多くの企業が、新入社員や管理職を対象にした階層別研修、またコミュニケーション研修やメンタルヘルス研修といった機能別研修など、人材育成の手段として研修を実施しています。一方で、人事や人材育成の担当者様からは「研修後にどのような変化があったのか分からない」「効果測定が難しい」といったお悩みの声も挙がります。
新年度となり、研修の機会が多くなるいま、本記事では、研修実施後の効果測定のポイントを解説していきます。
目次
研修の目的とは?
多くの企業がさまざまな研修を実施されていることと思いますが、研修の目的は、受講者に「変化」が起こることです。
しかし、『日本の人事部 人事白書2021』によると、「中間管理職(課長クラス)を対象とした教育を行う理由」として、「マネジャーとしての意識を醸成したい」「マネジメントスキルを身に付けさせたい」といった内容が多く挙げられていました。意識醸成、知識習得が目的になっているケースが多いことがうかがえます。
もちろんこれらも大切ですが、意識が高まり知識を得られたとしても、それが必ずしも「変化」、つまり行動変容をもたらすものではありません。知識習得型ではなく課題起点で研修を設計しなければ、本当に得たい成果には結びつかないのです。
さらには、「研修を実施すること」自体が目的となっているケースも見受けられます。「毎年やっているから」となんとなく実施している研修もあるのではないでしょうか。改めて、その研修をなぜやるのか、テーマが先行した研修計画になっていないかを見直し、「やりっぱなし研修」で終わらせないことが重要です。
受講者の当事者意識を醸成するために
研修を実施するうえで「受講者の当事者意識醸成」を課題と捉えている企業のご担当者も多いのではないでしょうか。動機づけモデルの一つ「ARCS(アークス)モデル」を例に見てみましょう。
ARCSとは、A:Attention(注意)、R:Relevance(関連性)、C:Confidence(自信)、S:Satisfaction(満足)の頭文字を取ったものです。
このモデルになぞらえると、まずは受講者に興味を持ってもらうことが必要です。そして「業務に活かせそう」と感じてもらうことも重要なポイントといえるでしょう。せっかく質の良い研修を企画したとしても、受講者の関心や業務との関連性がなければ、その先に進まない、つまり「変化」は起きません。
慣習に則った研修、テーマ先行型の知識習得型ではなく、受講者が求める課題解決型の研修に設計することで、当事者意識が向上する可能性があります。
研修の効果測定を行うためには
さて、研修におけるもう一つの課題である「効果測定」についても触れていきます。
「管理職研修の効果測定」の手段について聞いた人材育成に関するアンケートがあります。そこでは、「受講時のアンケート」が7割近くともっとも多く挙がり、次いで「レポート」が続きました。
以下にカークパトリックの4段階評価モデルを示しました。受講者アンケートはレベル1の「反応」、レポートはレベル2の「学習」に分類されます。しかし、このモデルにおいてもっとも重要なのはレベル3の「行動」といわれています。
一方で、レベル4の「結果」は、複雑な要素が絡み、それが研修によってもたらされた成果なのか、他の要因が影響したのか、見極めが難しいとされています。だからこそ、この間を結ぶ「行動」が重要な意味を持つのです。受講者が効果的な研修だと感じたか、何を学んだかにとどまらず、「行動できたか」「行動が変わったか」を測ることで評価します。
そのためには「どのような行動ができるようになるか」、高めるべき能力を明確に捉えることから始める必要があります。
ちなみに、研修の目的は、事業目標を達成するために従業員の能力を高めるものであり、研修を行うことで直接利益を生み出すことが目的ではありません。短期的な効果検証においてROIの観点だけに着目するのは適切ではないでしょう。
行動変容を評価する際のガイドライン
ここまで、研修を行ううえで「変化」「行動変容」が重要であることをお伝えしてきました。ここで、同じくカークパトリックによる行動変容を評価する際の7つのポイントをお伝えします。
1.比較対象を置く
受講者/非受講者を対象にアンケートをとり、状態を捉えます。
今後受講予定のある未受講者との比較が望ましいとされています。
2.行動の変容に必要な時間を考慮する
場合によっては半年ほど必要なケースもあります。特にマネジメント系の研修は中長期にわたって変化を期待されるケースもあります。
3.研修の前後で評価する
4.研修受講者・受講者の直属の上司・受講者の部下・その他受講者の行動を直接観察することが多い人の1種類以上の人にインタビューかアンケート調査をする
5.全数調査かサンプリング調査を行う
研修の参加人数によってどちらか実施するのが良いでしょう。
6.適切な回数だけ調査を繰り返す
調査のスパンが長いと変遷がわかりにくくなります。リマインドの意味も含め、複数回行うのが望ましいです。
7.調査コストと調査の見返りを考慮する
これらのポイントを総合的に押さえるためには、「パルスサーベイ」のようなツールを活用するのも効果的です。研修は、内容そのものに焦点がいきがちですが、研修前後、上司をいかに巻き込むかによってその成否を分けるといっても過言ではありません。
上司が研修に理解を示し、受講者をフォローしていくことによってその効果が高まるといえるでしょう。研修後に「その後どう?」というリマインドを行うこともシンプルかつ効果的な方法です。
人の成長を決める要素「7・2・1の法則」をご存知でしょうか。「7・2・1」とは、「何からどのくらいの割合で学びを得るのか」を示しており、その内訳は7割「直接経験」=仕事から得られる経験、2割を「間接経験」=上司や先輩からのアドバイスやフィードバック、1割を「トレーニング」=読書や研修とされています。
私たちは間接経験を活かしながら直接経験をしていくものです。そして直接経験が増えると、周りに見てもらえる機会も増え、さらなる間接経験につながります。こうした良いループが、「行動変容」をもたらしていくのです。
このように、間接経験をもたらす研修前後の上司の関わり方は受講者の成長を決める大きなポイントとなってくるといえるでしょう。
研修の効果を高めるパルスサーベイの活用
昨今、「パルスサーベイ」という言葉を聞く機会も増えてきました。「パルスサーベイ」とは、簡易的な調査を短期間に繰り返し実施する調査手法のことで、導入を検討している企業のご担当者もいらっしゃるかもしれません。
パルスサーベイは研修の効果測定手法としても活用ができます。特に効果的なのはマネジメント系の研修です。受講者(上司)のアクションが部下にどのような影響をもたらしているのか、研修前後の部下の回答を比較することでどのように受け止められているのかを把握することができます。
研修後一度だけではなく、短いスパンで確認することでその変遷が捉えやすくなるのがパルスサーベイのメリットです。測定する項目は、部下自身のワーク・エンゲージメントや上司からの評価に対する納得感、上司からのフィードバック、上司の態度などさまざまありますが、何を測定し何を定点観測するべきなのかは研修の計画時点で決めておくのが良いでしょう。
もちろん、パルスサーベイはメンバー層においても有効活用ができます。研修実施後、メンバー自身の行動、考え方がどのように変化したかを見ることができます。上司側と異なり、自己評価に過ぎませんが、結果の変遷を確認することで、自身の成長を振り返る機会となります。パルスサーベイが研修の効果を高めるツールとなりうるといえるでしょう。
パルスサーベイは、こうした研修の効果を高めるツールとしての活用だけでなく、組織や個人の問題を早期発見することにも活用できます。課題解決に向けたスピーディなアクションをもたらし、PDCAサイクルのチェックツールとして有用です。
パルスサーベイの活用方法はさまざまです。あなたの職場に合った活用方法を見つけてみてはいかがでしょうか。
組織課題の解決を促進するパルスサーベイ「アドバンテッジpdCa」