リテンションは「維持、保持」という意味を持ちますが、人事領域においては「人材の維持・確保」の趣旨で使われ、従業員の「離退職の引き止め」施策のことを指します。リテンションの意味やその重要性、離職防止に有効なリテンション施策について解説します。
目次
リテンションの意味とは
まずはリテンションという言葉が持つ意味から説明します。この用語は主に人事とマーケティングの2つの領域で使用されます。
人事領域における意味
人事領域におけるリテンションは、人材流出を防ぐための施策を意味します。優秀な人材が自社から他社に流れていかないよう、給与・福利厚生・社内環境といったさまざまな観点から働きやすい職場を整え、離職防止につなげるものです。
マーケティング領域における意味
マーケティング領域におけるリテンションは、既存の顧客との関係性を維持するために行う活動を意味します。DM・SNS・メルマガなどを利用しながら継続利用を促すように、顧客離れを防ぐために働きかけるものです。
今回は、人事領域におけるリテンションに焦点をあてていきます。
リテンションが注目されている背景
リテンションが注目され始めるようになったきっかけは、次のような背景があります。リテンションは社会的な課題や企業の利益に大きく絡む施策と言えるでしょう。
労働人口の減少や人材不足
現在の日本では少子高齢化が進んでおり、それに伴い労働人口も減少の一途をたどっています。労働人口自体が減っているため、企業においても人材不足に悩むケースが少なくありません。
人材確保が難しい状況のなか、従業員の離職が増えるとさらに人材不足は深刻化します。このような事情によって、人材流出を防ぐリテンションに注目が集まっているのです。
人材流出による人的資本の損失
人材が流出することにより発生する問題は、単純に労働力の不足だけではありません。自社に勤務する従業員は、業務を遂行していくなかで自社が持つ事業のノウハウなどを身に付けていきます。また人的資本経営が重要視される昨今、多くの企業が研修やリスキルプログラムといった従業員への投資を行っています。
人材が他社に流れてしまえば、自社が培ってきたノウハウやこれまで投資してきた資本が外部に流出するでしょう。単なる人材の減少だけではなく、人的資本・知的資本といった企業資本の損失にもつながります。さらに離職が増えれば、新たな人材の採用コストや教育コストもかかることにも。このように企業の利益も損失を受ける可能性があるため、リテンションに力を入れる企業が増えています。
リテンションを取り入れるメリット
リテンションには、企業にとってプラスになる部分が多くあります。企業が取り入れることで得られる主なメリットは、次のようなものです。
人脈やノウハウの流出を防げる
リテンションによって、人材の流出を防げることは大きなメリットです。前の段落でも述べた通り、従業員の離職は労働力・人脈・ノウハウなど、さまざまな人的資本の損失につながります。リテンションによって、従業員に自社で働くことが有益だと感じてもらえれば、離職率は下がり、優秀な人材をとどめておけるでしょう。
採用や育成にかかるコストの削減
リテンションを取り入れれば、従業員の採用や育成にかかるコストを抑えられます。離職率が高いと、不足した人員を補うために採用活動を頻繁に行わなければならないので、採用活動のコストが増えます。また採用した従業員を、自社の戦力として育成するためのコストもかかるでしょう。
リテンションを実施することで従業員が定着すれば、採用・育成の回数も減るため、結果的にコストの削減につながります。そのため採用や育成に関するコストの無駄が生じず、かつ離職者にかかっていたコスト損失額も削減可能になり、結果的に従業員投資の最適化につながります。
従業員のエンゲージメント向上
リテンションには、従業員のエンゲージメントを高める効果も期待できるでしょう。リテンションとは、従業員が自社で働きたいと思えるような職場づくりを行うための施策でもあります。成功すれば、従業員の職場に対する満足度が上がるため、エンゲージメントの向上も期待できます。
リテンションを強化するための3つの施策と具体例
リテンションを強化するために、用いられる3つの施策があります。その施策を実際に取り入れた企業の具体例を見ていきましょう。
心理的安全性の確認
従業員が心理的安全性を確保できる職場かどうかは、離職防止につながります。社内の風土・雰囲気を見直し改善することによって従業員のウェルビーイング実現につながり、安心して働ける環境を叶えられるでしょう。例えば次のような施策が挙げられます。
- 新人が現場の先輩に気軽に相談しやすいような雰囲気づくりを行う
- 従業員が新しい企画や事業を提案しやすいような機会・環境を整える
- 1on1ミーティングを取り入れる
労働環境の整備・改善
労働環境の整備や改善も、リテンション強化の施策の1つとして挙げられます。従業員にとって働きやすい職場であるかどうかは、従業員の労働意欲に大きく影響します。具体的な施策例は次のようなものです。
- オフィス内の仕切りを減らし、コミュニケーションを取りやすい環境を整備する
- 従業員の勤怠状況や言動の変化に注視するなど、離職の可能性が高い従業員を把握し、個別にアプローチを行う
- 部署異動しやすい環境をつくり、従業員のチャレンジをサポートする
- リモートワークや社外のレンタルオフィス環境の提供 など
報酬や福利厚生の見直し
リテンションの施策として、報酬や福利厚生の見直しなどを行う企業もあります。これらは従業員が働くモチベーションにダイレクトに関わるため、力を入れる企業も多く見られます。具体的な施策例は次の通りです。
- 一定期間、企業に在籍することで特別なボーナスを支給する
- 社内で部活動を促進し補助を支給する
- スキルアップのための活動(資格取得など)に補助を支給する
従業員の離職リスクを把握する方法
最後に従業員の離職リスクを把握する方法を紹介します。離職する可能性が高い従業員を早期に確認できれば、効果的なフォローも可能です。
パルスサーベイの結果を分析する
従業員の離職リスクを把握するためには、パルスサーベイの結果の分析が必要です。パルスサーベイの結果をよく分析することで、組織単位で離職の可能性があるチームを把握できます。
該当する組織内で1on1などを行い、各従業員の状態や離職リスクを把握、また各従業員のフェーズに合わせた離職防止策を検討すると良いでしょう。
従業員の変化に注視する
普段、人事よりも近くにいる管理職が、部下の変化に注視して早期に対応することも重要です。従業員に以前と異なる様子が見られる場合は、気を付けなければなりません。例えば、以下のような場合などが当てはまります。
<注意したい部下の変化>
- 挨拶をしなくなる
- 口数が減る
- ネガティブな発言が多くなる
- 表情が暗い
- 1人での行動が多くなる など
従業員の変化は、メンタルの悪化や意欲の低下などのサインである可能性もあります。1on1ミーティングで状況を確認してケアをするなど、見逃さずに対応することが大切です。
勤怠状況やメンタルヘルスの状態を確認する
勤怠やメンタルヘルスなどから、従業員の状態を把握することも可能です。例えば、勤怠状況について残業が多い・残業が慢性的に続いているなどの従業員は注意が必要。またストレスチェックなどで、高ストレスが認められた従業員も離職につながる可能性があります。
産業医との産業保険体制の構築や充実を行い、産業医と連携しながらストレスチェックの活用化を図ることや、このようなデータをもとにフォローやサポートにつなげることが大切です。
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リテンションの実施で離職を防ぎ、人材の確保につなげよう
リテンションに取り組むことは、企業にとっても従業員にとっても利点があります。従業員のエンゲージメントを向上できるような職場づくりを目指し、施策や対策を行うと良いでしょう。自社の離職率や離職の原因、従業員の離職リスクなどを把握した上で、どのような施策が効果的なのかを検討してみてください。