早期離職とは、一般的に「入社から3年以内の退職」を指します。売り手市場が続き、採用活動そのものが難しくなっている今、社員の早期離職はできる限り回避したい問題です。早期離職が発生すると、企業は貴重な戦力を失うばかりか、金銭的な損失、既存社員のモチベーション低下など、さまざまなデメリットを受けかねません。
本記事では、早期離職の現状や背景を踏まえた上で、離職回避・定着のためにできる取り組みについてご紹介します。社員の早期離職問題を減らしたいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
早期離職の現状
まずは、新卒社員や中途採用者の早期離職の現状をみていきましょう。産業別・企業規模別にみる離職率についても解説します。
新卒社員の離職率
厚生労働省の調査によると、令和2(2020)年度における「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率」は、高卒就職者で35.9%、大卒就職者で31.5%となっています(平成31年3月卒業者)。データでは、例年に比べ離職率低下の傾向が見られました。ただし、平成7(1995)年度以降、大卒者における就職後3年以内の離職率は約30%前後で推移しているため、長期的な視点で見ると離職率はほぼ変わらないといえます。
また、大卒者に限らず、入社1年目の離職率は特に高い傾向にあるため、新卒社員に対する離職回避のための取り組みはとりわけ重要です。
また、厚生労働省は「就職率」と「就職後3年以内の離職率」の関係についても言及しており、「卒業時の就職率が低い(就職が厳しかった)場合、3年以内の離職率が高くなる傾向がある」とも指摘しています。
参考:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」
中途採用者の離職率
中小企業庁の調査によると、中小企業における中途採用者の3年目の離職率は約30%でした(※1)。
また、ビズリーチ社の独自調査では、35~49歳の転職者の中で、前職の在職期間が3年未満の「早期離職者」が39%いたことも明らかになっています(※2)。
さらに、エン・ジャパンが行った独自の企業向け調査では、中途採用者の定着率について「低い」「とても低い」と回答した企業が37%に上りました(※3)。
これらのデータを踏まえると、早期離職は新卒採用者だけの問題ではなく、中途採用者においても課題があると言えます。
参考:
(※1)中小企業庁「2015年版 中小企業白書」第2部「中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍」
(※2)ビズリーチ「早期離職はなぜ起きる? 中途社員の離職率や理由別対応策を紹介」
(※3)エン・ジャパン「アンケート集計結果 中途入社者の定着について」
産業別・企業規模別に見る離職率
厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」調査では、産業別の早期離職率も発表されています(※4)。調査の結果、特に離職率が高かったのは「宿泊業・サービス業」で、大卒者で51.5%、高卒者で61.1%と、新規就職者の半数以上にあたります。次いで「生活関連サービス業・娯楽業」の離職率が高く、大卒者の46.5%、高卒者の56.9%が3年以内に離職していました。
また、厚生労働省の「雇用動向調査」では、年次別推移において企業規模別の離職率が公表されており、離職の時期にかかわらず、中小企業は大企業に比べて離職率が高い傾向にあります(※5)。とりわけ、小規模事業者における新卒3年目の早期離職者は顕著に多く、56.8%と半数を超えています。(※1)
参考:(※4)厚生労働省「新規学卒者の離職状況」(※5)厚生労働省「雇用動向調査」
早期離職の原因
企業は、早期離職へと至る根本的な動機を理解する必要があります。転職市場においては、「前向きな転職」「新しいチャレンジ」という言葉も聞かれ、ネガティブな理由による転職ではないケースもみられますが、ハイパフォーマーの離職は企業にとって大きな痛手となります。
例えば、「異業種に挑戦したい」など、転職でしか実現できない働き方を望んでの離職なのか、「待遇や人間関係不満がある」といった、企業が適切にケアできていれば防げた離職なのかでは大きな差があります。
ここからは、従業員が早期離職を選択する原因・背景についてみていきましょう。
理想の働き方とのギャップ
