従業員などの健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践する健康経営。健康に関する従業員への投資を行うことによって、従業員が健康でいきいきと働けるだけでなく、生産性の向上等によって企業価値自体を高めることにつながります。
本記事では、健康経営の推進と実践に欠かせない健康投資管理会計の作り方について解説します。自社の状況に合わせた健康投資管理会計を作成し、健康経営を全社的な取り組みとして進めましょう。
目次
健康投資管理会計(健康経営戦略と戦略マップ)とは何か
健康経営を実践するには「健康投資管理会計」について基本的なポイントを押さえておく必要があります。どのような点に注目すべきかについて解説します。
健康投資管理会計とは
健康投資管理会計とは、従業員の健康増進を図ることを目的として行う活動について、費用対効果を認識して客観的に測定し、見える化するための仕組みを指します。健康投資を効果的かつ効率的に行うことを目的としており、「健康投資管理会計ガイドライン」に沿って実行されます。
健康投資管理会計ガイドラインの役割
「健康投資管理会計ガイドライン」とは、経済産業省が策定した健康投資に関する基本的な指針です。健康投資管理会計では健康投資管理会計ガイドラインなどの指針が使われるケースが多く、健康経営に取り組んでいる企業が経営判断や外部への投資などについて適切な評価方法に沿って効果分析を行うときに用いられます。
また健康投資管理会計には、「内部機能」と「外部機能」という2つの役割があります。それぞれ詳しく解説します。
内部機能
内部機能とは、企業が経営課題の解決や経営目標の達成といった目的の一環として、従業員の健康維持・増進を図るための費用管理や効果分析を行うために適切な形で経営判断やPDCAサイクルを回すための機能です。
PDCAサイクルをうまく回すには、KPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせませんが、健康投資管理会計では単に数値を入力するだけでなく、健康経営戦略マップで健康投資や健康投資効果を設定して分析を行うことを推奨しています。
外部機能
一方外部機能とは、健康投資やその効果、PDCAサイクルを回した結果などを外部に対して開示する機能を指します。従業員等、取引先、顧客、投資家、地域社会等に対して、適切に活動していることを伝えるのが重要です。
具体的には、資本市場における企業と投資家の対話手段として活用したり、労働市場において従業員の健康維持・増進に積極的に取り組む姿勢をアピールしたりします。
健康投資管理会計を構成する5つの要素
健康投資管理会計は、健康投資・健康投資効果・健康資源・企業価値・社会的価値の5つの要素から構成されます。それぞれのポイントについて詳しく解説します。
健康投資
「健康投資」とは、健康経営を推進するために行われた従業員の健康維持や増進に使われる費用です。具体的には、健康器具の購入やメンタルヘルス講習会を開催するための費用などが挙げられます。
また従業員の健康意識を高めるために、マネジメント層が健康についての知識を学んだり、評価方法を見直したりするときに発生するコストも健康投資に含まれます。
健康投資効果
「健康投資効果」とは、健康投資を行った結果のうち短期的なものを指します。さまざまな健康投資施策の取り組み状況や従業員の意識・行動の変化などを測定し、評価します。
健康投資の最終的な目標を達成するためには、定期的な分析を行って必要に応じて改善することが求められます。健康投資管理会計ガイドラインでは、健康投資施策の効果に関する指標として国内外の臨床医学、公衆衛生学、医療・公衆衛生行政において以下の4種類の指標が用いられています。
① 自己報告による健康・行動指標(主観的健康度、睡眠の質、食事選択 等)
② 医学的健康指標(体重、血圧、血糖値 等)
③ 医療費・薬剤費(通院医療費、入院医療費、薬剤費 等)
④ 雇用指標(傷病休業日数、在職期間、仕事のパフォーマンス 等)
健康投資管理会計ガイドラインでは、健康投資施策の管理を助ける目的で、上記の指標に加えてさらに次の3つの指標を用います。
- 健康投資施策の取組状況に関する指標
- 従業員などの意識変容・行動変容に関する指標
- 健康関連の最終的な目標指標
