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「やる気のない部下」のやる気の引き出し方 -動機づけ面接の観点から-

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

近年、「エンゲージメント」を向上させる意義や背景について、人事や組織開発のご担当者の中で認知度が高まってきています。

中でも、従業員のエンゲージメントを高め、個人とチームの活躍・成果を導くためには、上司の関わり方が特に重要であることが、様々な研究で明らかにされています。

部下と関わるヒントとしての「動機づけ面接」

上司の関わり方が重要といっても、明確に「これをやったからやる気が上がる!」といった即効性のある万能薬のような方法はありません。そのため、日頃のコミュニケーション・関わりを通して相手の変化をサポートすることが求められます。

とはいえ、部下の仕事への姿勢は様々です。上司から見て、いきいきと自発的に仕事をする意欲のある部下もいれば、ただ言われたことをやるだけで、やる気がないように見える部下もいることでしょう。

そのようなやる気のないように見える部下に対し、「あいつはやる気がないからダメだ」と諦めたり、一方的に過剰な指示をしてさらに指示待ちの姿勢にさせてしまったりすることはないでしょうか。

これは、個人の本来持っている能力やパフォーマンスを、十分発揮させることができていないため、非常に勿体ない状態です。

この記事では、部下が自分から問題に積極的に取り組んだり、変化を決意したりすることを、上司が援助するときのヒントとして、「動機づけ面接」の理論やテクニックを紹介します。

「動機づけ面接」とは

動機づけ面接とは、「変化に対する、その人自身の動機づけとコミットメントを強めるための協働的な会話スタイル」のことです。上司は、動機というものは「外から注がれるもの」ではなく、「本人の内部から湧いてくる」ものであることを心に留める必要があります。

そして、相手が「変わりたい」気持ちと「変わりたくない」気持ちとの葛藤の中にいることを理解した上で、相手の「変わりたい」方向に向かう言動(=チェンジトーク)を増やし、具体的な行動を一緒に検討していくことを目指します。

動機づけ面接自体は、元々はアルコールや喫煙などの嗜癖に対し、医療現場で行動変容の動機を高める際に用いられている手法です。現在では、医療現場だけではなく、教育現場やビジネスの世界にも活用の場が広がっています。

ポイント1.行動変容のモデル(循環型)の理解

動機づけ面接では、人が変化するとき、以下の5つの段階を行ったり来たりしながら変化していくというイメージを持ち、それぞれの段階に合った適切な働きかけをしていきます。

①前熟考期(行動を変えようとは思っていない、必要性を認識していない状態)
②熟考期(行動を変える必要性は理解しているが、言い訳が多い状態)
③決断期(行動を変えようと決断する状態)
④実行期(具体的な行動として実践している状態)
⑤維持期(実践した行動が定着している状態)

特に注意してほしいのは、やる気や意欲は流動的で波があるものなので、一度高めた(行動変容の段階が進んだ)からといってずっと高いとは限らないし、逆にずっと低いとも限らないということです。部下の状態に合わせた適切なタイミングを見極め、変化への意欲を後押しすることが上司の役目です。

そのためには、日頃、業務を通して部下の状態をよく観察することが求められます。もし、あまり顔を合わせる機会が持てないときは、短スパンでエンゲージメントを測定するパルスサーベイを活用することも有効です。定期的に、部下の状態を量的もしくは質的に把握できる状態にしておきましょう。

ポイント2.「動機がない人、やりたくない人」ではなく、「迷っている人、決められない人」と認識する

先ほどの行動変容のモデルにおいて、特に①前熟考期/②熟考期のとき重要になってくるのが、相手を「変わりたい」「変わりたくない」両方の気持ちを持っている人としてとらえた上で、「変わりたい」という思いを引き出し、支援することです。

人は、たくさんの両価性の中で生きています。「痩せたいけど、食べたい」「勉強したいけど、遊びたい」「仕事に行きたいけど、寝ていたい」等々。天秤がどちらに傾くかによって、個人の行動は変わってきます。

この天秤が拮抗していればしているほど、傍から見れば「何もしてない人」「やる気がない人」とみなされやすくなります。

そうではなく、その人が「変わりたいけど、変わりたくない」という両方の気持ちの中で迷っていることを理解し、より望ましい変化を選べるように関わることが、変化を起こす第一歩なのです。

※パルスサーベイとは、簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する調査手法のこと。

具体的なスキル/気を付けること

【やってはいけないこと】

・間違いを反射的に正さない
相手が明らかに間違ったことを言っていたり、社会人として望ましくないことを口にしたりした場合、上司はつい「指導しなければ」との思いから、反射的に指摘してしまうことがあります。しかし、動機づけ面接では、「相手が自ら間違いに気づく前に手を出すことは、相手が自ら変わっていく機会を奪うことになる」という風にとらえ、会話を通して相手が自分から気づくようにします。具体的には、矛盾を考えさせたり、相手の言ったことを過剰に伝え返すことで違和感を覚えさせたり、といったスキルがあり、後に紹介します。

