新型コロナウィルス感染症対策のためにテレワーク(在宅勤務)の継続や拡大、新たに導入した企業も少なくないと思います。
厚生労働省の「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」で公表された「テレワークの労務管理等に関する実態調査(速報版)」※1によると、テレワークで感じた課題の多くに「従業員同士の間でコミュニケーションが取りづらい」項目が挙がっています。
当社のアンケート結果※2でも、テレワークをストレスに感じる理由の1位が社内外とのコミュニケーションの取りづらさとなっています(下図参照)。実際にテレワークを導入している企業やテレワーカーからも頻繁に同じ課題を耳にします。
コミュニケーションの課題はテレワークに限ったものではありませんが、相手の姿形が見えず、口頭より文章でのやり取りが圧倒的に多いテレワークでは、対面以上に浮き彫りになりやすいものです。では、どのようなことを意識してコミュニケーションを取ればよいのでしょうか?
目次
チャットツールの活用《管理職・リーダー、従業員》
テレワークではコラボレーションツール等の導入が欠かせません。コミュニケーションツールとして搭載されていたり、専用ツールでも存在するのがチャットです。メールよりも気軽に発信しやすく、個人間や指定したメンバー間でやり取りしている方も多いのではないでしょうか。
チームメンバー達を1つのグループに設定し、その中でやり取りできるようにすると、例えばあるメンバーが困りごとを発信した際、グループ内全てのメンバーが閲覧でき、誰かからタイムリーに回答を貰える可能性が高くなります。
対面では誰に相談したら良いかわからず戸惑う人でも、チャットなら関係者に一斉に相談ができるためハードルが下がりやすいようです。また、各メンバーからの回答内容がノウハウ共有になり、対面では得られないメリットが享受できます。
発信等による自己表現とそれに対する反応や応答が個人やグループの成長を促すことも考えられます。ただし、誰かが発信をしたら最低でも一人は反応や回答を示すことが大切です。無視と感じさせることは直接的なコミュニケーションでもオンラインでも心理的ダメージが大きいので特に気をつけたいものです。
関係あるメンバーを宛名に入れずに発信をすることもハラスメントにもなりかねないため気をつけましょう。いずれにしても、テレワークでは特に疎外感や孤立感を感じさせない配慮が、個人のみならずチームのパフォーマンスを左右するといっても過言ではありません。
従って、ツール導入により利用者に情報格差やコミュニケーション格差が生じない配慮も大切です。
企業の方向性、ビジョンの浸透《企業、管理職・リーダー》
オフィスから離れて働くテレワークでは特に不安や疑心暗鬼に陥りやすいといえます。それらが過ぎると健康面のみならずパフォーマンス面にも影響をきたします。
コロナ禍に限ったことではありませんが、コロナ禍では特に企業のビジョンや方向性等を従業員に伝えていくことが大切といえます。このような企業から従業員へのコミュニケーション手段は文章もありますが、映像(ライブ配信、録画した動画配信など)を活用することで一層浸透が期待できます。
役割や期待・成果の明確化《管理職・リーダー》
企業側からすれば従業員が在宅中にどのような業務を推進しているのか把握しづらく、従業員側からはどのような業務をどこまで進めれば期待に応えられ評価に繋がるのか把握しづらくなります。
出勤していれば、勤務状況や業務への取組み状況等が視覚的に把握も介入もしやすいものですが、テレワークだと誰かが発信をしない限り水面下に潜んだままです。
業務内容や組織形態等にもよりますが、まずは管理職から誰にどのような役割を担ってもらい、いつまでにどのような成果をあげてもらいたいか等、役割・期待を明確に伝えることもコミュニケーションの一つといえますし、進捗も把握しやすくなります。
業務に臨機応変さが求められ、役割や成果が変わることがあるのならなおさらのこと、管理職・リーダーは都度メンバーへの役割期待や成果を各メンバーに伝え続けることが大切になります。
相手の立場や心情を勘案した声かけ《管理職・リーダー》
コロナ禍では特に生命や健康を不安視する従業員が少なくありません。そのような状況下でも業務に専念している様子や、期待に応じたパフォーマンスが見られた場合等には、労いや感謝の気持ちが確実に相手に伝わるコミュニケーションを意識したいものです。
また、テレワークでパフォーマンスが出しやすい人もいればそうでない人もいます。テレワークを嫌々せざるを得ない人もいれば、逆にしたくてもできない職務や環境下に置かれる人もいる等、様々な想いや環境下で働いていることが考えられます。
一人ひとりの想いや環境等をできる限り把握し、理解をしていることや共感の気持ち、時には励ましを業務のやり取りの一部に沿えることが、コロナ禍では特に重要といえます。
毎日のオンラインミーティングによる関係性の強化・構築《管理職・リーダー》
コミュニケーションは質も大切ですが量も大切です。例え報連相がなくても、決まった時間帯にチームメンバーがオンライン上で一堂に集まり一人ひとりが発言できる機会を10~15分程設けることをお勧めいたします。
実践している企業では、朝なら始業時刻、昼なら昼食時間直後、夕方なら終業時刻前が多いようです。そうした機会を意図的に作ることで、以下のメリットが考えられます。
・業務とプライベートのメリハリがつきやすい
・今誰がどのような業務を行っているのか(あるいは進捗等の)把握ができる
・ささいな相談や質問があがりやすくなる(その場で解決できたりナレッジの共有にも)
・テレワーク中でも互いに声を掛け合い、協力関係が築きやすくなる
