2019年4月1月からの働き方改革法案の一部施行により労働安全衛生法が改正され「産業医機能」が強化されています。本記事では、改訂後の産業医の機能や事業者が気を付けるポイントについて解説します。
目次
法改正の目的
今回の改訂は長時間労働やメンタルヘルス不調などにより、健康リスクが高くなっている労働者を見逃さないために、産業医による面接指導や健康相談等が確実に実施されるようにするものです。
また、産業医の独立性や中立性を高めることで、産業医が労働者一人ひとりの健康確保のためにより効果的な活動を行いやすいような環境を整備することになりました。産業医による面接指導の強化は、長時間労働やストレスを背景に起きる労働者の脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調を未然に防止するためのものです。
医師が面接指導で対象労働者に指導を行い、就業上の措置を適切に講じるように事業者に対して医学的な見地から意見を述べ、それを事業者が受け入れて適切な対応をとることで、社員の健康上のリスクを低減することができます。
参照:厚労省通達
産業医・産業保健機能の強化とは
労働安全衛生法令の改正により、産業医の活動環境を整備することが、より一層事業者に求められます。産業医が適切に労働者の健康管理を行えるように、事業者は以下の情報を産業医に提供する必要があります。
〇健康診断実施後の長時間労働者(1カ月の残業時間が80時間を超える労働者)に対する面接指導や実施後の情報
〇ストレス結果に基づく面接指導実施後の措置の内容に関する情報
〇産業医が労働者の健康管理をするうえで必要とする労働者の業務に関する情報
衛生委員会との関係強化
また、産業医と衛生委員会の関係が強化されています。事業者は産業医から受けた勧告・アドバイスの内容を記録して3年間保存する義務が発生します。
さらに、その内容を衛生委員会に報告する義務があります。アドバイス・勧告に従わない場合の理由も記録保存して内容を衛生委員会へ報告することになります。
労働者に対する健康相談の体制整備、労働者の健康情報の適正な取扱いルールの推進
事業者は、産業医等が労働者からの健康相談に応じるための体制整備に努めなければなりません。労働者が産業医に相談しやすいように、事業者は労働者に対して以下の情報を周知しなければいけません。
〇産業医の業務に関する具体的な内容
〇産業医に対する健康相談の申し出の仕方
〇産業医の労働者の健康情報の取り扱い方法
労働者の健康情報の収集、保管、使用および適正な管理については、事業者は規程を策定しなければなりません。規程に定めるべき事項として以下の9つが上げられています。
長時間労働者の面接の要件も見直しに
長時間労働者の面接の要件も見直されました。
〇改訂前:1カ月当たり100時間以上の残業をしていた長時間労働者が対象
〇改訂後:80時間以上の残業をしておりかつ疲労の蓄積が認められる労働者が対象
事業者は1カ月当たり80時間以上の残業をしている労働者に対して、速やかに「80時間以上の残業をしている」旨を通知する義務があり、さらにその情報を産業医にも伝える義務があります。ただし、面接指導については従来と同様で、労働者から申し出があった場合のみ行われます。面接指導の結果を記録する義務もあります。
面接結果に基づいて必要な措置について医師に意見を求め、もし必要性が認められれば就業場所や職務内容を変更したり、有給休暇を与えたり、労働時間の短縮や深夜残業の回数を減らしたりするなどの措置をとる必要も出てきます。
産業医の役割はどう変わるか
これまでの産業医の仕事とは、労働安全衛生法などに定められている法定業務、例えば職場巡視、長時間労働者との面接、健康診断の確認と事後面接などが中心でした。しかし近年はメンタルヘルス不調者の増加もあり、産業医業務はメンタルヘルス対応が中心となっています。
働き方改革の進展に伴い、多様化する働き方への対応がより一層求められるでしょう。たとえば、近年はがんに罹患した従業員の就労支援がテーマとして注目されています。
メンタルヘルス不調者でも、病状に合わせて適切な働き方を提案することで就労がスムーズになることがあります。就労の可否を検討するにあたり、産業医の医学的判断の重要性がさらに増すことになるでしょう。