産業医の面談を受ける女性

産業医面談は何を話す?産業医面談のメリットや話す内容を解説

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

健康診断やストレスチェックの実施後など、さまざまなタイミングで行われる産業医面談。従業員が健康的に働けるよう、フォローやサポートをする役割がありますが、実際の面談ではどのような内容について話すのでしょうか。本記事では、産業医面談の目的や実施内容、企業側が気をつけるべきポイントなどを解説します。従業員の健康と安心のため、産業医面談について理解を深めましょう。 

記事の監修者
柿沼 篤史社会保険労務士 (登録番号)第13230488号
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント マーケティング部
当社のマーケティング活動におけるデータ整備や分析業務に従事。社労士の資格を有しており、健康経営をはじめ当社の事業領域に関する知見をもとにアドバンテッジJOURNALの記事も監修している。

産業医面談とは

面談をしている風景

はじめに、産業医面談の役割や実施形式、産業医の義務について解説します。 

産業医面談とは

産業医面談とは、産業医と従業員が1対1で行う面談のことです。「従業員の健康状態を把握し、本人に指導すること」「従業員が抱える健康問題および働きやすい職場環境づくりに向けて、適切な対応が取れるよう医学的見地から企業に意見を述べること」が主な目的です。

産業医面談では、疾病の診断や治療は行いません。仕事に関する部分で、従業員本人と企業がどのように対応していくべきか、職場環境を理解した「医師」として指導します。

産業医面談の守秘義務と報告義務

産業医面談の内容は、面談記録や意見書などによって企業側にも共有されますが、話した内容のすべてが、上司や人事担当者など企業側に報告されるわけではありません。産業医面談を担当する産業医には、守秘義務(労働安全衛生法第105条)が課されており、面談で知り得た情報を漏らしてはならないと示されています。

一方で、産業医面談において「従業員が働く上で、健康や安全に深刻なリスクがある」と判断した際には、産業医に「報告義務」が発生します。従業員の健康を守るため、企業が適切な措置を取るよう中立の立場で情報共有が行われますが、この場合にも守秘義務が優先されるため、内容は業務に関連する範囲の情報に限定され、従業員本人の同意なく報告されることはありません。また企業側も、産業医に守秘義務を遵守させる責任を負います。

情報共有の範囲や例外となる事項については、あらかじめ産業医と話し合って決めておき、従業員にも周知しましょう。

産業医面談の参加は義務なのか

清潔感のある診察室

従業員には、産業医面談を必ず受けなければならないという義務はなく、あくまでも任意です。一方で、企業は産業員面談の実施義務(労働安全衛生法第66条の8)を負っています。産業医を選任して助言を求めること、および産業医面談の対象となった従業員に対し、面談を受けるよう案内しなければなりません。また、従業員から産業医面談を希望する申し出があった場合には、速やかに実施する必要があります。(労働安全衛生規則第52条の3及び16

ワンポイント
従業員本人が産業医面談を拒否した場合、強制はできません。しかし、従業員が面談を受けなかったことで適切な対応が取れず、健康状態が悪化すると、本人にも企業にも大きな損失が生じる可能性があるだけでなく、安全配慮義務を問われるおそれもあります。また、努力義務ではありますが、従業員には自己保健義務(労働安全衛生法第69条の2)があり、企業が提供する制度や仕組みを利用して、健康維持・増進に努めることが求められています。
心身の不調を未然に防ぐためには、セルフケアが最も基本的かつ重要です。健康経営のあり方を考える上でも特に意識したい取り組みといえます。業務命令として面談を受けさせることも不可能ではありませんが、「企業だけでなく、従業員の健康を守るための取り組みでもあること」「プライバシーに関わる情報は守られること」などを伝えて意味や目的を理解してもらい、企業からの一方的な取り組みにしないことも大切です。

産業医面談実施のメリット

緑の背景とプラスのアイコンを持つ人の手

産業医面談において、医師は第三者として客観的な立場からアドバイスを行います。産業医面談を実施する主なメリットは以下の通りです。

<産業医面談のメリット>

  • 従業員の健康増進・メンタルヘルスケア
  • 業務上必要な配慮・措置の判断
  • 職場環境改善に向けた取り組み

従業員の健康増進・メンタルヘルスケア

面談を通して、従業員は自分自身の不調や健康に関するリスクを適切に理解し、医師の助言によって改善に向けた行動を取れるようになります。休職・離職リスクの低下にもつながるでしょう。

