プレイヤーとして働いていた頃とは求められる役割が変わり、責任も重くなる管理職。昇進は喜ばしいことのように思えますが、特有のストレスやプレッシャーを感じて、メンタル不調に陥ってしまうケースも少なくないでしょう。今回は、管理職がメンタル不調に陥る原因や、企業が取り組むべきメンタルヘルス対策についてご紹介します。
目次
管理職がメンタル不調に陥る原因
初めに、管理職がメンタル不調に陥ってしまう要因について解説します。
業務の負担や責任が重い
管理職は自分の仕事だけではなく、チームのマネジメントや部下のフォロー・育成といった役割も担うため、業務量が多くなりがちです。加えてリーダーとして成果の責任を負うプレッシャー、目標達成への焦りなどから、精神的に追い込まれることもあります。2023年にリクルートが実施した調査によると、ミドルマネジメント層の負担が過重になっていると回答した管理職層は64.7%にのぼりました。
また、同調査ではプレイヤー業務とマネジメント業務の割合についてもたずねており、マネジメント業務が8割以上と答えた管理職層はわずか23.4%にとどまりました。この結果からは、多くの管理職がプレイングマネージャーとして働いていることがうかがえます。管理職として成果を求められる一方で、マネジメント業務に専念しづらい状況、業務量の多さがストレスとなり、メンタル不調につながることが懸念されます。
参考:リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」(2023年)
部下への指導・教育がうまくいかない
部下の指導や教育がうまくいかないと感じている場合も、メンタル不調に陥ってしまう可能性があります。自分が若手だった時代とは価値観が変わっているうえ、年齢や世代の違いで考え方にギャップがあり、どう指導していけばよいかわからないと悩むことも少なくありません。また、厳しい指導がパワハラと捉えられてしまう可能性もあり、若手のモチベーションを下げることなく、一人ひとりに合わせた方法で指導していくことの難しさを感じる場合もあるでしょう。若手が育たないことに対して管理職が責任を問われたり、管理職自身が「自分が力不足だから部下が成長しない」と感じたりして、強いストレスを抱いてしまうケースも考えられます。
そして昨今では雇用延長などにより、役職者だった人物が契約社員・嘱託社員として所属し「年上の部下」となるケースも珍しくありません。「失礼にならないように」「角が立たないように」など、コミュニケーションの中で”やりづらさ”を感じることもあるのではないでしょうか。
組織内で板挟みになりやすい
管理職は、経営層と現場の従業員の橋渡し役となったり、他部署・他部門との連携を図ったりと、組織内で調整役を担うことが多くなります。特にトラブルが発生した場合は、対立している人の間に立ち、双方の意見を聞いて解決策を見出していかなければなりません。このような対応は心理的負担が大きく、業務の進行を妨げる要因になりうるうえ、成果に直結するものではないため、ストレスを感じやすいといえます。また関わる人が多いほど、連絡業務などの物理的負担も増えてしまうでしょう。
私生活で悩みを抱えている
自分自身や家族の健康問題、プライベートの人間関係など、私生活でストレスや問題を抱えている場合もあります。管理職へと昇進する40代前後は社会的にも、身体的、心理的にも変化が多く、心身が揺れ動きやすい時期です。職場ではプレイヤーから管理職として立場が変わり、指導・教育する役割を求められるようになると同時に、自分の能力や役職の限界が見え始める時期でもあります。家庭では、子どもが思春期に入ったり、親の介護が始まったりと、ライフスタイルにも変化が訪れやすい時期です。
さらに、年齢を重ねるにつれて健康上の問題が増え、病気のリスクを抱えやすくなることもメンタル不調を招く要因です。男女問わず、更年期に差し掛かることによるホルモンバランスの変化、体力の衰えなども影響しやすいといわれています。悩みを自覚していても、「誰に相談すれば良いのかわからない」と抱え込んで、身動きがとれなくなっていることもあるでしょう。
管理職のメンタル不調のサイン
