顧客からクレームを受ける女性

カスタマーハラスメントとは?定義や企業の対策方法、関連法令を解説

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

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カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、カスタマー(顧客)による理不尽なクレーム、不当な要求、従業員に対する嫌がらせなどの迷惑行為を指す言葉です。パワハラをはじめとした各種ハラスメントが問題視されるようになり、ハラスメント対策の重要性が認知されつつある中でも、カスハラの相談件数は増加傾向にあり、被害防止への取り組みは急務と言えるでしょう。

今回は、カスハラの定義や現状、関連法規を踏まえた上で、企業が取り組むべき対策について解説します。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?

顧客からクレームを受ける男性店員

はじめに、カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義を確認しておきましょう。併せて、具体例や正当なクレームとの違いをご紹介します。

カスタマーハラスメントの定義

カスタマーハラスメントとは、顧客から受ける理不尽なクレームや不当な言いがかり、過剰な要求といった迷惑行為のことで、カスハラと呼ばれることもあります。業界・企業により判断基準、定義は異なりますが、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策マニュアル」では以下のように示しています。

「顧客などからのクレーム・言動のうち、当該行為・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」7ページ

カスタマーハラスメントの具体例

カスタマーハラスメントに当たる行為としては、以下のようなものが挙げられます。

カスタマーハラスメントに当たる行為

  • 従業員を怒鳴りつける、暴言を吐く
  • 従業員に土下座を要求する
  • 「SNSに晒す」などの脅迫的な発言をする
  • クレームの電話を執拗に何度も入れる
  • 一時間以上クレーム対応をさせる
  • ミスのお詫びとして「商品・サービスを無償提供しろ」としつこく要求する
  • 従業員を盗撮する、つきまとい行為をする
  • 従業員に対しセクハラとみなされる言動をする

正当なクレームとの違い

正当なクレームと区別する場合は、「顧客が要求する内容が合理的なものであるか」「顧客が自身の要求を実現するためにとった手段あるいは態度が、社会的な常識に照らして適切であるか」という点に着目します。

正当なクレームは、商品・サービスの瑕疵に対する改善の訴えや問題点の指摘、あるいは明らかな瑕疵があったにもかかわらず、商品・サービスの提供者や企業に正当な対応をしてもらえなかったことに対する不満の表明などが当てはまります。

また、「よりよい商品・サービスになるように」「適切な対応をしてほしい」という、企業への応援や期待を目的として発言していることもあるでしょう。

【クレームの例】
商品が初期不良で動作しなかったので交換してほしい、というクレームを受けた。
新しい商品と交換し、対応終了。

【カスタマーハラスメントの例】
動作に支障はないが、商品に小さな傷があることに気づいた顧客からクレーム。ところが顧客は「私にこんな不良品を売るのか、そんな会社はおかしい」と、暴言を吐きながら返金と謝罪を要求。さらに、顧客が購入を希望した商品よりも高額な商品を無償で提供するよう執拗に求めた。

たとえクレームに一定の妥当性があったとしても、法的にも倫理観的にも正当とは言いがたい要求や、暴言、暴力、脅迫など、従業員・企業を威嚇する言動、従業員の就業環境を害するような悪意ある行為はカスハラに当たります。

カスタマーハラスメントの現状と増加の背景

書類と電卓と虫眼鏡

次に、カスタマーハラスメントの現状や、各種ハラスメントに対する問題意識の変化について解説します。

カスタマーハラスメントは増加傾向に

厚生労働省の「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、「過去3年間にカスタマーハラスメントの相談があった」と回答した企業は19.5%でした。ハラスメント全体の中では、パワハラ(48.2%)、セクハラ(29.8%)に次いで3番目に多いというデータも示されています。また、過去3年間の相談件数推移においてもカスハラは増加傾向がみられ、無視できないハラスメント問題として近年注目を浴びています。

また、2020年にUAゼンセン(繊維・流通業界の労働組合)が実施した「悪質クレーム対策アンケート」では、「直近2年以内に顧客からの迷惑行為の被害にあった」と答えた人が56.7%(15,256件)にのぼりました。

カスタマーハラスメント増加の背景

カスタマーハラスメントが増加している要因には、さまざまなものが挙げられます。主な要因として指摘されているものは以下の通りです。

顧客至上主義の弊害
「お客様を厚くおもてなしする」「金額以上のサービスをする」といった接客を受けるうちに、「店員は見下してもいい存在」「+αのサービスを受けることが当たり前」といった感覚が生まれてしまうこともあります。その背景には、「お客様は神様」といったような、高度経済成長期の日本で浸透していた「顧客至上主義」の価値観の影響が指摘されています。もちろん、「顧客を大切にする」という価値観そのものは現代にも存在しますが、時代の変化に伴い、サービス提供のあり方は多様化しているのが現実です。

ところが、かつての「顧客至上主義」という認識を強く持つあまり、なかには従業員に強く当たったり、+αのサービスを受けられないことに憤慨して「ほかの店ではこうだったのに、この店はなぜ対応できないんだ」などと詰め寄ったりする人もいます。

