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はじめに
働き方改革の一環として、これまでの働き方や働きやすさを改善することで生産性向上を目指す取り組みが注目されています。
厚生労働省の「治療と職業生活の両立支援についての取り組み」によると、特に労働人口の約3人に一人が何らかの疾病を抱えながら働いており、仕事と治療の両立を支援し、病気の人でも安心して仕事を継続できる環境作りが求められています。
しかし、実際は離職することを選択してしまう人が多く存在し、病気を抱える労働者のうち継続して仕事を希望する人が92.5%(2013年度)いる一方で、離職せざるを得なかった人が正規雇用者で14%(非正規雇用労働者は25%)となっている状態です。
また、病気の治療を継続しながら仕事をしている人でも、両立できていると感じている人はその半数程度に留まっています。
特に、がんに罹患した人ついては罹患後に離職した主な理由として、 ①仕事を続けていく自信の喪失、②職場に迷惑をかけることへの抵抗感(2013年)が挙げられており、制度や周囲のサポートや理解不足などから、現実的に仕事を続けることが困難な状況に直面している方も多いのが実情です。
また、企業側のサポ―ト体制をみても、病気休暇制度が整備されている企業の割合は22.4%(常用雇用者30人以上民営企業)(2012年) と低く、さらに病気休業からの復帰支援プログラムがある企業割合は11.5% (常用雇用者50人以上民営企業) (2012年)と、さらに低い割合となっています。
そのため、企業が、がんなどの病気を抱える方々に対して、適切な仕事上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と仕事が両立できるようにするため、企業における取組みなどをまとめたものを厚生労働省がガイドラインとして発表しています。
① 経営者による基本方針の表明・労働者への周知
② 研修等による両立支援に関する意識開発
③ 相談窓口等の明確化
④ 休暇・休職制度等、体制の整備
治療と職業生活の両立支援体制作りについて、企業が対応すべき内容について分かりやすく解説し、国を挙げて支援しています。
疾病を抱える労働者の状況
「治療と職業生活の両立等支援対策事業」(平成25年度厚生労働省委託事業)において企業を対象に実施したアンケート調査によると、疾病を理由として1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%、がんが21%、脳血管疾患が12%です。
また、仕事を持ちながら、がんの治療で通院している人数は、32.5万人にも上っています。(「平成22年国民生活基礎調査」に基づく推計)
疾病を抱える労働者の仕事の可能性について
近年の診断技術や治療方法の進歩により、「がん」においても5年生存率が向上し、「長く付き合いながら治療する病気」に変化しつつあります。労働者ががんの診断を受けたからと言って、すぐに離職しなければならないという状況が必ずしも当てはまるわけではありません。
しかしながら、病気を抱える労働者の中には仕事上の理由で適切な治療を受けることができない場合や、病気に対する労働者自身の不十分な理解や、職場の理解・支援体制不足により、離職に至るケースもみられます。
治療と職業生活の両立とは?(定義)
病気を抱えながらも、働く意欲・能力のある労働者が、仕事を理由として治療機会を逃すことなく、また、治療の必要性を理由として職業生活の継続を妨げられることなく、適切な治療を受けながら、生き生きと就労を続けられることです。
企業における現状と課題
病気、特にがんの治療と仕事の両立支援は個別に進めることが基本となり、そこに難しさが存在します。個々の病状や治療状況、本人の意思などを鑑みて、きめ細やかな復職支援プランを策定することについて悩む企業の担当者も少なくありません。
東京都が平成 26 年に実施した「がん患者の就労等に関する実態調査」によれば、従業員が私傷病になった際、当該従業員の適正配置や雇用管理等について、89.5% の企業が対応に苦慮したと回答しています。
また、苦慮した内容として、最も多いものが「病気や治療に関する見通しが分からない」(60.2%)、次いで「復職可否の判断が難しい」(51.9%) となっています。
治療と仕事の両立のための職場づくり
では、治療と仕事を両立するための職場づくりはどうすればよいでしょうか。治療を受けながら働く人を支えるのは、がん患者を取り巻く企業、医療機関、支援機関が連携し、本人の意思や病状、治療方針を鑑みた形で一人ひとりに合わせた復職支援プランを策定することです。
この動きを国も推進しており、平成30年度の診療報酬改定では、患者の就労支援を目的に、医療機関に対して「療養・就労両立支援指導料」「相談体制充実加算」が制定されました。
本人が、自分の会社に両立支援の依頼を申し出することからスタートしますが、主治医と産業医、企業が連携し、がん患者の療養と就労の両立支援のために治療計画の再検討又は見直しを行うことを積極的に評価する仕組みで、医療機関の主治医と事業場の産業医の連携の下で、がん患者の治療と仕事の両立に向けた支援を充実させることを目指したものです。
企業としても、主治医の協力を得られやすくなった環境があることで、よりそれぞれの治療状況や身体状況に合った復職プランの検討や、職場・業務上の配慮を行えるようになるので、本人・職場にとっても安心材料が増え、具体的な配慮内容や、治療状況、本人の全身状態を鑑みたサポート支援のもと、職場復帰の後押しをできるようになることは、非常に安心できます。
また、本人が職場に遠慮することなく治療を継続するためには、職場側が正しい知識として「現代の治療の概要(外来通院がメインであることが多く、普通の日常生活を送ることは可能)」を理解することが重要です。
そのためには、上長などの管理職に対し、「治療と仕事の両立支援」をテーマにした研修を取り入れたり、社内報での周知を行ったりして情報提供を実施していくことは必要です。
企業は、治療と仕事の両立について周囲の理解を得られるよう、本人の復職前に復職先部門の部門長との面談を設定したり、職場の同僚向けに、受け入れに必要な事項の研修を実施したりと、両立支援に対する会社側の考え方を浸透させるための具体的な取組みも必要となってきます。
まとめ
傷病を抱える労働者の中には、働く意欲や能力があっても、通院をはじめとする治療と仕事の両立が困難という現実があります。その為、治療と仕事の両立を支援するための職場環境の整備や制度作りが大切です。
本人にも不安を解消させられるような復職前・復職後の支援が必要ですし、職場側にも管理職の理解、同僚への理解が浸透するような情報提供、研修の機会を計画的に企画することで、両立支援の考え方を浸透させることも必要です。
そのほか、療養を継続できる収入の確保として、休職時の所得補償制度(GLTD)の導入や、確実で簡便な休職者の管理体制の構築も大切です。
具体的な支援策があることで、病気の社員本人が安心して治療に専念できるだけでなく、他の社員に対してもがんをはじめとする病気の治療と仕事の両立支援について、会社としての考え方を伝えるメッセージにもなります。このような制度を両立支援の環境づくりの一歩として、導入する企業も増えているようです。