健康経営への関心の高さに比例して、企業の健康経営に関する取り組みもますます本格的になってきています。企業の経営課題は健康課題と密接に関わるため、健康経営を推進する上で重要なポイントは「経営層の理解と協働を得ること」といえるでしょう。
今回は経営会議などで経営層に健康経営の重要性や取り組むべき道筋を適切に伝え、全社的に更なる推進を測っていくためのポイントを紹介します。
目次
健康経営は人事の健康施策に留まらない
健康経営の推進を担当されている方にとっては既知の内容かと思いますが、ここからは健康経営(健康施策)が企業経営の軸となっていった背景を簡単におさらいしていきましょう。
「健康経営」という言葉が登場する以前、従業員の健康課題は企業が取り組むもの、という認識は少なかったでしょう。あくまで従業員個人の健康問題であり、企業が積極的に介入するものという捉え方ではありませんでした。
しかし、2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」で「国民の健康寿命の延伸」が取り上げられ、2015年には、東京証券取引所において新たなテーマ銘柄として健康経営銘柄が設定されるなど、健康経営の普及に向けて国としての動きが活発化しました。
さらに近年は、ESG経営に対する関心と要望もますます高まっています。近年の企業経営においては、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った「ESG」の領域での取り組みが、企業経営のサステナビリティ(持続可能性)の観点から重視されています。
米国の知的資本投資バンク「Ocean Tomo」の調査によると、2020年における米国市場(S&P500)の無形資産比率は90パーセントに上ります(時価総額と長期借入の総和から有形資産額を控除したものを無形資産価値とみなして試算)。
つまり、企業の市場価値を示す時価総額の9割は無形資産が占めているということです。
なお、日本における人的資本経営の方向性を提示した「人材版伊藤レポート2.0」(経済産業省)においても、企業が取り組むべき課題の一つに「健康経営への投資とWell-beingの視点の取り込み」を挙げ、次のとおり提言しています。
CEO・CHROは、社員の健康状況を把握し、継続的に改善する取組を、個人と組織のパフォーマンスの向上に向けた重要な投資と捉え、健康経営への投資に戦略的かつ計画的に取り組む。その際、社員の Well-being を高めるという視点も取り込んでいく。 |
そういった動きや投資家・労働者の関心の高まりも受け、経営的視点から従業員の健康増進に取り組むことが企業の持続的な成長につながるという「健康経営」は非常に重視されています。今や従業員の健康増進は人事施策に留まらず、企業経営の一環といえるでしょう。
健康経営度調査票でも経営軸での推進が求められている
経済産業省が毎年実施する「健康経営度調査」の調査票でも、経営トップをはじめとする経営層のコミットメントや、プライオリティの高い取り組みが求められています。
例えば以下の設問で、経営軸での推進内容やその程度が問われています。
経営理念・方針 Q20:経営トップ自ら、健康経営の推進のために以下の取り組みを行っていますか。 Q21:投資家との対話の中で、健康経営をどのように話題にしていますか。 組織体制 Q25:全社における健康経営の推進の最高責任者の役職は何ですか。 Q26:全社における健康経営の推進に関して、経営レベルの会議(取締役会や経営会議等)でどのような内容を議題にしていますか。 |
この例をみても、健康経営度調査において経営層のコミットメントが要請されていることがわかります。特にQ26の「経営レベルの会議での健康経営の議題化」については、令和4年度からより詳細に問われるようになりました。これは、経営レベルの会議での健康経営の議題化が経営層のさらなるコミットメントにつながり、健康経営の効果が高まると考えられているためです。
そもそも健康経営とは、経営的観点から従業員の健康維持・増進に取り組むことですが、ここまで紹介してきた内容を背景に、近年はさらにその必要性が高まっているといえるでしょう。ここからは自社の健康経営をより本質的に進める上で重要なステップを解説していきます。
経営層を納得させよう!経営会議で健康経営の必要性を説く「3つのステップ」
経営トップをはじめとする経営層に健康経営の重要性を理解し優先度を高めてもらうには、データにもとづくエビデンスの活用と、他社と比較した取り組み状況の「見える化」が有効です。特に前述した「経営レベルの会議での健康経営の議題化」については、「健康経営を議題化した回数」も実数としての開示が求められるなど、各社の議題化への積極性の違い・経営層のコミットメントの差異が可視化されるようになっています。もし、自社において課題感が浮き彫りになった場合は、その結果を経営層にも報告し、課題認識を共有することが大切です。
