2025年までにすべての企業は定年を65歳まで延長する必要があります。また、2021年4月から、70歳までの就業機会確保が努力義務となりました。
本記事ではこのような定年延長が行われる背景や、それに伴う企業の課題とその対応方針について解説します。
目次
65歳の次は70歳!求められる定年延長とは?
従業員が年齢にかかわりなく働き続けることができる生涯現役社会の実現に向け、「定年延長」が実施されています。今回は、定年延長の実施背景と発生しうる企業課題、その対応方針・ポイントをご紹介します。
定年延長の背景と概要
内閣府の発表している「令和元年版高齢社会白書」によると、2018年10月1日時点における日本の総人口は1億2,644万人で、65歳以上人口は3,558万人となっています。
また、高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は28.1%となっており、2065年には38.4%にまで高まると推計されています。働き手不足への対応や年金の財源確保に向けて政府が行った施策の一つが「定年延長」です。
政府は「高年齢者雇用安定法(2013年4月)」を改正し、2025年4月から「65歳まで定年年齢の引き上げ」「希望者全員を対象にした、65歳までの継続雇用制度を導入」「定年制の廃止」のいずれかの措置をすべての企業に対して義務付けました。
さらに、労働意欲のある高年齢者が活躍できる環境整備を目的として、2021年4月から70歳までの就業機会確保が努力義務となります。
定年延長を助成金が後押し
厚生労働省では各企業の定年延長を後押しするため、「65歳超雇用推進助成金」という助成金制度が用意されており、「65歳超継続雇用促進コース」「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」「高年齢者無期雇用転換コース」の3コースが発表されています。
措置内容や60歳以上の被保険者数に応じて金額は異なりますが、たとえば「65歳超継続雇用促進コース」の場合、最大で160万円の助成金を受け取ることが可能です。
各コースの詳細については、以下記載の厚生労働省のホームページをご確認ください。
65歳超雇用推進助成金(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139692.html
定年延長によって生じる企業の課題
65歳や70歳まで定年を延長することにより、企業としては労働力の確保につながる一方で、さまざまな課題も生じます。ここでは代表的な3つの課題について解説します。
フィジカルリスクの高い従業員の割合が増加
医療分野における技術革新や高年齢者一人ひとりの健康意識の向上により、平均寿命は延びてきています。厚生労働省の「令和元年簡易生命表」によると、令和元年における男性の平均寿命は81.41歳、女性は87.45歳といずれも前年調査を上回る結果となっています。
しかし、平均寿命は延びているものの、高年齢者は若い世代と比べて免疫力や抵抗力が低下することから、重篤な傷病に罹患するリスクが高く、治療と並行して仕事も行わなければならない可能性が高くなります。
企業としては、これまで以上に両立支援の充実が求められます。
労働に関するモチベーションの低下
働くことに対するモチベーション低下も懸念されることの一つです。高年齢者の定年が延長された場合には、年金の支給が考慮されることで給与が下がったり、または主要な役職に就けなくなったりするケースもあり、モチベーション低下につながる恐れがあります。
また高年齢者でない従業員は、「高年齢者の賃金・役割に納得がいかない」「高年齢者が部下になったときのマネジメントが難しい」といった理由からモチベーション低下につながる懸念があります。
人事制度の見直しの必要性
実務レベルでは人事制度の見直しも必要となります。たとえば退職や賃金に関する事項は労働基準法第89条で定められている絶対的必要記載事項のため、退職までの年齢が延長または廃止される場合は就業規則を変更する必要があります。
特に賃金については就業規則の変更が必要なことに加えて、高年齢者だけでなくすべての従業員が納得できる給与制度にする必要があります。このような点を配慮せず設定してしまうと、前項で触れたように従業員のモチベーションに悪影響を与える可能性があります。
