うつ病によって休職する人が増えている今、職場にもメンタルヘルスに関する正しい知識と行動が求められています。本記事では職場側の復職判断基準や従業員の休職から復職までの流れ、うつ病を再発させないために職場ができることを紹介します。
目次
うつ病による休職からの復職には注意が必要
うつ病による休職者から復職希望があった場合でも、本人の意思だけで復職させることはできません。
休職者は収入面などの不安から、職場復帰を焦ってしまうこともあります。しかし、うつ病は再発のリスクが高いこともあり、焦って復職することで再発を招く可能性があります。再び休職になる可能性も考えられるため、休職者から復職の希望があった場合はまず主治医の診断書を提出してもらいます。その診断書をもとに産業医と相談したうえで職場復帰を判断することが一般的です。
職場側の復職判断基準
先述したように、うつ病による休職者から復職の申し出があった際は主治医による判断が必要です。ただし、主治医により復職可能と判断されたとしても、職場で求めている業務遂行能力まで回復しているとは限らず、主治医が復職を許可するレベルと、会社が求める復職レベルには大きなギャップがあるケースがほとんどです。そこで、職場としておさえておくべき復職の判断基準を紹介します。
生活記録表の確認と主治医からの意見
参照:医学的知見に基づく ストレスチェック制度の高ストレス者に対する 適切な面接指導実施のためのマニュアル
休職者の体調が回復し本人の意思含め復職の可能性がでてきた段階で、まずは主治医の確認をとり、生活記録表を本人に記入してもらいましょう。生活記録表は、生活リズムや日常の行動などを記録するもので、復職可否の判断材料に用います。 休職者の同意を得た上で、産業医を通じ主治医から生活記録表の情報提供や内容に関する意見をもらいます。(復職支援に関する書類フォーマットはこちら)
また、プライベートな事情により休職した場合は、解決の有無についても主治医などと連携をとりながら必要に応じて確認することが大切です。産業医と休職者本人との面談では、毎月の生活記録表を持参してもらい、記入内容などを確認しながら行います。
休職者の状態把握と評価
休職者の現在の状態や回復の程度を、本人や家族などに定期的にヒアリングすることも大切です。また、先述したように、主治医が復職を許可するレベルと会社が求める復職レベルには大きなギャップがあります。本人がどの程度業務や職場に適応できるかを確認するために、休職期間中に試し出勤制度を取り入れたり、復職に向けてリハビリを行うリワークプログラムを行ったりする方法もあります。職場にスムーズに適応できるよう、心身の両面において訓練を行い、仕事ができるコンディションを整えていきます。
このような機会は、復職して適応できるのか不安に感じている休職者本人にとっても、良い機会になります。うつ病による休職者を対象としたリワークプログラムを実施する、外部リワーク施設を活用することが再休職防止には有効です。
リワーク施設がないエリアでも実施できるオンラインリワークもあるので活用してみましょう。
休業者の情報をクラウドで一括管理する「ADVANTAGE HARMONY(アドバンテッジ ハーモニー)」では、オンラインでリワークプログラムを受けられる機能や専用の社内イントラを使って休業者と気軽にコミュニケーションを取れる機能など、双方にとっての負担を軽減する便利なサービスが満載です。
復職判断をするうえで、就業意欲は重要なポイントになります。「働く意欲がでてきた」程度ではまだ不十分のため、100%の「働きたい」気持ちであるかどうかを、丁寧にコミュニケーションを取りながら確認し、復職可否を検討しましょう。
職場環境の状況
復職後の職場環境や業務量・内容などが、休職者に無理のないものになっていないか、適切に評価することが大事です。うつ病で休職する従業員の中には、そもそも職場環境に適応できずに休職する人も多いため、本人の意思や状態に応じて、人事担当者は部署異動なども検討する必要があります。
休職から復職までの流れ
ここでは、休職者が復職するまでの主な流れを解説します。細かなスケジュールは休職者の回復度などによって変わってくると思いますので、産業医などと連携して最適なプランニングをしましょう。