入社前にイメージしていた働き方と、実際の仕事内容にギャップを感じて、離職に至る場合があります。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
<例>
- 仕事内容が自分に合わず、やりがいが感じられない
- 自身のスキルを十分に活かせない
- ノルマや責任が重すぎる
- 希望と異なる部署に配属された
給与・待遇面の不満
給与・待遇面で納得が得られないと、よりよい条件で働ける職場を求め退職することがあります。かつては年功序列・終身雇用制度がスタンダードだったことから、給与が上がるまで同じ会社で働き続けるという選択もありましたが、近年はその前提が崩れており、「年齢が低い=給与が低い」という考え方に納得できない人もいます。
また、成果主義・実績重視の評価制度を導入する企業が増えていることや、転職に対するイメージが前向きなものに変化しつつあることから、転職によって給与アップを目指す人も増加傾向です。
他にも、同業他社と比べて給与水準が低い、賞与が安定しないなどの不安要素がある、人事評価制度のルールが不透明である、福利厚生が不十分、といった事情も早期離職に関わっている可能性があるでしょう。
職場の人間関係
職場の人間関係が良くない、コミュニケーションが適切にとれない環境は、離職の要因になり得ます。
企業は組織・チームであり、働く上でコミュニケーションをとることが必須です。「人間関係が良ければ離職しない」とは言い切れないものの、職場の人間関係は、仕事への満足感や組織への愛着と深い関連があると言われています。「失敗を許さない雰囲気がある」「困った時に助けてもらえない」「パワハラが常態化している」といった環境は、従業員の心理的安全性が保たれておらず、会社への不信感が高まってしまうでしょう。
労働環境の不満
働き方改革が進み、「ワークライフバランス」を重視する労働者も増えています。仕事だけでなく、家族や友人と過ごす時間や、趣味を充実させたいと考える人は、それを実現できる環境を求めて離職に至ることがあります。残業や休日出勤が極端に多いと、プライベートで自由に過ごせる時間は少なくなってしまいます。ワークライフバランスが実現できていないと、従業員のエンゲージメントが低下してしまうだけでなく、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼすおそれがあり、休職・離職に追い込まれる可能性も少なくありません。
企業の将来性に対する不安
企業の将来性が見込めないことで、早期離職につながることがあります。終身雇用の概念が薄れつつあるとはいえ、早期離職を前提に入社してくる人材は少ないでしょう。求職者にとって「安定した生活を送れること」「キャリア形成ができる」環境は重要であり、事業・業績が安定していなかったり、経営方針やビジョンが見通せなかったりすると、将来への不安感から離職を検討し始めてしまいます。
早期離職による企業側のデメリット
従業員の早期離職は、企業にとって大きな損失であるといえます。ここでは、企業側のデメリットについて詳しく解説します。
採用・育成コストの損失
早期離職は、採用・育成コストの増加を招きます。社員を採用するまでには、求人広告費や人材紹介会社への紹介料、人件費といったコストがかかります。新卒学生の就職活動について調査する「就職みらい研究所」が発表した「就職白書2020」では、2019年度の新卒採用1人当たりの平均コストは93.6万円、中途採用の平均コストは103.3万円となっています(※6)。
中途採用の場合、採用チャネルが多岐にわたるため、さらにコストがかかることもあります。多くの人材紹介会社(エージェント)は「紹介した人材が採用に至った場合の成功報酬」を、その人材の年収の30%以上40%未満の割合で設定しています(医師/看護師/医療・福祉・介護職除く)(※7)
例えば、年収800万円の人材を採用すると、エージェントに支払う紹介手数料は240~280万円となるため、ハイクラス・ハイキャリアの人材ほど採用コストは高くなります。採用活動にかかった費用だけでなく、離職までに投資した人件費や教育研修費も含めると、早期離職による金銭的な損失は大きなものとなるでしょう。
参考:
(※6)就職みらい研究所「就職白書2020」
(※7)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査」
企業のイメージダウン