・メンバー一人ひとりの個性や価値観等をチームメンバー全員が把握できる
・一体感の醸成に繋がりやすい
・孤独感、孤立感が緩和されやすい 等
その場で管理職・リーダーが対応可能な時間帯を伝えれば、メンバーが気を遣いすぎずに連絡ができるため作業効率の向上に繋がりやすくもなります。
メリットは継続することでより感じられます。継続するには、決めたタイミングで、チームの全メンバーを対象に、参加者全員が発言をする等のルールを決めた上での実施がよいでしょう。
発言する内容は、その日の業務内容もあれば、現在のコンディション、プライベートを含めた個人的なニュース、よろず相談等様々考えられます。業務以外の発言も可能とすることで、前向きに参加しやすくなるうえ、リフレッシュもしやすく、生産性の向上も期待できます。
カメラを利用する時に意識したいこと《管理職・リーダー、従業員》
会議やミーティングの時、ネットワークへの負荷を考慮する必要はありますが、カメラ機能がついているパソコン等で参加する際にはカメラをオンにし合うことで視覚情報から相互理解が進みやすくなります。ただし、使う場合は次のことに意識する必要があるでしょう。
・カメラの位置を確認し、カメラに目線を向けるようにする。
常にカメラを見る必要はありませんが、ずっと画面を見て発言していると、相手に映るのはおそらく目線が下を向いている姿です。
つまり目が合っていない状態のため、「自信がないのでは?」「真剣に参加しているのだろうか?」「理解しているのだろうか?」「嫌われているのだろうか?」等と相手に推測をさせてしまう可能性があります。誤解を与えないためにも要所要所でカメラをしっかりと見て発言(あるいは参加)をすることが大切です。
・目の高さとカメラの高さを同じにする
カメラ目線と同時に意識したいのが目とカメラの高さです。カメラが目の高さよりも上にあると見上げる形になり自信がなさそうに見えます。逆にカメラが目の高さよりも下にあると見下すように見えてしまうことがあります。今は様々な書見台が販売されていますので、カメラを目の高さに合わせられる物を利用するのも一考です。
・ジェスチャーを対面時より2倍大きめにする
カメラの解像度にもよりますし、参加者数や状況等にもよりますが、基本的には直接的なコミュニケーションより相手に表情や細微な感情は伝わりにくいと捉えた方がよいでしょう。
頷く時には首を大きく縦に振る、理解できない時には首を左右に大きく振る等、カメラに映る「頭の部分」の動きを通常の2倍くらいの大きさで意識した方が、相手に伝わりやすくなります。また、発言や発表をする時はカメラ目線を増やすことに加え、ジェスチャーの大きさと回数も2倍ほど増やすイメージで臨んだ方が、訴求力が高まりやすいでしょう。
・テンションは1.5倍で
オンラインだとカメラの性能や照明・天候等により相手に暗く感じられることも少なくありません。テンションをいつもの1.5倍くらい高めにして発言されると、より良い印象を相手に感じてもらいやすくなるでしょう。
顔文字やスタンプの活用《管理職・リーダー、従業員》
テレワークではどうしても文章のやり取りが増えます。すると、ニュアンスが伝わりづらく、長文になり過ぎない意識等から相手に冷たい印象を与えることも考えられます。
許される場や相手であれば、顔文字「例:(^-^),(@@),(;;)など」やリアクションスタンプ「(ツールによって異なりますが)👍,♡,など」を取り入れることも一考です。
スタンプは、意見に賛同せずとも、「コメントを閲覧しました」という意味での活用を促すと、発信者の安心感やモチベーションが担保され、テレワーク下でも発信・閲覧者達とで繋がりを実感やすくなるでしょう。
居住環境の把握と声かけ《企業、管理職・リーダー、従業員》
テレワークによって同居家族との関係に変化が生じている方が少なからず存在します。良い変化ならいいのですが、悪化している場合もあります。
特に管理職・リーダーは可能な範囲で部下の同居家族の有無や仕事に専念できる環境かどうか等を把握し、出社時とのパフォーマンスの大きな変化や心身の状態を対面以上に気づけるよう、メールやチャットのみならず顔や声も確認できるカメラや電話等の様々なツールの活用をお勧めいたします。
テレワークの普及により早期発見・早期対処のタイミングを逸し、ある日突然連絡がつかなくなる「サイレントうつ」を未然に防ぐためにも大切なことです。未然防止の観点では、定期的に社内・外の相談窓口の案内や利用促進、テレワークでの環境下を踏まえたセルフケアやラインケア教育も重要です。
まとめ
昨今ジョブ型雇用の導入がうたわれ、職務内容や目標・成果の明確化が更に求められてきています。テレワークの普及はその流れを早めているといっても過言ではありません。
半面、人間は機械ではなく感情を持つ生物のため、成果目標の達成だけでなく、成果をあげるプロセスに、ビジネス的な側面だけでなく感情的な側面からも向き合い、メンバーやチームの成長に寄り添うマネジメント・リーダーシップがますます求められると思います。
もちろん管理職・リーダーに限ったことではなく、離れた場所でも自分と相手の両方の感情と上手に付き合うコミュニケーションを取り続けることが、働きやすさや信頼関係の構築、成果創出の鍵を握ることになるでしょう。
【注釈】
※1 厚生労働省 第4回「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14849.html
※2 アドバンテッジリスクマネジメント 2020年5月22日に実施した「コロナ禍で企業に求められるメンタルヘルス対策セミナー」の参加フォームのアンケートより(N=274)