VUCAと呼ばれる変化の激しい時代になり、人々のキャリア観は大きく変わってきています。特に若年層は、仕事よりもプライベートを重視する傾向が顕著となっています。一方で、自己実現に向け強い意欲を発揮するケースも少なくありません。
このような状況の中、個々に応じたキャリア形成のサポートをすることが、企業の課題の一つとなっています。一人ひとりの働きがいを高めることで、エンゲージメントの向上や離職防止になり、企業の生産性アップにもつながるでしょう。
これを受け今回、「組織内キャリアカウンセリング」をテーマにその概要をはじめ、個人や企業にもたらす効果、実例を前編と後編に分けてご紹介します。
※後編はこちら
※この記事は、8月31日に当社が実施した「意外と知らない?『キャリアカウンセリング』」の内容を編集して配信しています。
目次
キャリアカウンセリングとは
近年、エンゲージメントの向上や離職防止の施策として、組織にキャリアカウンセリングを取り入れたいとの要望が高まっています。そもそも「キャリアカウンセリング」とは何なのか、意外と知られていないのではないでしょうか。まずは、その概要について解説します。
厚生労働省によると、「キャリア」は「一般に『経歴』『経験』『発展』さらには、『関連した職務の連鎖』等と表現され、時間的持続性ないし継続性を持った概念」と定義されています。しかし、これは仕事や職業にやや偏って見える方もいらっしゃるかも知れません。
キャリア理論の専門家の多くは「一時期の職業活動に限定した考え方ではなく、個人の人生の生き方や人間関係、社会的な役割の積み重ねである」と捉えています。「キャリア」や「キャリアカウンセリング」は個人によってイメージや解釈が異なるケースがあります。
皆さんの会社では「キャリア」をどのように定義しているでしょうか?自社でキャリアカウンセリングを導入する場合は、キャリアやキャリア開発における定義づけ、従業員との意識合わせをすることをお勧めします。幅広い年代が働く組織において、勤労観や職業観にはそれぞれのイメージがあり、いわゆる一つのジェネレーションギャップが存在します。
時代背景や雇用情勢が変化していくなかで、ひとくちに「キャリア」といっても人によって捉え方にばらつきが生じてしまう可能性があります。キャリアカウンセリングを導入する際には、道筋を示し、そのばらつきを統一していくことが大切です。
なお、「キャリアコンサルティング」という言われ方をすることもありますが、厳密に言うと違いはあれど、まずはこの場では両者に大差はないという前提でお話しできればと思います。
キャリアカウンセリングは大別すると「学校(教育)機関」「需給調整機関(ハローワークや人材紹介、人材派遣など)」「企業内領域」「その他(地域など)」の4つの領域で実施されています。
なかでも、組織内キャリアカウンセリングが重要視されるようになった背景には、日本の労働経済の課題が影響しているように思います。いくつかありますが、中でもその顕著な課題は少子高齢化に伴う労働人口の減少です。
国が労働力を必要としながらも、育児や介護、自身の病気療養などで働きたくても環境が整っていないことで働くことを選択できない、あるいはしにくい人がいます。国はそうした一定の事情を抱える人たちの社会参加を支え、誰もが活躍できる社会を目指しているのです。
加えて、定年が実質的に引き上げられ、勤労の長期化も視野に入れています。これは日本の「働く」を新時代仕様へと変えていきたい意識のあらわれと言えるでしょう。そうした時に求められるのが、国民一人ひとりが自律的に自身のキャリアを考えることです。
国からの発信にも限界があるため、企業など組織に協力を求め、従業員のキャリア意識を醸成し、キャリアのPDCAを支援するよう働きかけるようになりました。組織内キャリアカウンセリングは、組織と従業員がお互いの成長に向けて支援し合う方法の一つです。
個人がキャリアを意識し、実際に行動を起こして振り返る、キャリアのPDCAを回せるようになれば、パフォーマンスやモチベーションに良い影響を与えることができるはずです。従業員一人ひとりが将来を考えて行動できるようになれば、組織の生産性も向上し、骨太な体制になっていきます。
つまり、組織にとってもキャリアカウンセリングを実施するメリットは大きいのです。
カウンセリングでは何が行われているのか
キャリアカウンセリングは、“人は目的や実現したい「欲求」に対し、自ら行動することができる”という考え方を前提に行われます。まず自分の進む方向性(目的・目標)がなければ、それを見つけるところからスタートすることもあります。
あるいは本人の困りごと、例えば、抽象的な表現ですが、自分を苦しくさせる何かが起こっているのであれば、それを特定していきます。
