プレゼンティーイズムとは、欠勤には至っていないものの心身の不調により十分なパフォーマンスが発揮できず、業務遂行能力や生産性が落ちる状態のことです。この状態を放置すれば、企業にとって大きな損失につながる場合があります。そこで、本記事ではプレゼンティーイズムの意味や、測定方法、改善するメリットとその方法を解説します。
目次
プレゼンティーイズムとは?
プレゼンティーイズムの定義や、プレゼンティーイズムとともによく使われる言葉のアブセンティーイズムとの違いを解説します。
プレゼンティーイズムの定義
プレゼンティーイズムとは、従業員が心身の不調を抱えながら仕事をしている状態を指す言葉です。心身の不調には、例えば頭痛や胃痛、花粉症や睡眠不足、メンタルヘルスの不調などが含まれます。そのような状態で業務を行えば、効率悪化による生産性の低下や、ケアレスミスによるトラブルを招く恐れがあります。
また、不安定な身体状態で勤務を続けていると、さらに状態が悪化して従業員の健康状態を大きく損なう危険性があるため、早期の改善が重要です。
プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの違い
アブセンティーイズムとは、体調不良により欠勤や遅刻、早退、長期休職で仕事が行えない状態を指します。アブセンティーイズムにより欠員が出ると、企業全体のパフォーマンスが低下する可能性があります。
プレゼンティーイズムに影響する主な原因
従業員のプレゼンティーイズムに影響する主な原因はさまざまあります。詳しく見ていきましょう。
参考:株式会社日本総合研究所「働く世代が抱える見過ごされている健康課題への対応の必要性」
①片頭痛
日本では約10人に1人が偏頭痛に悩まされています。片頭痛を抱える人の半数以上が、生産性が50%低下したというデータもあり、プレゼンティーイズムに大きく影響を与える症状の1つです。
②月経不順・PMS
女性従業員の場合、月経不調やPMS(月経前症候群)により体調不良を起こす人は少なくありません。これらに関連する平均欠勤日数は年間1.3日で、プレゼンティーイズムにより年間平均8.9日の総生産性損失をもたらすと言われています。
③メンタル不調
仕事の疲労や私生活を含む人間関係のトラブル、生活習慣の乱れ、体調不良によって、うつ病やメンタル不調に陥りストレスを抱える人もいます。さらに、ストレスの蓄積により睡眠不足や腹痛が生じるケースもあります。このようなことから、メンタル不調もプレゼンティーイズムに陥るきっかけになると言えるでしょう。
④腹痛、眼精疲労などその他の不調
その他、下記のような症状・疾患もプレゼンティーイズムの原因になり得ます。
<プレゼンティーイズムの原因>
- 胃腸の不調
- 呼吸の不調
- 更年期障害
- 肩こり
- 関節痛
- 腰痛
- 眼精疲労
- 鼻炎 など
プレゼンティーイズムによる企業の損失
プレゼンティーイズムの状態が継続することは、効率が悪いまま業務を行うということになるため、企業全体にも影響を及ぼすことが示唆されています。さらに症状が悪化し従業員に通院や入院が生じれば、企業の保険費の負担が増える可能性も考えられます。
厚労省が発表した資料を見てみましょう。米国の金融関連企業の事例によると、企業の健康関連コストの内訳として最大だったのがプレゼンティーイズムによるものでした。その割合は半数以上を占め、医療費よりもはるかに上回っていることがわかります。
出典:厚生労働省保険局「コラボヘルスガイドライン」
1人当たりのプレゼンティーイズム損失額は約60万円にのぼるとの試算もあります。
最終的に従業員の退職となると、貴重な人材の損失、周囲の仕事量の増加だけでなく、新たな採用・人材育成に関わるコストが発生することも念頭に置いておく必要があるでしょう。
プレゼンティーイズムを改善することによる企業側のメリット
従業員のプレゼンティーイズムを改善すると、企業全体の生産性が向上したり、従業員の退職率の低下につなげたりできます。プレゼンティーイズムを改善することによる企業側のメリットを紹介します。
メリット①組織の活性化・生産性の向上
従業員のプレゼンティーイズムを改善し、より良い状態を維持できれば、企業全体の生産性の向上につながり収益増も見込めます。