・相手の了承を得ていない状態で、指示やアドバイスはしない
間違い指摘反射と同様に、上司は良かれと思って部下に指示やアドバイスをすることがあります。もちろん、「適切なタイミング」での指示やアドバイスは大変部下の助けになるものですが、「そのタイミングが適切かどうか」を、きちんと事前に部下に確認したり、様子から判断したりしてから、指示やアドバイスをすることが重要です。

たとえば、先ほどの5段階モデルでいうと、①前熟考期/②熟考期段階の部下に対しては、こちらから指示やアドバイスをするよりも、いろいろな視点から質問をして相手に話してもらい、しっかり聞くことが重要です。その中で、相手の中の「変わりたいけど、変わりたくない」気持ちの葛藤を受け止め、「変わりたい」気持ちが大きくなるようサポートしていきます。

そして部下が③決断期以降になったところが、初めて具体的な行動計画を練る適切なタイミングです。その際も、まずは部下から出てくるアイデアを大事にし、何か指示やアドバイスをする必要があると判断したときも、「もしかしたら役に立つかもしれないことがあるんだけど、言ってもいい?」という風に、事前に相手の了承をとるようにしましょう。タイミングを見誤ると、部下の態度を硬化させたり、心を閉ざしたりする可能性もあるため、十分に注意しましょう。

【やること(行動変容につながる原則)】

・共感を態度に表す
目や表情・態度で共感を示し、気持ちを理解しようと努めることで、信頼関係の構築を図る

・矛盾の拡大
部下の大事にしている価値観や目標と、今の行動のズレを、自分自身で明らかにできるように導く
(例)周りに感謝される仕事をしたいと思っているのに、自分から積極的に関わりに行っていない現状に自分で気づいてもらう

・抵抗に逆らわない
変化に反発するような態度に対し、直接的な反論をしない
新しい見方を提案するが、押し付けない

・自己効力感をサポートする
「自分はできる」と思う人は実行することができる

具体例:動機づけ面接のテクニックを活用した部下との関わり

「やる気がない部下」に対してどのようにやる気を引き出せばいいか

上司から見た部下の状態:
社会人3年目。仕事を楽しめる余裕も生まれ、人間関係も上手くいっているように見える。
仕事では言われたことをきちんとこなせているが、自発的に何か新しいことを提案したり、案件のリーダーシップをとったりする機会は少ない。もっとやる気を出して新しいことにチャレンジしてほしいと思っている。
1on1ミーティング(上司と部下が1対1でこまめに行う対話)を月2回実施している。

【パターン①】

上司「最近、仕事はどう?」
部下「別に、普通です」

上司「普通ってことはないでしょう。具体的に説明してよ」
部下「はあ…まあ、無難にやってます」

上司「無難って…仕事に対して無難にやってるって表現、あまり印象良くないよ。全力でやってないのか、適当にやってるのかって思われちゃう」
部下「……別に失敗とかはしてないです」

上司「失敗しなきゃいい、ってわけじゃないでしょ仕事は。若いうちは失敗を恐れず、もっとガツガツ新しいことにもチャレンジしなきゃ」
部下「………」

上司「例えば、社内の有志のプロジェクトに参加するとかね。同期の○○くんなんか、自分からいろんな案件に絡みに行ったりしてるらしいよ。君もそれくらいガッツを持って仕事に取り組んだほうがいいんじゃないかな」
部下「………」

パターン①は、部下を「やる気がない部下」とみなし、指示やアドバイスをする上司の関わりの例です。この部下にとって、「無難に、普通に、ちゃんと仕事をこなすこと」は、仕事をしている上で大切にしている価値観なのかもしれません。

上司にとっては、良かれと思った指示やアドバイスなのかもしれませんが、部下にとって受け入れやすい形・タイミングではなかったことから、部下は無理やり説得されたように感じてしまい、逆に「変わりたくない」という気持ちを強めてしまった可能性があります。

次のパターン②は、動機づけ面接の具体的なスキルを使った会話例です。まず、具体的なスキルの紹介です。相手のやる気を引き出すテクニックとして、OARSというものがあります。

【具体的なスキル】

・Open Ended Question 開かれた質問
相手が「はい」「いいえ」だけでは答えられない質問 
→先入観なく自由に自分の内面や行動を話すように促す

・Affirmation 是認
認めて肯定する、ほめる
上司が部下の持っている強みや努力、資源に注目し、そのことについて敬意を表した発言・態度を示す
→自信を持たせ、「変化できる能力がある」と思わせるのに有効

・Reflective Listening 聞き返し
単純な聞き返し…オウム返し、確認
複雑な聞き返し…相手の発言の増幅や、発言の裏の意味や、違うとらえ方をあえて返す
→隠れていた相手の感情をくみ上げる

・Summarize サマライズ
適切に要約するだけでなく、言葉遣いや話の順序を工夫することもある
「やりたいけどやるのが怖い」「やるのが怖いけどやりたい」では、聞く側の印象が変わる

