働き方改革の流れもあり、いわゆる「ブラック」な働き方が見直された結果、多くの企業において職場環境は改善されつつあります。ところが、近年は「ホワイトすぎる職場」で若手社員が離職してしまうケースもみられ、2022年には「ホワイトすぎて辞めたい」という見出しの新聞記事が話題になりました。本記事では、ホワイト離職が起きる原因や、若手社員の離職を防ぐための取り組みについて解説します。
目次
ホワイト離職とは?
はじめに、近年の企業における就業環境の変化や、若者の就労観を踏まえて、ホワイト離職の現状について解説します。
そもそも「ホワイト企業」とは?
ホワイト企業とは、いわゆる”ブラック企業”と正反対の状態にあり、労働環境や待遇が優れている会社のことを指します。例えば、「残業が少ない」「有給を取得しやすい」「コンプライアンスを徹底している」「ワークライフバランスを重視している」といった企業が当てはまります。
企業の労働環境改善への取り組みは加速
2019年に働き方改革関連法により大企業を対象とした労働時間の上限規制が施行され(中小企業は2020年から)、さらに2020年にはパワハラ防止法が施行されました。このように、職場運営に関する法改正が進み、労働環境を改善する枠組みが整えられています。
また近年は、企業にとって採用難の状況が続いていることもあり、採用力を高めるという文脈においても、若手の労働環境を改善する動きが加速しました。これらから、労働時間をなるべく減らし、職場環境の改善に努めようと取り組みを進める企業が増えています。
近年の若者の仕事観
学生調査モニターの大学生・大学院生を対象に実施した「就職プロセス調査」(就職みらい研究所)によると、「就職先を確定する際に決め手となった項目」で第1位となったのは「自らの成長が期待できる」(47.7%)でした。ワークライフバランスの推進など、働きやすい環境の整備、職場環境の改善への対応が求められる一方で、成長意欲の高い若手人材も少なくありません。
参考:リクルート 就職みらい研究所「就職プロセス調査(2023年卒)2022年12月1日時点 内定状況」
ホワイトすぎることが離職につながる
職場環境の改善は望ましい変化である一方、企業はコンプライアンスを意識してパワハラと訴えられないように、残業させない、叱ったことで辞めてしまわないようにという過度な配慮がなされている職場もあります。そのため、社員が成長する機会がなく「ホワイトすぎる職場」「ゆるすぎる職場」になってしまっている可能性も否めません。
若手社員は「このまま今の会社で働いていても成長できない」「転職先や異動先で通用しなくなるかもしれない」といったキャリアの不安を募らせて離職してしまいます。
ホワイト離職の原因
「ブラック企業では働きたくない」、ところが今度は「ホワイトすぎて辞める」となってしまうと、企業としてはどうすれば良いのか頭を抱えてしまいます。ホワイト離職が起きる背景に共通したキーワードが、「成長予感不足」です。成長予感不足とは、「今の仕事を続けても目指す自分にはなれない」と認識している状態です。続いては、ホワイト離職の原因について掘り下げます。
成長機会/実感が得られない
終身雇用の崩壊や競争主義の傾向が強くなる中で、定年まで同じ企業に居続けることは難しい、一生安泰ではないと肌身で感じている若手は少なくありません。また、個人としてもライフステージの変化などによって、企業を辞める選択をする時が来る可能性もあります。
いざという時、新卒時代から何も成長していない状態で、転職の選択肢が狭まってしまうことは大きな問題です。若手社員が成長の機会を得られないことは、組織の未来を担う社員の育成という観点からも懸念すべき点でしょう。
また、若手社員に業務の意義を伝えてあげる環境がない、若手社員の認知の仕方、考え方によって、成長の実感が湧かないケースもあります。
責任が与えられない
ホワイト企業は働きやすさを重視する傾向がありますが、その結果、仕事の自由度が制約されるケースもみられます。裁量の大きい仕事を任せると忙しくなり、労働時間が長くなる原因になりかねません。そのため、自由な発想で仕事をしたり、自身のアイディアをプロジェクトに活かしたりすることが難しく、やりがいを得づらいこともあるでしょう。