具体的な手法を3つのステップでご紹介します。
【ステップ①】調査票のフィードバックシートで、前年の改善点を見定めよう
経済産業省では、「健康経営度調査」に回答した企業・法人に対し、健康経営の実践レベルなどを分析した評価結果(フィードバックシート)を送付しています。まずはこのフィードバックシートを活用し、直近の評価と比較して改善がみられる点や、伸び悩んでいる点を整理するのが最初のステップとなります。
具体的には、直近の評価遷移に加え、業種平均との偏差値との比較も加味しながら、現時点での自社の課題や根本原因を特定します。そのうえで、課題の背景にある原因を深掘りし、的確な施策の策定・実行につなげていきます。
また、具体的な健康課題にどのくらい対応できているかという点を振り返ることも重要です。調査票回答時に選択している重点テーマも含め、自社内の偏差値と業界平均の偏差値を比較し、自社にとってユニークな健康課題を数値として改めて把握しましょう。
評価の詳細分析シートを参照し、施策が足りていなかったのか、それとも改善が不十分だったのかなどもしっかり確認しましょう。
当社アドバンテッジリスクマネジメントでは、フィードバックシートのより詳しい活用方法を無料ダウンロード配布しています。こちらからチェックしてみてください。
【ステップ②】マクロデータを活用して同業他社とのギャップを「見える化」しよう
経済産業省では2022年度より、健康経営度調査票の該当の設問に対し、回答企業の何%がチェックをつけているのかがわかるマクロデータ(※1)を公開しています。その集計データをもとに、ホワイト500平均や健康経営優良法人平均、業種平均などと比較して、各種平均値と自社とのギャップを可視化したうえで相対的な課題を特定することが、次の重要なステップとなります。
(※1)経済産業省「健康経営度調査結果集計データ」
分析結果の一例を挙げると、従業員への健康経営の浸透について、調査票のQ17に「健康経営の推進に関する全社方針を社内向けに明文化していますか」との設問がありますが、その具体的な取り組み(複数回答可)のうち、次の項目においてホワイト500と健康経営優良法人の差が50ポイント以上開いています。
・従業員に対して定期的にアンケートを実施して理解度を確認している
・自社の方針や施策に関する従業員間の議論の場を用意している
・方針を定める過程や定めた後に、方針に対する意見を一般従業員から募集している
この分析結果から、「従業員の健康経営への関心や方針の理解を促進する取り組み」について、自社とホワイト500とのギャップを可視化することができます。
このように、調査票を提出している他社との比較で相対的な課題を抽出したり、自社が抱える健康課題が他社と比較するとどのくらいの度合いなのかを把握するといったことができます。認定企業や同業他社との比較が、自社の健康課題を多角的に捉えたり、取り組みの優先順位付けの助けになるでしょう。
そのようにして、自社の立ち位置と取り組むべき領域を確認できたら、今度は社内にフォーカスし、その要因分析や改善施策の考案に繋げましょう。
【ステップ③】自社の立ち位置と改善すべき指標を、数値を用いて説明しよう
上記の①②のステップで分析した内容を、経営会議で議題に挙げてもらうよう、経営層に働きかけましょう。
経営層は、自社の推移は知っていても、他社との相対的な立ち位置やギャップまでは把握していないのが通常です。客観的なデータをもとに自社の状況を説明することで、その後の改善案の説得力も高まるでしょう。
<分析結果を活用した報告・議題化の例> 「ホワイト500・同業他社の長時間労働に関する平均値は○○で、当社はこれよりも〇時間多い状況です。」 「当社の中で時間外労働が多い部署は○○部です。同部の社員にヒアリングしたところ、時間外労働の主な要因は○○であることがわかりました。したがって……」 「また、時間外労働が多い部署の健康課題として睡眠不足、食生活が挙げられます。睡眠時間は他部署と比較して○○分ほど少ない状況です。当社の生活習慣とプレゼンティーイズム損失割合の影響を調べてみると、一般的に『睡眠習慣』が最も強く影響していることが多く……」 |
当社アドバンテッジリスクマネジメントが提供する「アドバンテッジ ウェルビーイング DXP」は、ストレスチェックや健診データなど、様々な人事データを一元管理し、クロス分析することで健康課題の要因の特定が可能なデータマネジメントプラットフォーム。任意の条件で従業員を絞り込んで分析できる「カスタムリスト」機能、DXP内の属性に因子を自由に掛け合わせてレポーティングできる「カスタムレポート」機能によって、各因子データの相関性をもって自社の本質的な健康課題とその要因を見つけ出すことができます。