先述のようにプレゼンティーイズムを抱えたままでの勤務は、ケアレスミスが増えやすく効率も良くありません。体調が良好な状態で業務を行えるようになれば、集中力が上がりパフォーマンスが向上しやすいです。余計なストレスも減り、従業員のエンプロイーエクスペリエンスやエンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
エンプロイーエクスペリエンスやエンゲージメントについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
メリット②人材定着率の向上
早期の段階でプレゼンティーイズムに気づき適切に対処することで、従業員の離職を防いで人材の定着率を上げられます。
プレゼンティーイズムの状態は、陥っている本人も気づいていないケースが多くあります。プレゼンティーイズムの状態を“見える化”することで、早めにアプローチができるでしょう。プレゼンティーイズムの測定方法は次章で詳しく解説します。
メリット③健康経営の実現につながる
従業員の健康管理の一環としてプレゼンティーイズムを測定し、体調不良やメンタルヘルス不調の兆候を早期に発見できれば、健康経営の実現につながるでしょう。
プレゼンティーイズムの測定方法
プレゼンティーイズムを測定する方法はいくつかあります。主な測定方法を紹介するので、自社に合うものをチェックしましょう。
測定方法①WHO-HPQ
WHO(世界保健機関)が用意している測定方法が「WHO-HPQ」です。「WHO 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙」を用いて、3つの設問で測定します。過去7日間の労働時間などが質問項目にあり、過去4週間の自身のパフォーマンスを10段階で評価します。
結果は、絶対的プレゼンティーイズムと相対的プレゼンティーイズムの2つの方法で得点を表示する形式です。プレゼンティーイズムと生産性を測定し、それをコスト換算したい場合は、国民性を考慮して相対的プレゼンティーイズムの結果を用いると良いでしょう。健康関連総コストの割合から見ても妥当であると考えられます。
<メリット>
- 指標自体の十分な妥当性が担保されている
- 科学的根拠があり、生産性自体も算出が可能
- 設問から得られたスコアをもとに、損失の金銭換算が可能 など
<デメリット>
- 設問が少しわかりにくい
測定方法②東大1項目版
東京大学WGが作成した生産性の損失割合を測定する方法が「東大1項目版」です。プレゼンティーイズムの意味をそのまま反映し、「ケガや病気がないときに発揮できる仕事の出来を100%とした場合、過去4週間の仕事内容を自己評価してください」という1項目に、0〜100%で回答します。
<メリット>
- 「WHO-HPQ」を簡略化したもので、たった1問で 生産性損失割合が測定できる
<デメリット>
- 指標自体の十分な妥当性が担保されていない
- 生産性は算出できない
測定方法③WLQ
タフツ大学医学部作成「WLQ(Work Limitations Questionnaire」の日本語版です。「時間管理:5問」「身体活動:6問」「集中力・対人関係:9問」「仕事の結果:5問」の計25問の設問から、パフォーマンス低下の原因やその特徴などを把握します。体調不良により仕事を行えなかった割合や頻度を「常に支障があった」から「全く支障がなかった」の5段階、もしくは「私の仕事にあてはまらない」から回答します。
<メリット>
- 4つの下位尺度により、パフォーマンス低下の特徴の 把握や原因の追究が可能
- 指標に十分な信頼性と妥当性がある
<デメリット>
- 有償である
- 設問数が25問と多い
測定方法④WFun
「WFun」は産業医科大学が開発したプレゼンティーイズムの測定方法です。7つの設問により、体調不調などによる労働機能障害の程度を測定します。結果の点数が高いほど労働機能障害の程度が大きくなり、合計得点7~35点中21点以上で中程度以上の労働機能障害があるとされています。
<メリット>
- 日本で開発されたため設問がわかりやすい
- 性、年齢、職種などの影響を受けない測定方法であるため、年齢構成や職種にかかわらず部署間・会社間の比較が可能
<デメリット>
- 有償である
- 効果検証を行う際は、労働機能障害を経験している人のみを抽出する必要がある
