従業員のキャリア形成支援や組織開発を加速させる手段の一つとして、近年キャリアカウンセリングに注目が集まっています。VUCAと呼ばれる時代や、個々の理想とするキャリア像がますます多様化する中で、企業は自社の人材育成やエンゲージメント向上の観点からも、一人ひとりに合わせたキャリア形成のサポートが求められます。今回は、キャリアカウンセリングの必要性や従業員・企業に与えるメリット、キャリアカウンセリングの導入方法などについて解説します。

目次
キャリアカウンセリングとは

はじめに、キャリアカウンセリングの概要についてご紹介します。
キャリアカウンセリングとは?
キャリアカウンセリングとは、働く一人ひとりが自らのキャリアについて主体的に考え、それぞれが望むキャリアの開発や形成の取り組みを支援する活動のことです。「キャリアコンサルティング」と呼ばれることもあります。
キャリアカウンセリングは、キャリアカウンセラー(資格の有無は問われない)、または国家資格のキャリアコンサルタントが担います。いずれもキャリア形成についての幅広い知識を有しており、カウンセリング(相談)を通して助言や指導を行います。
そもそもキャリアとは?
ビジネスシーンでは、キャリアを「仕事の経歴・経験」や「出世・昇進」という意味で捉えられることが多くあります。しかし、もともとのキャリアには「生涯にわたる経歴・実績」という意味があり、学歴やスキル、人間性など、人生で得る幅広い経験、あるいは生き方そのものを指して使われることもあります。
本来の意味を踏まえると、キャリアカウンセリングは今後の人生をどう生きていきたいのか、どう活躍していきたいのかを考える機会であるともいえるでしょう。
キャリアカウンセリングが必要とされる背景

次に、キャリアカウンセリングが求められるようになった2つの背景要因について解説します。
雇用環境の変化による「キャリア自律」の高まり
大きな要因として挙げられるのが、企業や働く人を取り巻く社会・経済環境の変化による価値観の多様化です。1990年代半ばのバブル崩壊以降、終身雇用の維持が厳しくなると同時に、実力や成果を重視した成果主義にシフトする企業が増え始めました。環境が変化する中で、従業員が主体となってキャリアを考える必要性が増すとともに、自身が望むキャリアを実現するためにより専門性の高いスキルの習得や向上に取り組む「キャリア自律」が求められています。
加えて、働き方改革の流れからリモートワークやフレックスタイム制度、副業制度など、柔軟なワークスタイルが浸透し始めていることで、「仕事もプライベートも大切にしたい」「子育てと仕事を両立したい」「副業で自分の可能性を試したい」など、仕事に対する向き合い方や価値観も多様化しています。
このように豊富な選択肢の中から、一人ひとりが自身に合ったキャリアを歩めるようにするには、客観的な視点からの支援が必要です。そこで、個々の自律的なキャリア形成を後押しする存在としてキャリアカウンセリングが重視されるようになりました。
人的資本経営の推進
もう一つは、人的資本経営の推進においても、キャリア支援が不可欠であるという点です。変化の激しい時代の中で、企業が持続的、安定的に成長していくためには、経営戦略とともに人材育成にも重きを置く必要があります。その中で人材を資本として捉え、投資によってその価値を最大限引き出し、企業価値の向上を目指す「人的資本経営」という考え方が重要視されています。人材の流動性が高まる中で、企業が従業員一人ひとりのキャリア形成、キャリア自律を支援することは、一見メリットが薄いように見えるかもしれません。
しかし、従業員と企業が密にコミュニケーションを取ることは、キャリア観のミスマッチをなくすことにつながります。また、本人の望むキャリア像と企業が目指す方向性を一致させることで、従業員はその会社での役割を見い出せるため、モチベーションやエンゲージメントの向上も期待できるでしょう。このように個々の人材の価値創造や強化に寄与することから、人的資本経営の加速につながります。
キャリアカウンセリングのメリット

キャリアカウンセリングは、カウンセリングを受ける従業員本人にとってプラスになるだけではなく、企業にもメリットを与えます。ここでは、それぞれにおけるメリットを解説します。
【従業員】自己理解につながる
キャリアカウンセラーという客観的な視点を通して、自分の能力や適性を知ることができます。キャリアカウンセリングによって、過去の経験・培ったスキルを棚卸しすることで、自分の思いがけない強みや、自分が大切に思っている価値観が見つかることもあります。また、仕事に関する不安や悩みを言語化できれば「それをどう乗り越えていくか」のヒントを得られる可能性もあるでしょう。
【従業員】キャリアプランを作成できる
キャリアカウンセリングを通して課題や今後の目標が明確にできれば、相談者である従業員が自発的にキャリアプランを作成していくことができます。カウンセラーからは、課題解決や目標達成のアドバイス、人生という長期的な視点に立った意見をもらえることもあります。その目標が現実的なものなのか、達成するために身につけるべきスキルや資格は何なのかを、カウンセラーと一緒に考えていくことで、自身の能力開発や自己啓発につなげることが可能です。
【企業】組織の活性化
キャリアカウンセリングによって、自分がなすべきことや組織の中での自分の存在意義などを理解できると、従業員のモチベーションが高まり、能動的に仕事に取り組めるようになります。意欲的な従業員が増えることで組織全体が活性化すると、生産性や業績の向上も期待でき、組織成長の好循環が生まれます。
【企業】離職防止・組織にマッチした人材育成
従業員が今の仕事に課題や悩みを抱えて転職を考えているような状態であっても、キャリアカウンセリングを受けることで自身のキャリアビジョンの理解が深まれば、会社の新たな価値や可能性に気づけることもあります。「まだ頑張れる」という考えに転換できたり、選択肢が広がったりして、離職防止につながるかもしれません。社内異動や研修、学び直しなどの機会を提供することにより、今の会社でも望むキャリアを形成できれば、組織にマッチした人材育成が可能となります。
キャリアカウンセリングの内容