「健康投資施策の取組状況に関する指標」は、参加者数・参加率・満足度・認知度などの観点から評価する指標です。また「従業員などの意識変容・行動変容に関する指標」は、理解度・運動の継続率・受診率・有給取得日数などの要素から評価を行います。
そして「健康関連の最終的な目標指標」では、身体的指標(血圧・肥満等)・心理的指標(生活満足度・ストレス反応等)・就業者関係指標(離職率等)などによって評価します。
一般企業が健康経営を進める上では、この3つの指標に分類して、健康投資管理会計を作成することを推奨しています。
健康資源
「健康資源」とは、健康投資の結果や健康投資効果の蓄積から中長期的に得られる資源を意味します。他の健康投資や将来の健康投資に、直接的または間接的に活用されて投資対効果を改善する役割を果たしています。つまり、健康資源は健康投資に対する取り組みをより効果的に行うために活用されている点を押さえておきましょう。
健康資源は、「環境健康資源」と「人的健康資源」の2つに大別されます。環境健康資源は、社員食堂や仮眠室の設置、健康経営理念の策定、産業医との提携などが挙げられます。一方、人的健康資源とは、健康情報や各プログラムへの積極的な取り組み(ヘルスリテラシーの向上)などが該当します。
企業価値
「企業価値」とは、健康投資効果や健康資源を蓄積して得られる、財務指標や経営指標に表れる変化です。具体的には、売上高や利益率といった経済的な価値に換算できる数値や、求職倍率・株価・メディアへの露出度といったさまざまな市場からの評価を指します。
社会的価値
「社会的価値」とは、企業が健康経営に取り組むことによって地域社会に影響を与え、社会問題の解決につながることを指します。具体的には健康寿命を延ばしたり、社会保障費の適正化につなげたりすることを意味します。
ただし、社会的価値を評価するには健康経営以外の要因も複数関わるため、企業価値と同様にあくまで波及的効果としての位置付けとなります。
健康投資管理会計ガイドラインについて
健康経営について考える際には、「健康投資管理会計ガイドライン」が重要です。その概要について詳しく解説します。
健康投資管理会計ガイドラインとは
「健康投資管理会計ガイドライン」とは、経済産業省が2020年6月に策定した健康経営の取り組みを推進するために設けられた指針です。「健康投資の見える化」が目的とされており、健康経営による効果を量的・質的に可視化することによって、個々の施策に対する評価を行いやすくなります。
また、基準となるガイドラインがあれば、健康経営に取り組むハードルが低くなったといえるでしょう。
健康経営戦略について
健康経営の取り組みを行うには、経営課題の1つとして従業員の健康維持・増進を捉える必要があります。そこで健康経営戦略を策定する目的から健康経営や経営課題に具体化する方法を解説します。
健康経営戦略を策定する目的
健康経営を推進するには、従業員の健康維持・増進を経営課題の一環として捉えることが重要です。課題の認識から個々の施策の取り組みを一連のストーリーとしてステークホルダーに伝えられるように、企業の経営層は理解に努めることが大切です。
具体的には、健康投資管理会計の活用や健康経営の取り組みによって、解決したい課題を明確化すれば、健康投資・健康投資効果・健康資源などの結びつきが整理され、企業内部でのPDCAサイクルの管理や外部への情報開示を主体的に行えるようになります。企業によっては健康経営の取り組みが広範囲に及ぶため、どの課題を優先させるのかを精査し、経営資源の配分を決めていく必要があるでしょう。
そのため健康投資管理会計ガイドラインの内容を最初からすべて網羅しようとするのではなく、健康経営への取り組みや健康投資管理会計の習熟度に応じて、少しずつ対象範囲を拡大していくことが重要です。
健康経営と経営課題のつなげ方
健康経営の課題設定は企業ごとに異なり、また健康投資管理会計ガイドラインも指針に過ぎません。まずは自社における健康経営の施策との結びつきを考えて、経営課題を設定してみましょう。
例えば、売上高利益率(ROS)を高めることを目的として健康経営によって解決したい経営課題を「売上高利益率の向上」と設定するケースでは、売上高利益率に与える影響は健康経営の施策以外による場合が多いため、効果測定を行いづらい難点があります。このケースでは、売上高利益率を高めるために、「個人のパフォーマンスの向上」などの段階にまで経営課題を落とし込み、より細かく目標設定を行えば健康経営と経営課題のつながりが見えやすくなります。
