育児をしている男性

男性育児休業(育休)取得時の国の制度や求められる企業のサポート体制は?

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

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近年は、男性社員が育児休業を取得する必要性が認識されてきています。男性が育休を取得して育児に参加すれば、女性の産後うつや育児ノイローゼ発症のリスクが軽減します。企業視点では従業員のワークライフバランスがよくなり、生産性が上がるメリットが期待できます。

従業員が安心して子育てできる会社になれば若手社員の定着率向上、採用ブランディング向上にもつながるでしょう。しかし、日本ではまだまだこの概念は広まっていないのが現状です。育児休暇をとった男性の処遇をめぐってのトラブルがニュースになるなど、男性の育児休業が企業やほか従業員にとって「負担が増すこと」という受け止め方をされがちです。

とはいえ少子化は国を揺るがす大きなテーマ。昨今はさまざまな国の支援制度があります。企業を支援する制度もあるため、上手に活用すれば企業の負担を押さえながらワークラフバランスを推進できるでしょう。

本記事では、男性の育児休業に関する国の支援制度や企業に求められるサポート体制について解説します。

男性が育児休業を取らないと…産後うつや育児ノイローゼのリスクが高まる

昨今、さまざまな育児休業制度があるにもかかわらず企業がうまく活用できていないために、女性に育児の負担が重くのしかかるケースが多々あります。まず、企業はここ四半世紀の社会の変化を認識する必要があるでしょう。現在の50代以上が社会に出たころは、男性が家計の主体をにない女性は専業主婦か家計補助的に働くことが一般的でした。

社会全体に子どもは女性が育てるものという価値観もありました。しかし、現在は共働き世帯のほうが多くなっています。女性の社会進出が進んだことは喜ばしいものの、家事育児は女性が行うものという概念はゆるやかにしか変化していないため、仕事をする女性に育児が集中しているのが現状です。

昔のように地域全体で子どもを育てる風潮も少なくなっているため、専業主婦であれ共働きであれ、女性の「ワンオペ育児」になることが多く、育児への不安やストレスから産後うつや育児ノイローゼを発症する人も少なくありません。

産後うつや育児ノイローゼは誰でもなる可能性がありますが、特になりやすい人は責任感が強く完璧主義であったり、相談できる相手が身近におらずひとりで育児のストレスを抱え込む女性です。2020年には「コロナ禍が影響し産後うつが倍増する」という衝撃的な研究結果も出ており、多くの育児中の女性が今現在も厳しい状況にあることが推測できます。

このような環境下で、仮に男性従業員が育児休業を希望しているにもかかわらず取得できずに家庭が深刻な状況になれば、社員が会社に不満を抱き、最悪法的問題に発展するリスクもあるでしょう。事業主は法律上、育児休業の申し出を拒否できないからです。 SNS等への書き込みでこうした情報が拡散されてしまうケースもあります。

企業側としても、男性の育休取得は積極的に推進していくべきでしょう。

男性育児休業取得に関する国の制度

男性の育児休業取得の促進に向けて、国はさまざまな支援制度を用意しています。時間外労働の制限や転勤への配慮は、育児・介護休業法によって定められた仕事と育児の両立を目指す人を支援する制度です。また、社員だけでなく、育休取得を促進する企業に対して助成金を給付する制度もあります。

ここでは、育児休業取得に関する国の制度を紹介します。
出典:厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」

・育児・介護休業法に基づく制度

育児休業制度子が1歳に達するまで育児休業を取得可能
看護休暇小学校就学前までの子1人であれば年5日、2人以上であれば年10日を限度に看護休暇を取得可能
所定外労働(残業)の制限3歳に達するまでの子を育児する労働者が申し出た場合は所定外労働を制限
時間外労働の制限小学校就学前までの子を育児する労働者が申し出た場合、1ヶ月24時間、1年150時間を超える残業を制限
深夜業の制限小学校就学前までの子を育児する労働者が申し出た場合は深夜業を制限
短時間勤務の措置3歳に達するまでの子を育児する労働者が申し出た場合は短時間勤務を認める
転勤など配置への配慮配置転換は労働者の育児状況を配慮する
不利益取扱いの禁止育休等の申出・取得を理由とした解雇など不利益な扱いを禁止
ハラスメントの防止措置育休等の申出・利用に対するハラスメントを防止

・「パパ・ママ育休プラス」「パパ休暇」
育児休業制度の中には、「パパ・ママ育休プラス」「パパ休暇」といった制度も含まれています。「パパ・ママ育休プラス」とは、両親ともに育児休業を取得する場合、一定の要件を満たしていれば育児休業の対象となる子の年齢が1歳2ヶ月まで延長される制度です。

一方、「パパ休暇」とは、子の出生後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合、特別な事情がなくても再度育児休業を取得できる制度です。