メンタル不調のサインは、さまざまな形で現れますが、本人が自覚していない、気づいていないケースも少なくありません。中には、自身の立場や責任感ゆえに一人で抱え込んでしまう人もいるでしょう。周囲がその兆候に気づけると、早めの対処ができるかもしれません。続いては、メンタル不調の兆候についてご紹介します。
周囲が気づきやすいサイン
メンタル不調の兆候は、「ちょっとした違和感・変化」として出てくることがあります。重要なポイントは、普段の様子と異なる点を見つけることです。職場で気づきやすいサインには、以下のようなものが挙げられます。
メンタル不調の兆候
- 時間に余裕を持って行動できていた人が、始業時間ぎりぎりに出社するようになった
- 休暇をよくとるようになった
- 暗い表情をしていることが増えた
- 口数が減った
- 判断力が落ち、ミスが増えた
- 身だしなみがだらしなくなった
- デスク周りが乱れている
- イライラする様子が見受けられる
本人からの不調の訴え・相談
本人が不調を自覚している場合もあります。以下のような相談を受けた場合は、体調面だけではなく、メンタルに不調をきたしている可能性を考慮しておくとよいかもしれません。
メンタル不調の可能性がある相談内容
- よく眠れなくなった
- 疲れやすくなった
- なんとなく体がだるい
- いつも不安で落ち着かない
- 息苦しさを感じる
管理職のメンタル不調が組織に与える影響
管理職のメンタル不調を「単なる個人の問題」として片付けてしまうことは、企業にとって大きなリスクとなりかねません。管理職がメンタル不調に陥ることで、組織に与えるネガティブな影響を解説します。
組織全体の生産性が低下する
管理職のメンタル不調は、組織全体の生産性低下につながるおそれがあります。効率的な業務遂行が難しくなる、判断力が低下するなどして仕事の質が下がると、チーム全体のスムーズな業務遂行にも悪影響を及ぼすでしょう。また、上司が適切なマネジメントを行えなくなることで、部下やチームの不満が大きくなる可能性があります。特に、上司のメンタル状態を知らない部下は、「相談に乗ってくれなくなった」「これまでのようなきめ細かいフォローがなくなった」など、今までとは異なる上司の態度を目の当たりにして、不信感を募らせてしまうことも考えられます。
休職などで管理職が現場から離れると、本人が業務の中で蓄積してきたあらゆる知識や経験、ノウハウが活かされなくなってしまうことも、生産性低下に拍車をかける要因の一つです。
現場の負担が増える
特にプレイングマネージャーの場合、優秀なプレイヤーとしての役割を持つ管理職が抜けることで、マンパワーが減ってしまい、他のメンバーの業務量が増えます。管理職の仕事は代替が難しいものもあり、穴埋めのためとはいえ不慣れな仕事を引き受けることになると、ストレスを感じるメンバーもいるでしょう。困った時に相談できる上司がいない、責任者が不在になることで指示系統が乱れるなど、現場の混乱や不安を招く可能性もあります。
コストが増える
管理職が休職すると、休職中に支払う手当や、代替人員の確保・補充のための費用などが発生します。内閣府の試算によると、メンタル不調などの理由で従業員(30代後半男性・年収600万円)が休職した場合、年間で422万円ものコストがかかると指摘されています。管理職は人件費が高いため、実際にはこの試算よりもコストが増えてしまうことが予想されます。
参考:内閣府「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット」
適切な対応を怠ると法的責任を問われる可能性も
労働契約法により、企業は従業員が安全に働けるよう配慮する義務「安全配慮義務」を負っています(労働契約法第5条)。これには、メンタルヘルス対策も含まれていて、企業や管理監督者が適切に対応しなかった場合、安全配慮義務違反として法的責任を問われるリスクがあります。そのような事態を招かないためにも、あらゆる角度からのメンタルヘルスケア対策が重要です。
企業ができる管理職のメンタルヘルス対策
最後に、管理職のメンタルヘルスケア対策として企業ができる対策を紹介します。
ストレスケアの体制づくり
まずは、メンタルヘルス対策の土台として、管理職を含めた全ての従業員のストレスケア体制を整えましょう。厚生労働省が掲げる「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、企業のメンタルヘルスケア対策として以下のケアが挙げられています。