以上の4つのスキルの頭文字をとったものがOARSです。

前述の「やること」「やってはいけないこと」を意識しながら、このようなスキルを駆使することで、相手からチェンジトーク(=変わる方向へと向かう部下の言動)を引き出していきます。会話の中での使い方は次の例でご紹介します。

【パターン②】

動機づけ面接のテクニックを活用(OARSのどのスキルに当てはまるかを記載)

上司「最近、仕事はどう?」(O)
部下「別に、普通です」

上司「普通か。あまり波があったり、大きな失敗したりすることなく、ちゃんとこなせているんだね」(増幅したR)
部下「そうですね、無難にやってます」

上司「例えば、ここ最近、仕事で難しかったことや頑張ったことはどんなこと?」(O)
部下「難しかったことは、特に…もうだいぶ仕事自体にも慣れてますし、特に頑張らないとやっていけないってことはないです」

上司「着実に仕事を進められるスキルは十分に身に着いているんだね」(R)
部下「まあ一応」

上司「例えば、仕事に対して、もっとこうしたいとかこうなりたいとか、やりたいことはある?」
部下「特にないですね」

上司「じゃあ、今、仕事については不安や不満…思うことは全くない?」(増幅したR)
部下「全くないかと言われると…。…今の業務自体については不満や不安はないんですけど、将来のことを考えると、このままでいいのかな、と思うことはあります」

上司「このままでいいのかな、と思う」(R)
部下「何というか、会社に入ってすぐは仕事を覚えるのにいっぱいいっぱいなんですけど、最近それが落ち着いてきて。このままで大丈夫なのかな、もっと新しいこととかチャレンジしないといけないのかな、ってたまに気になったりして…」

上司「このまま、同じように仕事を続けるだけでいいのかなという不安と、新しいことにチャレンジしたら何か変わるのかな、という気持ちがある…」(R)
部下「そうですね」

上司「それを思うのはどんな時?」(O)
部下「普通に業務に当たってるときは思わないんですけど、同期が数字を上げてるって話を聞いたときとか。出遅れてるのかなと思ったり」

上司「同期が成果を上げてると聞くと、自分と比べて、出遅れてるのかなと思う」(R)
部下「そうですね。置いて行かれるんじゃないかって」

上司「そうなんだね。そういう、このままだと置いていかれるんじゃないかという思いが出てくることは、君にとってどういう感じ?」(O)
部下「どういう感じ…焦る気持ちが出てきて、落ち着かなくなりますね。できるだけ落ち着いて仕事したいので、それはちょっと嫌ですね」

上司「ということは、できるだけそういう焦りがなくなって、落ち着いて仕事ができるようになるためにはどうすればいいか、ということを一緒に考えるのは役に立ちそう?」
部下「そうですね」

上司「なるほど。例えば1年後、このままでいいのかなという思いや、そういう焦りがなくなってるとしたら、そのとき自分はどういう状態だと思う?」(O)
部下「うーん、そうですね…今やってることだけでなくて、今はできないことができるようになってる、とか…」(チェンジトーク)

上司「現状維持しつつ、今できない新しいことができるようになっている状態?」(R)
部下「そうですね」

上司「例えば、新しいことを始めるとしたら、どんなことがやりやすそう?」(O、変わろうとする姿勢をサポート)
部下「今までの仕事と全く違うことは不安なので、社内で知ってる人もいる中での有志のプロジェクトに参加するとか…」

上司「なるほど、無理なく始められそうでいいね」(A)
上司「他にはどんなことがありそう?考えられるだけあげてみて、一緒に検討してみよう」(O、変わろうとする姿勢をサポート)
……

パターン②では、部下のペースに合わせて、部下の発言や思いを引き出しながら、会話を進められています。

またその中で、色々な開かれた質問や、聞き返しをしていく中で、部下の「変わりたい」方向に向かう思い・発言=チェンジトークを引き出しています。チェンジトークが出てきたあとは、具体的な行動を一緒に検討することで、実現性を高めていく方向にシフトしています。

高まった動機をそのままにせず、適切なタイミングで行動に移せるよう支援することも、次のステップとして重要です。

終わりに

本記事では、「動機づけ面接」のテクニックをヒントに、「やる気のない」部下のやる気の引き出し方について紹介しました。

具体的なスキルを身につけ、動機づけ面接を実践するには、ある程度のトレーニングが必要です。さらに興味がある方は、インターネットの記事や書籍でより深く学んだり、興味のある同士でロールプレイングしたりすることをお勧めします。

そこまでせずとも、本記事で紹介した「人は段階的に、循環的に行動変容していく」「変わりたい気持ちと変わりたくない気持ちを両方持っている」というイメージを意識してみることもお勧めです。

「やる気のない部下」という上司の見方が変われば、それによって部下の反応も変化するかもしれません。手軽に始められる、変化への第一歩として、動機づけ面接をぜひ活用してみてください。

株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
組織ソリューション部 コンサルタント

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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