●適用事例
①夫婦が交代で切れ目なく最長の1歳2ヶ月まで育休を取得できる

イメージ図(夫婦が交代で切れ目なく最長の1歳2か月まで育休を取得できる)

②同時取得することで夫婦が一緒にできるだけ長い期間の育休を取得できる

・育児休業給付金
育児休業給付金とは、育児休業によって一定以上の給与が支払われなくなった場合に、雇用保険からお金が給付される制度です。育児休業給付金を受け取るには、雇用保険に加入している労働者であること、過去2年間に11日以上働いた月が12ヶ月以上あることなどの条件を満たす必要があります。

平成26年4月より、休業開始から6ヶ月間の給付割合が67%に引き上げられました。夫婦が半年ずつ育休を取得すれば、1年間割増給付を受給できます。なお、育児休業中の社会保険料は免除となり、雇用保険料も発生しません。

・企業への助成金
男性育児休業の取得を促進するために、企業に向けた助成金として「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」があります。これは、男性が育休を取得しやすい職場環境づくりに取り組んだことで、実際に育休を取得する男性労働者が生じた事業主に支給される助成金制度です。

●支給金額

中小企業・中小企業以外の育休支給金額に関する表
※ 支給額 < >内は生産性要件を満たした場合の支給額
出典:厚生労働省 『2021年度 両立支援等助成金のご案内』

●主な要件
・男性労働者が育休を取得しやすい職場環境づくりのための取り組みを行うこと
・男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する連続14日(中小企業は5日)以上の育休を取得すること

●個別支援加算
男性労働者の育休取得前に個別面談を行うなど、育休取得を後押しする取り組みを実施した場合に支給される支援金

・地方自治体の男性育休推進事業
地方自治体における男性育休推進事業の一例を紹介します。

●男性育休100%宣言(三重県)
男性の育休が100%になることを目指し、県内企業等に「男性育休100%宣言」への賛同を呼びかけています。男性育休の取得向上に関する制度や取り組みの情報提供、男性が育休を取得しやすい組織づくりのノウハウを学び合う交流会の開催を行っています。

参考:三重県庁 『自治体の首長として初!知事が「男性育休100%宣言」を行います』

●男性の育児休業取得奨励金(新潟市)
新潟市内の中小企業に勤務する男性労働者が14日以上の育休を取得した場合、本人と事業主に対し奨励金を支給する制度です。職場や家庭における固定的な性別役割分担意識の解消を目的としています。

参考:新潟市役所 『男性の育児休業取得奨励金』

企業に求められるサポート体制

日本で男性の育児休業取得を促進するには、企業のサポートが欠かせません。企業はまず、男性の育児休業や育休に関する国の制度・給付金について理解を深めることが必要です。例えば、男性の育休取得前に個別面談を行うなど「育休取得を後押しする取り組み」を実施した企業には、子育てパパ支援助成金の個別支援加算が支給されます。

「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定を受けた企業は「くるみんマーク」が使え、企業イメージの向上につながります。企業の人事部はカウンセリング窓口の導入を検討してもよいでしょう。育児の領域だけではなく、さまざまな悩みを相談できる窓口です。

育児中は突発的な対応に追われがちなため、対面だけでなく電話やメール、チャットなどの多様な手段があり、対応時間が限定的でないことが望ましいといえます。育児休業で会社を離れると繋がりが一時的になくなるため、疎外感を感じる社員もいます。

産休・育休取得者視点で見る休業者とのコミュニケーションのポイントについてはこちらの記事でご紹介しています。導入企業の事例とあわせてご覧ください。

まとめ

日本では、男性の育児休業取得が広まっていないのが現状ですが、国や自治体は男性の育休取得を推進すべくさまざまな支援策や給付金制度をつくっています。企業を支援する制度も豊富なので、まずどのような制度が自社で活用できるかを確認してみましょう。

管理職に育児休業についての法律や支援制度について周知することも大切です。事前に支援制度を知っていれば、管理職も男性部下から育児休暇を申請されたときに困惑せずに必要な手続きをスムーズに進められます。男性の育休は偏見で見られやすいため、育休取得に対する不利益な扱いやハラスメント(パタハラ)を防止するためにも、育児休業の意義を広く社内に浸透させましょう。

日本の男性の育児休業取得率を上げるには、男性でも育休を取得しやすい社内環境を整えるなど企業側の社員に対する積極的なサポートが不可欠です。2022年4月1日から「改正育児・介護休業法」が段階的に施行され、女性だけでなく男性社員も育児休業がとりやすくなります。

おそらく、2022年以降は男性社員からの育児休業申請がかなり増えてくるでしょう。企業には一層の対策、制度の整備が求められます。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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