目次
はじめに
「健康経営」や「働き方改革」という言葉を耳にすることが多くなった昨今、従業員個人の問題とされてきた「睡眠」「運動」「食事」などの分野に、企業が従業員の生産性を高めることを目的に支援を行うケースが増えてきました。今回は「睡眠」に関して企業が取り組んだ事例をご紹介します。
睡眠と生産性の関係
そもそも、睡眠と生産性にはどれくらいの関係性があるのでしょうか。
経済産業省が発行している『企業の「健康経営ガイドブック」~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版:平成28年4月)』を見ると、「睡眠休養」のプレゼンティーズム*損失コストはアルコール摂取の次に高く、年間で1,025,418円となっており、睡眠に問題を抱える方と抱えていない方での差分金額は328,644円と肥満や運動習慣と比べて最も大きくなっています。
* プレゼンティーズムとは、体調やメンタルヘルスなど何かしらの不調のため、仕事へのパフォーマンスが低下している状態を指します。
そのため、企業において睡眠に課題を抱える従業員に対して、その状態を改善する手助けをすることは、効率よく企業全体の生産性を高めることにつながります。
睡眠状態を改善するためにできることは
では、従業員一人ひとりの睡眠状態を改善するために企業は何ができるのでしょうか。ここでは3種類の方法を紹介します。
➀睡眠リテラシー向上のための場づくり
「眠る」という動作は誰かから教えてもらうことでもなく、自然と人間に備わっている動作のため、案外「質の高い睡眠はどのようにしたら取れるのか」ということをちゃんと知っている人は少ないと言われています。
最近では「睡眠」への注目も高まり、書店でもより良い睡眠のための知識を得る本を見つける機会が多くなりましたが、書籍タイトルから推測すると、ターゲットとしている読者層は「睡眠に問題がある人」よりも「睡眠に特に問題はないが、より質の良い睡眠を得て、パフォーマンスを向上させたい」と考えている層であると考えられます。
ハイパフォーマーな人材を更に高いレベルにすることは企業として求められることですが、一方で、現在睡眠に問題を抱えている人が、適切な睡眠の機能を取り戻すことも、企業にとって投資対効果が高く、重要であると考えられます。
②経営トップの意識改革
「時には寝ないで仕事をすることも大切だ」、「私が若いころはよく寝ないで仕事をしたものだ」と考える方は、寝ないことがどれほどのリスクを持つかが分かってきた現代においてもいらっしゃいます。
もちろん、睡眠時間を削って仕事をしなければならない場面もあるとは思いますが、多くのケースはしっかりと睡眠を取り、次の日に集中して取り組んだ方が良い場合がほとんどです。
厚労省から出ている『健康づくりのための睡眠指針2014』では、17時間以上起きている場合には、認知・作業能力が酒気帯び運転の際と同程度のレベルまで低下することが指摘されています。
働きながらお酒を飲むことがないのと同じように、十分な睡眠をとらずに仕事をし続けることもまた、企業価値や生産性を低下させる大きなリスクが潜んでいるという事実を経営層に理解してもらうことも非常に重要です。
③相談できる場所の提供
「眠れない」ということは非常にプライベートな側面を持つため、他の人には相談しにくく抱え込んでしまう方も多くいらっしゃいます。
企業として、まずは産業保健スタッフと面談が気軽にできるような機会づくりを推進したり、医療機関やカウンセリングなどを従業員の方が気軽に利用できるように整備したりすることで自然と従業員の方の睡眠に関するお悩みが改善されるかもしれません。
加えて、従業員の方が安心して相談できるように個人情報の保護やプライバシーを侵害しないよう日ごろから配慮しつつ、悩みがある方へは十分なアプローチができるように適切な距離感を作り続けることも重要です。
実際に睡眠が改善した事例
当社では、先ほどお伝えした①と③のような取り組みを推進するために、睡眠状況の可視化、睡眠に関するレクチャー、カウンセラーとの相談が可能な認知行動療法をベースとした睡眠問題解消アプリを企業様に提供しています。
実際にこの睡眠アプリを活用された方にどのような改善が見られたのかを、1つの事例としてご紹介いたします。
睡眠アプリをトライアルにてご活用いただいている60名の方の結果をみると、初回のISI検査(睡眠の深刻度を測る検査)では9名の方が「重度の不眠~中等度の不眠」の傾向があると判定されました。その内、7名の方が1週間以上睡眠アプリを継続して利用しました。その期間中、アプリ内のカウンセリング機能を活用される方もいらっしゃいました。
結果、その内の3名の方は重度の不眠、または中等度の不眠と判定されたISI得点が「問題なし」または「軽度の不眠」の判定となる得点まで改善されました。
まとめ
企業が従業員の「睡眠」「運動」「食事」といったプライベートなことに介入することは、適切な距離感が求められるなどハードルが高い面はありますが、従業員の生産性を高める施策として効果が期待されている分野でもあります。
健康経営の一つの施策として、損失コストの大きい「睡眠」から取り組んでみてはいかがでしょうか。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
組織ソリューション部 企画担当