データで裏付ける!健康経営に関する調査研究5選
経営層にプレゼンテーションする際の基礎資料や参考データとして活用できる、おすすめの調査研究をご紹介します。
①健康経営の推進について(経済産業省)
2022年6月に経済産業省が公表した、健康経営の推進に関する概要資料です。健康経営における課題と背景、目指すべき姿、取り組む意義など、健康経営の推進にまつわるアウトラインがひととおり網羅されています。
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②健康・医療新産業協議会 第9回健康投資WG 事務局説明資料(経済産業省)
令和5年度の改訂ポイントから今後の健康経営の在り方などがまとまっています。その年の調査票に取り組むうえで確実に押さえておきたい情報が詰まっており、参考データとして関連する事例や調査研究も掲載されています。毎夏の健康投資WGの内容はしっかり把握しておきましょう。
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③健康・医療新産業協議会 第5回健康投資WG事務局説明資料(経済産業省)
令和4年3月24日の健康投資WGの説明資料です。「3.健康経営の深化(主に大企業)」以降で「健康経営施策と利益率の相関」や「メンタルヘルス不調休職者率と生産性の関係」、「投資家の企業へのエンゲージメントにおける健康経営の位置づけ」といった興味深い調査研究の概要が掲載されており、他にも有益な参考データが数多く示されているので、自社における分析との比較や、方針策定の際の参考におすすめです。
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④健康経営度調査データに基づいた健康経営と企業業績の関係性の定量分析(野村證券株式会社)
経済産業省「令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業(需要環境整備等事業)」により実施したものとなります。経済産業省の健康経営度調査の詳細データを元に、健康経営と企業業績の関係性を網羅的に解析。統計的に有意な結果のうち、業績とポジティブと考えられる関係がある健康アウトカム、およびその健康アウトカムに有効な健康経営施策の例を紹介しています。健康施策とそのアウトカム、業績への関連性の理解を助ける内容です。
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⑤健康経営と企業の業績の関連性(矢野 裕一朗氏 MD, PhD, FAHA)
こちらも健康経営施策とそのアウトカムが企業価値にどれほど影響があるのかを研究した内容。企業利益と健康関連項目の関係性から、企業の営業利益に関連した項目を公表しています。
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定量的・客観的なデータ活用が経営層の理解を得るポイント
自社における健康経営の重要性を経営層に理解してもらい、会社としてさらに推進させていくための調査・分析の手法や、活用すべきレポートなどをご紹介してきました。
繰り返しになりますが、定量的な目標設定がなかなか大変ではありますが、できるだけ定量的・客観的なデータを活用しながら他社との比較と自社の分析を組み合わせて進捗状況や課題を提示することが、経営層と伴走して推進していく上で重要なポイントとなります。
健康経営推進の土台作りに「アドバンテッジ ウェルビーイングDXP」
アドバンテッジリスクマネジメントでは、健康経営における主要データを一括管理し、課題の抽出から解決までのPDCAサイクルを支援するツール「アドバンテッジ ウェルビーイング DXP」を提供しています。テーマごとに分散しがちな各種データ(ストレスチェック、エンゲージメントサーベイ、健診結果、就業状況など)を集約し、ダッシュボードで可視化。クロス集計などの分析によって課題の特定と的確なソリューションの実現に寄与するものです。Phese3.0で任意の条件で従業員を絞り込み、分析できる「カスタムリスト」機能、DXP内の属性に因子を自由に掛け合わせてレポーティングできる「カスタムレポート」機能が追加され、より柔軟で本質的なデータ分析を可能に。
経済産業省が提供するマクロデータやフィードバックシートなどに加え、よりデータドリブンで健康経営戦略のPDCAを回していきたいとお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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