従業員エンゲージメントを高めるエンプロイー・エクスペリエンスとは

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

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米ギャラップ社が2018年に実施した世界各国の企業が対象の従業員エンゲージメント(仕事への熱意度)調査において、「対象139ヵ国中、日本は132位と最下位レベル」という結果が出たことは、多くの企業経営者、人事担当者に衝撃を与えたのではないでしょうか。

日本は「熱意あふれる社員」がわずか6%しかおらず「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」が24%であり、「やる気のない社員」は70%にまで達していると公表されたのです。その後多くの企業が、「従業員エンゲージメント」「従業員満足度」「従業員体験」というキーワードに注目するようになりました。

さらに2020年には、米国クアルトリクス社の日本法人クアルトリクス合同会社が世界17ヵ国を対象に行った「従業員のエンゲージメント」調査でも日本は最下位であり、世界の「従業員エンゲージメント」の平均53%を大きく下回る35%という結果となっています。

生産労働人口が減少していく日本企業にとって、人材確保とともに、いかに従業員のエンゲージメントを高めるかは重要な課題です。問題はどのように高めるかです。従業員エンゲージメント向上の一つ対策として注目されている考えに「エンプロイー・エクスペリエンス(従業員体験)」があります。

本記事では、エンプロイー・エクスペリエンスはどのような効果をもたらすのか、定義・概念や具体的な取り組みについて紹介します。

企業と従業員の幸福度を高める「エンプロイー・エクスペリエンス」とは

「エンプロイー・エクスペリエンス(Employee experience)」とは、従業員が組織の中で体験する仕事内容、やりがい、スキルアップや精神的成長、職場での人間関係、ワークライフバランス、会社組織のカルチャーなど会社生活の経験すべての価値を包括した考え方です。

世界的に注目されている概念であり、デロイトトーマツコンサルティングが公表した「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2017~デジタル時代の新たなルール~」でも、今後のテクノロジー社会を見据えて企業が取り組むべき課題として「エンプロイー・エクスペリエンス」が掲げられています。

従業員の職場での幸福感、やりがいや素晴らしい経験が企業の生産性に影響すると聞けば多くの人は同意するでしょう。しかし、その影響度は「それほど大きくない」と思われがちです。近年の研究では、エンプロイー・エクスペリエンスの向上が、企業の生産性に大きな影響を与えるという結果が複数出ています。

例えば、2020年に米国SaaSトップベンダーのSalesforce社がForbes Insights社と協力して、エンプロイー・エクスペリエンス、カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)、収益の関係を調べたところ、エンプロイー・エクスペリエンスを優先した企業は、1.8倍の収益成長を達成したことがわかりました。

逆に、カスタマー・エクスペリエンスのみに焦点を当てることは、エンプロイー・エクスペリエンスや収益増加とは相関していない、という結果も出ています。ビジネス目線で考えると、顧客満足度(CS)、顧客体験(CX)の向上に目が向きがちですが、収益を上げるには、顧客より先に従業員に投資したほうが早道であることが示唆されています。

AIやテクノロジーの発展によってどの業界、市場も変化を余儀なくされている昨今、どんな状況でも適応できる組織風土や企業文化を育てていくことが企業に求められています。「エンプロイー・エクスペリエンス」への投資で期待できるのは、働く環境や健康面、キャリアが向上することで従業員の満足感や会社に対する帰属意識、愛着心が高まって生産性や離職率の改善に繋げられること。

さらに、仕事に喜びを感じ、自ら積極的に問題解決に挑む、エンゲージメントの高い従業員の増加です。人事担当者だけでなく、人材をマネジメントする管理職にも「エンプロイー・エクスペリエンス」という概念への理解を深め、向上させていくことが重要だといえます。

「エンプロイー・エクスペリエンス」が注目される背景

「エンプロイー・エクスペリエンス」が注目されてきた背景には、世代交代も影響しています。1980年代序盤から1990年代中盤に生まれた「ミレニアル世代」の存在があります。彼らは、幼少期や青年期にインターネットやデジタル機器に触れてきたデジタルネイティブであり、今や組織の中核を担う世代です。

