眠時よりも左扁桃体の活動が優位に亢進し、一方ポジティブな情動刺激(幸せ感情)に対する扁桃体の活動性は変化しなかったことから、睡眠不足時には、ネガティブな情動刺激に対してだけ反応しやすくなることが分かりました。

睡眠不足時にネガティブな情動刺激に対して扁桃体が過剰反応するのは、その活動を抑える働きをする前帯状皮質と扁桃体との機能的結合が減弱することに由来するとのこと。機能的結合が減弱するほど左扁桃体の活動が亢進し、不安と混乱が有意に強まり、抑うつが強まる傾向が観察されたとのことです。

要するに、睡眠が不足すると、脳の疲れが回復されず、蓄積していくので、メンタルヘルスの不調までも引き起こす、ということがより明白となった研究です。

睡眠と健康経営―生産性指標「プレゼンティーズム」について

これまで、睡眠の必要性―つまり脳疲労の回復の重要性を述べてきました。また、脳疲労が溜まると、仕事のパフォーマンス低下を引き起こし、「プレゼンティーズム」に陥ります。

「パフォーマンスの低下減少」とは本来の能力を発揮できない状態であり、具体的には、「思考力が低下する」「刺激に対する反応が鈍くなる」「注意する力が衰え、散漫になる」「動作が緩慢になる」などの変化であり、さらには「目がかすむ」「頭痛がする」「肩こりが起こる」「腰が痛い」などの症状を言います。

これらの状態で仕事をしている場合は、出勤していても十分な力が発揮できてない状態(プレゼンティーズム)であるといえます。

プレゼンティーズムの対義語でアブセンティーズムがあります。アブセンティーズムとは、病気やケガで欠勤、または休職などで業務についていない(=明らかに職場や会社に居ない)状態をいいます。

一方、プレゼンティーズムは、出勤しているのに心身の不調により十分なパフォーマンスが発揮できず、業務遂行能力や生産性が落ちてしまう状態のことをいいます。

出勤はしているので、アブセンティーズムに比べて生産性の低下が分かりにくいのですが、実はプレゼンティーズムの方が生産性や業績に影響する割合が大きいといわれています。

このプレゼンティーズムは、米国からきた概念ですが、日本企業を対象に行った調査でも、日本・企業における健康関連総コストの構造で、アブセンティーズムが全体の4.4%であることに対し、相対的プレゼンティーズムは、77.9%と圧倒的に割合が高いことが分かりました。

このプレゼンティーズムは生産性指標として活用されているため、プレゼンティーズムが高いということは、不健康である状態によって労働生産性のロスがある、ということが明らかになりました。

また、東大の研究ワーキンググループによる、プレゼンティーズム×アブセンティーズム×健康リスク(生活習慣(喫煙・飲酒・運動・睡眠)、生物学的リスク(血圧・脂質・血糖・肥満、心理的リスク(主観的健康感・生活満足度・仕事満足度・ストレス)を掛け合わせ、生産性に影響する健康課題を明らかにした研究報告によると、生産性ロスを招く生活習慣には、睡眠不足も「健康リスクの1つ」という結果が示唆されています。

健康経営で従業員の「睡眠支援」が生産性ロスを防ぐことが可能!

従業員には、元気でいきいきと働いてもらいたい、そして企業としての力を存分に発揮し事業を継続・成長させたい、という願いを含んだ取り組みが健康経営です。

「プレゼンティーズム」の生産性ロスに関連する生活習慣の、「従業員の睡眠」を支援することで、個々の健康を支援し、結果としてプレゼンティーズムの減少に成果を出せるといえましょう。

いまや、睡眠は、脈拍や睡眠の様子で客観的に測定できる時代です。睡眠を見える化するアプリや健康グッズも多く出ています。睡眠は食事と同様に、人にとって欠かせないものです。

肥満などは、一部の人にしかアプローチせず、成果も医療費削減などの部分的なものなので、メタボを撃退することよりも、睡眠不足の社員が快適な睡眠をとれるよう支援することのほうが、プレゼンティーズムの減少、ひいては生産性アップにつながり、健康経営の具現化への近道となるかもしれません。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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