健康経営戦略を策定するときの注意点
健康経営戦略を策定するには、経営層が戦略の策定に積極的に関与し、経営課題と健康課題の結びつきや健康投資効果の指標の設定、どの部分に健康投資を行うかといった点を決定する必要があります。策定した健康経営戦略を従業員に説明し、理解を求めることが健康経営の施策の効果を高めるきっかけとなるでしょう。
また、健康投資管理会計ガイドラインをはじめとした官民から提供される各種資料を活用する方法もあります。さらに、自社で思うように取り組みを推進できないときは健康経営エキスパートアドバイザーなど外部からのアドバイスを活用する方法も良いでしょう。
当社アドバンテッジリスクマネジメントが提供する「アドバンテッジ 健康経営支援サービス」なら、健康経営エキスパートアドバイザーの資格を有する専門のコンサルタントが、健康経営度調査票に関する課題の解決や健康経営を推進する体制構築の支援を行っております。
自社の抱える健康経営に関する課題やニーズを踏まえたカスタマイズ支援も行っているので、本質的な健康経営の推進に取り組みたいときはお気軽にお問い合わせください。
健康投資管理会計の作り方
健康投資管理会計をスムーズに作成するには、基本的な手順に沿って戦略マップなどを作る必要があります。どのような手順で作成し、活用すれば良いかについて解説します。
経済産業省より、健康投資管理会計ガイドラインと共に作成時のフォーマットも公開されているので、実際の作成時はそちらで詳細を確認しながら進めましょう。
健康投資管理会計ガイドラインと作成フォーマットはこちらから
戦略マップの作成
戦略マップの作成は、健康経営によって解決したい経営課題から考えることが前提であり重要です。そのため、経営層や各部門が協力しながら進めることが大事です。
実際に施策の実施を通じて健康経営を推進していく際も、そのゴールから逆算する形で、投資施策や期待効果を見定めることが重要だといえます。それらを一貫して行うための指針として、戦略マップを作成することが大切である点を押さえておきましょう。
戦略マップの基本的な作成手順は、以下のとおりです。
1.健康経営によって、解決したい経営課題の設定 2.取り組んでいる健康投資施策の設定 3.期待される健康投資効果指標の設定 4.健康資源の設定 5.期待される波及効果(企業価値・社会的価値など)の設定 |
健康投資シートの作成
戦略マップを作成したら、健康投資シートを作成します。戦略マップで整理した健康投資の各施策について、それぞれの投資額を計算して健康投資シートに入力します。
健康投資効果シートの作成
戦略マップで設定した健康投資効果に関する指標について、健康投資効果シートを作成します。目標値・過去会計年度の数値・今年度の数値を把握した上で、入力しましょう。
健康資源シートの作成
健康資源シートについては、環境健康資源と人的健康資源に分けて入力します。どちらも今年度の状況を把握した上で、必要な項目や数値を入力します。
内部機能としての活用
戦略マップと各シートの作成が完了したら、自社の健康経営の取り組み状況を分析して、施策の見直しを行います。健康投資・健康投資効果・健康資源の状況把握や目標に対する評価などを経営層と話し合って、見直し作業を進めていきましょう。
外部機能としての活用
健康経営に関してまとめた情報を目的ごとに整理して、適切な方法で外部に公表します。なお、上記のプロセスはすでにある程度の取り組みを行っている企業が行う手順であり、初めて健康経営に取り組むときは、最初からすべてのシートを作成する必要はありません。
健康経営によって解決したい経営課題や従業員が抱える健康課題の把握を行い、取り組んでいきたい施策を整理してから戦略マップの作成に取りかかりましょう。
まとめ
健康投資管理会計に基づいたさまざまな施策を実行し、評価・分析・改善を継続的に行うことで、健康経営の取り組みを社内外にアピールできます。適切な情報開示を行えば、幅広いステークホルダーに理解され、企業価値の向上につながるはずです。
また健康経営を実施すれば、従業員の健康状態が改善するだけでなく、業務の効率化や生産性の向上にもつながるでしょう。健康経営の効果をより高めるには、経営層が積極的に健康経営を推進し、健康投資管理会計ガイドラインなどを活用することが重要です。
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