近年、行動力や問題解決力、コミュニケーション能力など、数値では表すことのできない「非認知能力」が注目を集めています。ビジネスシーンで欠かせない能力の一つともいわれており、大人の非認知能力向上も重要視されつつあります。今回は、非認知能力を高める重要性や注目される背景、大人の非認知能力の伸ばし方について詳しく解説します。
目次
非認知能力とは?
はじめに、非認知能力の概要や種類についてチェックしていきましょう。
認知能力と非認知能力
認知能力とは、IQや学力や体力など、テスト等で測定して数値化できる能力のことです。その人の能力が可視化できるため、認知能力を伸ばすことが重視される傾向にあります。
一方、非認知能力とは思考力やコミュニケーション能力、自己肯定感など、明確な指標がなく数値化が難しい能力の総称です。経済学者のジェームズ・ヘックマン氏らの研究発表によって、非認知能力育成の重要性が示されたことをきっかけに注目されるようになりました。統一された定義は存在しないものの、2015年に経済協力開発機構(OECD)では非認知能力を「社会情動的スキル」と定義し、目標の達成、他者との協働、情動の制御に関わるスキルであると示しています。
参考:OECD「家庭、学校、地域社会における社会情動的スキルの育成」(ベネッセ教育総合研究所 訳)
また、職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力として3つの能力・12の能力要素を掲げているのが、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」です。これらは主体性や実行力、計画力、発信力といった非認知能力から構成されており、自らのキャリアを切り開き、長く社会で活躍していくために必要な力であると述べられています。
さらにビジネスシーンだけではなく、近年は子どもの教育においてもその重要性が認識されており、文部科学省は、新学習指導要領において非認知能力育成のための取り組みを進めています。
しかし注意すべきは、「認知能力が高い」=「非認知能力が高い」ではない点です。また、非認知能力が脚光を浴びていますが、認知能力と比較してどちらがより「重要」であるか、どちらが「必要でない」か、というものでもありません。認知能力と非認知能力は密接に関係しており、相互に作用しながら能力が高まっていくとされています。
非認知能力の種類
非認知能力にはさまざまなものがあります。詳細な定義はないものの、以下のようなものが挙げられます。
<非認知能力の種類例>
■問題解決力 | 自ら課題を発見し、問題解決のために行動・実行する力。目標に向けてやり遂げる力や、失敗を次に活かす応用力なども。 |
■コミュニケーション力 | リーダーシップや協調性、思いやり、傾聴力など。 |
■クリエイティビティ | 創造力、独創力、探求心など。 |
■自己管理 | 自律性、自己肯定感、内省力、自身を客観視できる力、レジリエンス、柔軟性など。 |
非認知能力を高める重要性
学歴が高く、活躍を期待されていた人材が入社したものの、リーダーシップを発揮できない、協調性に欠けていたなど、やや「期待外れ感」を覚えたという経験があるかもしれません。このようなケースでは、目に見える形で表出しにくい非認知能力が影響している場合があります。
社会で働くにあたっては、社内外さまざまな関係者と協働して業務を進めることが求められます。非認知能力を巧みに活用し、他者とコミュニケーションを取り、チームワークを発揮して仕事を進められる人材が重要です。つまり、非認知能力が高い人材は、組織力の向上や成果の獲得などに好影響を与えることが期待されます。企業がさらなる発展を目指す意味でも、非認知能力は重要といえるでしょう。
非認知能力が注目される背景
次に、非認知能力が注目を集めている背景を掘り下げます。
社会的成功の要因とされている
非認知能力の高さは、社会的成功につながる要因の一つとされています。先述したジェームズ・ヘックマン氏の研究では、非認知能力が高まる幼児教育を受けた子どものグループと、受けていないグループを追跡調査し、その後の子ども達にどんな影響があったのかを検証しました。
