目次
はじめに
政府が推進する「働き方改革実行計画」に基づき、同一企業内における「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」の間の不合理な待遇差をなくし、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられるようにすることで、多様で柔軟な働き方を「選択できる」ようにする観点で、2020年4月より同一労働同一賃金が施行されました(中小企業は2021年4月~)。
施行に向けて各社様々な対応を行いましたが、今回はGLTD(団体長期障害所得補償保険)の活用によって、同一労働同一賃金に対応した2社の事例をご紹介します。
GLTD(団体長期障害所得補償保険)の基礎知識
GLTD(団体長期障害所得補償保険)は、企業の従業員が病気やケガなどで長期的に働けなくなった場合の収入減をサポートする、損害保険を活用した福利厚生制度ですが、平等性の高い制度設計ができることが大きな特徴です。
近年、医療技術の発達により死亡リスクが低減された一方、病気やケガなどにより長期間働けなくなるリスクは増大しています。時代に合わせて「生きるリスク」から従業員を守る制度へのシフトが求められています。
働き方改革推進の背景にある、労働人口の減少に伴う人材の確保や流出防止対策にも役立つ制度として、年々検討ニーズが高まっており、現在では従業員1,000名以上の企業の18%で導入されています(労務行政刊『労政時報』第3957号-18.9.14)。
GLTDの補償対象者を非正規雇用労働者にも拡大したA社の事例
補償対象者 | 共済会会員 |
補償の内容 | ●全員加入(保険料は共済会負担) 月額3万円 ●任意加入(保険料は個人負担) 任意で複数プランから選択 |
任意加入の 加入率 | 約40% 約5,600名 |
A社では、従来からグループの共済会会員(約1万4千人)を対象としたGLTD制度を導入しています。制度の内容は右の表のとおりです。
共済会が保険料を負担し、会員全員を対象とする「全員加入」と、保険料は個人負担で選択する「任意加入」の2階建てになっています。任意加入の加入率は、40%を超えており、多くの方に支持されております。
これまで共済会会員資格は、正社員のみでした。
今回、「同一労働同一賃金」の観点から見直しを行い、「全雇用形態に拡大」することになりました。その結果、従来は対象外であった「契約社員、パート社員」(約1,400人)も共済会の会員資格を付与することになり、GLTD制度の対象者となりました。
※補償対象者は60歳未満に限定しているため、「定年再雇用社員」は引き続き対象外。
※社会保険加入要件に満たないパート社員は別途契約条件を設定し加入対象とした。
既存の社内補償制度の見直しに伴い不利益変更の代替策としてGLTDを活用したB社の事例
B社では、欠勤・休職時における給与補償制度がありましたが、正社員と一部の非正規社員が対象であり、同一労働同一賃金の観点から整備の必要性が生じました。
また、現行制度における運用面に問題があったため、同制度を廃止するとともに、その代替策として、全ての非正規社員も補償対象としたGLTD制度の導入を決定しました。
導入の目的は、以下の2点でした。
【制度導入の目的】
① 非正規社員間で生じていた格差の一部を是正
② 給与補償制度の保険化により事務負担の軽減(管理負担と給付実務のアウトソース)
結果としてGLTD制度の年間コストが、従来の給与補償制度の年間支出額を下回り、約50%/年のコスト削減が実現できました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。GLTDはもともと福利厚生制度としての平等性の高さが大きなメリットですが、今回の同一労働同一賃金の施行に合わせ、多くの企業で既存のGLTD制度の見直しや、新規導入が行われました。
同一労働同一賃金への対応を検討している、対応を済まされた企業においても新たな対応策として、GLTDの活用を検討する余地があるかもしれません。
また、制度の見直しに際し、現行制度の問題点の抽出、課題解決のための施策選定、改定前後のコスト比較、同様に実施した企業においては運用面の整理など、検討すべき事項は多岐に渡ります。
情報収集の一環としてGLTD専門代理店へ相談をしてみてはいかがでしょうか。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
LTD・リスクファイナンス部門 コンサルタント