「配属ガチャ」とは、「ハズレ」「失敗」といった言葉とともに、希望とは異なる部署に配属された新卒社員が、自身の置かれた状況を自虐的に表現する文脈で使用されています。希望通りの配属にならなかった、失敗だと思っている新卒社員は、早期離職の予備軍とも捉えることができます。今回は、配属ガチャの意味や採用のミスマッチが生じる背景を明らかにした上で、企業側が取り組むべき早期離職を防ぐための方法をご紹介します。
目次
配属ガチャとは?
まずは、「配属ガチャ」の意味についてチェックしていきましょう。
配属ガチャとは
配属ガチャとは、入社予定の新卒社員が「自分がどの部署に配属されるのか、入社してみないとわからない」という不安を、「何が出てくるか回してみないとわからない」ソーシャルゲームのガチャやカプセルトイの仕組みになぞらえた言葉で、主にSNSから発生したとされています。また配属先は自らの意思では決められないため、学生にとっては「ガチャのように偶然によって決められてしまうもの」であり、それに対する皮肉のニュアンスも含まれます。
当然ながら入社後の配属先に関する不安自体は時代を問わず、どんな人でも抱いていたと推察されますが、SNSの普及でこうした不安がより可視化されやすくなったことも、「配属ガチャ」が注目を集めた背景にあるでしょう。
配属ガチャにおける「ハズレ」とは
配属ガチャには、アタリとハズレがあります。アタリは、自分の希望に添った配属がなされる、あるいは上司や教育担当に恵まれた場合などが当てはまります。一方ハズレとは、希望とは異なる部署への配属を言い渡されたケースです。新卒社員が「ハズレを引いた」と感じた場合、希望職種でのキャリアが築けないことから、仕事への熱意(ワークエンゲージメント)が低下する、組織への愛着(エンプロイーエンゲージメント)が低くなる、といったことが起こる可能性があります。
長い目で見ればキャリアを築く上で、ハズレに見える仕事の経験が必要なこともあるでしょう。しかし、目先の希望にとらわれてしまい、離職を選択してしまうケースもみられます。
配属が「ガチャ」と呼ばれてしまう原因
配属先は、ガチャのように運や確率で決められるものではありません。企業の人員配置・配属決定は、その企業の経営戦略や本人の適性などに基づいて合理的に検討がなされます。しかし、社会人経験のない学生からすると、配属先の決定プロセスはまるでブラックボックスのように映ります。その不透明さから不安を抱いてしまう可能性もあるでしょう。続いては、配属が「ガチャ」と呼ばれてしまう原因を掘り下げていきます。
就職に対する学生の意識変化
配属先決定に関する不安が就活生に生まれる原因には、「内定から入社までの長い空白期間」、「配属先・職種を自分で決めたいと考える学生が多い」という点が挙げられます。これらは、近年の働き方改革やインターンシップ参加率の上昇など、社会背景に伴う学生の意識が関係しているとされます。インターンシップの参加率は年々増加傾向で、2023年卒では85.7%にまで上がりました。
参考:マイナビ2023年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(12月)
近年の学生は就職活動の準備として自己分析を行ったり、それを踏まえて自分はどんな仕事に向いているかを考えたりすること(仕事研究、職種研究)が、より進んでいます。その結果、就きたい仕事・職種に対してもより思いを強く持つ学生が増えている可能性も。
またZ世代と呼ばれる近年の若者は、「個」「意味や価値を大事にする」傾向があります。よりマッチする環境を早期に見つけたい、合わないものにわざわざ時間をかけることはリスクという意識を持つ人も少なくありません。
企業の採用スタイル
特に日系の大企業では職種ではなく、「総合職」や「一般職」といった雇用形態で採用する傾向がみられます。総合職の場合、特に仕事内容が決められておらず、入社時に空きがある職種、人手の足りない部署へ配属されることもあり、希望の職種に就けるとは限りません。「なぜその部署に配属されたのか」という理由や背景を知らせてもらえないことが、ガチャ要素を感じさせる要因の一つになっている場合もあります。
また、さまざまな職種を経験させる目的で、新卒社員を数年ごとに異動させる企業も少なくありません。異動する度に、「次こそ希望職種へ配属されるだろうか」「また今回も希望とは違う配属になるのか」と「配属ガチャ」による不安が続いてしまいます。
新卒社員が「配属ガチャ失敗」と感じたときに生じる企業のデメリット
