ウェルビーイング経営とは、従業員が働きがいをもっていきいきと働く環境を整えた結果、組織の生産性やエンゲージメント向上にもつながる経営方針のことです。 従業員の健康管理を目的とした「健康経営」に留まらないウェルビーイング経営のメリットや、具体的な取り組み方を解説します。近年シフトしつつある注目の概念をチェックしましょう。
目次
ウェルビーイング経営とは
従業員が心身ともに幸福な状態をつくり、企業へのエンゲージメントを高めるウェルビーイング経営は、近年世界的に注目されている手法です。そこでまずは、ウェルビーイング経営の意味や、注目されている理由について解説します。
ウェルビーイング経営の意味
ウェルビーイング経営とは、従業員一人ひとりの仕事への意欲や、組織へのエンゲージメントを高めるための手法で、企業に関係する全員の幸せを目的とした経営を意味します。
従業員の健康管理や改善を通じて、企業の生産性の向上を図る「健康経営」が浸透しつつありますが、近年では「健康」に留まらず、従業員のエンゲージメント向上や従業員の幸福度の向上なども含めた「ウェルビーイング経営」の概念にシフトしてきています。
ウェルビーイング経営が注目されている理由
企業が成長を維持するためには、人材の確保が不可欠です。しかし近い将来、日本では人口減少や高齢化による人手不足が避けられないと考えられています。
さらに、2020年以降のコロナ禍によりテレワークが普及したことや、多様な働き方を望む声、価値観の変化など、ダイバーシティの実現に向けて、従業員の幸福や働きやすい環境整備の必要性も高まりました。
また、国連で採択されたSDGsの8番目の目標には「働きがいも、経済成長も」と言及されており、世界的にもウェルビーイング経営が推進されています。日本でも厚生労働省の「雇用政策研究会報告書」において、就業面でのウェルビーイング向上の重要性について触れられていることから、ウェルビーング経営は今後より求められる施策になるでしょう。
ウェルビーイング経営に取り組むメリット
企業がウェルビーイング経営に取り組むことで、従業員のエンゲージメントが上がり、結果的に企業へも利益をもたらします。ここでは、ウェルビーイング経営に取り組むメリットを3つ紹介します。
従業員のエンゲージメントアップにつながる
職場における良好な人間関係や、働きやすい環境を整えることで、ストレスが軽減され従業員の満足度が高まります。 それにより、組織へのエンゲージメントが高まり、仕事に対するモチベーションやパフォーマンスのアップにもつながります。
企業の生産性向上につながる
ウェルビーイング経営により、従業員一人ひとりの能力が発揮しやすくなれば、企業の生産性の向上にもつながります。実際、主観的な幸福度が高い人は低い人と比べて、生産性の向上や売上に貢献し、創造性も高い傾向が見られるなど、企業経営の重要指標と強い相関があるという指摘もあります。ウェルビーイング経営の推進が、企業の生産性と企業価値の向上につながると言えるでしょう。
離職率の低下・優秀な人材確保が期待できる
企業がウェルビーイング経営を推進することにより、職場の人間関係や労働環境が改善すれば、離職率が低下し、優秀な人材の確保にもつながります。職場の人間関係や、労働時間を理由に離職する人は少なくありません。人口減少に伴い継続的な労働人口の減少も見込まれる中、優秀な人材確保は企業にとっても重要です。
ウェルビーイング経営を実現するための5つの要素
ウェルビーイング経営を実現させるヒントになるのが、アメリカの心理学研究者マーティン・セリグマン博士が提唱した「PERMAモデル」です。5つの構成要素を高めることで、持続的な幸福が可能になるとされています。以下のようにPERMAモデルを従業員に当てはめて考えてみましょう。
PERMAモデルの5要素 | 従業員の幸福な状態 |
Positive Emotion(ポジティブな感情) | 前向きでモチベーションが高い状態 |
Engagement(エンゲージメント) | コミュニティへの高い帰属意識と積極的な関わり合い |
Relation(良好な人間関係) | 組織内で協力し合える良好な人間関係 |
Meaning(人生の意味・意義) | やりがいや働く意義、目標の有無 |
Accomplishment(達成感) | 仕事への達成感や金銭的報酬の安定 |
例えば、報酬が高くても良好な人間関係がなければウェルビーイングの状態が下がります。 一方、やりがいのある仕事でも報酬が見合っていなければ、ウェルビーイングは低い状態です。 このように、PERMAモデルを従業員の幸福の状態に当てはめて考え企業が取り組むことで、ウェルビーイング経営の実現につながるでしょう。
ウェルビーイング経営への取り組み方
ここでは、心身の健康や労働環境、福利厚生、そしてコミュニケーションといった面から、ウェルビーイング経営に向けた取り組み方の例を紹介します。