この研究によれば、非認知能力を高める教育を受けた子どもは、そうでなかったグループの子どもに比べて、学歴や年収・犯罪率の低さなどの社会的成功に関して、明確に好ましい結果が得られたといいます。従来は、IQをはじめとした認知能力が、年収や社会的地位の高さと強く紐づいていると考えられてきましたが、研究によって非認知能力と社会的成功因子との間に相関関係があることが示されました。
非認知能力には、リーダーシップやモチベーションの高さなど、ビジネスシーンでも重視される能力が含まれています。社会的に成功している人物の多くが持っているとされる心理特性「GRIT(やり抜く力)※」も、非認知能力の一つと捉えられています。GRITを持つ人物は、生まれ持った才能や能力に関係なく、後天的な努力の積み重ねで物事を成功に導くことができるとされます。
※GRIT…Guts(度胸)、Resilience(回復力)、Initiative(自発性)、Tenacity(執念)の頭文字を取った言葉
変化する時代への対応が求められている
「人生100年時代」と呼ばれる今、長い人生をより豊かに生きるためにも、非認知能力が重要とされています。ダイバーシティが広まり、幅広い年代や多様なバックグラウンドを持つ人々と関わっていくには、コミュニケーション能力や協調力、違う価値観を受け入れる柔軟性が必要となります。
また、VUCA※と呼ばれる不安定な現代においては、課題発見力や問題解決力、実行力を発揮し、目まぐるしく変化する社会情勢に対応していかなければなりません。企業としても競争が激化する市場の中で生き残るためには、これらの能力を持った人材の育成、確保が求められます。
※VUCA(ブーカ)…Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉
AI技術が発展・普及している
AI(人工知能)技術の発達も一つの要因です。AIは、これまで人間が担ってきたあらゆる仕事を代替するようになると指摘されています。実際、ChatGPTに代表されるようなAIの活用は広まりつつあり、今後もAI技術は目覚ましいスピードで発展していくことが予想されるでしょう。
一方で、AIと人間の共存は可能であるともいわれています。AIはデータの分析や予測、画像や音声の作成、言語処理、計算などを得意としていますが、創造力や共感力に代表されるような非認知能力は現状持ち合わせていません。また感情を機械的に分析し、理解することはできても、人間のように感情的な反応によってコミュニケーションを取ることもできません。アイディアを生み出す、創造力によって物事を成し遂げるなど非認知能力を活かした仕事には、今後も人間の力が欠かせないといえます。AIとの差別化を図り、競争に勝つためには、非認知能力を習得してそれを伸ばしていく必要があります。
非認知能力は大人になっても伸ばせる
非認知能力は、特に幼少期(6歳まで)の育成が重要だと提唱されていることから、幼児教育の領域で語られることが一般的です。とはいえ、「大人になると非認知能力は伸ばせない」という意味ではありません。子どもと比較するとそのスピードは遅いかもしれませんが、継続的なトレーニングや意識付けによって、大人でも非認知能力を向上させることができると考えられています。
非認知能力を高める方法
ここからは、非認知能力を高める方法について、いくつか具体的にご紹介します。
【問題解決力】フレームワークを学ぶ
伸ばしたい能力やスキルのフレームワークを学び、実践しましょう。例えば、課題解決力を伸ばしたい場合にはロジカルシンキングのフレームワーク、発想力を伸ばしたい場合はアイディア創出のためのフレームワークなどが効果的です。型を学び、実践し、振り返りを行う、この一連の流れを繰り返すことで、自身の能力として身につくことを目指します。
【問題解決力】グループディスカッションに積極的に参加する
グループディスカッションは、自分とは異なる視点やアイディアがさまざま出る場となります。自身の考えを話すだけではなく、ほかのメンバーと意見交換をしたり、他者の考えを知ったりすることは、より創造的で有意義な時間となり得ます。また、自身の考えを整理する癖を付ける、異なる考えを受け入れる柔軟性も鍛えられるでしょう。
【クリエイティビティ】新しい視点やアイディアに触れる
視野を広げてさまざまな物事に触れることも大切です。例えば、クリエイティブな活動に参加する、経験したことのないものに挑戦してみる、異なる分野の人と交流するなどして新しい視点やアイディアを得るなどが挙げられます。同時に、自分の固定概念を一旦手放し、柔軟な思考で物事を多面的に捉えようとする意識を持つことを心がけましょう。
