少子高齢化によって労働力不足が懸念されている今、企業が取るべき成長戦略として注目を集めているのが「従業員エンゲージメント」の向上です。従業員エンゲージメントを高めることは、企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
この記事では、従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントの違いや従業員エンゲージメントを高める方法、具体的な企業事例をご紹介します。
目次
◆ 従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントとは、従業員が会社に対して抱く愛着を指す言葉であり、会社への帰属意識や理念・ビジョンへの共感、貢献意欲、職務満足などを内包する概念を意味します。「エンプロイー・エンゲージメント」とも呼ばれます。
1990年頃、アメリカを拠点とする世界最大の総合電機メーカー「ゼネラル・エレクトリック社」のジャック・ウェルチ元会長がその重要性を指摘したことで、注目を集め始めました。従業員エンゲージメントは、従業員が会社の待遇や職場環境への満足度を指す従業員満足度や、会社への忠誠を指すロイヤリティとは少し異なります。
従業員エンゲージメントは従業員と会社双方の信頼関係がベースにあり、従業員は仕事に対する貢献意欲や会社への愛着心を持っています。従業員エンゲージメントが高い会社では、自社に貢献したい従業員が自発的に、かつ意欲的に仕事に取り組むため、労働生産性も高まり企業全体の業績向上が期待できます。
ひいては、企業価値の向上にも繋がり、さらに従業員のエンゲージメントも高まる、という好循環が生まれるのです。
◆従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントの違い
従業員エンゲージメントと混同されがちな言葉にワークエンゲージメントがありますが、ワークエンゲージメントは従業員個人の仕事に対するポジティブな心理状態を指す言葉で「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力・熱意・没頭によって特徴づけられるもの」という学術的な定義付けがされています。
一方、従業員エンゲージメントは主にビジネス業界で普及している言葉であり、明確な定義付けはされていません。従業員エンゲージメントには仕事への意欲だけでなく、「自社への愛着心」「会社にとどまりたい意思」「仕事に対する満足感」「求められる役割以上の行動をとる」など、仕事のやりがいや組織との関係性まで多様な要素が含まれています。
◆従業員エンゲージメントを高めるメリット
従業員エンゲージメントの向上は、企業の業績アップにつながるさまざまなメリットをもたらします。
ここでは、従業員エンゲージメントを高めることで企業が得られるメリットをご紹介します。
人材定着率の向上
従業員エンゲージメントの向上は従業員の帰属意識を高め、人材定着率の向上や優秀な人材の流出を抑える効果が期待できます。従業員エンゲージメントが高い従業員は仕事のやりがいや自社への愛着があるため、自社に定着しやすくなると考えられるからです。従業員の定着率が上がれば、人材不足による無理な採用が不要になり、採用活動においては自社に必要な人材をじっくりと見極められるようになるでしょう。
労働生産性の向上
アメリカを拠点とする世論調査・人材コンサルティング企業「ギャラップ社」の調査「State of the Global Workplace」によると、従業員エンゲージメントが高い集団は、従業員エンゲージメントが低い集団よりも、生産性は17%、収益性は21%高いといいます。従業員エンゲージメントが高まると企業に対する従業員の貢献意欲も高まるため、従業員一人ひとりが意欲的に仕事に取り組むことで労働生産性の向上に効果があると考えられています。
チームワークの向上
会社への信頼感だけでなく、ともに働く同僚への信頼感も高まると、従業員同士のコミュニケーションや助け合いが活発になり、社内のチームワークを向上させる効果が期待できます。チームワークの向上は社内の雰囲気や風通しをよくし、従業員のモチベーションアップや離職率の低下につながるでしょう。
◆従業員エンゲージメントを高める方法と企業事例
従業員エンゲージメントの向上に向けて、企業はどのような取り組みをしていけばよいのでしょうか。
ここでは、従業員エンゲージメントを高める具体的な方法と企業の取り組み事例をご紹介します。
理念・ビジョンの共有
従業員エンゲージメントを高めるための第一歩は、従業員に対し自社の理念やビジョンを説明することです。企業の理念・ビジョンを従業員と繰り返し共有することで、従業員は自分が目指すべき方向を理解し、企業との一体感を覚えて高い貢献意欲を持つようになります。
世界で展開するコーヒーチェーン店のA社では、正社員はもちろんアルバイトやパートにも自社の理念・ビジョンを共有し、従業員エンゲージメントを高める取り組みをおこなっています。
福利厚生の充実
従業員エンゲージメントを高めるためには、従業員に支払われる給与だけでなく、給与以外の待遇も従業員エンゲージメントを大きく左右します。従業員にやりがいを持たせたり、健康維持を促進したりする福利厚生は、「自分たちのことを大切に考えてくれている」というメッセージとして受け取られ、従業員エンゲージメントの向上に効果的です。
法人向けクラウドサービスを提供するB社では、手当・健康・キャリアアップ・職場環境・社会貢献といった5つの側面から福利厚生の充実を図り、従業員エンゲージメントを高める取り組みをおこなっています。
多様な働き方の整備
ライフワークバランスを充実させるための多様な働き方の整備は、従業員エンゲージメントを高めるうえで重要な施策のひとつです。従業員は自身が置かれる生活環境に合った柔軟な働き方ができるため、仕事に対するモチベーションや労働生産性の向上が期待できます。
クラウドベースのソフトウェアを開発するC社では、「100人いたら100通りの働き方があってよい」との考えのもと、在宅勤務や副業許可、子連れ出勤などのさまざまな働き方を整備し、従業員エンゲージメントを高めています。
適切な人事評価
適切な人事評価は従業員のやる気を高め、従業員エンゲージメントの向上に効果的です。人事評価に統一化された共通ルールはありませんが、どういう基準で評価するのか明確にし、従業員が納得感を得られる制度にすることが大切です。
フリマアプリの開発・運用をおこなうD社では、独自の人事評価制度やピアボーナスの導入によって従業員のモチベーションを高め、従業員エンゲージメントの向上につなげています。
心理的安全性の確保
企業における心理的安全性とは、従業員が失敗や非難を恐れることなく、自分らしく発言・行動できる状態をいいます。心理的安全性の確保は、従業員エンゲージメントを高めるうえで重要な要素のひとつです。
料理レシピサイトを運営するE社では、上司と部下が1対1で対話する1on1ミーティングによって相互的な信頼関係を構築し、従業員エンゲージメントを高めています。
◆まとめ
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業の理念やビジョンに共感し、企業への貢献意欲がある状態をいいます。仕事に対するポジティブな心理状態を指すワークエンゲージメントとは異なり、従業員エンゲージメントには仕事への意欲だけでなく組織に対する愛着心など多様な意味が含まれています。
従業員エンゲージメントの向上には、人材定着率や労働生産性を高め、チームワークをよりよくする効果があります。企業と従業員の相互的な信頼関係を構築しさらなる業績アップを目指すために、従業員エンゲージメントの向上に取り組みましょう。