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デザイン思考による価値ある従業員体験の実現

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

はじめに

経営指標の1つとして、組織の「エンゲージメント」に着目し、生産性向上に取り組む企業が増えています。エンゲージメントの高い組織には次のような特徴があります。

・ 従業員の多くが仕事に対してポジティブな感情を抱いている
・ 従業員の多くが仕事に前向き・積極的に取り組んでいる
・ チームワークが良好

エンゲージメントの高い組織は、個々人の持つ能力を活かすだけでなく、お互いの能力を掛け合わせることにより、組織力を無限に開発できる可能性を秘めています。

本編では、一人ひとりの従業員にとって価値ある従業員体験を実現することで、エンゲージメントの高い組織づくりを推進する方法を事例と共に紹介いたします。

価値ある従業員体験を提供することの必要性

エンゲージメントの高い組織をつくるためには、エンゲージメントに影響を与える要因(エンゲージメント・ドライバー)を理解し、働きかけていくことが必要です。当社では、エンゲージメントに影響を与える要因を次の2つに分類・整理しています。

・ 個人要因:仕事における自己認識
(仕事の見通しや会社との適合感を持ちながら、強みを発揮し、仕事への自信を持ち、働きがいを感じることができているか)

・ 環境要因:仕事における環境状況
(役割・責任を理解したうえで裁量を持って働き、適切なフィードバックによって評価に対する納得感を得ており、職場の人間関係が良好で同僚・上司への信頼があるか)

すなわち、エンゲージメントを向上させるためには、職場環境を整備することと、個人に働きかけることの両面が必要であると考えています。ここで着目すべき点は、従業員のエンゲージメント・ドライバーは一人ひとり異なり、従業員の個人特性も考慮した効果的な働きかけが求められるという点です。

このため、エンゲージメントの高い組織をつくるためには、従業員を中心に考え、一人ひとりにとって価値ある従業員体験を実現することが極めて大切です。 「人生100年時代」と言われる昨今、人が仕事に求める価値観や働き方が多様化しています。

人不足による厳しい人材獲得競争においては、他社と同じことをやっていては、優秀な人材から選ばれることはありません。自社に求められる人材像を描き、人材像にフィットする優秀な人材を惹きつけ定着させていくうえでは、多様な価値観を認め活かすことができる人事の諸制度や施策を強化していくことが重要です。

価値ある従業員体験の提供

多様な価値観を持つ一人ひとりの従業員にとって価値ある従業員体験を描き、実現していくうえでは、3つのポイントがあると考えます。

① 事業戦略と紐づいた人事戦略を策定し実行する
② 従業員を中心に考える「デザイン思考」で価値ある従業員体験を描く
③ 継続的に社員の声を聴き、効果検証を行う

それぞれについて説明します。

① 事業戦略と紐づいた人事戦略を策定し実行する

事業環境が大きく変化し不確実性が高まる中、事業戦略の抜本的な見直しが求められている企業も多いでしょう。これに伴い人事戦略が事業戦略の中に占める重要性が高まっています。また、人事のさらなる経営貢献のために人事機能の改革に取り組む企業も増えています。

組織に求められる人材を確保する手段として「採用」と「育成」を考える時、短期・中期の視点で戦略的に要員計画を策定し実行していくことが大切です。事業環境に応じて、自社が求める人材像を見直し、関連する人事制度や人事プロセスに反映していくことが肝要です。

同時に人事機能の強化も必要です。企業の理念や価値観の浸透、人事戦略や人事ポリシーの策定、経営人材の育成、自社に求められる人材を惹きつけるためのブランディング等、全社共通で実施すべき施策を強いガバナンスを持って推進する本社機能への期待が高まっています。

同時に、事業固有のニーズに応えるためにコンサルテーションの役割を担うビジネスパートナーとしての機能も、人事のコア業務として注目されています。これらのコア業務を推進するうえでは、ノンコア業務を大胆に省力化していくことも大切です。

現在直面している課題を解決しながら、より中長期の視点を持つことが求められており、同時に全社の人事戦略を策定し実行しながら、事業部固有の課題に対応することもより一層重要視されていることから、この複雑な課題に包括的に取り組むことのできる人事部門への改革が急がれます。

② 従業員を中心に考える「デザイン思考」で価値ある従業員体験を描く

「デザイン思考」はAppleの初代マウス等の開発で有名なデザインファームIDEOが提唱したアプローチです。人間主体の発想で、社会に新たな価値を提供することを目的としています。従来の「仮説検証型」のアプローチでは、変化のスピードや従業員の多様なニーズに対応することが難しくなっています。

一方で、デザイン思考は未知の課題について解決策を検討するうえで有効な思考法とされており、参加者の役職や立場に左右されない検討プロセスによって、積極的なアイデア創出が期待できます。

