握手しあうビジネスパーソン

病気(がん)治療中の休職と復職について企業がサポートできること

Facebookでシェア ツイート
「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

現在はがんの早期発見が可能になっただけでなく、治療技術等の進歩により、従来の入院中心から外来通院を中心にした治療へと、治療方法が大きく変化しています。そのような中、がん患者の約3分の1は就労世代で、治療中や治療後も働きたいと希望する人が増えています。

しかしながら、支援体制は職場によって様々で、復職しても継続的な通院や体調が不安定などの理由で、やむなく退職に至るケースが少なくありません。

このような状況の改善に向け厚生労働省は「治療と職業生活の両立支援ガイドライン」を作成し、2016年12月には「がん対策基本法」が改正され、「事業者はがん罹患社員の雇用継続に努めなければならない」ことが示されました。これにより企業は従業員ががんになっても働き続けられる環境、体制の整備が求められています。

一方、休業となる疾病理由には、メンタルヘルスに次いで、がんによる休業が増えており、男性は50代から、女性は20代後半からがんに罹患する人が急増しています。

管理職として活躍する人が多い世代でもあり、また女性の活躍推進の観点からも、企業としても貴重な人材を失うことによるリスクは決して小さくはなく、がんの治療と仕事の両立の支援体制を整えることが重要視されています。

ここではがんに罹患した社員が手術入院に伴う休職から復職し、外来での化学療法による治療と仕事を両立した際のサポート事例をご紹介します。

性別・年齢別がん患者数に関する折れ線グラフ

事例から学ぶ両立支援

実際の両立支援のケースで、医療機関、産業保健スタッフ、所属部門と連携し、術後の外来治療から両立支援を開始して復職した好事例を紹介します。

Tさん:会社の理解もあり復職した事例
【事例】50代、男性、独身
職業:総合建物管理業(設備、清掃、警備)のうち設備管理(フルタイム・夜勤あり) ※勤務5年目  会社全体では1,100人規模、本社に嘱託産業医がいる。
がん種:直腸がん、ステージ:ⅢB
手術の有無:有 超低位前方切除術、横行結腸ストマ造設術、同閉鎖術
術後化学療法等治療:外来化学療法+放射線治療

【ステップ① 退院時に支援開始】

本人と両立支援コーディネーターの初回面談は退院時から開始し、治療や疾患についての思いや今後の希望をヒアリング 。

また、Tさんの勤務情報等について、会社側の誰が窓口になって主治医に情報提供するのかを確認した。そして、会社側の担当者に両立支援の説明と協力依頼の電話をしても良いか確認し、本人の了解を得た。

・ポイント
会社側から事前にTさんに対し、会社が主治医と協力し、治療との両立を支援するという姿勢の明示と具体的な支援のフローを説明していたこと。

【ステップ② 復職に向けて両立支援チームを結成】

外来化学療法の時期に、病院のスタッフ(主治医、薬剤師、看護師など)と両立支援コーディネーターが治療計画の確認のためのカンファレンスを実施し、会社には復職後の治療の見通しや、状況に合わせた配慮について就業規則に合わせて検討してもらうことを伝えた。

また、経済的な不安を抱えられていたが、高額医療費のこと、傷病手当金のことなど活用できる制度を伝え、本人の不安を解消した。

・ポイント
会社は医療機関の協力のもと、所属部門とも連携し、復職支援プログラムの作成をおこなった。事前に主治医に対し、復職後に想定している勤務形態や業務内容を伝え、主治医からは、病状や治療中のTさんの状態で想定されるリスクや職場として配慮すべき点を「主治医意見書」として提出してもらった。また、本人にも会社側が配慮することを具体的に伝え、病院側・会社側で復職のための環境整備と双方の役割分担を明確にし、対応した。

【ステップ③ 外来化学療法を受けながら復職】

外来化学療法は副作用もなく順調に行えている。会社の労務担当者も理解があり、復職しながらも外来治療を受けられている。

・ポイント
医療機関との協力体制が整っていたため、復職後も業務都合により放射線治療は午後の時間帯で実施するなどの対応を医療機関にとってもらい、物理的に治療と仕事の両立ができる環境になった。また、Tさん本人や所属部門ともその後の情報共有を継続し、治療と仕事を両立できていることを確認していた。

【ステップ④ 外来化学療法終了】

外来化学療法の予定が終了し、以降は2ヶ月に一回の通院による経過観察となった。

・ポイント
就業規則に沿って、また所属部門の理解も得られ、無理なく治療と仕事の両立を継続できた。

上記事例がうまくいった要因としては、以下が挙げられます。

退院、化学療法開始、復職など、状況の変化が起きる前段階から関係者が関わることができており、事前に治療の計画が病院側から会社へ伝えられ、会社側も受け入れられるような就業規則と働き方の整合性、業務配慮など、事前に社内で検討できるよう所属部署など周囲の支援の検討をされてきました。

関係者が困ることなく復職を受け入れ、復職後も働きながら治療を継続できていた、ということと考えられます。 また、制度の構築も必要です。休職や治療に伴う経済的不安を抱える人は少なくありません。

健康保険から支給される傷病手当金もありますが、復職後には体調や治療の状況を考慮した時短勤務や配置転換等により以前の所得水準を下回る可能性や、治療費の負担もあるため、休職前の生活を維持するには困難な方もいます。

それを補完するために、例えばGLTD制度(団体長期障害所得補償保険)があります。会社側で経済的不安も解消できる基盤づくりを準備することで、社員の安心感や帰属意識の向上にもつながる制度といえるでしょう。

なお、休職・復職時における書類作成やそのやり取り、時期に応じて必要な書類管理が多いことも担当者を悩ませる点です。そこにかなりの業務工数を割いてしまい、社員への対応に時間がとれないこともあります。

その解決に、休職・復職者の書類管理や対応管理の専用システムもありますので、このようなツールの利用を検討してみるのも、両立支援をスムーズに運ぶためには必要かもしれません。

まとめ

がんの治療による休職と復職を支援をするうえで大切なことは、一人ひとりの状況に応じたきめ細やかな復職支援プランの策定と復職後の継続的な状況把握にあります。復職支援プランの策定にあたって必要な観点は「事例性と疾病性に分けた対応」と「利害関係の調整」と言えます。

事例性は「業務やパフォーマンスにどう影響があるか」という観点、疾病性は「疾病の段階や状況、症状にはどのような配慮事項があるか」という観点です。

これらの観点については、医療機関、産業医や産業保健スタッフ、所属部門の連携・協力体制を整えることで、それぞれの病状や治療方針をしっかりと把握するだけでなく、業務環境や内容なども踏まえ、より個別性の高い復職支援プランを策定することが可能になります。

また、より柔軟に治療と仕事の両立に対応できるよう、就業規則の見直し、休暇・休職制度などの制度面を整えておく必要もあります。

利害関係の調整については、復職する社員を受入れる側の不安を取り除くために、所属部門との密な情報共有だけでなく、両立支援へ向けた風土を形成するための施策として、広報や研修による意識開発を継続的に実施することも有効です。

(Visited 7,271 times, 1 visits today)

【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

この著者の記事一覧

Facebookでシェア ツイート

関連記事RELATED POSTSすべて見る>>