「日本再興戦略」の重要施策として、“国民の健康寿命の延伸”の実現のため、健保組合にデータヘルス計画の実行が求められています。データヘルス計画とは、健診・レセプトデータの分析に基づいて保健事業を効果的、効率的に実施するための取り組みです。
本施策では医療データに対して科学的にアプローチし、国民全体の健康状態を把握し、疾病予防、重症化予防効果を高めることが求められています。また、医療費の適正化、職場の生産性向上といった効果も期待されています。少子高齢化がますます進行する日本にとっては、現役世代からシニアまで働き手の健康維持という観点でも注目を集めています。
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データヘルス計画はデータ分析に基づく「国民全体の健康状態の把握と予防」
日本は超高齢化社会に突入しています。〝第3の矢″として発表された「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)では『国民の健康寿命の延伸』が重要な柱とされ、問題点の一つとして「保険者は健康管理や予防の必要性を認識しつつも、個人に対する動機付けを十分に講じていない」と指摘されています。
この課題を解決するため、「予防・健康管理の推進に関する新たな仕組みづくり」として、保健事業の実施計画(データヘルス計画)が策定されました。医療データを活用して科学的にアプローチすることで事業の実効性を高めていく、これがデータヘルス計画の狙いです。
データヘルス計画では、すべての健康保険組合にレセプト等のデータの分析、データに基づく加入者の健康保持増進のための事業計画として「データヘルス計画」の作成・公表、評価等の取組が求められています。
また、データヘルス計画は保険事業の中核をなす「特定健康診査等実施計画(特定健診および特定保健指導の具体的な 実施方法等を定める計画)」と連携して策定することが望ましいとされています。
働く現役世代はもとより、その世代が扶養している子供から高齢者までの加入者情報を把握しながら、健診データ・レセプトデータ(患者が受けた保険診療について、医療機関が保険者に請求する医療報酬の明細書)も活用することで、国民全体の健康状態や疾病傾向を把握し、健康維持を実現する効果が期待されているのです。
データヘルスの動きが高まる背景とは
データヘルス計画が注目される背景として、社会環境の大きな変化の特徴をおさえる必要があります。まずは人口動態の推移ですが、日本は総人口に占める65歳以上の人口の割合(高齢化率)は年々増加しており、世界トップの水準となっています。
今後の高齢化率の推移を見てもどの国も体験したことのない超高齢化社会に突入することになり、当然職場の平均年齢も押し上がることが予想されます。次に、日本人の死因の約6割は生活習慣病が占めていることです。生活習慣病の発症や重症化は、加齢や生活習慣の影響を大いに受けています。つまり、職場の平均年齢が上がることで健康リスクも上がるということになります。
従業員(およびその家族)が病気になるなどの健康リスクが高くなるほど労働生産性の低下に繋がり、その結果、社会全体の生産性の低下や医療費の増加が進むという構造が課題となっています。超少子高齢化社会の日本においては、発症後に資源を投入する従来の医療モデルから、集団で取り組む健康増進・予防モデルへと転換が求められているのです。
また、データヘルス計画がより推進されるようになった背景としては、保健事業がPDCAサイクルでうまく回せるようレセプト・健診データの電子化を進めてきたことです。現場のデジタル化が進んだことにより、健康状況や受診状況・医療費状況などの健康情報を電子データとして蓄積・分析することが可能となりました。
したがって、健康保険組合が加入者の健康状況を経年推移や特徴で捉えることにより、自健保の課題や対策を考えることが容易になったのです。また、本計画は決してデータ至上主義ではなく、あくまでデータを活用して、保険事業の実効性をさらに高めることが重要とされています。
PDCAサイクルの具体的施策
データヘルス計画はすでに第2期(2018~2024年までの6年間)に突入しています。この計画を進める保健事業で認識しておくべき大切なことは、職域・職種・地域によって疾病に偏りが出るという点。そのため、健康保険組合における健診・レセプトデータの突合から健康状態を予測し、事業主の職種、地域などを含めた分析が必要であり、事業主との協同も不可欠となります。
データヘルス計画の中で、具体的な取り組みとして位置づけられるPDCAサイクルとはどういったものなのでしょうか。
Plan:計画
これまでの保健事業の振り返りとデータ分析による現状把握を実施。
健保加入者の健康課題を明確にした上で、保健事業の計画・企画を行います。
Do:実施
費用対効果の観点を含めて実施することが求められています。
ハイリスクアプローチ、ポピュレーションアプローチを使い分け、一部の高リスク者にとどまらず、集団全体に健康づくりを働きかけるなど、最適配分がポイントになります。
Check:評価
計画時に設定した評価指標で目標達成の成否を確認します。
評価が難しい場合は、評価指標が適切であったかなどを合わせて確認し、達成の成否の背景を探ります。
Act:(改善)
次のPDCAサイクルのために、評価の結果に基づき、事業の構成が健康課題の解決に適していたかを確認します。また、それぞれの事業について、目標、評価指標、対象・方法などを見直します。
企業において従業員の健康維持は、人材の有効活用や保険料抑制の観点からも、また健康経営の観点からも重要項目です。超高齢化社会を迎える日本にとってデータヘルス、および保険者・企業の協働施策であるコラボヘルスといった取り組みを推進することは、企業成長の必要要件になるといえるでしょう。