環境変化が大きく不確実性の高い状況では、組織にはますます俊敏さが求められます。人事領域においても、短いサイクルで試行錯誤を繰り返しながら進化していく「アジャイル人事」が注目されていますが、デザイン思考はその具体的な手法としても知られています。

③ 継続的に社員の声を聴き、効果検証を行う

事業戦略と紐づいた人事戦略を策定し、従業員体験を描いたら、いよいよその実現に向けて実行していくことになります。ここで重要なことは、進捗状況を社員と共有しながら継続的に社員の声を聴き、短いサイクルでの効果検証を繰り返し、着実な進化をしていくことです。

企画された施策を展開した際にどのような反応があるのか、その反応の背景にはどのような理由があるのか、これをタイムリーに把握し軌道修正できる組織が、従業員にとって魅力的な組織であり、主体性を持って組織に貢献するエンゲージメントの高い従業員を惹きつける組織と言えるでしょう。

取り組み事例

前述の3つのポイントに従い、実際に価値ある従業員体験の提供に取り組む企業の事例を紹介します。

① 事業戦略と紐づいた人事戦略の策定

A社では、中期経営計画の実現に向けた人事施策を強化するにあたり、本社の企画部門と各事業部の責任者から構成される少人数のタスクチームによって、課題の分析と解決策の提案を経営に対して行いました。

これを受けて、経営にて新たな「人事方針」が策定され全社発表すると同時に、取り組むべき施策を優先順位付けし、その実現に向けたロードマップに従って各種施策が展開されています。

② 従業員を中心に考える「デザイン思考」で従業員体験を描く

新たな「人事方針」を実現するうえでは、経営と現場をつなぐ管理職の役割が一層重要となります。このため、A社では初年度は全管理職を対象にした「デザイン思考ワークショップ」を実施し、自社の従業員を中心に考え共感しながら、従業員にとっての課題を分析します。

真因を捉えることができたら、問題を解決するアイデアを、時間や予算といった制約をはずして考えます。この時に、経営に対して提言できることと、当事者の一人である管理職としてできることの両面で考えることが大切です。

なぜなら、管理職のエンゲージメントが高くなければ、その組織のエンゲージメントを向上させることは困難であり、管理職の主体性を引き出すことが最優先であるからです。

ここで議論されたアイデアは、実現性も踏まえて具体的な施策として企画・実行されています。また、管理職がどうあるべきかという議論は、「マネジメント・ガイドライン」として取りまとめられ、A社において、従業員体験を向上させるうえでの管理職の知見が集約されています。

同時に、よりよい従業員体験を創出できる管理職としての能力開発の要件も明確になり、たとえば、効果的なOne on Oneを実施するための研修プログラムや、行動変容の促進を狙ったフォローアップ研修等が実施されています。また、次年度以降は、管理職以外の従業員を対象にした「デザイン思考ワークショップ」が企画されています。

③ 継続的に社員の声を聴き、効果検証を行う

A社では、年に2回のストレスチェックに加えて、毎月パルスサーベイによるエンゲージメント調査を実施しています。全社の傾向、職位や年代といった属性別の傾向、組織別の傾向のそれぞれを、経営、人事、組織長が責任を持って深掘りしアクションプランを策定・実行します。

特に、パルスサーベイは各種イベントや施策の影響をタイムリーに把握し、従業員と共に対策を企画・実行するうえで有効です。

「エンゲージメント」のような全社共通の経営指標を持つと同時に、組織ごとに改善すべき指標を決めて、組織として改善のためのアクションを実行し効果検証していくことも大切です。

エンゲージメントを向上させるためには、管理職だけが取り組むのではなく、組織全体で結果を共有し、議論し、当事者が納得のうえで改善していくことが効果的です。

※パルスサーベイとは、簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する調査手法のこと。

おわりに

人事部門の更なる経営貢献が期待される中、従業員のエンゲージメントを向上し、事業戦略の実現に必要な人材をタイムリーに配置することが命題の1つとなっています。

エンゲージメント・ドライバーは、一人ひとり異なるという前提に立ち、それぞれの琴線に響く従業員体験を実現するうえでは、従業員の声を聴き、異なる価値観を認め合い活かすための対話を続けること以外に方法はないでしょう。

当社は2013 年以来、メンタルヘルスや早期離職、生産性向上などの課題を持つ企業に対してエンゲージメント向上の支援を行っています。エンゲージメントが高い企業は、低い企業に比べて、収益や営業利益率が高いだけでなく、離職率が低いなど、様々なメリットがあることがデータで証明されています。

また従業員の意識や行動が変わることで、チームワークが良くなったり、社内が活性化したりするなど、企業風土も大きく変化していきます。

組織のエンゲージメント向上の一手法としてデザイン思考があり、従業員を中心に考え、一人ひとりに価値ある従業員体験を実現することで、組織が求める人材を獲得・定着させることができ、組織力を高めていくことが期待できます。

【筆者】 株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
組織ソリューション部 シニアコンサルタント

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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