【4つのケア】
1.セルフケア
従業員が自らのストレスに早めに気づき、適切な対処ができるよう促す。
研修などにより、メンタルヘルスについて学ぶ機会を提供する。
2.ラインによるケア
職場環境の把握・改善、部下のメンタル不調の早期把握、職場復帰の支援など、管理監督者が行うケア。
3.事業場内産業保健スタッフなどによるケア
産業医や衛生管理者などによる支援。
産業医に気軽に相談できる社内窓口の設置など。
4.事業場外資源によるケア
メンタルヘルスケアに関する専門知識を持つ、外部機関やサービスを活用したケア。
「4つのケア」の具体施策については、以下の記事で詳しく解説しています。
各種サーベイの活用
管理職のストレス状態を把握する目的で、各種サーベイを活用するのも効果的です。ストレスチェックと併せて、短いスパンで繰り返し実施するパルスサーベイを行うことで、不調の兆候に早めに気づける可能性があります。
組織・個人の課題解決を促進するパルスサーベイ「アドバンテッジpdCa(ピディカ)」。メンタルヘルス業界シェアNo.1のアドバンテッジリスクマネジメントが提供する、毎月のサーベイ調査を通じて複合的な課題を抽出・解決します。
管理職向けの研修実施
管理職を対象に研修を行い、一人ひとりのメンタルヘルス意識を向上することも重要です。管理職は多忙な人が多く、個人で学ぶ時間を作ることは難しいため、企業として研修の機会を提供することが大切です。ストレスに対する正しい理解を広げるとともに、改善に向けたセルフケアなどの行動を促しましょう。
当社アドバンテッジリスクマネジメントでは、管理職のメンタルヘルス対策にご活用いただける各種研修プログラムを提供しています。
「メンタルタフネス度向上研修」では、自分の「考え方のクセ」を振り返り、困難に対して前向きに対処するスキルを習得。親しみやすい観点で整理された「ストレスを感じやすい考え方のクセ」について触れ、段階的に検討するワークで自分自身の認知も振り返ります。また、「ストレスマネジメント力向上研修」では、自分のストレス対処傾向をもとに、ストレスとの上手な付き合い方を学ぶことができます。
管理職のストレスの原因となりうるコミュニケーションの課題を解決するには、EQ(感情マネジメント力)の向上も重要です。EQとは、自分自身の感情を客観的に認知し、上手く扱う能力のことです。管理職のEQを高めることは、円滑なマネジメントにも役立つことから、管理職のストレス軽減につながる可能性があります。
管理職向けのマネジメント力、部下とリーダのコミュニケーション、部下のモチベーション・上司の意識改善、長時間労働の削減と。これからの課題にアプローチいたします。252万人のビッグデータを持つアドバンテッジリスクマネジメントがご提供する研修プログラムをご紹介しています。最先端、専門性、実践的の3つの特長を備え、企業が抱えるあらゆる課題に対して最適な研修プログラムをご提案いたします。
悩みを相談できる窓口の設置
従業員の抱えるストレスや悩みを相談できる外部窓口の設置も重要です。例えば管理職向けのカウンセリングやコーチングを受け、第三者の専門家から助言をもらうことで、悩みが解決する可能性もあります。心の健康を維持することができれば、メンタル不調の予防につながることが期待されます。
メンタル不調を未然に防ぐ一次予防の取り組みも重要ですが、二次予防として管理職が大きなストレスを抱えてしまった時への備えも必要です。不調を感じた従業員が速やかに専門家のサポートを受けられるという点でも、相談窓口は重要な役割を果たします。開設の際には、メンタルの不調を感じていなくても相談できること、秘密は守られることなど、安心して利用できる点を周知しましょう。
多忙な管理職をサポートする体制づくりを
管理職は、日々忙しく業務にあたっているうえ、立場上人に助けを求めにくいと感じる人も少なくありません。また仕事で求められる役割が変わるだけではなく、管理職世代はプライベートでも変化が多く、メンタルの不調を引き起こす要因もさまざまです。従業員が心身ともに健康に働ける環境を整えることは、企業に課せられた義務であり、適切に対応しなければ組織の生産性や競争力の低下を招きかねません。企業側からも積極的に働きかけ、多忙な管理職のメンタルケアにつとめましょう。