日本能率協会が公表している「日本企業の経営課題2022」によると、「働きがい・従業員満足度・エンゲージメント向上」を課題に感じている企業は年々増加傾向にあります。人材の流動性が高まりつつある現代において、エンゲージメントの向上を重きにおいた組織開発・運営は、持続的かつ安定的な企業経営の観点からも重要と言えるでしょう。本記事では、エンゲージメント調査の概要、企業がエンゲージメント調査を行う理由、その活用方法について解説します。
目次
エンゲージメント調査とは?
エンゲージメント調査とは、従業員が熱意を持って仕事に取り組めているか、自社に対してどの程度愛着を持っているかなどを把握する調査です。「調査」を英語にして「エンゲージメントサーベイ」と呼ばれることもあります。
エンゲージメントの意味
人事領域におけるエンゲージメントとは、「従業員が自社や自社の商品・サービスに愛着心を持っていること」を表します。ロイヤリティ、忠誠心などが従業員からの一方向の感情であるのに対し、エンゲージメントは企業と従業員がお互いの成長に貢献し合おうとする関係です。もともとは1990年代に米国・ボストン大学のカーン教授が使用し始めた概念です。
【従業員満足度との違い】
ハーズバーグの二要因理論では、仕事の満足度に関わる要因(動機づけ要因)と、不満を感じる要因(衛生要因)は別のものだと説いています。衛生要因が満たされることで不満のない状態にはなりますが、満足度を高めることにはつながりません。
従業員満足度の構成要素に挙げられる「人間関係」や「給与待遇」などは、ハーズバーグの二要因理論では衛生要因に該当するため、職務成果とは結びつきづらいと言われています。「従業員の満足度」を高め、個と組織の成長を目指すという観点では、従業員満足度調査だけでは不十分な点があるでしょう。
エンゲージメント調査のメリット
エンゲージメント調査の実施により、客観的に組織の現状が把握できます。各種調査により、従業員のエンゲージメントを高めることが生産性向上にも寄与できると明らかになっています。
また、エンゲージメント調査は人事戦略のうえでも大きなメリットがあるのも事実です。近年は、少子化による人材不足、売り手市場による転職者の増加など、人事担当者の悩みは尽きません。採用が難しいうえに、転職マーケットはこれまで以上に活発で、優秀な従業員にはスカウトやヘッドハンティングの声がかかりやすい状況です。
調査結果をもとに有効な施策を打つことができれば、従業員に「これからもこの会社で頑張っていきたい」と思ってもらえるため、離職率の低下、売上や業績アップにつながることが期待されています。
エンゲージメント調査の目的
続いては、エンゲージメント調査の目的について解説いたします。
組織が抱える課題や問題の可視化
エンゲージメント調査の目的の一つは、組織のエンゲージメントの状態に加え、問題の要因を可視化することです。調査を通して組織に潜む課題を明らかにし、定量的なデータをもとに客観的な分析を行うことで、具体的かつ適切な改善策を打ち出すことができます。
例えば、調査によって「離職者が多い部署ではエンゲージメントが低い」という傾向を捉えるだけではなく、「なぜエンゲージメントが低いのか」という背景要因を把握することで、定着率の改善に向けてどのような取り組みを進めていくべきかのヒントを得られます。
また、エンゲージメント調査では従業員と企業間のギャップの把握も可能です。ギャップが大きい場合、新たな課題が出てくるリスクもあるでしょう。調査結果を従業員に共有し、意見交換や対話を進めることで、今後起こりうる課題・問題を回避できるかもしれません。
各種人事施策の効果検証
もう一つの目的は、各種人事施策の効果検証・測定です。施策の前後でパルスサーベイを行い、エンゲージメントが向上していれば効果があったと判断できるでしょう。これにより、明確な根拠を持って継続または廃止の判断が可能となります。
従業員エンゲージメント調査の指標
従業員エンゲージメント調査の指標は、大きく分けて3つあります。調査会社によって表記の方法は異なりますが、総合的な指標と企業や仕事内容の満足度、企業に対する期待度、仕事を通じた自分の成長可能性などが指標として表されることが多いでしょう。ここでは、エンゲージメント調査の指標について、質問例を交えてご紹介します。
総合指標
総合指標とは、従業員が勤めている企業や担当している業務について、総合的にどのように感じているか、全体的な評価や愛着を示す指標です。eNPS(employee Net Promoter Score)、総合満足度、継続勤務意向の指標を用います。
【質問例】
- 求職中の家族や友人に、自分の会社を勧めたいと思いますか?