キャリアカウンセリングでは、さまざまな悩みや不安を相談することができます。ここでは、キャリアカウンセリングで取り扱われるテーマや内容例をご紹介します。
【相談例】
- 新卒で入社したものの、やりたい仕事を担当させてもらえず、モチベーションが上がらない。やりがいのない仕事を続けても仕方がないので、転職しようか迷っている。
- 新しいやり方や効率のよい方法をどんどん取り入れたいのに、上司がそれをよしとしない。コミュニケーションも取りづらく、自分ばかり責められている気がして、一緒に仕事をしていける自信がない。
- 産休・育休を取得し、復帰後は時短勤務のため何度か部署異動をした。ずっと働き続けていた同期達と比べてスキルが積めていないと感じる。これからのキャリアが不安だが、自分はどのような行動をとればよいのか。
- 親の介護が必要になり、両立できないので仕事を辞めなければと思っている。これまで積み上げてきたキャリアを手放すことになるので、本当にこれでいいのかという迷いがある。
企業内キャリアカウンセリングの導入方法

企業内のキャリアカウンセリングは、従業員からの相談を受ける形で実施されます。また、必要に応じて相談者の上司や人事、経営層などとも情報を共有し、従業員が安心して働ける環境づくりや、キャリアアップ、スキルアップに向けた企業の取り組みをサポートします。最後に、企業内キャリアカウンセリングの導入方法についてみていきましょう。
カウンセラーを社内で育成する
キャリア相談を担当する社員を育成し、内製化する方法があります。社内制度に精通しているため、具体的な支援につながりやすいことがメリットです。一方で、体系的な知識がない無資格者が担当すると、担当者の個人的な経験や感覚に頼らざるを得ず、カウンセリングとして適切に機能しない可能性も否めません。育成にかかる時間や費用を考慮すると、完全な内製化は難しい場合もあります。
外部の専門家に依頼する
キャリアカウンセリングを実施している外部の専門機関に依頼する方法もあります。専門的な知識と経験豊富な外部カウンセラーを活用することで、転職だけではなく、自社内での活躍の可能性も含め、幅広い視点でキャリアを見つめ直すことができます。企業として従業員のキャリア形成により注力したい場合には、研修等を併せて依頼することもでき、包括的な支援が可能となるでしょう。
心理専門家による24時間・土日祝・全国対応。働き方に合わせた幅広い相談方法でSNSやWEB面談も可能、多言語までカバー。従来の傾聴型のカウンセリングではなく、考え方や行動の変化まで支援する「認知行動療法」のアプローチをカウンセリングで行います。
対面でのカウンセリング以外にも、メールやオンライン面談、SNSを使ったチャット相談など、従業員が気軽に利用できる相談方法をご用意。従業員のキャリア構築のお手伝いをさせていただくキャリアカウンセリングのほか、メンタルサポートにもご活用いただけます。
企業内カウンセリングの導入ステップ

最後に、企業内キャリアカウンセリングの導入ステップをご紹介します。
①キャリア開発ビジョンを明確にする
企業としての育成ビジョンを掲げ、全体に共有します。単発ではなく、数か年計画として長期的な実施を視野に入れましょう。
②担当者の選任
推進担当者や実務担当者を決定します。キャリアカウンセリングを行う実務担当者は、人事考課に携わるポジション以外から選任することが望ましく、理想は公募です。将来的には、キャリアカウンセリングを行う担当者の育成や、専門知識と技術の向上が行えるようにしていくことも重要です。また、外部の専門家にキャリアカウンセリングを依頼することも有効といえます。
③実施
新しい取り組みとしていきなり始めるよりも、現状の階層別研修等に加えて実施するとスムーズです。キャリアカウンセリング窓口の開設も同時に行いましょう。
④チェック
キャリア面談や研修が、策定した人材育成ビジョンに沿ったものであるか、形骸化していないかを確認します。
⑤人事制度や組織制度の検討・反映
キャリアカウンセリングにより抽出された課題について検討・改善を行います。個人の成長だけにとどめず、必要に応じ人事制度などの組織開発にも役立てます。
キャリアカウンセリングで組織と個の成長へ

働き方やキャリア観が多様化し、自身のありたい姿、理想とするキャリア像を見い出すことが難しくなる現代において、キャリアカウンセリングはますます重要度を増しています。企業は、価値ある人材の育成という観点からも、キャリアカウンセリングを導入し、キャリアの棚卸しや価値観の整理を通して、従業員のキャリア実現に向けた行動を促していくことが求められます。