顧客の発言・発信力の増大
携帯電話やスマートフォンの普及、通話料無料サービスの設置などにより、顧客にとってクレームを入れやすい環境になっているのも一因です。また、SNSなどの浸透によって個人の発言力が増し、匿名でクレームが書ける、誹謗中傷が容易にできるという構図も、カスハラ行為の増加に影響している可能性があります。

これにより、「SNSに晒す」「口コミで評判を下げてやる」といった脅迫的なカスハラが起こりうるようになりました。

ハラスメントへの問題意識の高まり

カスタマーハラスメントという言葉が存在しない時代でも、顧客による迷惑行為は少なからず存在していました。近年、カスハラが注目を集めるようになった背景には、セクハラ・パワハラなどが社会問題化していることが挙げられます。ハラスメント全般に対する問題意識の高まりとともに、健全な労働環境を阻害しうる新たなハラスメントとして、カスハラへの懸念が強まっています。

また、SNSなどでカスハラに関連する消費者側の迷惑行為が拡散されるように、多くの人が目にする機会が増えたことで、表面化しやすくなったことも要因の一つと言えるでしょう。

カスタマーハラスメントが企業に与える被害・リスク

赤いブロックと人の形をしたブロックとリスクと書かれたブロック

カスタマーハラスメントは、対応にあたった従業員本人だけではなく、企業も大きな被害を受ける可能性があります。続いては、企業への悪影響について解説します。

離職者・休職者の増加

カスタマーハラスメントを受けると、従業員は心身ともに深く傷つき、大きなストレスがかかります。メンタルヘルスの不調を引き起こしてしまう可能性だけではなく、カスハラをきっかけに従業員が離職や休職に追い込まれることもあるかもしれません。

またカスハラへの適切な対応ができていないと、被害者本人だけではなく、同じ職場で働くほかの従業員も「会社は自分達を守ってくれない」と感じ、離職を選択してしまうおそれがあります。貴重な人材が離職・休職することは、企業にとって大きな損失となりうるでしょう。

企業のイメージダウン

近年は、SNSや口コミサイトへの書き込みを通して嫌がらせをするカスタマーハラスメントもみられます。このようなカスハラを放置しておくと、ネット上に悪評や悪意のある投稿が拡散され、企業のイメージダウン、ひいては業績悪化につながってしまうことも起こりかねません。「カスハラに毅然と対応できない会社」というイメージが定着してしまうおそれもあるでしょう。

企業としての責任追及のリスク

企業は、従業員に対する安全配慮義務を負っています。カスタマーハラスメントに対して適切な対応ができなかった場合は、安全配慮義務を怠ったとして、カスハラ被害を受けた従業員から損害賠償請求を受ける可能性もあります。

企業のカスタマーハラスメント対策方法

研修を受ける従業員

カスタマーハラスメントは、従業員の心身や企業の運営に悪影響を及ぼしかねない重大な問題ですが、対策が進んでいるとは言いがたいのが現状です。先にご紹介したUAゼンセンの調査でも、ほとんどの業種で「迷惑行為(カスハラ)の対策はなされていない」という回答が目立ちました。従業員を守るという意味でも、カスハラ対策は企業が取り組むべき大きな課題です。ここでは、厚生労働省の指針に基づき、企業が取るべきカスハラ対策をご紹介します。

カスタマーハラスメントに対する企業方針の周知

まずは、カスタマーハラスメントに対する企業方針を決定し、従業員に周知します。「カスハラには毅然とした態度で対応し、組織として適切な対応を行う」「カスハラ行為者から従業員を守る」といった基本的な姿勢を伝えます。

また、顧客に対しても「カスハラ対策を行っている」というメッセージを示しておくことで、カスハラの未然防止につながるかもしれません。店舗にポスターを掲示する、企業のホームページにメッセージを掲載するなども検討しておくと良いでしょう。

カスハラ対策マニュアルの作成

次に、カスタマーハラスメント対策マニュアルを作成、共有します。自社におけるカスハラの定義、正当なクレームとの区別方法、実際の対応手順、対応に困った際の社内の相談先、社内共有の方法などを記載し、すべての従業員が見られるようにします。

また、自社では対応しきれないカスハラ事案に備え、弁護士のような外部の専門家との連携体制を構築しておくことも重要です。

従業員向けカスハラ対応研修の実施

すべての従業員に対し、カスタマーハラスメントについての知識を深める研修機会を提供することも効果的です。一人ひとりが知識を身につけることで、適切な対応ができたり、相談しやすくなったりする可能性があります。

例えば、以下のようなことについて学べると良いかもしれません。

【研修の実施内容例】

  • カスハラの定義、具体例、正当なクレームとの区別方法
  • 自社で起こりうるカスハラ事例の検討・把握
  • カスハラへの対処法・対応の流れ
  • 顧客対応の注意点
  • 発生内容の共有方法、連携方法
  • ネガティブな出来事の受け止め方、気持ちの切り替え方