ミレニアル世代は、インターネットサービスが既に発達している環境の中で育った最初の世代であり、情報収集力に優れ、ネット上のスピーディなサービスを当たり前のものとして享受してきました。「自分に合う仕事や働き方がしたい」「リアルタイムなフィードバックは当然」「どのような状況でも情報に触れることが可能な環境が欲しい」といった要求も強く、転職に対しても自分をステップアップさせるためのポジティブな機会と捉えて動く傾向があります。

終身雇用が崩壊していることも理解しており、それ以前の世代よりも「今」の成長にこだわる人が多いのも特徴でしょう。そんな彼らに職場で意欲を持って長期間働いてもらうためには、「エンプロイー・エクスペリエンス」は欠かせない要素なのです。

「エンプロイー・エクスペリエンス」を高める3つの取り組み

それでは、どうすれば「エンプロイー・エクスペリエンス」を高めることができるのでしょうか。ここでは、3つ施策を紹介します。

■エンプロイー・ジャーニー・マップの作成
「エンプロイー・エクスペリエンス」を高める施策を考える上で注目されているのが「エンプロイー・ジャーニー・マップ」です。具体的には、個人と企業との出会いから、選択して入社、従業員として働き、退社するまでの一連の流れを設計し、各フェーズに応じた施策・取り組みを計画実行していきます。

この流れの中で、従業員がどのような経験を期待し、どのような感情を抱くのかを体系立てて整理します。従業員が自社と関わる一連の流れを一つの「旅」として捉えて、従業員が何を求めているか、企業としてどう成長してもらうかをイメージして作成します。

一見、大変そうな印象があるかもしれませんが、「企業として従業員に何が提供できるか」という目線で整理していくと書きやすいでしょう。従業員との出会いから別れまでの体験をできるだけ最高のものにすることで、就業中の従業員のエンゲージメント向上だけでなく、離職後も会社のファンでいてくれることが期待できます。

なお、「エンプロイー・ジャーニー・マップ」を作成する上で、重要となるのがゴールとペルソナの設定です。従業員それぞれバックグラウンドが異なり企業に期待する内容も個人によって様々です。企業としても、それぞれの従業員に期待する姿があるはずです。

そのため、企業側としては、例えば「デジタルスキルを持つ若手従業員を自社に定着させる」などの目標を立てたら、誰の経験価値を高めて、どのような効果を狙うのかを予め明確に設定する必要があるでしょう。

■人事部門を中心とした部門連携、組織形成
「エンプロイー・エクスペリエンス」を高める施策は、人事部門だけで完結するわけではありません。「採用」や「社員教育」だけでなく、組織風土の見直しや他部署との連携など、全社横断的に対応していく必要もあります。

そのためには、企業のこれまでの縦割り組織を変革し、人事部門が中心となり各部署のリーダーを巻き込んで展開していかなければなりません。前述したエンプロイー・ジャーニー・マップも現場の声を取り入れながら導入していくことが大切です。

■健康経営の取り組み
いくら仕事のやりがいで満たされていても、長時間労働が常態化し従業員の健康が脅かされるような状況では、いずれ何らかの支障をきたしてしまいます。企業によっては「チャージ休暇」などの制度設計や、「禁煙手当」「ジム手当」などで従業員の健康をサポートするような取り組みを行っている企業もあります。

企業には、従業員が心身ともに健康な状態で持続的に働くことができる環境の整備が求められています。こうした投資で従業員のモチベーションを刺激することで、働きがいが創出され、その結果エンゲージメントが高まり、カスタマー・エクスペリエンスの向上につながり、企業の生産性が高まるプロセスを理解することが大切です。

まとめ

良質な「エンプロイー・エクスペリエンス」を提供することは、親が我が子に対して惜しみない愛情を与えるようなものだといえます。企業が従業員の経験価値と真摯に向き合い環境を整えていくことで、従業員は自身の成長に欠かせない存在として企業に愛着心を抱き、貢献したいと感じるようになっていくのです。

これは、元々、メンバーシップ型雇用がベースにある日本企業には理解しやすい概念といえるでしょう。ビジネス環境の変化が速い上に、従業員の価値観が多様化しているので、人事労務部門や総務部門には今後ますます変革が求められていくでしょう。従業員に今まで以上に高度な要求をする必要も出てきます。

だからこそ、根底に従業員と企業の幸せの両立を究極の目標として持っていることが、焦点になるのではないでしょうか。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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