また、業務負担が重くならないよう配慮している場合も、若手の仕事に対するモチベーションを削いでしまっているかもしれません。責任がない仕事は、見方を変えれば「誰にでもできる仕事」ともいえます。結果として、「仕事を任せてもらえない」と、若手が自信を失うことにつながってしまいます。
ホワイト”すぎる”職場の特徴
ホワイト離職が生じてしまう職場の特徴をご紹介します。
変化や刺激がない
離職が相次ぐホワイト企業の特徴の一つに、新規事業・サービスを展開していないケースが挙げられます。例えば、毎期安定して利益を上げているような企業の場合、変化が少なく仕事がルーティンになってしまう傾向があります。
ルーティン業務は会社運営のために欠かせないものですが、「前任者がやっていた通りに仕事をする」ことが求められる場合もあるでしょう。できる仕事をこなしていくだけの状態では、成長の実感を得られない可能性があります。
社員の年齢層に偏りがある
社員の年齢層に偏りがある場合も、ホワイト離職の原因となり得ます。若手と上層部の架け橋となり得る中堅世代が少ないと、仕事の任せ方がわからないケースもあります。入ってきたばかりの若手が心配だからと、1から10まで仕事をすべて教えてしまう、あるいは簡単な仕事しか任せないような過保護な環境を作ってしまうと、若手は「成長させてもらえない」と捉えてしまうかもしれません。年齢層の偏りに加え、企業側の教育ノウハウが蓄積されていないと、このようなケースに陥る可能性があります。
さらに新卒上がりで活躍している若手社員がいない場合、新卒社員のロールモデルとなる先輩が少ないといえます。「このようなゆるい環境できちんとキャリアが形成できるのか」という不安を感じさせてしまう一因にもなってしまうでしょう。
若手がキャリア形成できる機会・制度がない
若手社員の成長を促せる、あるいは成長を実感できるような人事制度やキャリア支援が整っていないことも要因です。成果と関係なく、年齢や職位のみで評価が決まる仕組みの場合、たとえ賃金に不満がなくても、「頑張りを反映してもらえない」と感じてしまうことがあります。
またジョブポスティングのように、社員自身が手を挙げて異動する制度が整っておらず、新しい仕事に挑戦したり、仕事の幅を広げたりできるような機会がないと、若手社員は社内での成長の見通しを立てることが難しくなってしまいます。
“ゆるい”と感じさせてしまう社内環境
人間関係が良好で、先輩も上司も優しい、叱らないような企業であったとしても、仕事を続けていく先に自分のなりたい姿が見えないと、「この会社にいても意味がない」と思われてしまいます。もっと熱心に仕事に取り組みたい、上を目指したいと入社してきた社員は、自身と同じような熱量で仕事をする理想の先輩や上司がいないと、温度差を感じて離職を選択する可能性があります。
また、「そんなに頑張らなくてもいいよ」「早く帰ってね」といった気遣いのつもりの言葉も、もっと仕事をしたいと考えている社員にとっては、「優しい」ではなく「ゆるい」とネガティブに捉えてしまう場合もあるでしょう。
ホワイト離職を防ぐための企業の取り組み
では、若手社員のホワイト離職を防ぐために、企業はどのような取り組みを進めていけば良いのでしょうか。
働き方改革の正しい認識
働き方改革について正しく理解し、再認識することが求められます。ホワイトすぎる職場にありがちな働き方をゆるくする、一律に残業をなくす、といった方向は「働き方改革」の本来の趣旨とは異なります。
厚生労働省では、「少子高齢化による生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」が進む中で、”投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題”としてきました。「働き方改革」は、この課題の解決のため” 働く人それぞれの事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること”を目指すとしています。
社員一人ひとりに向き合う
上司世代が新卒社員/若手社員を、いわゆる「若者世代/Z世代」と一括りにする結果、「今の時代、若者の価値観に合わせて労働時間を減らさないと」「負担をかけないような仕事を」という思惑が働いてしまいます。しかし、それが若手社員にとっては逆効果になっていることもあります。