次に、目的や目標を達成するため、もしくは自分の進みたい方向性を邪魔する阻害要因を見つけ、それを取り除くよう努めます。目の前にあるハードルをどのように乗り越えるのか、ハードルが高いのであればスモールステップで乗り越える方法があるのかどうか、乗り越えなくても回避できる方法もあるかもしれないなど、多面的にどのように対処することができそうかを一緒に考えていきます。
悩みや課題を解消し、成長できる環境を整えていくのです。
組織内キャリアカウンセリングには、さらに重要なことがあります。それは組織内の仕事の理解、つまり自分の所属する組織の特徴や仕事・職業・顧客・サービスについてなど様々な理解を深め、目的や目標、実現したいこととの「重なり」を見つけるのです。
組織のことを知らないがゆえに、「ここでは何もできない」、「この会社を辞めよう」、「転職しよう」と諦めてしまうケースも少なくありません。逆に、会社のことを詳しく知ることで、新たな価値や可能性に気づき、「まだ頑張れる」という考えに変わり、エンゲージメント向上や離職を防止することもできるのです。
つまり、「組織内キャリアカウンセリング」は独りよがりのキャリア形成ではなく、組織の中での重なりを意識した自己理解、組織内の仕事理解を深めていくことが重要といえます。自己を主体的に捉え、行動できる個人が集まれば、「自立集団」として組織のまとまりを育むことができるでしょう。
キャリアカウンセリングはあらゆる世代に有効です。若年層であればモチベーションアップや仕事理解が離職防止につながり、中堅層であれば仕事と家庭の両立やキャリア再構築の支援、シニア層にはセカンドキャリアを考えるための働きかけなどができます。
これまで組織内でのキャリア開発というと、能力開発が中心だったのではないでしょうか。もちろんそれも大事なことではありますが、これからは従業員一人ひとりのキャリア成長を支援することが、強い組織をつくる上でも大事になってきます。
組織が実施する能力開発と個人のキャリア開発は、言ってみれば車の両輪です。お互いが向かうべき方向を合致させ、両輪を回すことで、より高い効果を得られるのです。
組織内キャリアカウンセリングを導入する際の5つのステップ
最後に、組織がキャリアカウンセリングを導入する場合のポイントとなる5つのステップを紹介します。
ステップ1「組織でのキャリア開発ビジョンの明確化」
組織としての育成ビジョンを掲げ、従業員と共有します。また、数か年計画として長期での実施を視野に入れ、単発で終わらないようにします。
ステップ2「担当者の選任」
推進担当者や実務担当者を決定します。その際、キャリアカウンセリングを行う実務担当者は人事考課に携わるポジション以外から選任することが望ましいでしょう。公募とすることが理想です。ゆくゆくはキャリアカウンセリングを行う担当者の育成や専門知識と技術の向上が行えるようにしていくことも大切です。場合によっては、社外のキャリアコンサルタントに依頼をすることも大きな利点となります。
ステップ3「実施」
いきなり新しい取り組みを始めるよりも、現状の階層別研修などにプラスして行うとスムーズに進められるでしょう。同時にキャリアカウンセリング希望者への窓口開設も忘れないようにしてください。
ステップ4「チェック」
面談や研修が人材育成ビジョンに沿った結果になっているか、形骸化していないかを確認します。
ステップ5「反映」
キャリアカウンセリングから導き出された課題について検討・改善を行います。個人の成長にとどまらず、必要に応じて人事異動・制度など組織開発に役立てます。
エンゲージメントには2つの側面がある
ここで簡単にエンゲージメントに触れます。昨今、注目度が高まるエンゲージメントですが、実はグローバルに見ても共通の定義がありません。アドバンテッジリスクマネジメントでは、自発的な意志と行動で仕事に取り組み、仕事にやりがいを感じている状態と定義しています。
また、エンゲージメントには仕事に対する意識・行動の「ワークエンゲージメント」と、組織に対する意識・行動の「エンプロイーエンゲージメント」があると捉えています。ワークエンゲージメントが高い状態は、自発的に行動し、かつ仕事に対しポジティブな感情を持っている状態を指します。
エンプロイーエンゲージメントの高い状態は、組織との一体感を抱いている状態を指します。具体的には、企業理念やビジョンに共感し、企業や組織の向かっていく方向に自分の考えがマッチしている状態といえます。キャリアカウンセリングは、どちらかというと仕事そのもののやりがいにつながる内容で、ワークエンゲージメントの向上により効果を発揮すると考えています。
まとめ
労働人口が減少し、現役期間が長期化する今の時代に、キャリアカウンセリングは非常に重要な意味を持ちます。組織内キャリアカウンセリングでは、自社の理解と個人のキャリア成長、両軸の促進が大切です。自社内に導入する場合は、育成のビジョンを労使で共有し、キャリアカウンセリングにより明らかになった課題を組織開発に活かしていくことなどがポイントとなります。