1.休職中のケア
休職者は、休業中にしっかりと身体を休められる一方で、職場との接点がない分、孤独や復職への不安も感じやすいです。そのため人事担当者から休職者と定期的にコミュニケーションを取ることが大切です。ただし、休職初期はできるだけ休職者の負担にならないよう配慮することが望ましいでしょう。
【聞き取りの内容例】
- 現在の体調、睡眠や食事、日中の過ごし方、外出の様子
- 通院の頻度、薬をきちんと飲んでいるか
- 主治医とのコミュニケーションの様子、今後の治療の見込み
- その他、本人が心配していることや不安なこと など
なお、休職者と人事担当者の間では、休職の満了日などのスケジュール管理、申請書類のやり取りなど事務的なタスクも多く発生します。それらを一括管理し、専用の社内イントラネットでやり取りができるサービスなどを活用して、双方の負担を減らしながらコミュニケーションを取り合いましょう。
また、体調が回復し休職者本人に復職の意欲がある場合は、今後どのような流れで復職を進めていくかも話し合っておくと良いでしょう。
2.主治医による判断・復職の許可
休職者本人の復職意欲が確認できたら、次にすべきことは主治医への相談です。主治医から復職を許可されれば復職への行動を進められます。
※復職の判定は、必ずしも業務遂行までを見込んでいない可能性もあります。それは、主治医が患者の業務や職場においてどのようなストレス環境にあるか深く知り得ないためです。またうつ病などメンタル疾患の場合、客観的な指標が少ないために、患者の強い意思のもと復職の許可を出してしまうケースが考えられます。先述のとおり、産業医などとも連携しながら職場として判断することが必要です。
あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報を提供し、労働者の状態が就業可能であるという回復レベルに達していることを主治医の意見として提出してもらうようにするとスムーズです。
3.復職プランの作成
主治医の復職許可が下りたら、復職までのスケジュールやプラン(職場復帰支援プラン)を作成します。休職者、主治医、産業医などと連携・協力して適切なプランニングをしましょう。
プランニングに際し、以下の項目について検討します。
(ア)職場復帰日
(イ)管理監督者による就業上の配慮
業務サポートの内容や方法、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必要な配慮など
(ウ)人事労務管理上の対応等
配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否及び必要性
(エ)産業医等による医学的見地からみた意見
安全配慮義務に関する助言、職場復帰支援に関する意見
(オ)フォローアップ
管理監督者や産業保健スタッフ等によるフォローアップの方法、就業制限等の見直しを行うタイミング、全ての就業上の配慮や医学的観察が不要となる時期についての見通し
(カ)その他
労働者が自ら責任を持って行うべき事項、試し出勤制度の利用、事業場外資源の利用
【復職プラン作成のポイント】
- 主治医の診断書、本人の希望、職場の状況などを参考に、職場の管理監督者と人事担当者とで復職後の業務プランを作成する
- 復職する職場は、ハラスメントの問題など特段の事情がない限りは、元の職場(部署)とするのが良い
- 活記録表なども参考にし、最終的な復職の可否について検討し、復職日を決定する
【復職プラン作成時の検討事項例】
- どのような軽減業務が可能か
- ストレスを軽減するためにどんな対策ができるか
- 本人の体調悪化のサインや、フォロー体制
- 周囲へどのように説明するか
また、最終的なプランは休職者を始め、人事担当者や上司などの関係者と共有しておくことが大切です。
4.復職決定とその後のフォローアップ
復職プランが完成し、休職者本人の意思確認や上司等など関係者への共有が済んだら、そのプランに従って進めていきます。基本的にはプラン通りに進めますが、休職者の体調が悪化した場合などはその限りではありません。うつ病が再発しないよう、あくまでも休職者の体調を優先することが大事です。
