目次
はじめに
前回(「新しい働き方」に対応した両立支援とは “私傷病休業編” )に続き「新しい働き方」に対応した両立支援のポイントを紹介します。第3回目となる本記事では、「私傷病休業(がん治療)」について解説します。
2人に1人はかかる「がん」。企業に求められる治療と仕事の両立支援策
国立研究開発法人国立がん研究センターのがんの罹患確率に関するデータ(2017年)によると、「生涯で男性65.5%、女性50.2%といずれも2人に1人はかかるリスクがある」と発表されています。
一方で、治療方法についても進歩が見られ、がん患者の5年後生存率について見てみると、診断年1993-1996年では男女計53.2%でしたが、2009-2011年には64.1%となり、10.9ポイント向上しています。
厚生労働省の「平成22年国民生活基礎調査」に基づく推計によると、推計32.5万人の方が仕事を続けながら通院していると言われており、日常生活を送りながら継続的に治療ができる疾患になりつつあります。
多くの人ががんに罹患するリスクがあることに対応して、企業としても、従業員が安心して治療と仕事とを両立できる環境づくりが必要となってきます。適切に両立支援を行うことで、経験豊富な人材の離職を防ぎ、有効活用することが可能となります。
治療と仕事の両立支援に欠かせない4つのポイント
一口にがんといっても種類や進行度合い、治療方法によって必要な対応は異なります。
東京女子医科大学の遠藤源樹助教が行なった「がん患者大規模復職コホート研究(2015年)」によると、がん治療者がフルタイムに復職するまでに要する療養日数は、以下のようにがんの種類ごとに大きく異なります。
【がんの種類ごとの復職までにかかる平均日数】
・胃がん124日
・前立腺がんなど124.5日
・大腸がん136.5日
・乳がん209日
・血液系腫瘍1.5年
また復職したがん治療者の勤務形態については、治療による体力低下や身体のだるさ、メンタルヘルス不調などの理由から、「短時間勤務」が望ましいと多くの産業医は考えています。
特に食道がんや胃がんは、手術後数年以上にわたって体重が手術前よりも5~10kg減量してしまっているケースが多く、体力の回復には時間がかかります。
このようなことを念頭におき、企業は各従業員の状況に合わせて適切に対応していくことが重要となりますが、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。
次章では、厚生労働省が推奨しているガイドラインを参考にしながら4つのポイントを紹介します。
① 適切な治療に専念できる休暇制度
治療や診察のために仕事を休む際に、休暇制度が十分に整っていないと、通院者だけが欠勤扱いとなり、収入面で不利益を被ることも少なくありません。企業としてはこのような事態を防ぎ、治療に専念できる休暇制度の構築が重要となります。
・時間単位での年次有給休暇制度
もう一つの方法は「時間単位での年次有給休暇制度の適用」です。労働基準法に基づく年次有給休暇は、1日単位が原則となっていますが、労使協定を結ぶことで、時間単位で与えることが可能となります(上限は1年で5日分まで)。これにより従業員は柔軟に通院をすることが可能となります。
・傷病休暇や病気休暇制度
その他にも「傷病休暇や病気休暇制度」の導入も推奨されています。法定外の休暇ですが、治療と仕事とを両立できるように年次有給休暇とは別に付与するという制度です。
② 治療を続けながら柔軟な働き方を可能とする勤務制度
前述の通り、従業員が回復までに要する期間はがんの種類に応じて異なり、その道のりは平坦ではありません。従業員が通院しながら仕事を続けやすい環境を充実させるという意味で、一人一人の状況に対応できる柔軟な勤務制度を設計しておくことも重要です。
・在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)制度
在宅勤務制度は、感染症予防の意味でも採用する企業が増えてきています。感染症予防の他、通勤時の身体への負担を無くすことができるという意味で非常に有効な制度です。
・時差出勤制度
身体への負担軽減や感染症予防の対策として、時差出勤制度も有効です。始業や終業の時間を変更することで、通勤のピーク時間を避けることが可能です。
・短時間勤務制度
治療中・治療後の負担を軽減させる目的として、所定労働時間を短縮する制度も有効です。これは育児・介護休業法に基づく短時間労務制度とは別のものとして設定します。
・試し出勤制度
復職や治療を受けながら就労することに不安を感じる従業員は少なくありません。そのような従業員と従業員を受け入れる関係者が円滑にコミュニケーションを取り業務を進められるよう、「試し出勤制度」の導入も有効です。
③ 人事や上司・産業保健スタッフ・主治医等との円滑な情報連携