また定年延長を行うにあたり、退職金を「いつまで積み立てるのか」「いつ支払うのか」などの検討も必要です。
各課題における企業の主な対応方針
前章で触れた主な課題について、「企業としてどのような対応方針を取ればよいのか?」「対応する際のポイントは何か?」を解説します。
フィジカルリスクに備えた企業の対応方針
通院しながら勤務する従業員が中長期的に増加することが見込まれるため、両立支援体制の充実が必要となります。高年齢者本人だけではなく、周りの従業員を含めて全社的に両立支援について理解を深める啓蒙活動をおこない、安心して通院しやすい休暇制度や勤務体系を充実させる必要があります。
加えて通院することにより賃金が下がらないように、賃金補償制度を充実させることも重要なポイントの一つです。
モチベーション低下に対する企業の対応方針
従業員のモチベーションアップは全従業員が納得できるような人事制度の構築や新たな福利厚生制度の導入によって実現する可能性があります。
新たな制度の構築や導入にあたって特に意識するべき点は、「公平性・平等性」です。
どんなに魅力的であっても、特定の条件にマッチする従業員しか恩恵を受けられない福利厚生制度では逆に従業員の不満が高まったり、モチベーションが低下してしまったりする恐れがあります。
人事制度の見直しに関する企業の対応方針
人事制度については定年延長に関する項目を修正するだけではなく、全体的な見直しを行うタイミングとしても適しています。人事制度は一度作成すると長期にわたって全体の見直しがなされないケースもあり、実態が時代に即していないことも多いです。
定年延長を機に検討したいGLTD制度
定年延長への対応に向けて諸制度の見直しを行うことは、他の人事制度や福利厚生制度を含めた全体的な制度の見直しを行うよい機会にもなります。
これからの時代に合わせた会社制度への見直しにあたり、押さえておきたい施策の一つが「GLTD制度」です。
GLTD制度を活用することで、本記事で紹介した課題への効果も期待できます。
GLTD制度の効果①:フィジカルリスクへの対応
GLTD制度は休業期間中における従業員の収入を補償する制度ですが、休業している期間だけでなく、復職後の制限付きで勤務している際にも補償されます。
例えば、私傷病が原因で短時間勤務を行っており、賃金が減額されている場合でも減額分の補償が可能となり、収入補償という観点から両立支援体制を強化することができます。
GLTD制度の効果②:労働に関するモチベーション低下への対応
公平性・平等性の高い新たな福利厚生制度を導入することにより、従業員のモチベーションにも良い影響が出る可能性があります。
GLTD制度は、全従業員が潜在的に抱えている休業時や通院しながらの勤務時における収入の減少を解消できます。誰もが安心して働ける環境を整備することで、モチベーションの低下や不安・不満感を軽減できる可能性も十分に考えられます。
GLTD制度の効果③:人事制度の見直しに関する対応
全体的な人事制度の見直しにあたり、GLTD制度を検討する企業も増えてきています。たとえば、休業期間中にも賃金を支給する規程を持つ企業は少なくありませんが、その期間は在職時に限られており、かつ短期間である場合がほとんどです。
従来の規程のままでは、支給が終わってしまった従業員は収入が途絶えてしまう可能性があります。
かといって、休業期間中の補償を長期にわたって行う規程に変更した場合、単純に企業の負担だけが大きくなってしまうのでは、といった懸念もあります。
GLTD制度では企業の費用負担を平準化できるうえに、従業員は退職後を含め長期にわたって賃金の補償を受けられるようになるため、上記のような懸念を解消することができます。
まとめ
いかがでしたか。今回は定年延長について懸念される企業課題と対応方針をご紹介しました。
定年延長における各課題へのケアとしてGLTD制度を検討する企業も増えてきています。
また、既に制度を導入されている場合でも、定年延長による人事制度の変更に伴い、設計の見直しや変更を行うケースもあり、お問い合わせをいただくことも増えて参りました。
情報収集の一環として、GLTD制度導入のご支援実績が豊富な当社に是非ご相談ください。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
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