NUDGE THEORYと書かれたイラスト

ナッジとは?健康経営推進にも使える考え方【前編】

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

近年、「健康経営」が浸透し、さらにコロナ禍でオンライン化が不可避な中、効果的に健康経営を推進するために、どのようなことを意識すればよいのでしょうか?

※本記事は、2021年12月15日に当社が実施したセミナー「健康経営推進に『ナッジ理論』を活用!健康施策の参加率を向上させるコツとは」の内容(一部)を編集して配信しています。

後編はこちら

健康施策実施における課題とは

企業の健康施策担当の方に、「ここ1 年間、自社で健康施策セミナー等を実施した際に課題に感じること」について投げかけたところ、もっとも多く挙がったのが「本当に参加してほしい人になかなか参加してもらえない」で、次いで、「実施後の効果検証まで追えない」と続き、いずれも半数以上が課題として挙げています。

その他、「毎回、参加者の顔ぶれが同じになってしまう」「人が集まらない」なども挙がっていました。

具体的な内容として、次のような声が寄せられています。
・セミナー等をたくさんの従業員に聞いてもらえるようなアナウンス文面・ポスターなど周知する際のコツを知りたい
・興味を引きやすいテーマ、 参加してもらうための案内方法を知りたい
・対象者の行動変容に結びつきやすいフレーズなどを知りたい
・参加者に対してどのようなベネフィットを与えたらよいかがわからない

従業員がつい参加したくなる、やってみたくなる仕掛けをするためにはどうしたらよいのでしょうか。

健康経営推進のカギ「ナッジ」

昨今、「ナッジ」という言葉を目にする機会が増えてきました。メディアで取り上げられているのを、皆さんもご覧になったことがあるかもしれません。厚生労働省が策定した健康寿命延伸プラン(2019年)でもナッジの活用が推奨されています。ナッジは健康経営の課題解決のカギになることが期待されています。

ここからは「ナッジ」を研究されている竹林氏に解説をしていただきます。


竹林正樹 氏の画像

竹林正樹 氏
青森県出身、青森県立保健大学大学院、株式会社キャンサースキャン、横浜市行動デザインチーム、OZMA Nudge Social Design Unit所属。ナッジの魅力を穏やかな津軽弁で語りかける講演は全国で好評で、学会発表では立ち見が出ることも。


2020 年開催の TEDxGlobisU 出演。最近は YouTube や note など、オンライン発信に力を入れている。
代表作は「DVD 実践者のナッジ」(東京法規出版)



「ナッジ」とは
自発的によい行動をしたくなるように、選択の余地をうばうことなく背中を後押しする設計

ナッジ(nudge)は「そっと後押しする」の意味を持つ英語です。「相手を望ましい行動へと動かす」ということは、昔からの難題です。

人を動かすアプローチは、次の4段階があります(介入のはしご:大島明 2013を改変)
1.正しい情報の提供
2.行動したくなるように環境を整備
3.褒美や罰を設定
4.強制
このうち、2番目がナッジに該当します。

私たちはたくさんの誘惑に囲まれ、悪い生活習慣に陥りやすい環境にあります。正しい情報を得て、ヘルスリテラシーを高めて自律的に健康行動をすることが望ましいです。それでもうまくいかない場合、これまではインセンティブがよく使われてきました。

しかし、実際には、「皆がしていたから」「何となくいい雰囲気だったから」といった理由で行動することも多いのではないでしょうか。このような心理傾向を踏まえ、背中をそっと押すようなアプローチがナッジです。

他の例で例えてみましょう。不法投棄が絶えない場所に啓発看板を設置したり、罰金を設定したりしても効果がなかったけれども、鳥居のイラストを描いたところ不法投棄が減った、という事例を聞いたことのある方もいるのではないでしょうか?

ここでは鳥居がナッジとなり、不法投棄をしていた人たちが正しい行動をする(不法投棄をしない)よう、背中を押したことになります。

なぜ、頭でわかっていても正しい行動ができないのか?

脳には「直感」と「理性」の2つのシステムがあります。直感は常に発動している働き者です。直感は動物の「象」に例えられ、本能的で強力で管理が困難です。行動経済学の名著にも象が表紙に描かれていることが多いです。

これに対し、理性は象を管理する「賢い調教師」のイメージで、直感だけでは手に負えない場面で出現する存在です。理性の発動にはエネルギーが必要なため、直感が日常判断を担当することは、効率的なことです。

その反面、直感は「認知バイアス」と呼ばれる「認知のゆがみ(心理傾向))が生じやすく、合理的な判断ができなくなることもあります。ここで、いくつかの認知バイアス」について事例を交えながら見ていきます。

イスラエルでは裁判官による仮釈放申請承認率は、昼休み直後は65 %でした。一方、昼休み直前はほぼ0%でした。 (Danziger et al, 2011)これは、時間帯で判断が変化することを示しています。合理的な判断を求められる裁判官でさえ、おなかがすいたり疲れたりしてしまうと理性が枯渇し直感的になってしまうという事例です。

ここから言えることは、大事な話は、相手が疲れていない時間帯にした方が受け入れられやすいということです。

次の実験です。
ヘッドホンの音質確認として、Aグループは頭を上下に揺らし、Bグループは左右に揺らしてラジオ論説番組を聴かせました。番組の論説意見を尋ねたところ、Aグループの賛成者が多くなりました。(Wells et al, 1980)これは「プライミング効果」(Kahneman, 2014)といい、最初に受けた刺激がその後の判断に影響する認知バイアスの一種です。

同じ内容を聞いているにもかかわらず、うなずいた後で聞いた話は肯定的に受け止められる傾向にあります。
話をするときは、相手の受け入れ態勢を整えてからにした方がよいです。

もう一つ紹介します。(Redelmeier et al, 1996)内視鏡検査を受けた患者A の方が患者Bよりも短時間で検査が終わり、痛みのピーク回数も少なかったのです。しかし、患者Aの方が終了後に「ひどい目に遭った」と訴えました。なぜでしょうか?

ピークエンドの法則を表した図

実は、患者Aの方が検査終了直前の痛みが強かったのです。これは、「ピークエンドの法則」(Kahneman,2014)と言われ、記憶に基づく評価はピーク時と終了時の平均で決まる心理傾向です。わかりやすく言うと、「途中経過を忘れて最後の印象を持って帰ってしまう」ということです。

その意味で、最後を美しく終えることは大事です。

最後にクイズです。
懸賞で100 万円が当たりましたが、翌日100 万円を落としてしまいました。当選したときの喜びを100 とすると、落としたときのショックはどれくらいでしょうか?

① 100より大きくなる ② 100(同じ)  ③ 100より小さくなる

正解は「①100より大きくなる」です。人間は、得る喜びよりも失ったストレスの方が2倍以上強く感じることが知られています(Kahneman et al, 1979)。この心理は「行動変容」にも関係します。行動変容は、「古い習慣との決別」と「新しい行動の入手」に分けることができます。

理性は新しい行動のメリットを理解できても、象はこれまで愛着のある習慣を手放す(失う)ストレスを強く感じます。この心理を「現状維持バイアス」といい、行動変容がしづらい理由に挙げられます。

さまざまな事例を用いて、バイアスについて紹介してきました。

では、こうした認知バイアスとどう付き合っていけばよいのでしょうか。ナッジに絡めながら、後編でお伝えします。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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