上司の想像で新卒社員/若手社員の考えを ”察する”のではなく、個々の事情や価値観が異なることを理解した上で一人ひとりと対話を重ね、それぞれの考えや理想をキャッチアップすることが重要です。その上で、成長機会を求める若手社員にはしっかりとチャンスを与える、さまざまな事情で今は仕事をセーブしたい社員がいる場合には、労働時間を減らせる制度を設けるなど、社員が「多様な働き方を選択できる」ようにすることが大切です。
若手が成長できる機会の提供・制度整備
やりがいを感じられる環境づくりを進めましょう。例えば、自身のスキルアップを図れる、あるいは興味のある仕事に挑戦できるような制度を設ける、新しいプロジェクトに参加する機会を提供する、などが挙げられます。
裁量権を与える
若手に対し、裁量権を与えることも大切です。やり方や進め方にある程度の自由を持たせると、責任が発生するため自主性の発達にもつながります。ただし、定期的な報連相ができる関係を築いておくこと、失敗した時の責任の所在を上司にするなど、責任をすべて負わせるのではなく、チャレンジしやすい環境を整えましょう。
職場の心理的安全性を高める
心理的安全性を確保すると若手社員が安心して自分の考えを話せる環境ができ、お互いに信頼関係が築かれ、生産性が高まるとされています。意見を尊重しながらフィードバックすることは、仕事へのモチベーションを高め、自主性のある人材へと成長する一助となり得ます。
心理的安全性を高めるには、上司と部下の信頼関係を構築するためのコミュニケーションを頻繁かつ恒常的に行うことが重要です。例えば、週次の1on1ミーティングなどを検討してみましょう。部下はその都度自分の状況を上司に把握・理解してもらえているという安心感につながり、信頼関係を構築できます。
入社後のミスマッチを防ぐ
労働基準法を遵守し、一人ひとりに過度な労働量を要求しないホワイト企業からすると、人材不足が慢性化している現代において、新卒社員は貴重な労働力です。しかし、社員に負荷をかけすぎないよう、慎重に業務を任せる傾向があるかもしれません。そのスタンスが、向上心の高い若者とミスマッチしている可能性も考えられるでしょう。
なお、最近注目されているRJP(Realistic Job Preview)という採用理論があります。求職者に対する情報開示において、ポジティブな情報だけではなく、ネガティブに受け取られる可能性のある情報も明らかにするという考え方です。そうすることで入社後に感じるギャップをできる限りなくし、人材のミスマッチを解消することが期待されています。
社員のエンゲージメントを測るサーベイの実施
組織のコンディションを図るために用いられているのが、エンゲージメントサーベイなどの調査です。最近は、週次や月次など短い間隔で調査を行う「パルスサーベイ」も活用されています。定点調査を続けることにより、細かな動向や変化を捉えることができるでしょう。組織全体の状態を把握できるほか、それぞれの社員のモチベーションや離職リスクの調査などにも有効です。
当社が提供する「アドバンテッジ タフネス」は、離職防止に役立つサーベイツールによって、組織が抱える課題を可視化。面談では本心を聞き出すことが難しい場合もありますが、ツールを活用すると社員が自分自身と向き合う機会が得られ、正確な調査結果が得られやすくなります。サーベイは定期的に行い、得られた結果をもとに改善策を考え実施していくことが大切です。
組織課題を見える化し、改善を促進するパルスサーベイ「アドバンテッジ pdCa(ピディカ)」も提供しています。新卒社員・若手社員を対象にパルスサーベイを実施することで、短期的かつ高精度な現状把握が可能となり、離職につながる小さな変化を見逃しません。当社が有する総合サーベイ「アドバンテッジ タフネス」の指標や基準に合わせて構築しているため、比較が容易で、前後の変化も捉えやすくなります。センサスで捉えた課題に対する施策効果をパルスサーベイで迅速に検証。課題解決が進まない原因となっていた「測りっぱなし」「やりっぱなし」を解消します。
<まとめ>若手の成長とやりがいを感じられる職場づくりを
若手社員の離職は、企業にとっても大きな問題です。働き方改革に沿って、労働環境を改善することは当然重要ですが、方向性を誤ると、若手社員にとっては成長が実感できない「ゆるすぎる職場」となってしまう可能性もあります。若手社員の成長を促し、やりがいを実感できる環境づくりに注力することが、企業・社員双方にプラスの効果を与えるでしょう。