<ウェルビーイング経営への取り組み方>
- セルフチェック・セルフケアのサポートをする
- 労働環境を改善する
- コミュニケーションを活性化させる
- 福利厚生を充実させる
セルフチェック・セルフケアのサポートをする
企業側は、従業員が自ら心身の健康状態を把握して改善できるように、セルフチェックやセルフケアのサポートをしましょう 。身体面のサポートとしては、定期検診を受けやすい環境整備や、がん検診の費用負担などが挙げられます。 メンタル面では、ストレスチェックや産業医との個別面談を実施することで、メンタルヘルス不調者の早期発見とケアを行うことが可能です。
労働環境を改善する
長時間労働や休日出勤といった従業員に負担がかかるような労働環境であれば見直しを行います。労働時間の記録や社内アンケートにより、長時間労働を把握して必要ならば対策を講じましょう。
<労働環境の改善例>
- 有給での休暇申請をしやすい職場の雰囲気作り
- テレワーク環境を整え、効率良く働ける環境を作る
- 従業員の生活リズムに合わせて勤務できるフレックス制度を導入する など
このように、自社の状況や業務内容に合わせて、従業員が働きやすい体制を検討することがポイントです。心身の健康のサポートだけでなく、労働環境の改善がポジティブな感情を生み、ウェルビーイングの向上へつながります。
コミュニケーションを活性化させる
コミュニケーションを活性化させると、良好な人間関係を構築できる他、生産性の向上、ストレスの軽減にもつながります。例えば従業員用のリフレッシュルームを用意したり、気軽にコミュニケーションが取れる社内専用のSNSやチャットツールを導入したりするのも有効です。従業員同士が交流を深めることで、人間関係が良好になるだけでなく組織へのエンゲージメントも向上するでしょう。
福利厚生を充実させる
福利厚生を充実させることで、仕事と生活のバランスが取れて幸福感を感じ、ウェルビーイングの向上につながります。具体的には、以下のような例が挙げられます。
<具体例>
- お弁当の宅配サービスや無料で食事ができるチケットサービスなどの食費補助
- 介護や育児と仕事との両立をサポートする制度や補助金の導入
- フィットネスクラブや宿泊施設の割引チケットを用意する
- 資格取得の支援を行うこと など
また、これらの福利厚生があっても、その種類や存在を従業員が把握しておらず、活用されてないケースも考えられます。社内報や社内SNSなどを用いながら、従業員に福利厚生に関する情報などを発信し、積極的に利用してもらえるようにすることも大切 です。
ウェルビーイング経営を成功に導くためのポイント
ウェルビーイング経営で成果を出すには、組織全体で取り組み、データを可視化して活かすことが重要です。最後に、ウェルビーイング経営を成功に導くためのポイントを紹介します。
経営層・マネジメント層が主体的に取り組む
ウェルビーイング経営は、経営層やマネジメント層が主体となって取り組む施策です。 経営戦略の中でウェルビーイングの優先度が低いと、その効果は生まれにくいものでしょう。先に述べたようにウェルビーイング経営には、生産性の向上や優秀な人材確保といった多くの面でメリットがあります。メンタルヘルスや健康経営などウェルビーイングに関する研修を実施して、組織全体の意識を高めましょう。
ウェルビーイング経営の成果を可視化する
ウェルビーイング経営の成果を可視化することも、成功へ導くポイントです。 定期的にアンケートやサーベイを実施し、従業員の状態をデータにして可視化します。それにより、従業員の健康状態や心理状況、会社へのエンゲージメント度合いが把握でき、改善すべき課題もわかりやすくなります。
また、サーベイ実施後には、従業員にフィードバックやフォローを行うことも大切です。 従業員が自身の状態を把握できるように情報開示したり、1on1などにより抱えている不安・不満の解消に向けてどのようにアクションするべきか定期的に話し合ったりしましょう。このように従業員自身に気づきを与え、意識改革や行動変容を促すサポートも重要です。
企業と従業員の双方がデータを分析してPDCAを回すことが重要で、それがウェルビーイング経営の成功のカギとなります。
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ウェルビーイング経営に取り組み組織全体の発展につなげよう
ウェルビーイング経営は、従業員が身体・精神・社会面で満たされるよう環境を整え、仕事への意欲や組織へのエンゲージメントを高めるために行います。ウェルビーイング経営を取り入れることで従業員の幸福な状態が維持できると、結果的に企業の生産性や企業価値の向上、離職率の低下や人材確保といったメリットも期待できます。アンケートやサーベイなども活用しながらウェルビーイング経営を推進し、組織全体の発展につなげましょう。