※本記事は、6月4日に当社が実施した「心理専門家が取り組むハラスメント行為者の行動変容事例セミナー」の内容(一部)を編集してお届けします。
前記事(ハラスメント行為者の行動変容を促すためには?再発防止に向けて企業がすべきこと(前編))では、なぜハラスメントが起きるのか、ハラスメント行為者の行動変容のステップについて概要をお伝えしました。では、ハラスメント行為者に向けた行動変容のトレーニングはどのように行っていくのでしょうか。
今回の記事では、その流れについてご紹介します。
トレーニング内容は以下のパッケージが一つのモデルになっています。
初回:ハラスメントの心理教育、ハラスメントへの理解
2~3回目:自身の陥りやすいパターンを把握するためのアセスメント実施、棚卸
3~4回目:認知行動療法のフレームを活かしたハラスメント行為の振り返り
5~6回目:対処行動のバリエーションを増やす
6~7回目:実際に行動をしてもらい、フォローを実施
順を追って解説する前に、「認知行動療法」について補足します。認知行動療法とは、「行動」が変容することで「結果」に変化を与えることを目的とした心理療法です。そのために、現在の行動が引き起こす「結果」「きっかけ」「本人なりのルール(認知)」に働きかけ、新しい「行動(考える・実際の行動)」を学習します。
目次
初回:ハラスメントの心理教育
行為者の多くは、自分自身の怒りポイントを理解していなかったり、考え方や捉え方の癖に気づいていなかったりする傾向にあります。自分の怒りに気づかず、指導であると認識しているがゆえ、そもそもその行為がハラスメントになっていることに気づいていないケースが考えられます。
まずは行為者とともにハラスメントが発生したときの状況をしっかりと振り返るととともに、行為者が持つアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見や思い込みを指す言葉)について確認していきます。
ハラスメント行為は、怒りが発散され、瞬間的に気分が晴れるといった短期的なメリットはあるかもしれません。しかし、長期的には信用を失ったり、築き上げた地位を失ったりするデメリットが考えられます。こうしたデメリットを行為者に理解してもらいながら動機づけを行っていきます。
ここで重要なのは、トレーニングは行為者の人格や性格を変えるものではなく、「行動やそれに紐づく物事の捉え方を変える」ものであるということです。こうして徐々にカウンセラーと行為者の信頼関係を構築し、目標を達成するための「チーム」を形成していきます。
こうしたやり取りを土台に、次は自己理解を深めていただくステップへと進みます。
2~3回目:自分の陥りやすいパターンのアセスメント、棚卸
まずは、行為者の性格傾向をアセスメントするベーシックな心理検査を行います。たとえば「エゴグラム」という心理検査を用いることがあります。この心理検査は人の心を5つに分類し、その5つの自我状態が放出する心的エネルギーの高さをグラフにすることができます。
心理検査の結果の振り返りを通じて、行為者自身が自分にどのような特徴があるのかを理解することができます。カウンセラーは、傾向が強く出ている部分について伝えながら、行為者の自己理解を促します。こうしたアセスメントは、行為者が自分自身で回答するため納得感が高くなるというメリットもあります。
何か物事がうまくいかないとき、その背景にはいくつかの思考パターンがあります。皆さんも何かをゆがめて捉えてしまったり、拡大解釈してしまったりすることはないでしょうか。こうした思考パターンの癖は誰もが持っているものではありますが、特に以下の2つはハラスメント行為者が陥りやすい思考といえるかもしれません。
・「べき思考」:「~すべきだ」「~でなければならない」と過度に捉える思考パターン。ビジネスパーソンとして目標の達成を目指すことは当然のことですが、厳しすぎると受け手にとってハラスメントと捉えられてしまう恐れがあります。
・「レッテル貼り」:マイナスな部分を見つけてしまうと、「あの人は〇〇な人だ」と否定的なレッテルを貼ってしまう思考パターン。そのマイナスな部分が一部だったとしても、その他の部分が見えなくなる傾向にあります。
それでは、こうした思考パターンに陥ってしまった場合、どうしていくのがよいのでしょうか?
3~4回目:認知行動療法のフレームでハラスメント行為を振り返る
認知行動療法のフレームを取り入れたアセスメントシートを用いて、ハラスメント行為を振り返ってもらいます。そして、その振り返りをもとに、何が引き金となって、どのような考えや感情が生まれ、どのような行動に至り、どのような結果になったかを、カウンセラーがマッピングしていきます。
行為者には「〇〇すべき」「〇〇するのは〇〇な人間だ」といった本人なりの考えやルールがあり、そのルールから外れたときにハラスメント行為に及んでしまいがちです。カウンセリングでは、その本人なりのルールを少し拡張してもらうことを意識します。
これまで育ってきた環境や慣習は急に変えられるものではないため、「そうはいってもハラスメントは良くない」「感情を抑えてコミュニケーションをしっかり取ろう」といった意識を加えていくよう促すのです。このように、カウンセラーが行為者とともに行動計画をしっかり立てて、合意を得ながら進めていきます。
5~6回目:対処行動のバリエーションを増やす
行動計画を立てたからといって、イライラする場面をなくすことは難しいでしょう。しかし、そのイライラへのさまざまな対処行動を持っていれば、ハラスメント行為に至らず別の方法に代えることができるのです。
例えば、まずは深呼吸をする、イライラした気持ちを書き出す、誰かに聞いてもらうなど、発生したイライラを対処できる方法を沢山身に付けることでハラスメント行為から遠ざけることができるといえます。
6~7回目:実際に行動をしてもらい、フォローを実施
ここまでくれば、あとはフォローアップの段階となります。ビジネスシーンで良く登場する「PDCAサイクル」という言葉は多くの方が耳にし、なじみがあるでしょう。このトレーニングにおいても、P:行動計画の検討→D:行動の実行→C:行動の評価→A:行動の改善 のPDCAを回していくのです。
効果を実感できたら継続、逆に効果が出ないようであれば改善を繰り返すことで、次第に行動が変わっていくのです。
まとめ
ハラスメント行為の背景には、周囲の人間だけでなく、自分自身でさえわからない細かい引き金が存在しています。本記事では行為者へのトレーニング方法をお伝えしてきましたが、ここまで丁寧に振り返る時間を設けることは難しいかもしれません。よって、日頃から細かい引き金をきちんと意識することが大切です。
場合によっては、起きたときの状況を瞬間的に切り取り、問題から抜け出すための地図を描いたうえで「こうなりたい」「こう変わりたい」という目標に辿りつくための道筋を明らかにする「ケースフォーミュレーション」も必要になってくるでしょう。
企業内で対応できることもありますが、自身が認識していないハラスメント行為の引き金や行動の棚卸、その後の行動変容に向けた伴走については、専門家のサポートがあるとより効果的です。ぜひカウンセラーなど心理専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
人ソリューション部 カウンセラー