【自己管理/コミュニケーション力】感情マネジメントを学ぶ
EQを高めることも重要です。EQとは、感情をうまく管理し、利用できる能力(感情マネジメント力)のことで、ビジネスシーンにおいて必要となる対人コミュニケーションの基礎能力といわれています。EQの高さは非認知能力の高さとも強く関連しており、EQが高い人は柔軟性や共感力が高い、物事に粘り強く取り組めるのが特徴です。ただし、IQや学力などとは異なり、EQは数値が高ければ良いというものではなく、求められる役割によってバランスは変わってきます。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、EQ(感情マネジメント力)向上を目的とした研修を提供しています。研修では、EQ行動特性検査(EQI)で自身の行動傾向を把握し、多数のワークから課題解決に向けた行動変容のヒントを習得、具体的な行動目標を策定・実行します。EQIは、EQ理論をもとに開発された検査で、可視化が難しいといわれているEQを具体的な数値で測定することができます。これにより、個人の強みや弱みを把握し、自己の育成ポイントを見極めることが可能となります。研修を通して個々の非認知能力を高め、チームワークの強化やコミュニケーションの質の向上を目指します。
【自己管理】ストレスに適切に対処する
ストレスとうまく向き合って適切に対処し、精神的な健康を保つことも、非認知能力を高めるための基礎となります。例えばストレスを感じた時に、うまくいっていることに注意を向けて、物事をポジティブに捉えるよう意識を変える、睡眠や休養を十分に取る、リラックスできることや楽しいことをしてストレスから離れる時間をつくるなど、自分に合った方法でストレスに対処・解消すると良いでしょう。
非認知能力を高める際のポイント
最後に、非認知能力を高める際の実践ポイントについてご紹介します。
内省し自己理解を深める
内省とは、自分の心と向き合い、自身の考えや言動を分析することです。内省することで自己理解が深まり、自分の持つ感情や性質、長所や短所に気づけるようになります。
ただ単に心の状態や考えていることを捉えるのではなく、「テーマや目的意識を持って」自分に問いかける、「過去の経験や行動を起点にして」自分の価値観や、いま大切なことを考えたりする、というプロセスを踏むことが重要です。
自分に足りていない非認知能力の要素を把握でき、何の能力を伸ばすべきかのヒントを見いだせるでしょう。また、自身の周囲環境が整理できる、目指すべきものが明確になる、といった気づきにもつながります。
具体的な目標を設定し計画的に実行する
自分が伸ばしたい、高めたい非認知能力を定めたら、具体的な目標を設定し、達成に向けた計画を立てましょう。これにより、取り組むべきことが明確になり、進捗を追いやすくなります。ポイントは、できるだけ数値化・可視化できる目標を定めることです。また行動目標やタスクに落とし込み、計画的に実践していくことが大切です。
【行動目標の例】
- 題解決力を高めたい…週あたりの相談行動の回数を、現状プラス〇回実施する
- 問創造力を高めたい…社内外のワークショップに参加し、企画のアイディアを◯個考える
- 共感性を高めたい…口を挟まず、相槌やミラーリング効果を意識して、最後まで相手の話を聞く
定期的にフィードバックを受ける
非認知能力が向上したかどうか、なかなか自身では評価することは難しいものです。そのため過程においても、周りの人からのフィードバックを受けられる状態にすることが望ましいといえます。メンターや同じ課題意識を持つチームメンバー、他部署の同僚などと目標設定を具体的に共有し、足りない部分や改善できた部分などは都度把握しあいながら、能力向上を進めましょう。
非認知能力がより重要視される時代へ
これまではその重要性を認識されづらかった「非認知能力」ですが、社会と長く関わっていく人生100年時代が到来した今、よりよい生き方を目指すためにはなくてはならない能力とされています。また企業にとっても、変化のスピードが加速している現代社会への対応、AI技術との共存という文脈で、非認知能力の高い人材の獲得、育成は必須といえます。従業員の非認知能力を伸ばすために何ができるか、具体的な取り組みを検討してみましょう。