ハラスメント防止の社員研修プログラム
【全従業員向け】無自覚ハラスメント防止トレーニング研修
【管理職向け】パワハラ行動改善研修(EQ)
【管理職向け】職場の3大ハラスメント防止研修(管理職向け)

ハラスメントに関する正しい知識と対応を参加型形式で学ぶ研修です。ハラスメント防止に取り組む意義や、「ハラスメント被害者にならないためにどうするか」といったことを考え、一人ひとりのハラスメントに対する意識を向上します。

若手社員向け メンタルタフネス度向上研修

メンタルタフネス度向上研修」は、自分の「考え方のクセ」を振り返り、困難に対して前向きに対処するスキルの習得を目指す研修です。親しみやすい観点で整理された「ストレスを感じやすい考え方のクセ」について触れ、段階的に検討するワークで自分自身の認知も振り返ります。

*メンタルタフネス:困難に直面しても、悪い感情に振り回されずに前向きに対処できる能力

カスハラ相談窓口の設置

カスタマーハラスメント対応にあたった従業員のサポートやケアのため、カスハラに関する社内相談窓口を設置します。場合によっては、産業医や臨床心理士などの専門家につなげ、カスハラ内容に応じた適切なケアを受けられるよう体制を整えましょう。

アドバンテッジタフネスカウンセリング

アドバンテッジ タフネス カウンセリング」は、心理専門家によるカウンセリングサービスです。対面でのカウンセリング以外に、メールやオンライン面談、SNSを使ったチャット相談など、従業員が気軽に利用できる相談方法をご用意しています。カスハラを受けた従業員のメンタルサポートとしてもご活用いただけます。

カスタマーハラスメントに関する法律

法律が書かれた用紙に向かうサラリーマン

カスタマーハラスメント対策に取り組む上で重要な法律を把握しておきましょう。企業に課せられた法的義務のほか、カスハラ行為者(顧客)が問われる可能性のある民法・刑法上の責任についてもご紹介します。

【企業側】安全配慮義務(労働契約法)

労働契約法5条により、企業は従業員の心身の安全を確保した上で働けるよう配慮する義務があります。一般的に「安全配慮義務」と呼ばれ、これに基づき企業はカスタマーハラスメントから従業員を守らなければなりません。

企業がカスハラ対策を怠ったことで、従業員が心身にダメージを負ってしまった場合、企業は従業員から損害賠償請求を受ける可能性もあります。

【企業側】カスハラ対策の義務(パワハラ防止法)

労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)30条の2第1項により、企業は職場におけるパワーハラスメントを防止するため、雇用管理の上で必要な措置を講じる義務を負っています。同法に基づき、厚生労働省はパワハラ防止の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)を公表しています。

この指針では、カスタマーハラスメントを「顧客等からの著しい迷惑行為」とし、被害防止に向けた取り組みや、適切な対応を行うための体制づくりなど、対策として望ましい取り組みを示しています。

【カスハラ行為者】民法・刑法上の責任

民法709条では、不法行為に基づく損害賠償請求権を定めています。これにより、カスタマーハラスメントの行為者(顧客)は、被害者・企業に損害賠償責任を負う可能性があります。

また、カスハラ行為の内容によっては犯罪に当たる可能性があり、刑法が適用されるケースもあるでしょう。(暴行罪、傷害罪、名誉毀損罪、脅迫罪、威力業務妨害罪など)

カスタマーハラスメント発生時の対応

部下が受けたクレームに対応する上司

実際にカスタマーハラスメントが発生したら、企業は社内で定められているフローに従って対応します。基本的に一人で対応することは避けて、迅速に情報を共有することが重要です。また、内容によっては現場で対応せず、本社(本部)と連携の上で対応にあたったほうが良い場合もあります。判断に迷う場合は内容を一旦持ち帰り、慎重に対応を進めましょう。

①連絡フローに従い、責任者への情報共有・引き継ぎを行う
②顧客の主張を聴き取り、記録する
③現場限りで対応するか、持ち帰るかを判断する
④企業の対応方針を決定し、顧客に通知する
⑤カスハラを受けた従業員のケアを行う
⑥対応マニュアルを見直す

カスハラの被害者である従業員は、大きな精神的ダメージを受けている可能性があります。産業医や臨床心理士などと連携し、カスハラの内容と従業員の状況に応じたケアを行うことが求められます。

また、一連の対応が完了したら発生した事例を振り返り、適切な対応ができたか、フローの改善点はないか等を検証して、対応フローをより良いものにすることも大切です。

カスハラから従業員を守る対策を

人の形をした影を包み込む両手

カスタマーハラスメントは、従業員の心身の健康を損ないかねない重大な問題です。対応が不十分だった場合、企業もさまざまな損失や被害を受ける可能性があり、カスハラ被害対策は企業が率先して取り組むべき課題の一つといえます。企業は、「カスハラから社員を守る」というメッセージを伝えるとともに、対応マニュアルの策定、研修の実施、相談窓口の設置などを進め、従業員が安心して働ける環境づくりに取り組みましょう。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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