- 自分の成長を実感できる機会がありましたか?
- 今の会社で働き続けたいと思いますか?
ワークエンゲージメント指標
ワークエンゲージメント指標(例:UWES=Utrecht Work Engagement Scale)とは、活力、熱意、没頭などの尺度から、現在の仕事に積極的に向かい、活力を得ている状態を評価する指標です。
【質問例】
- 仕事にやりがいを感じますか?
- 仕事を楽しいと感じていますか?
- 自分の持つスキルを仕事に活かせていると思いますか?
エンゲージメントドライバー指標
エンゲージメントドライバー指標とは、エンゲージメントを向上させる要因を把握するための指標です。主に組織ドライバー、職務ドライバー、個人ドライバーの3項目があり、仕事への満足度、当事者意識、貢献できているという感覚、成長している実感、将来の成長予測、人間関係の良好さ、企業の価値観への共感度、企業への期待度などを測ります。
【質問例】
- 組織ドライバー:最近1週間のうちに、上司や周囲から褒められたり、肯定的な言葉をかけられたりしましたか?
- 職務ドライバー:所属部署や企業が掲げる目標や戦略を理解していますか?
- 個人ドライバー:自分の仕事が企業のミッションの実現に貢献すると感じますか?
エンゲージメント調査の種類と実施方法
続いては、エンゲージメント調査を実施するにあたって、その種類と具体的な実施方法をみていきましょう。
エンゲージメント調査の種類
エンゲージメント調査は、「パルスサーベイ」と「センサス」の2種類に分類されます。
パルスサーベイは、月次、週次など、脈拍(パルス)のように短期間かつ高頻度で調査する方法です。詳細な状態を把握することは難しいものの、時期や範囲を限定して定期的に調査を行うので、スピーディーな調査と問題の早期発見ができます。
センサスは、年次で行う大規模な調査方法です。質問数は50~150程度で、回答には20~40分程度の時間を要します。回答負荷は高いですが、長期的な視点で分析を行うことができ、組織の成長・変化に伴うエンゲージメント状況の変化を把握できます。
小さな変化の把握に長けたパルスサーベイとセンサスを連動させれば、年間の長期的な施策の結果を追ったり、効果を検証したりすることも可能です。
実施方法
実施方法は主に2通りあります。
- 自社で実施する
- 外部の専門サービスを利用する/委託する
自社で行う場合は、質問の設計や調査方法も自由に検討でき、外部委託するよりもコストは抑えられます。しかし、エンゲージメントに関するノウハウが少ない場合、的外れな質問をしてしまったり、得られた結果を有効活用できなかったりする可能性があります。
また、集計や分析に工数がかかることもあるでしょう。加えて、エンゲージメントサーベイだけを内製しようとすると、既に導入済みの他のサーベイと測定基準や因子が異なるため、連動させての分析や比較が非常に難しいというデメリットもあります。
外部の専門サービスを利用/委託すると、より専門性の高い調査が可能となります。的確かつスムーズな分析、結果の改善から施策の打ち出しまでをサポートしてくれるサービスもあるので、より効果的な調査ができるうえ、人事担当者の負担軽減にもつながるでしょう。
アドバンテッジリスクマネジメントが提供する「TOUGHNESS」×「pdCa」は、自社の課題把握と解決にお役立ていただける、サーベイを起点とするワンストップサービスです。
従業員のメンタルヘルスやエンゲージメント状況をセンサスで定点観測し、高精度な現状把握を可能とするパルスサーベイとの組み合わせにより、組織や従業員個人の小さな変化を見逃しません。