業務上必要な配慮・措置の判断

心身の不調を抱える従業員に対し、企業としても何らかの対応が必要とみられる場合に、医学的見地から助言を得られます。企業が適切な措置を速やかにとることで、従業員の健康を守ることができます。

職場環境改善に向けた取り組みの推進

産業医から共有された内容をもとに、より働きやすい環境づくりを進めることができます。産業医面談は、実施のための準備や費用が必要です。また、忙しい従業員にとっては面談の時間が業務負担となる可能性もあります。

産業医面談で話す内容

説明をする医師の手元

産業医面談では対象となった従業員の状況に合わせて、悩みを聞いたり、アドバイスや指導をしたりします。産業医面談の主な目的・内容は以下の通りです。

  • 健康診断の結果について:健康診断結果の詳しい説明、生活状況や生活習慣、就業状況の聴取、改善指導など
  • 長時間労働について:疲労の蓄積状況、勤務状況の聴取、健康障害の発症を予防するためのアドバイス
  • ストレスチェックの結果について :仕事の状況、心身の不調の確認、ストレスへの対処法指導
  • メンタルヘルス不調について:心身状態、不調の原因
  • 休職または復職について:休職の原因、通院や服薬の状況、復職の意欲など

健康診断の結果について

【対象者:健康診断で異常所見があった従業員】

企業は健康診断を実施した後、異常の所見があった従業員について、3ヵ月以内にその者の就業内容に問題がないか医師による意見を受けなければなりません。(労働安全衛生規則第51条の2

産業医との面談では、主に以下のような内容について話し合います。

  • 健康診断結果の詳しい説明と健康状態の把握
  • 生活状況や生活習慣、就業状況の聴取・改善指導
  • 必要に応じた医療機関への受診勧奨
  • 就業上の措置を行う可能性がある旨、従業員の了承を得ること

面談後、産業医は従業員に就業上の制限を行う必要があるかを判断した上で、以下のような区分で企業側に意見を提言します。

  • 通常勤務:このまま通常勤務で良いもの
  • 就業制限:勤務に制限を加える必要があるもの
  • 要休業:休業が必要であるもの

医師からの提言を受けた企業は、状況を改善するために適切な措置を取る必要があります。

参考:厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針

長時間労働について

【対象者:長時間労働者(時間外・休日の労働時間が1ヵ月あたり80時間を超え、それにより疲労の蓄積が認められる従業員)で産業医面談の希望者】
※高度プロフェッショナル制度の適用者は、1週間あたり40時間を超えた時間について、月100時間超行った場合面談の対象となる

長時間労働は疲労が蓄積するため、脳や心臓疾患等の健康障害を発症するリスクが高いとされています。企業は、従業員から面談を希望する旨を伝えられたら、速やかに対応しましょう。

産業医との面談では、主に以下のような内容について話し合います。

  • 疲労の蓄積状況、心身の状態、ストレス
  • 勤務状況、業務の負担
  • 生活や家庭の状況
  • 健康障害の発症を予防するためのアドバイス

面談後、産業医は就業判定や必要な措置に関する意見書を作成し、企業は医師の意見を踏まえて必要であれば適切な措置を取らなければなりません。長時間労働者への面接指導についてより詳しく知りたい方は以下のリーフレットをチェックしてください。

参考:厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について

ストレスチェックの結果について

【対象者:ストレスチェックの結果で高ストレスと判定された者のうち希望者】

従業員50人以上の事業場では、年1回以上のストレスチェックの実施が労働安全衛生法により義務付けられています。その結果、高ストレス者と判定された従業員は、産業医面談(面接指導)の対象となります。企業は、本人からの申し出があった場合、おおむね1ヵ月以内に面接指導の場を設けなければなりません。

産業医面談では、主に以下のような内容について話し合います。

  • うつ症状など、ストレスに関連する心身の不調の有無
  • 残業時間などの勤務状況、業務の質や量、責任の程度
  • 上司や同僚との関係性、コミュニケーションの状況
  • 生活習慣、通院歴、治療中の疾患
  • ストレスへの対処方法、適切なセルフケアの指導

産業医は高ストレス者との面談で聴取した内容のうち緊急性があると判断した場合、適切な措置を実施するため必要な情報に限り、従業員の同意を得た上で「面接指導結果報告書及び事後措置に係る意見書」として企業に提供します。その際、産業医から企業側へ労働環境改善のアドバイスが行われます。企業は、労働時間の短縮や業務内容の見直しなど、高ストレス者のストレス軽減に努めることが重要です。

