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社会心理的な考え方で、組織の課題を整理する
気がかりな課題について状況を見立てようとした際に有用な考え方のひとつに、生物―心理―社会モデル (bio-psycho-social model) があります。
これは、1977年にG.エンゲルが提唱したもので、人は「生物的要因」「心理的要因」「社会的要因」から構成され、それぞれの要因が影響し合い、どれも切り離して考えることはできないというものです。
つまり、人そのものや、人の集団である組織を解釈しようと思った時には、この3つの要因を関連付けて考えることが重要であるということです。これは、それぞれ以下のように捉えなおすことができます。
「心理的要因」… 認知・行動、感情、信念、ストレスなど
「社会的要因」… 環境、文化、制度、組織の雰囲気など
「生物的要因」… 脳・神経活動、身体、遺伝、体調など
組織の課題は、要因が影響し合っている
人や組織の状況がうまくいっていないと気づいたとき、どれか1つに「原因」があるわけではないため、“1つの原因”に注目して何かを改善しようとしても、効果は期待できません。
また、平易に言えば心理的要因は「個」の要因、社会的要因は「組織」の要因と捉えられるので、いずれの課題に対しても「個と組織」両軸への見立てと対策が必要であるということです。
例えば、管理職の立場で「あの部下に課題がある」と思い、「その人を変えるための指導」(個へのアプローチ)を行おうとしても、うまくいかないばかりか、逆に状況が悪化してしまうような場合が多くあります。
また、ある従業員が「この組織はおかしい」と思い、「組織への不満を伝え、会社の変化を期待しよう」(組織へのアプローチ)としても、うまくいかない場合が多いでしょう。
なぜなら、どちらも原因を1つに絞ってしまい、それが改善されれば問題が解決する、状況がうまくいって発展すると捉えてしまっているからです。
前者では、「あの部下が課題だ」と思っている管理職本人に認知の偏り(「こうあるべきだ」「これが絶対正しい」等)がありそうです。また、そもそも部下からすれば、自分の強みを発揮させてもらえない環境に困っているかもしれません。
そんな状況でさらに管理職から「あなたには課題があるので、変わる必要があります」などと言われてしまっては、人格が否定されたように感じ、気分も落ち込むので、より一層自分の持ち味が発揮できなくなってしまうことになりかねません。
さらに、こうした背景から“上司から人格否定をされて辛い”といった「上司からのハラスメント」の訴えが上がってくる事例も多くあります。
後者では、「組織の風土がおかしい」と感じ、それを「誰かが変えるべきだ」といった考え方がなされている可能性があります。
もちろん、従業員の立場では権限や裁量に限界がありますが、その組織を構成するメンバーに自分が入っているということは、その「おかしい風土」の維持に協力してしまっているということでもあります。
自ら課題解決について建設的に意見を伝え協力者を探したり、変革を起こそうとすると時間や労力が必要なので、日々不満は口にするものの、日々が過ぎるのをただ傍観したり、転職を考えて過ごす(所属する組織そのものを別に移し、期待し直す)という状況は、よくある光景だと思います。
課題の適切な解決手順とは
では、「個」と「組織」の両軸同時に課題解決策を講じるべきかというと、必ずしもそうではありません。課題の取り組みには適切な順序があり、まずは、組織・マネジメント側の課題を解決する必要があります。なぜなら、組織風土が持つ力は強く、環境が整わなければ、個の状態も整っていかないからです。
例として、金魚と水槽を取り上げて考えてみましょう。水が循環し、安全な水槽の中で、いきいきと泳いでいた金魚がいたとします。ところがあるきっかけから、うまく管理されず、水が緑色に濁っている水槽の中で、ほとんどの時間を過ごさなければならなくなったとしましょう。
その後、その金魚の様子はどうなっていくでしょうか。からだの調子やパフォーマンスは、どう変化するでしょうか。また、その環境で「もっといきいき泳げ」と金魚に期待することは、現実的なことでしょうか。
この例でお気づきいただいたかと思いますが、まずは第一段階として、「個」が能力を発揮する“環境”として適切な「組織」の状態を整えることが重要です。より具体的に言えば、管理職のマネジメントが組織の環境を大きく左右するため、マネジメント側からのアプローチによる課題改善が最も急がれます。
組織環境が整っていき、適切な育成計画が講じられれば、メンバー各々が当初に期待された力を発揮しながら、さらなる発展を続け、生産性高く組織へ貢献していくことでしょう。
余談ですが、個別組織の課題というよりも、その会社全体の風土として、社員の意見や自発性が制限されるような環境になっている場合も多く見受けられます。
その場合は、まずは大きな環境としての全社風土の整備が重要です。具体的な方法はケースにより異なりますが、最も基礎的で効果的なのは人事や経営層からのメッセージ発信となります。
最後に、生物的要因に明確な課題がある場合は、医療および専門機関において対処することが適切です。改善へ向けた“努力”が効果的な領域は「個と組織」両軸へのアプローチであることをご認識いただければと思います。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
組織ソリューション部 コンサルタント