また人事担当者は、休職者の出社が開始された後も定期的に面談を行い、体調や職場の状況、治療状況を確認しましょう。
また、復職者との面談は、復職後2週間後、4週間後と行い、以降は6ヶ月が経過するまで毎月30分程度行うことが望ましいです。状況に応じて、職場復帰支援プランの評価や見直しを行いましょう。
うつ病を再発させないために職場ができること
復職を成功させるためには、休職者本人だけでなく周囲のサポートも重要です。うつ病を再発させないために、復職後に職場ができることを紹介します。
仕事内容を具体的に伝える
復職者と相談した上で、業務量や内容を決めていきます。また、周囲の従業員は復職者に対して「5W1H」を意識して具体的に伝えるなど、休職後で慣れない復職者が迷いなく業務につけるようにフォローすることが大切です。
労働時間を管理する
復職者の労働時間は産業医の指示で決まります。残業をしていないか、残業になる業務量となっていないか、周囲が気にかけてあげることが大事です。
復職直後は終業時刻になったら声をかけてあげると良いでしょう。そうすることで復職者も帰りやすく、無理をせずに済みます。また、復職後も継続して通院や治療を行う従業員も多いため、その点にも配慮して勤務時間を設定・管理します。
また、復職後6ヶ月程度、経過観察期間中は無理な残業や出張、プロジェクトへの参加など、負担のかかる業務は避けましょう。
テレワークによる復職の場合には、現場への出勤と異なり労働時間の管理がしにくいです。そのため、始業と終業時にチャットツールでコミュニケーションを取れるようにしたり、1日の業務内容を簡単な日報で報告してもらうことで、復職者の業務量に無理がないかを把握したりすると良いでしょう。
周囲への配慮
ひとたび休職者が出ると、業務が周囲の従業員に割り振られ、周囲にも負荷がかかることが多くあります。そのため、業務の増えた従業員が休職者に良い感情を抱かないこともあるでしょう。周囲の従業員への負担が大きくなりすぎないように適切な業務配分をするとともに、業務量が増えた従業員の状況把握やフォローもしっかり行い、理解を得ることがポイントです。
再発の兆しを見逃さない
うつ病などメンタル疾患の治療では、再発防止が大きな課題です。初回の治療がスムーズに進んでも、再発すると治療が非常に難しくなります。また、一度再発すると、二度、三度と再発を繰り返すことが多くあります。そのため、再発予防に努めることが重要です。
復職者は経済的な不安や「早く元の自分に戻りたい」という焦りから、無理して業務を行う傾向にあります。また、家族に背中を押されて、無理に復職を希望するケースもあります。そうした場合には再発のリスクが高くなります。
仕事のパフォーマンスや普段の言動を観察し、無理をしていないかを判断することが大切です。
【復帰後に注意が必要な変化の例】
- 最初は順調に勤務していたものの、遅刻や早退、欠席が増える
- 復職プランで計画を立てた業務の遂行が次第に困難になる
- 前向きに取り組んでいたはずが、いつの間にか職場での会話が減り、報告・連絡・相談がなくなる など
1on1面談を行って定期的に状況を把握したりするなどし、適切なコミュニケーションを取りましょう。
適切な対応でうつ病の再発を防止しよう
うつ病で休職している従業員にとって、職場との接点が減ることは不安要素の1つになり得ます。人事担当者は休職者が安心して復職を目指せるようにコミュニケーションを定期的に取り、連絡の抜け漏れがないように努めましょう。
また、メンタル不調の休職から職場復帰するには、少しずつ心と身体を慣らしていくステップが必要です。また、再発しないよう無理のない働き方をすることが大切です。そのためには、本人・家族、そして周囲の職場のサポートが欠かせないものとなります。
人事担当者は、産業医や復職者の上司、部署のメンバーなどと連携を取れるように、しっかり先導しましょう。
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