企業は、社員に対し健康診断を実施することが法律で義務付けられています。しかし、健康診断に関する業務は非常に膨大で、受診を呼びかけて終わりではなく、実施後にもさまざまな業務に取り組まなければなりません。今回は健康診断の内容や検査項目、対象者など基本的な知識を押さえた上で、健康診断業務の流れについて解説いたします。
目次
企業は社員の健康診断を実施する義務がある
まずは法律の定義を踏まえて、健康診断実施の意義をみていきましょう。
健康診断実施の法律と罰則
労働安全衛生法により、企業は社員に対し、医師による健康診断を受診させる義務が定められています。つまり社員の健康維持・確保は、企業が果たさなければならない責務です。健康診断を実施しなかった場合、企業は労働安全衛生法に違反したとして50万円以下の罰金を科されるリスクがあります。
また健康診断にかかわった社員が、結果などを外部へ情報漏洩することも禁じられており、違反した場合は50万円以下の罰金または6ヵ月以下の懲役が科される可能性があります。
社員が健康診断を拒否する場合
社員に健康診断を受けるよう促しても多忙であることなどを理由に受診しない、あるいは拒否する場合があるかもしれません。しかし、いかなる理由であっても社員が健康診断を受診していなければ、企業が罰則を受ける可能性があります。
このような場合は、企業側が受診状況を確認するなどして、受診を積極的に求めることが重要です。まず理由をヒアリングし、必要に応じて業務の調整や受診日・受診場所の配慮を行います。併せて、健康診断を受ける意義やメリット・デメリット、法的義務について丁寧に説明を行い、自発的な受診を促しましょう。
就業規則として健康診断の受診義務があることや、社員自身に法律上の罰則はないものの、受診を拒否した場合の処分について明確なルールを定めておくと良いかもしれません。
社員の健康管理は経営の観点からも重要
近年は、経営の視点から戦略的に社員の健康投資をする「健康経営」の意識が高まっています。社員が心身ともに健康でいきいきと働けることは、社員本人にとって大きなメリットとなるだけではなく、個々のパフォーマンス向上による組織の生産性・業績向上、ひいては組織の健全な成長にも貢献します。社員の健康維持、増進に向けた取り組みの基礎という意味でも、健康診断の実施は重要であると言えるでしょう。
実施義務のある健康診断の種類
企業における健康診断は、主に2つに分類されます。続いては、健康診断の種類と内容についてご紹介します。
一般健康診断
一般健康診断とは、企業が社員に対して実施義務を負う健康診断です。主に「雇い入れ時の健康診断」「定期健康診断」「特定業務従事者の健康診断」「海外派遣労働者の健康診断」などがあります。職種や勤務時間にかかわらず、すべての社員が対象です。
出典:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」
特殊健康診断
特殊健康診断とは、特定の有害物質を扱う業務に就いている社員を対象とした健康診断です。原則として雇い入れおよび配置替えの際に、6ヵ月以内ごとに1回実施します。取り扱う物質によっては、離職時やその他の業務への配置換えの際にも行わなくてはいけません。
一部の業務については配置換え等によりその業務に従事しなくなった場合でも、雇用が継続している間は特別な項目についての健康診断を定期的に行う必要があります。
出典:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」
健康診断の実施対象となる社員
労働安全衛生法では、健康診断の実施対象は「常時使用する労働者」と定めています。ここでは、健康診断の対象者を改めて確認しておきましょう。
正規社員は全員が対象
雇用期間の定めがない正規の社員は、年齢や職種、勤務時間や勤続年数にかかわらず全員が対象となります。
契約社員・パート・アルバイト(労働時間によって対象外)
契約社員やパート、アルバイトといった有期雇用の社員は、以下2つの条件をいずれも満たす場合に「常時雇用されている」と判断され、受診の対象となります。
【契約期間】
1年以上の雇用を予定している、または更新により1年以上雇用されている
【労働時間】
1週間あたりの労働時間が、正規社員の所定労働時間数の4分の3以上である
雇用する時点で上記の条件を満たすことがわかっている場合は、雇い入れ時の健康診断も必要です。また条件に該当しない場合でも、週の労働時間が正規社員の2分の1以上であれば、努力義務として健康診断を受診させることが求められます。
派遣社員(労働契約が他社なら対象外)
派遣社員は、企業そのものでなく派遣元の会社と雇用契約を結んでいるため、基本的には派遣元の会社が実施義務を負います。ただし、有害な物質を扱う業務に従事する社員が対象となる特殊健康診断は、派遣先の業務によって異なるため、派遣先の企業が実施しなければなりません。出向社員などについては、自社と直接労働契約を結んでいるかを基準として、健康診断の実施対象となるかを判断します。
役員(役職によっては対象外)
役員は、健康診断の実施対象となる場合とそうでないケースがあります。基本的には、労働者性が認められるか否かによって判断されます。
【対象となるケース】
役員待遇ではあるものの工場長や支店長として現場で働いており、労働者性が強い
【対象とならないケース】
代表取締役、監査役などで現場の業務に従事していない
社員が受ける健康診断の検査項目
健康診断の検査内容も、種類ごとにそれぞれ具体的な項目が定められています。検査項目が不足している場合、法律上定められた健康診断を実施したとは認められないため、必要な検査項目を理解しておくことが大切です。
一般健康診断の主な検査項目
一般健康診断の検査項目は、労働安全衛生規則第43条(雇い入れ時の健康診断)および労働安全衛生規則第44条(定期健康診断)に定められています。
【雇い入れ時の健康診断の検査項目】
1.既往歴および業務歴の調査
2.自覚症状および他覚症状の有無の検査
