真剣な顔で面と向かい合っている2人の社員

逆パワハラは立派なパワハラ!今は誰もが行為者になり得る時代

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竹内理恵
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント シニアコンサルタント

「パワーハラスメント(パワハラ)」というと、上司から部下あるいは先輩から後輩に行われるハラスメントをイメージされる方が多いかもしれません。確かに多く見聞きしますが、逆に下の立場の人が上の人に対して行うハラスメントも存在し、「逆パワハラ」と表現されたりします。

「逆パワハラ」という言葉は法律には出てきません。しかし、部下からの誹謗中傷等のハラスメントが原因で上司が自殺し、裁判にまで発展したケースが日本で複数存在します。

2020年6月1日から施行されたパワハラ防止法※1に反しないためにも、今は上下の立場を問わず誰もがパワハラの知識を正しく認識することが求められています。

パワハラの定義には「逆パワハラ」も含まれる

パワハラ防止法では職場におけるパワハラが次のように定義されています。

① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるものであり、
①~③までの要素を全て満たすもの。


さらに、以下の一文もセットで明記されていることも押さえておきたいところです。

客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません。

現に、正当な業務命令を拒否したり、上司の業務遂行(真っ当な業務運営)を妨げるような言動をしたりした従業員に対する解雇の是非が問われた裁判では、解雇を正当とする判決が複数存在します。

上記①に関しては次の例が挙げられています。
・ 職務上の地位が上位の者による言動
・ 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・ 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの 等

2つ目と3つ目の例は「逆パワハラ」に該当する内容です。例えば、上の立場の人が畑違いの職場に異動した場合、業務を円滑に遂行するためには知識や経験を有している部下(達)の存在、協力が必要不可欠となることでしょう。その場合、部下(達)に「パワー」があることになります。

また、「集団」も「パワー」とみなされます。例えば、複数人で結託して相手の尊厳を傷つける言動が行われる場合には「パワハラ」に該当することが考えられます。

一例として、研究開発から初めて営業の組織に異動した上司に対して、部下達が業務を遂行する上で必要な情報を故意に伝えなかったり、正当な業務指示に対して無視や拒否をしたり、業務上必要な指導や注意に対して「それ、パワハラですよ」等と脅すことは、状況や程度、継続性等にもよりますが、「パワハラ」に該当してもおかしくはありません。

従って、職位・役職の上下に関係なく、知らず知らずのうちに自分が行為者あるいは行為者にならないためにも、上記を理解することが大切です。

精神障害の労災認定基準が変更に

厚生労働省は令和2年6月からパワハラの定義が法律上規定されたこと等から、精神障害の労災認定基準にパワハラを明示することとしました。

具体的には「上司等(*)から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」あるいは「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・ 嫌がらせを受けた」という具体的な出来事に当てはめ、労災認定要件の一つを満たすか判断されていくことになります。上記(*)には以下の注釈があり、あわせておさえておいた方がよいでしょう。

*「上司等」とは
職務上の地位が上位の者のほか、 <同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合>、< 同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗または拒絶することが困難である場合>を含みます。

パワハラが原因で精神疾患や死亡した場合等の労災が認定されたり、民事訴訟に発展するケースが目立つようになった昨今、「逆パワハラ」を含むパワハラを予防し、時間や労力等の限りある資源を、組織本来の目的・目標の達成や個人・チームの成長等のためにいかに使っていけるかが、個人や組織の健康な状態を維持し、持続的に成長させる上で重要といえるでしょう。

まとめ

「逆パワハラ」を含むパワハラは、法律に反するほか、労災基準の一つにも明確に含まれたことからも、立場の上下を問わず誰もがパワハラの知識を正しく認識することが求められます。これまでは「パワー」を持つのは上の立場の人とされ、管理職など上位職を中心に教育が行われることが多かったかもしれません。

それも大切ですが、今後は「逆パワハラ」の予防も視野に入れ、全従業員を対象にした教育や啓蒙・啓発を継続することが肝要です。知らなければ意識下に置くことも、適切な言動に繋げていくことも難しいものです。また、知っている一部の者だけで防止できるものでもありません。

職場でのパワハラは「逆パワハラ」含め組織の問題と捉えられます。

全従業員が偏りなくパワハラ防止の意義や知識に触れることが、一人ひとりの意識の醸成や予防に繋がり、労災や訴訟リスクから個人(被害者や行為者、周囲をはじめとした従業員)や組織を守り、ひいては働きやすい職場形成や生産性向上に繋がることになるでしょう。

組織や個人としての予防策は以下で紹介しております。あわせてご覧ください。
ハラスメント規制法成立で企業が行うべき対応は?
職場におけるハラスメントの定義とは?ハラスメントの予防法や解決策をご紹介
企業のリスクを減らすハラスメント防止対策について
職場のハラスメントを防止するためのプラスαの対策とは?

脚注
※1中小企業は2022年4月1日から施行
※1パワハラ防止法の正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」。略称で「労働施策総合推進法」と呼ばれることもあります。

参考文献
[厚生労働省]精神障害の労災認定基準に「パワーハラスメント」を明示します
~ 業務による心理的負荷(ストレス)評価表を明確化・具体化しました ~

https://www.mhlw.go.jp/content/000637468.pdf
[厚生労働省]2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000683138.pdf

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【筆者プロフィール】

竹内理恵
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント シニアコンサルタント
人材/組織開発系のコンサルティングや産業保健分野の現場経験にて、人と組織に関する経営課題の解決や企業の持続的成長の実現には、従業員の心身の健康とより良い職場環境づくりが必要だと実感。現在は従業員の能力を充分に発揮するための心身の健康と、より働きやすい職場・組織の実現等により、生産性・業績の向上や人材の定着・確保に繋がる価値貢献をすべく活動している。分担執筆『研究者・技術者の「うつ病」対策~不調者を出さない 仕組みづくりと日常の注意点~』、『ストレスチェックフォローに最適! こころの健康づくり社内 研修ツール』など。

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