柔軟な勤務制度を採用することで、従業員とその関係者が必要十分なコミュニケーションを取ることが難しくなる可能性があります。 安心・安全に就労してもらうためには、従業員と人事労務担当者だけではなく、上司や同僚、産業医や保健師、主治医などが本人の同意を得た上で必要な情報を共有し、連携することが重要です。
従業員と人事労務担当者が属人的にやり取りをしていると、適切な判断ができなかったり、トラブルの原因になったりするリスクもあります。特に就業継続の可否については、本人だけでなく医師の意見などを踏まえて行う必要があり、情報をクラウド環境に集約するなどして連携を強化することが求められます。
またコミュニケーションの機会が減ることで、上司や同僚など社内での人間関係や業務に悪影響を及ぼさないようにする意味でも、ITサービスやシステムの活用は有効です。
例えばチャットツールを用いることで、社内にいなくても上司や同僚などと気軽にコミュニケーションを取ることができ、適時・適切な情報連携が可能となります。
④ 本人に対する心理的なサポート、周囲の啓蒙
両立支援を行う上では「心のケア」も重要です。医学の進歩によりがんは不治の病ではなくなりつつありますが、健康と思っていた人がある日突然がんと診断された時の精神的なショックは計り知れません。
国立がん研究センター等の調査(2014年)によると、がんと診断されてから1年以内に自殺するリスクは、がんに罹っていない人の20倍にも上ることが分かっています。
そのため従業員が安心して治療と仕事の両立ができるよう、休暇制度の整備などハード面での支援の他、本人に対する適切な「心のケア」というソフト面での支援も大切になってきます。
具体的には日常的なコミュニケーションや面談等を通じて従業員の心身状態を適切に把握し、業務量の偏りや負担の増大がないかなどを確認します。周囲と連携した上で、業務量の調整や短時間勤務の推奨などの対応を実施します。
特に治療直前直後は心身のバランスが崩れやすいタイミングなので、人事労務担当としては十分な配慮が必要です。
またがんに関する研修やe-learningを本人だけでなく周囲の従業員に対しても実施することで、正しい知識の習得と共に両立支援の必要性や意義を理解することができ、企業として治療と仕事を両立しやすい環境を整えることに役立ちます。
新しい働き方とがんの両立支援
新しい働き方への対応は治療との両立にも有益
コロナ禍における新しい働き方として、在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)や時差出勤を導入・検討する企業が増えています。これらの施策は心身への負担をできるだけ軽減する必要があるがん患者にとっても非常に有効な施策です。
東京都福祉保健局によると、新型コロナウイルスによる死亡者の多くが何らかの基礎疾患(がんを含む)を有していることが分かっています。感染症のリスクを最小化し従業員の命を守るという意味において、今、多くの企業にとって在宅勤務をはじめとする新しい働き方への対応が求められています。
オンラインでつながることで円滑なコミュニケーションが可能に
新しい働き方の環境下において、治療を続ける従業員とその関係者が円滑にコミュニケーションを取り、適切な情報連携を行うためには、ITサービスやシステムを活用したコミュニケーションインフラを整えておく必要があります。これにより従業員に対する心理的サポートも効果的に行うことが可能です。
休業者・復職者管理を最適化する「ADVANTAGE HARMONY」
がん治療と仕事を両立させながら働く人は今後より増えてくる可能性があります。経験豊富な人材が治療を理由に離職してしまうことを防ぎ、多くの従業員が長く安心して働き続けられる環境を作るためにも、両立支援策を充実させることが重要です。
新しい働き方の中で両立支援を充実させるためには、制度設計だけでなくコミュニケーションインフラやITツールの活用が欠かせません。
「ADVANTAGE HARMONY」は、システムによる業務管理で休業者・復職者管理をスムーズに行うことが可能です。チャット機能を通じて、在宅で働く従業員とも密なコミュニケーションをとることができます。
さらにがん治療と仕事との両立を強力に支援する「eRWP機能」には、従業員の心身状態をモニタリング・スコアリングする機能や、e-learningによるがん治療と仕事との両立支援を啓蒙する機能などがあります。
がん治療と仕事の両立をサポートする機能が充実していますので、すでに実施されている企業様はもちろんのこと、これから充実させたいとお考えの企業様にもおすすめです。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
両立支援事業部 コンサルタント