参考:厚生労働省「ストレスチェック制度 簡単! 導入マニュアル

メンタルヘルス不調について

【対象者:メンタルヘルス不調者】

法律上の実施義務はないものの、メンタルヘルスの不調を抱える従業員も産業医面談を受けることができます。メンタルヘルス不調の原因は、長時間労働だけではなく、職場内の人間関係などさまざまです。早期発見と適切なサポートにつなげられるという意味でも、産業医面談は有用と言えます。人事担当者は、対象者が相談しやすいような環境づくりを心がけることが重要です。

産業医面談では、主に以下のような内容について話し合います。

  • うつ症状、睡眠の問題など、心身の状態
  • メンタルヘルス不調の原因把握
  • 通院歴、服薬状況
  • 必要に応じて、医療機関への受診勧奨

休職または復職について

【対象者:休職または復職希望者】

休職を希望する従業員については、その必要性があるか、また職場復帰を目指す従業員については、復職の可否についてそれぞれ判断します。

産業医面談では、主に以下のような内容について話し合います。

  • 心身の状態
  • 通院・服薬の状況
  • 休職の原因
  • 主治医の診断書の確認
  • 休職中の過ごし方/職場復帰に向けた心構えのアドバイス
  • (復職)心身の回復度、現在の生活リズム、復職の意欲

産業医は、主治医の診断書をもとに意見書を作成し、企業へ提出します。休職者が復職を希望する際も、同様です。企業は、産業医の意見書をもとに、適切な就業上の措置を実施します。

産業医面談における人事担当者の対応ポイント 

従業員に研修をしている様子

最後に、従業員の不安を取り除き、安心して産業医面談を受けられるように人事担当者が気をつけるべき対応のポイントを解説します。

産業医面談の意義や役割を従業員に共有する

産業医面談で話す内容には、デリケートな悩みやプライベートに関することを含む場合があります。中には、「会社に内容をすべて知られてしまうのでは」「評価が下がってしまうのでは」と不安を抱き、面談を受けづらい、率直に話しづらいと感じる従業員がいることも考えられます。安心して面談を受けてもらうためにも、従業員に対し、産業医の存在や産業医面談の目的・役割を発信し、その意義を理解してもらうことが大切です。聴取された内容は本人が同意しない限り企業側へ共有されないなど、制度の詳細を周知する必要があります。

従業員のプライバシーに配慮する

メンタルヘルス不調者や高ストレス者などは、従業員が自身の状況を周囲に知られたくない場合もあります。そのため、産業医面談の対象者に通知する際は、封書やメールを活用したり、個人面談を設けたりといった配慮が大切です。

また、産業医と従業員が1対1で話せるよう、プライバシーが確保された面談環境を整備することが求められます。上司や人事担当者は原則として同席しない、個室や会議室などクローズドな場所で実施する、面談の実施に関わる情報を関係者以外に知られないようにするなどの対応も必要です。面談記録についても、施錠できるエリアで保管し、第三者が容易に閲覧できないよう管理を徹底しましょう。

業務内容の見直しなど適切な措置を検討する

面談をして終わりではなく、従業員の経過を見守るとともに、定期的に面談の機会を設けて継続的にフォローを行います。併せて、産業医の意見を聞き、場合によっては本人の労働時間短縮や業務内容の見直しなど適切な措置を検討しましょう。過重労働の場合は、衛生委員会などで内容の調査や審議が必要になることもあります。

産業医と連携し職場改善に取り組む

従業員の心身の健康管理をサポートする産業医と日頃からコミュニケーションを取り、企業としてどのような組織を目指しているかなどを共有し、同じベクトルを持っておくことが重要です。産業医としっかり連携して職場改善フレームなどを構築しましょう。

社外相談窓口の設置を検討する

さまざまな事情を抱え「社内の人には誰にも知られたくない」と感じる従業員もおり、産業医面談を周知しても受けない場合があります。そういったケースも考慮し、社外の相談窓口の設置を検討しましょう。

カウンセリングや相談窓口はすべての従業員が利用できるようにします。心身の不調だけでなく、ハラスメント問題やプライベートの悩みなど、幅広い相談に対応できることが望ましいです。カウンセリングの形態は対面に限らず、オンライン、電話、メールなどさまざまな方法があります。

産業医面談を活用し、ウェルビーイングの実現につなげよう

笑顔の女性

企業にとって、従業員が健康でいきいきと働けることはとても重要です。産業医面談について理解し適切に活用することで、従業員の心身の不調予防や早期発見につながり、ウェルビーイングの向上も期待できます。人事担当者は、産業医面談の内容やその後のフォローについて理解を深め、従業員が安心して面談を受けられるように適切な情報発信を行うことが大切です。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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