パワハラとモラハラは、どちらも人に対する迷惑行為でハラスメント(嫌がらせ)に当たります。名称や内容が似通っていますが、この2つの言葉が示す意味は厳密には異なります。今回はパワハラとモラハラの違いとともに、これらが起こりやすい環境や事前に防ぐための対策を紹介します。また、パワハラとモラハラの防止義務についても解説するので参考にしてください。
目次
パワハラとモラハラの違いとは
類似的な言葉であるパワハラとモラハラですが、実はモラハラは、パワハラ(パワーハラスメント)のように厚生労働省による定義はされていません。しかし近年、「職場モラハラ」という考えも広がってきています。そこでまずは、2つの言葉の意味を紹介します。
パワハラとは
パワハラ(正式名称:パワーハラスメント)は、職場において優越的な立場を利用し、部下などに対して業務上必要な範囲を超えた言動を行い、相手の労働環境に害を与えることです。具体的には以下のような内容があります。
<パワハラの具体例>
・「殴打・蹴り・物を投げつける」などといった物理的な攻撃
・「お前はダメな人間だ」などと人格を否定する発言
・個人の力量以上の業務を押し付ける
・力量があるのに過少な業務しかさせない など
また、パワハラは上司から部下だけではなく、部下から上司に対して起こりうる可能性もあります。例えば、別部署から異動してきたばかりの上司への攻撃など、組織の中で不利な立場や弱い立場にある人へ行われる場合もパワハラです。
厚生労働省では、主なパワハラを6種に分類し「パワハラ6類型」としてまとめているので、参考にしてみてください。
モラハラとは
モラハラ(正式名称:モラルハラスメント)は、優越関係のあるなしにかかわらず発生するもので、一般的に家庭内や恋人間で使われるケースが多く見られました。しかし、近年では職場におけるモラハラの考えも広がってきています。
モラハラは言葉や身振り、態度などにより相手に肉体的・精神的苦痛を与えることです。具体的には以下のような内容があります。
<モラハラの具体例>
・皆がいる前で過剰に叱責する
・本人に聞こえるように悪口を言う
・必要な連絡をしない
・仕事を与えない など
パワハラとモラハラの違い
モラハラとは精神的な嫌がらせや、相手の尊厳を傷つける発言や行動を指しますが、職場の優位性を利用したパワハラも、モラハラの一種であると言えます。なお、性的な嫌がらせであるセクハラや、妊娠や出産、育児休業にまつわる嫌がらせであるマタハラも、モラハラの一種です。
厚生労働省のパワハラの定義には、暴言・精神的な暴力など、モラハラにリンクする要素が含まれています。職場での精神的暴力は、日本ではモラハラではなくパワハラと呼ばれるのが一般的です。しかし、「これはパワハラ」「これはモラハラ」と区別することに意味はなく、これらの「ハラスメント」を職場で防止していくのが重要と言えます。
パワハラ・モラハラが起こりやすい職場環境
パワハラやモラハラが発生する職場にはいくつかの特徴があります。ここでは、パワハラ・モラハラが起こりやすい職場環境を解説します。
社内のコミュニケーションが少ない
従業員同士のコミュニケーションが少ない職場では、パワハラやモラハラが起こりやすい傾向にあります。コミュニケーションが十分でないため、相手のことを考えず行き過ぎた言動になってしまったり、投げかけられた言葉に対して、反応が過敏になったりすることが原因です。
本人はパワハラやモラハラをしているつもりはなく、相手のために良かれと思ってした言動でも、相手にとってネガティブなこととして受け止めてしまうケースもあります。
上下関係が厳しい
上下関係が厳しい職場は、パワハラが起こりやすいと言えます。上司と部下、先輩と後輩など立場の線引きはある程度必要ですが、必要以上に優位性が強くなるのは問題です。
また、上下関係が常に揺るがない環境では、上司が絶対的で部下はそれに従うものという図式が自然と成り立ちやすく、そこからパワハラにつながる可能性があります。上司に対して部下が常にイエスとなっている状況は注意が必要です。
失敗への許容度が低い