早期離職が目立つと、企業のイメージダウンにつながりかねません。近年は、企業の評判や口コミをインターネットで簡単にチェックできる上、求人媒体によっては、離職率の公開が必須となっているものもあります。離職率が高いと、求職者は「すぐに退職する人が多い会社」として認識し、事実か否かに関わらず、「人間関係が良くないのかもしれない」「ブラック企業かもしれない」という警戒感から応募を避けようとします。また、求職者向けの口コミサイトもあり、離職者の投稿によって企業の印象が下がる可能性もあるでしょう。次年度以降の採用活動だけでなく、売上・業績に悪影響を及ぼすことも危惧されます。
次世代を担う人材育成が進まない
従業員が早期に離職すると、企業の将来を担う人材が育ちません。次世代を担うリーダーを育成するためには、候補となる人材を早くから重要な業務にアサインさせ、さまざまな経験を積ませる必要があります。優秀な若手従業員が早期離職してしまうと、リーダーの育成が進まず、将来的な会社経営に課題をもたらします。
早期離職を防止するための取り組み
最後に、従業員の早期離職への対策についてご紹介します。採用した従業員個人に対してだけでなく、包括的な体制の見直しも含め、従業員の定着を目指しましょう。
コミュニケーションの促進
社内コミュニケーションを活性化させることは、従業員の定着に効果的です。「頼れる人がいない」という孤独感は、組織への帰属意識を失わせてしまうため、先輩や上司が積極的にコミュニケーションをとることが求められます。特に入社2年目、3年目の従業員は、周囲の関心やフォローが減りやすく、仕事の相談や悩み、不安を伝えづらくなります。
また、1on1ミーティングやメンター制度の導入も有効です。従業員の孤立を防ぎ、気軽に相談できる環境が整うだけでなく、上司や先輩との良好な関係構築にも貢献します。
管理職のマネジメントスキル向上
従業員のワークエンゲージメント向上のためにも、管理職がエンゲージメントの重要性について理解し、管理職自身のマネジメントスキルを向上させることが大切です。部下への適切なフィードバック・指導のための「コーチングスキル」や、部下あるいは自分自身の感情を正しく認識し、適切な行動を取れる「感情マネジメントスキル」のほか、課題に対し適切な目標を設定し、推進する「課題解決スキル」も求められるでしょう。
当社アドバンテッジリスクマネジメントは、上記のようなマネジメントスキルを育む管理職向けの社員研修プログラムを多数提供しています。
従業員の「メンタルタフネス度」を高める
「メンタルタフネス」とは、「困難に直面した時、ネガティブな感情に振り回されることなく、解決のためのアクションを起こせること」で、いわばストレスへの対処スキルを指します。「メンタルタフネス」は、もともとの「性格」ではなく、「開発できるスキル・能力」です。
ストレスへの向き合い方を学ぶと、ストレスが生じた時に適切に対処ができます。組織への愛着と熱意を持って仕事に取り組めるようになるため、エンゲージメントの維持・向上が期待できるでしょう。
キャリアデザインのヒアリングやサポート
定年まで同じ会社で働き続けるメリットが薄い現代において、従業員の離職を防ぐには、「この会社で働いていれば理想のキャリアが実現できる」と感じてもらう必要があります。特に中途採用者は、「理想を実現したい」など、明確な目的を持って転職してきていることが多いでしょう。企業はそれぞれの従業員のキャリアプランを丁寧にヒアリングし、どのような経験やスキルが必要なのかを考えながらプランを提示しましょう。併せて、個別で目標を設定してもらう、研修を実施するなど、積極的にキャリア実現のサポートを行うことも大切です。
柔軟な働き方への対応
育児や介護、通院など、さまざまな事情を抱える従業員も働きやすいよう、柔軟な働き方を認めることも大切です。例としては、コアタイム制度等を設けて就業時間に柔軟性を持たせる、在宅勤務・リモートワークを導入するなどの方法があります。
また、副業・兼業を認めることも、本業に対するモチベーション向上、従業員のスキルアップ等が期待でき、離職回避に有効に働くかもしれません。
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<まとめ>環境整備や従業員の能力開発で早期離職を防止
従業員を早期離職へと向かわせる背景には、仕事内容のミスマッチや待遇・就労環境に対する不満など、さまざまな要因があり、複合的な場合もあります。離職回避のためには、従業員がモチベーションエンゲージメントを維持・向上しやすい環境の整備、各種制度の構築など、組織的な課題の解決が必要であると同時に、「どうすれば活躍してもらえるか」「キャリアデザインを実現できるか」という観点での、従業員一人ひとりへのアプローチも重要です。自社で離職が生じている原因を見極めた上で適切な対策を行い、安定した組織運営を実現しましょう。