3.身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
4.胸部エックス線検査
5.血圧の測定
6.貧血検査(血色素量および赤血球数)
7.肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)
8.血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
9.血糖検査
10.尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
11.心電図検査
【定期健康診断の検査項目】
1.既往歴および業務歴の調査
2.自覚症状および他覚症状の有無の検査
3.身長(※)、体重、腹囲(※)、視力および聴力の検査
4.胸部エックス線検査(※)および喀痰検査(※)
5.血圧の測定
6.貧血検査(血色素量および赤血球数)(※)
7.肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)(※)
8.血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)(※)
9.血糖検査(※)
10.尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
11.心電図検査(※)
※については、医師の判断で不要と認める場合は省略可能
参考:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」
特殊健康診断の検査項目
特殊健康診断の検査項目は、従事する職種により異なります。業務経歴の調査や特定の物質による健康被害の既住歴、自覚症状、他覚症状の調査なども実施します。
健康診断の費用は企業負担
労働安全衛生法により、企業に義務付けられている健康診断の費用は全額企業負担と定められています。一般健康診断の場合、相場は10,000円〜15,000円程度です。あらかじめ見積もりを取り、全体費用を把握しておきましょう。
オプション検査は社員負担だが、一部企業負担の場合あり
ただし、すべての健康診断の費用が企業負担になるわけではありません。
【法定項目以外の検査】
企業負担となるのは、義務付けられている本来の健康診断のみのため、オプション検査に関しては自己負担となる場合が一般的です。ただし、産業医からオプション検査を推奨されている場合や、企業が受診をしている項目がある場合は、企業負担とすることが望ましいでしょう。
【人間ドック】
人間ドックの費用全額を企業が負担する必要はありません。しかし、社員の健康増進のために全額負担する、健康保険組合の補助金を活用して一部負担をするという企業もあります。
【再検査】
再検査にかかる費用を企業が負担する義務はないため、社員の自己負担としているケースが多いでしょう。ただし、特殊健康診断は再検査の実施が義務付けられており、再検査も企業負担となります。
健康診断は福利厚生費として経費計上が可能
健康診断の費用は、以下の要件をすべて満たした場合に福利厚生の費目として計上することができます。
・すべての社員が平等に健康診断を受けることができる ・費用は企業から直接医療機関に支払う ・常識的な範囲内の金額にとどめる |
福利厚生費として認められるのは、全社員が同じ権利を持つ場合です。支払いは、社員による領収書対応等はできないため注意しましょう。ただし、年齢に応じて健診内容を指定することは問題ありません。
健康診断の実施後に義務付けられている業務
最後に、健康診断の実施後に企業が義務付けられている内容について整理しておきましょう。
健康診断の結果の通知および保健指導
健康診断結果を受け取ったら、異常所見の有無にかかわらず各社員へ結果を通知します。もしも異常所見などが見つかった場合、医師の意見を取り入れた上で就業制限等を行う必要が出てくる可能性もあります。
また個人情報保護の観点から、情報の漏洩などが起こらないよう管理に十分注意しましょう。社員の健康情報に関する取扱い規程については、以下の記事で詳しく紹介しています。
併せて、社員の健康状態を保つため、医師や保健師等による保健指導を実施しましょう。異常所見のあった社員がいた場合は、医師等から意見聴取を行う必要があるため、産業医の意見を仰ぐなどの対応をとる必要があります。意見聴取は、健康診断の実施日から3ヵ月以内に行わなければなりません。再検査が必要な社員に対しては、二次検診の受診を勧告します。ただし、二次勧奨は努力義務です。
健康診断結果を保管する(5年間)
一般健康診断の結果については、健康診断個人票を作成して5年間保管する義務があります。特殊健康診断も保管義務がありますが、種類によって保存期間は異なります。
健康診断結果を労働基準監督署に報告する
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断の結果報告書を所轄の労働基準監督署長に遅滞なく提出する必要があります。「常時雇用している50人以上の社員」には正社員だけでなく、一般健康診断の対象とならないアルバイト・パートも含まれます。そのため、診断結果の報告義務を負う基準人数と、実際に健康診断の対象となっている社員の数は一致しない場合もあります。
健康診断業務の効率化に、「アドバンテッジ ヘルスケア」
健康診断の実施は、法律によって定められた企業の義務であり、社員が健康に働き続けるためにも必要不可欠です。また、健康診断を通じて社員の健康を守ることは、企業の健全な運営にも貢献すると言えます。ところが、診断結果の管理や再検査の受診勧告、医師への意見聴取など、健康診断に関連する業務は膨大かつ煩雑です。工数削減による効率化、スムーズな業務進行を実現するためにも、ぜひ健診業務のシステム化・データ化をご検討ください。
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以下の記事では、健康診断業務システム化のメリットを詳しくご紹介しています。