エンゲージメント調査実施の流れ
続いては、エンゲージメント調査を実施する際の具体的な流れをみていきましょう。
【実施の流れ①】調査の目的に応じた項目の決定
エンゲージメント調査を行う前に、「なぜ調査を行うのか」「調査によって明らかにしたいことは何か」「調査を受けて目指すべきもの、実現したいものは何か」など、実施の目的を明確にしておきましょう。
目的の例としては、「業務の進め方の再確認」「従業員のモチベーション向上」「従業員のメンタルヘルス改善」などが挙げられます。
【実施の流れ②】調査の周知・実施
調査の目的に沿って実施のタイミングを決めましょう。例えば、組織の体制変更などがあって間もない時期だと、それまで継続的に実施していたエンゲージメント関連施策による効果にブレが生じる可能性もあり、正確なデータが得られないかもしれません。
また年度末をはじめ、企業にとって繁忙期に当たるタイミングも、回答が雑になる可能性があるため避けたほうが良いでしょう。パルスサーベイの場合は、定期的な実施が前提となるため、実施間隔を決めておくことも重要です。
【実施の流れ③】調査結果の分析・改善
回答が集まったら速やかに集計、分析に取り組みましょう。数値だけを見て良し悪しを判断するのではなく、過去の結果などと比較して変化があったかどうか、その変化の原因は何かを分析することが大切です。
また、調査結果に売上データや生産性データ、勤怠データなど、他の情報を組み合わせることで、より具体的な検証・改善策の立案が可能となります。
調査結果の活用シーンと、有効的に活用するポイント
調査結果は、以下のようにさまざまな目的やシーンで活用できます。
・従業員の価値観、志向性の把握 ・マネジメント層の研修 ・人事異動による適材適所の人材配置 ・従業員の裁量権の拡大検討 ・従業員のキャリアデザインを支援する人事制度の構築 |
調査では、一定のセグメントや部署ごとの指標を抽出することも可能です。ネガティブな結果は、仕事の内容自体が影響しているケースもあれば、管理職の指導が影響しているケースなど、さまざまな要因が考えられるでしょう。
いずれにせよ、調査によって従業員が抱えている課題が見えやすくなるため、適切な改善策の策定に役立てることができます。
エンゲージメント調査を行う際の注意点
最後に、エンゲージメント調査を実施する際のポイントを押さえておきましょう。
従業員に負担がかからないよう工夫する
従業員は、忙しい業務の合間に回答するため、負担が大きいと回答率が低下してしまう可能性があります。現場の負担にならないよう、調査対象の指標を1つに絞って質問数を制限する、スマートフォンから回答できるようにするなどの工夫を心がけましょう。
調査への不安や抵抗感を和らげるために、匿名で調査を行うことも効果的です。
調査後は結果を共有する
エンゲージメント調査を実施した後は、目に見える形で従業員に結果を共有します。回答結果がどのように活かされているのかが見えないと回答する意義を理解できず、次第に回答率が低下してしまう可能性もあります。改善された点や新たな課題などを分析し、次の取り組みに活かすなどの対応が大切です。
部署や業務横断のプロジェクトチームを立ち上げるなど、従業員を巻き込んで取り組みが進められる体制を整えると良いでしょう。
エンゲージメント調査で組織開発を推進
エンゲージメント調査は、組織のエンゲージメント向上、課題の把握・改善に欠かせない重要な手段です。目的を明確にすることで、より効果的な質問が設計でき、精度の高い分析と人事施策の打ち出しが可能となります。組織開発を推進するためにも、エンゲージメント調査を取り入れてみてはいかがでしょうか。