企業目線では最適な配属であっても、新卒社員にとって「理想の配属」であるとは限らないでしょう。では、新卒社員が配属ガチャに「失敗した」と感じた場合、企業にはどのようなデメリットが生じるのでしょうか。
新卒社員の早期離職
新卒社員に「配属ガチャに失敗した」と捉えられてしまうことで生じる最大のデメリットは、早期離職です。配属部署や勤務地域が希望通りではなかったという理由から、早期離職を選択する可能性が高まります。
また新卒社員の場合、配属先の情報がほとんどないまま入社に至ることも少なくありません。入社後のキャリアをイメージできないことで不安が募り、最終的に離職につながる恐れもあるでしょう。
採用コストの損失
社員に「配属ガチャに失敗した」と思われ、離職されてしまうと、以下のようなコストの損失が発生します。
<コストの損失>
- 入社から退職までの給与
- 採用にかかった費用
- 教育にかかった費用
- 補充人員を確保するためにかかった費用 など
株式会社リクルートの『就職みらい研究所』が公表した「就職白書2020」によると、2019年度の新卒採用における一人当たりの平均採用コストは93. 6万円でした。また、エン・ジャパン株式会社『入社後活躍研究所』が紹介したデータでは、社員1名が入社後3か月で離職すると、その損失は約187. 5万円に上るとされています。求人サービスへの掲載費、教育・研修費、担当者の人件費といった金額的な損失はもちろんのこと、面接などにかけた時間の損失、退職者の発生による他の社員のモチベーション低下、退職の連鎖など、二次的な損失も多く挙げられます。
参考:リクルート 就職白書2020 / エン・ジャパン 入社後活躍研究所「なぜ人は辞めるのか?退職を科学する」
【入社前】配属ガチャによる社員の離職を防ぐために
続いては、「配属ガチャ」による新卒社員の離職を防ぐために、企業が「採用・内定」段階でできる取り組みをご紹介します。
採用段階でのミスマッチの防止
新卒社員の離職を防止するには、まず採用段階でのミスマッチを避けることが重要です。入社してから理想と現実のギャップに落胆しないよう仕事内容や企業理念、社風や求める人物像などを正しく伝え、業務内容や仕事内容に認識のズレがないかを確認しましょう。
例えば、新卒で入社した先輩社員の1日のスケジュールを紹介して、各部署の仕事内容を理解してもらう、営業や人事などさまざまな職種で活躍する先輩社員のキャリアを例示し、将来像をイメージしてもらうといった取り組みが挙げられます。また、インターンや選考の際に、実際に働く社員の声を聞いたり、直接対話できる機会を設けたりすることも有効です。どういった職場・雰囲気なのかを事前に候補者に共有しておくことで、ミスマッチを防ぐことができるでしょう。
配属先を事前告知する
多くの会社では、新卒社員の入社後に配属先を発表していますが、場合によっては内定通知と同じタイミングで、理由と併せて配属先を伝えることも検討しましょう。配属先を事前に告知することで、学生は入社後のイメージが明確になり、今後のキャリアについて考える時間を設けられます。実際、配属先を「入社前の段階で知りたい」と希望する学生は8割以上というデータもあります。
ただし、内定の時点で配属先を告知すると、内定辞退を招きかねない点にも留意しましょう。
参考:マイナビ 2023年卒大学生活動実態調査(8月)
内定者に対するフォロー
内定者は「実際の会社がどんな雰囲気か知っておきたい」「どんな人が同期なのか知りたい」「この会社を選んで良かったのか改めて確認したい」と感じていることもあります。入社前の悩みを相談できる面談、同期と親交を深める内定者懇談会、先輩社員との座談会、会社に親しめるイベントなどを開催するのも効果的かもしれません。
人材の適性把握
エントリーシートや面接だけで人材の適性を見極めることは難しいでしょう。そこで、客観的なデータとして活用できるのが適性検査です。適性検査では、その人がどんな性格か、行動力やコミュニケーション能力、ストレス耐性はどのくらいか、強みや弱みは何かなどを多様な視点から分析することができます。適性検査を用いて、統計的に求める人物像と一致度が高いタイプであるかを見極めた上で、配属・配置を決めると良いでしょう。