- 生産性は測定できない
測定方法⑤QQmethod
「QQmethod」では、最初に健康面で何かしらの症状がないか確認します。「症状がある」と回答した場合のみ、「仕事に最も影響をもたらしている健康問題」「過去3ヵ月で症状が出た日数」「症状がないときと比較した場合の仕事量(10段階評価)」「症状がないときと比較した場合の仕事の質(10段階評価)」の4項目に答えます。
<メリット>
- 健康に問題のある人のプレゼンティーイズムの程度を測定できる
<デメリット>
- 健康に問題のない人はプレゼンティーイズムはなしと考える
- エビデンスや活用事例が少ない
従業員のプレゼンティーイズム改善方法
従業員のプレゼンティーイズムを改善するには、企業側の健康経営への取り組みも必要です。従業員のプレゼンティーイズムを改善する方法を紹介します。
健康管理やストレスチェック、サーベイを定期的に行う
定期的な健康診断だけでなく、睡眠管理や健康管理プログラムを活用するなどして、従業員の健康状態を適切に管理しましょう。
なお、従業員が50人以上いる事業場には、年1回のストレスチェック実施が義務付けられています。適切に実施すれば従業員のメンタルヘルス不調の早期発見につながります。結果に応じて組織の改善も検討するとより効果的です。
ストレスチェックについては、以下の記事で詳しく解説しています。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、ストレスチェックの結果や、生活習慣・睡眠データなどとプレゼンティーイズムのかけあわせによるデータ分析・活用を行える「アドバンテッジウェルビーイングDXP」を提供しています。
定期的に同じ項目でサーベイ(アンケート)を取るのも1つの方法です。サーベイを行うことで、従業員の変化を捉えやすくなります。
勤務時間に体を動かす仕組みを取り入れる
運動不足が原因で、疲労やストレスを感じやすくなる場合もあります。例えばデスクワークや立ち仕事で長時間同じ姿勢が続くと、筋肉が固まって血行が悪くなり、肩こりや足腰の痛みにつながります。
これらを防ぐためには、ラジオ体操など軽く体を動かす時間を設け、従業員が心身をリフレッシュできる仕組みを取り入れると良いでしょう。運動サークルの運営や、スポーツイベントの実施、スポーツクラブへの補助金・福利厚生整備などに取り汲んでいる企業もあります。
従業員が健康相談をしやすい環境をつくる
同僚や上司、部下に自身の体調について気軽に相談できる環境をつくることも大切です。日頃からコミュニケーションをとり、お互いを理解することで小さな変化をキャッチでき、プレゼンティーイズムに陥るのを防げます。
例えば、1on1ミーティングや、普段から雑談できるような場を設けるのがおすすめです。1on1ミーティングとは、15分ほどの短時間のミーティングを週1や月1の短期間で行うものです。人事評価や目標設定の面談とは異なり、部下の現状を聞き出すのが目的であるため、プレゼンティーイズムの予防・改善に役立ちます。
また休めない多くの人は、周りに迷惑をかけてしまうことへの恐れから休まず無理をしてしまう人もいます。業務をカバーしあえる複数名体制の構築や、情報共有の仕組みづくり、「休んでください」などの声かけを実施し、休めない状況や雰囲気をつくらないよう意識するのも大事です。
日常的に健康相談ができるような場を社内相談窓口を設ける他、社内では言い出しにくいことを気軽に相談できる社外の専用相談窓口を置く方法もあります。
厚生労働省認定サービス「アドバンテッジ タフネス カウンセリング」は、会社を通さず、心理専門家に24時間相談できる窓口を提供しています。電話やメール、SNS(LINE)などさまざまな形で気軽に相談可能です。
企業全体で従業員のプレゼンティーイズム改善に取り組もう
従業員のプレゼンティーイズムは、チームや企業にとって生産性の低下を招く可能性があります。そのため、企業は従業員がプレゼンティーイズムに陥らないような対策をする必要があります。また、従業員本人が体調不良に気づいていないケースもあるため、プレゼンティーイズムの測定やサーベイ、1on1ミーティングなどを実施して、できるだけ早く従業員のプレゼンティーイズムの状態を把握できるようにしましょう。