ここ数年で「健康経営」という言葉が浸透し、従来の従業員の健康管理から経営の枠組みの中で積極的に取り組みを進める企業が急速に増えています。その取り組みの外部評価制度として、「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」などがあり、多くの企業は、その評価取得を一つの目標に掲げているのではないでしょうか。
本記事は、5月27日に当社が実施した「健康経営優良法人2022 対策セミナー 本質的な健康経営の推進へ」の内容(一部)を編集してお届けします。
後編はこちら 本質的な健康経営を推進するために本当に必要な取り組みとは?(後編)
目次
健康経営とは
「従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えのもと、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義づけられる健康経営。慢性的な人材不足や医療費増加への施策として、あるいは個人のモチベーション維持や組織全体の生産性向上を目的として、積極的に取り組む企業が増えています。
「経営的視点から考え、戦略的に実践する」と記載されているように、健康経営は経営戦略の一つと考えられています。今でこそ、「健康経営」という言葉も浸透し、「他社がやっているから当社もやろう」という動機で取り組みを始める企業も少なくないかもしれません。
しかし、経営戦略という観点では、他社ではやっていない取り組みに対して積極的に投資をし、差異化を図ることが求められている、とも捉えられるでしょう。
つまり、健康経営の推進は、他社と差別化するチャンスでもあるのです。
そして、健康経営を推進するうえで重要なのは「長期的にみてどういう成果があったのか」という視点です。
もちろん短期的なメリットもありますが、業績向上や企業価値向上を実現するためには長期的なビジョンに基づいて推進することが必要です。
健康経営優良法人認定制度とは
健康経営の取り組みにおける外部評価として、この「健康経営優良法人」の認定を目指すことが、健康経営のスタートといっても良いでしょう。
認定は、大規模法人部門と中小規模法人部門に分かれており、それぞれ基準が異なります。大規模法人部門においては「健康経営優良法人」の上位500法人を「ホワイト500」として認定しています。また昨年より、中規模法人部門も同様に、上位500法人を「ブライト500」として認定されることとなりました。
健康経営への関心は、健康経営優良法人認定制度の申請社数からも見て取れます。大規模法人部門における健康経営度調査票の回答企業数は2019年が2,328社、2020年で2,523社と増えていますが、さらに中小規模法人部門は、2019年の6,095社から9,185社と大幅に増加しており、「ブライト500」の冠が付されたことも影響していると考えられます。
企業規模に関係なく、健康経営への関心が高まっていることがうかがえます。
健康経営優良法人については、こちらの記事も併せてご覧ください。
「健康経営とは?「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人」の意味や対策ポイント
健康経営優良法人認定制度の評価フレームワークとは
健康経営優良法人認定制度においては、5つのフレームワークをもとに定量的・定性的な情報が評価される仕組みとなっています。
①経営理念・方針
健康経営の方針が経営トップより、従業員に落とされているか
②組織体制
健康経営を推進する組織体制が整っているか
③制度・施策実行
具体的な施策がどれだけ実施できているか
④評価・改善
施策を実施することにより、従業員の参加率や行動変容がどれだけ達成されたか
加えて、
⑤法令順守・リスクマネジメント
調査票には直接問われていないものの、健康診断の受診率やストレスチェックの実施状況、長時間労働の是正勧告を繰り返し受けていないかなど、前提として求められる部分
といった5つのフレームワークをもとに健康経営が定量的・定性的な情報が評価されます。
健康経営優良法人認定要件を見ると、その5つのフレームに沿ってより細かく問われていることがわかります。
「ホワイト500」または「ブライト500」と聞くと、残業が少なく働きやすい、いわゆる「ホワイト企業」の印象を持つ方もいらっしゃると思います。
勿論、長時間労働が慢性的に行われていないことも評価の一部に加わりますが、健康経営で求められるのはそれらの要件に加えて、喫煙、メンタル対策、女性の健康課題など、包括的な健康課題への対応が求められています。
コロナ禍における健康経営の実態
昨年度はコロナ禍において、多くの企業が苦労されたのではないでしょうか。
健康経営度調査票においても、もちろんこのような状況は想定していなかったため、「対面」を想定した項目が多くありました。
感染症予防の観点から、スポーツイベントや従業員交流会など、集合型の施策がなかなか実施できない、さらに在宅勤務の増加によりコミュニケーション促進が難しい、といった各社からの声が、経産省の資料(出所:経済産業省 健康 ・医療新産業協議会第2回健康 投資WG 事務局 説明資料①)にも記載されています。
例えば、在宅勤務者に対してメール以外のコミュニケーションツールの導入、メンタルヘルス相談窓口の設置等、さまざまな取り組みが行われていたことが資料からもわかります。当社のお客さまのなかには、運動不足解消のためにラジオ体操のオンライン配信をした、というケースもありました。
このように、令和2年度は、コロナ禍で先が見えないなか、各企業がさまざまな工夫をして、施策を実施していたようです。
令和3年度以降で検討されていること
令和3年度以降、次の観点について検討が進められています。
①BCP(事業継続計画)
BCPを策定すること自体を目的とするのではなく、有事の際にも勤務形態等について柔軟に対応できるよう予め明文化し、かつ社内に整備・共有されていることが重要です。
BCP等による施策の実行を検証し、必要な見直しをしたかという観点にて評価する案が検討されています。
②情報開示の促進
来年度以降、健康経営度調査の回答に基づく企業情報を経済産業省のサイトで公開する案が出ています。なかでも「ホワイト500」取得企業は先行的に開示が求められる見込みとなっています。
(出所:経済産業省 健康・医療新産業協議会第2回健康投資WG 事務局説明資料②)
③パフォーマンス指標の整理
健康経営のパフォーマンス指標は他社との比較可能な共通指標が確立しておらず、各社がそれぞれの指標を取り上げているのが現状です。その一方で、ステイクホルダーから見ると、「評価基準がわからない」、「比較基準が明確でない」と捉えられてしまいます。
今後は他社と比較可能な指標開示が求められる可能性がありますが、まずは指標の悪化や改善が分かるように経年変化を公開することの方が重要と考えられます。
(出所:経済産業省 健康・医療新産業協議会第2回健康投資WG 事務局説明資料②)
④喫煙対策
2021年5月時点では具体的な方向は示されていないため、場合によっては昨年度と同様になる可能性もあります。そうはいっても、食習慣改善や運動習慣施策と同様、アンケート等を活用し、重点施策の参加率や、重点施策によって実際の行動変容が見られたかどうかの効果検証を行うことをお勧めします。
⑤特定健診・特定保健指導の実施率
昨年度はコロナ禍で特定保健指導が実施しにくい環境だと考えられていたため、実施率が低かったとしても認定を受けることができました。しかし、リモートでの保健指導対応が十分対応可能となった今年度は、実施率が低くなるとマイナスの評価を受ける可能性があります。
またこれまで、総合健保に属している場合、自社が頑張って特定保健指導に取り組んでいたとしても、加入している健保内で実施率が低いことで、その影響を受けざるを得ませんでしたが、今後は各法人単位における実施率が基準となる案が出ています。
特定保健指導は実施主体が健保であるため、自社内でどれくらい実施されているか、実はあまり把握できていないというケースもあるのではないでしょうか。今後の動きも踏まえて、健保と連携して、特定保健指導の実施状況を確認してみることをお勧めします。
まとめ
以上、令和3年度以降の検討案についてお伝えしました。年々基準がアップデートされますので、情報の整理、施策の企画等、準備を先行して進めるのが良いでしょう。
後編では、健康経営の推進におけるポイントについてお伝えします。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
組織ソリューション部 コンサルタント