失敗が許されない職場は、些細な失敗でも必要以上に厳しい叱責をしたり、過剰なプレッシャーをかけたりすることがあります。これはそのままパワハラやモラハラに当たる可能性があると言えます。
「失敗できない」ことが従業員にとって大きなプレッシャーとなり、気持ちに余裕がなくなるためパワハラやモラハラにつながる言動に発展しやすいのです。
業務量が多い
業務量が多い職場は、定時までの間に業務が終わらず、残業が頻繁に発生します。そして長時間勤務で疲弊し、気持ちの余裕がなくなると他者に対しても配慮しにくくなってしまいます。
また、業務量が多いと休暇も取りづらくなりがちです。業務が多くて休暇を取ると処理が追いつかないことや、周りの人にも余裕がないため休暇時の分を頼みづらいことなどが原因です。
休暇が取れないと疲労やストレスを解消するタイミングがなく、気持ちが荒んでしまい、結果パワハラやモラハラにつながる可能性があります。適度な休暇は、心身の疲労回復やリフレッシュのために重要です。
パワハラ・モラハラを事前に防ぐために企業ができる対策
パワハラやモラハラは未然に防止することが大切です。それでは、パワハラとモラハラを事前に防ぐため企業がすべきことは何か、できる対策を具体的に見ていきます。
パワハラとモラハラに対する企業の措置を定め、周知する
まずは、パワハラやモラハラに対する企業の措置を定めることが大切です。パワハラやモラハラに対し、企業はこのような対処をすると明確に示しましょう。対処の内容はリーフレットにしたり、コーポレートサイトに掲載したりして、社内や社外に向け広く発信します。
また、就業規定などにパワハラやモラハラに関する措置を記載するのもおすすめです。このように措置を決めて広く知らせれば、パワハラやモラハラの抑止も期待できます。
パワハラとモラハラの相談窓口を設置する
パワハラやモラハラに悩んだとき、すぐに相談できる窓口を社内に設置することも重要です。設置する場合は、従業員が気軽に相談できるような窓口を意識しましょう。従業員が対応するなら、ハラスメントへの対応の知識や経験などが必要です。もし従業員だけで対応できそうにない場合は、産業医など専門家に依頼しケアを担当してもらうのもおすすめです。
管理職にパワハラ・モラハラ防止の教育を行う
パワハラやモラハラは管理職から部下に行われるパターンが多く見られます。特にパワハラは上の立場から下の立場に対し行われるものです。
管理職がパワハラやモラハラに対する正しい知識や理解を身に付け、リテラシーや防止の意識を高めることが大切です。パワハラやモラハラに関する研修など、管理職向けの教育を行いましょう。
サーベイを活用して従業員や組織の状態を可視化する
パワハラやモラハラなどハラスメントに関するサーベイを社内で行うと、組織の状態を把握でき、課題に気づけます。改善への取り組みをする際にもサーベイを活用すれば、従業員のエンゲージメントの変化を可視化でき、課題が解決傾向にあるかどうかを把握できるでしょう。
パワハラには防止義務がある
パワハラの防止は法律により、企業の義務として定められています。2020年6月1日施行の「改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」では、企業がハラスメント防止のための適切な措置をしていない場合、是正対象となる旨が記載されています。さらに2022年4月からはこれまで努力義務だった中小企業も対象となり、全面措置となりました。
また、労働契約法第5条の「職場環境配慮義務」により、企業は労働者が安心安全に働けるよう必要な配慮をするものと定められています。このように、現在は従業員を守るための法整備が進んでいる状況です。企業にも従業員のウェルビーイングを実現するための一環として、積極的な取り組みが求められています。
パワハラ・モラハラなどのハラスメントの防止策を講じよう
パワハラを始めとしたハラスメント行為は、発生してはならない迷惑行為です。企業は従業員が安心して働けるような環境を提供する義務があり、パワハラ・モラハラの発生を未然に防ぎ、発生した場合は速やかに適切な措置を取るなどの対処を行わなければなりません。ぜひこの記事を参考に、社内の体制を確認し、パワハラやモラハラが起こらないよう必要な対策を講じましょう。