当社が提供する「アドバンテッジ インサイト」は、「ストレス耐性」にフォーカスした採用適性検査です。入社前の適性検査で「ストレス耐性」や「EQ(コミュニケーション能力)」を測ることによってその人の「適性」を見極め、部署配属の助けとすることができます。加えて、配属後の社員のそれらの能力を開発していくことも可能です。アドバンテッジ インサイトの検査結果を、配属先の上司などと共有すれば、入社した社員がどのような点でストレスを感じやすいかがわかります。業務面・精神面どちらのフォローにも活用でき、社員の教育やスキル開発に役立てることができます。
【入社後】配属ガチャの失敗による離職を防ぐために
最後に、入社・配属後の離職を回避するための取り組みについてご紹介します。
入社後のフォロー
新卒社員をフォローする体制をつくることも重要です。希望の部署に配属されたか否かにかかわらず、配属の理由は丁寧に説明しましょう。希望通りとなった新卒社員に対し、よりエンゲージメントの高い状態で働いてもらうためだけではなく、自身のイメージと実務にギャップがあり「ハズレ」と感じた社員へのフォローという面もあります。その部署ではどのような能力を発揮できるのか、新卒社員のどのような点を評価しているのかなど、新卒社員自身が気づいていなかった適性を指摘することによって本人の納得感につながるかもしれません。
また、入社後に仕事で悩んだときに気軽に話せる相手がいれば、心理的安全性が高まり、働き続けやすくなります。先輩社員を相談相手にしたメンター制度などを導入することも効果的です。日々の業務における小さな悩みから人間関係の悩みまで、気軽に相談できるメンターがいると、新卒社員は一人で悩みを抱え込まずに済むため、定着率の向上に寄与するでしょう。1on1ミーティングなどを定期的に行い、ネガティブな感情を早期にキャッチすることも有効です。
各種研修による能力開発(メンタルヘルス/ストレス対処)
新卒社員自身に「柔軟な物事の捉え方や考え方」を持ってもらうため、各種研修によって社員の認知に関する能力を開発していくのも良いでしょう。人にはそれぞれ捉え方や考え方のクセがあり、陥りやすい思考パターンがあります。例えば、配属先が希望と異なる場合にそれを成長の機会と捉えるか、「配属ガチャの失敗」と捉えるかは、その人自身の考え方によって変わります。そのような認知に関する能力や、困難に直面しても、悪い感情に振り回されずに前向きに対処できる「メンタルタフネス」を高めることが大切です。
当社アドバンテッジリスクマネジメントでは、若手社員に向けた各種研修プログラムをご用意しています。「メンタルタフネス度向上研修」では、自分の「考え方のクセ」を振り返り、困難に対して前向きに対処するスキルを習得。親しみやすい観点で整理された「ストレスを感じやすい考え方のクセ」について学び、段階的に検討するワークで自分自身の認知も振り返ります。また、「ストレスマネジメント力向上研修」では、自分のストレス対処傾向をもとに、ストレスとの上手な付き合い方を学ぶことができます。
スキルアップ・キャリアアップの支援
成長意欲の高い新卒社員に「この会社で働き続けても成長は望めない」と感じさせてしまうと、離職を選択する可能性が高くなります。スキルアップに関する不満を生まないためには、研修をはじめとする学びの場を積極的に設けることが大切です。全社的なスキルアップやリーダーの育成が見込め、人材定着に寄与する可能性があります。研修以外では、部署を越えたプロジェクトのようなチャレンジの機会を与えることも有効です。
従業員のエンゲージメント状況を把握する
従業員向けのサーベイツールを導入し、新卒社員の状況を定期的に可視化するのも効果的です。配属後のフォローが目的であれば、高い頻度で新卒社員の心境変化を確認できるパルスサーベイなどを活用すると良いでしょう。
当社が提供する「アドバンテッジ タフネス|TOUGHNESS」は、自社の課題把握と解決にお役立ていただける、サーベイを起点とするワンストップサービスです。離職に関わる指標となる因子の測定でリスクを未然に察知できます。
<まとめ>フォローとコミュニケーションで配属ガチャの不安を解消
新卒社員の配属先は、その企業の経営戦略や本人の適性などに基づいて決定されていますが、さまざまな事情からそのプロセスを可視化することは難しく、学生にとっては自分で運命を決めることのできない「ガチャ」のようなものに映ってしまいます。「配属ガチャに失敗した」と感じた新卒社員は、ときに早期離職へと至ってしまいます。丁寧なコミュニケーションによって、学生自身が考える自己の適性と、企業が考える学生の適性間に存在するギャップを少しでも減らし、配属に関する問題を解消していくことが大切です。