職場におけるハラスメント行為はさまざまなものが挙げられますが、その一つがモラハラ(モラル・ハラスメント)です。モラハラは、身体的暴力を伴わないハラスメントのため、特に職場では加害の事実が表出しにくいという特徴があります。では、職場におけるモラハラとは具体的にどのような行為が該当するのでしょうか。今回は、職場のモラハラの定義や事例、企業が取り組むべき対策などについて詳しくご紹介します。
目次
職場におけるモラハラとは?
はじめにモラハラの定義を整理した上で、職場におけるモラハラの特徴を解説します。
モラハラ(モラル・ハラスメント)とは
モラハラ(モラル・ハラスメント)とは、「精神的・心理的な攻撃によって相手の心を傷つける行為」です。「モラル」は、直訳すると「倫理観」や「道徳意識」という意味があり、「ハラスメント」は「いやがらせ」を意味します。フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌ氏が提唱した概念です。モラハラは、殴る・蹴るといった身体への暴力を伴わず、言葉あるいは態度のみによって相手を傷つけ、精神的に追い詰めるような行為を指します。
「職場のモラハラ」の定義
厚生労働省による職場のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」では、職場におけるモラハラについて以下のように示しています。
言葉や態度、身振りや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせること
出典:厚生労働省「こころの耳」
業務をスムーズに進めるには、少なからず注意や叱責をせざるを得ない場合があります。このように業務上必要なものや、適切な範囲と認められるものは、モラハラには該当しません。ただし、脅したり威圧したりするような態度や、過度な叱責を執拗に続けるようなケースは、モラハラに当たる可能性があります。
「職場のモラハラ」に当たるとされる具体例
次に「職場のモラハラ」に該当しうる行為について、具体例を交えてご紹介します。
精神的苦痛を与えるような言動
相手に精神的な苦痛を与える発言や行為はモラハラです。暴言や侮辱、陰口、嫌味などの言葉の暴力だけではなく、行動によって精神的なダメージを与えるケースも含まれます。
【モラハラに該当する言動例】
- 容姿についてからかう
- 「それでも◯◯大卒なの?」と能力や人間性を否定する
- 「使えないやつだ」「見ているとイライラする」などの侮辱的な発言
- 周囲に人がいる場所で叱責を繰り返す
- 必要以上に長時間叱責する
- 本人が近くにいると知りながら悪口を言う
- 挨拶を無視する
- 舌打ちやため息をわざとらしくする
- ランチや飲み会などに一人だけ誘わない
業務に関する嫌がらせ行為
業務遂行を妨害するような行為も、モラハラに該当します。
【業務に関する嫌がらせの例】
- 業務上必要な情報や資料を提供しない
- 会議に参加させない
- 期限までに終わらせることのできない量の仕事を押し付ける
- 能力や実力以上のノルマを与える
- 能力に見合わない簡単な仕事ばかり与える
- 指示を何度も変更して困らせる
- 長時間残業させる
- 私的な雑用をさせる
プライベートへの干渉
業務に関係のない、プライベートに干渉する行為もモラハラに当たります。メンバー同士が良好な関係を築けていれば、プライベートに関する会話がなされても問題ないケースもありますが、それはあくまでも一部に限られます。特に上司と部下、先輩と後輩など、上下関係が存在している間柄においては、プライベートを詮索、干渉するような言動は、モラハラと認められる可能性があるため注意が必要です。
【プライベートに干渉する言動の例】
- 恋人の有無や結婚についてしつこく聞き出す
- 性的指向について聞く
- 強制的に飲み会などに参加させる
- プライベートのSNSを監視する
- 休日や業務時間外に、仕事に関係のない連絡を頻繁に入れる、呼び出す
モラハラとパワハラの違い
モラハラとパワハラ(パワーハラスメント)は共通した部分もあり、混同されやすいです。職場におけるパワハラとは、優位的な立場にある人が、業務上の適正な範囲を超えた言動によって相手に心身に苦痛を与えたり、就業環境を害したりすることを指します。パワハラは身体への暴力も含まれますが、モラハラは一般的には精神的・心理的な暴力のみに限られています。
また、モラハラは加害者と被害者の立場の差から生じるものではないため、職場だけではなく家庭や学校でも起こりえる点も特徴です。厳密な定義は異なるものの、「これはパワハラ」「これはモラハラ」と切り分ける必要はなく、あらゆるハラスメントを防止していく取り組みが重要です。
職場でモラハラをしやすい人/受けやすい人の特徴
モラハラをしやすい人、モラハラの被害を受けやすい人には、それぞれ性格や考え方に特徴があるといわれています。
モラハラの加害者になりやすい人の特徴
モラハラの加害者となりやすい人は、他責思考が強く、自己愛や自己防衛が強い傾向にあるとされます。
また、過去に加害者自身がモラハラを受けていた経験があり、適切にコミュニケーションを取る方法がわからず、モラハラに至るケースも少なくありません。具体的には、以下のような特徴がみられます。
【自分は優秀だという強い自負がある】
常に周囲を見下すような高飛車な態度で、自分より劣っているとみなした相手に対しては攻撃的です。自己評価が甘く、自分には才能がある、目立った実績や成果がなくても自分は仕事ができると思い込んでいる人もいます。
【常に自分が正しいと思っている】
プライドが高く、周囲から間違いを指摘されても非を認めません。モラハラ加害者が、「なぜ自分が責められなければいけないんだ」と被害者意識を持っている場合もあるでしょう。
【共感力や思いやりが欠けている】
他人の意見や感情を無視して顧みない傾向があります。相手を思いやることをしないため、相手が傷つき、苦しんでいたとしても「本人のせいで自分は悪くない」と捉えがちです。人を利用することに罪悪感を持たないことも特徴です。
モラハラの被害者になりやすい人の特徴
モラハラの被害者になりやすい人にも、一定の傾向がみられるといわれています。具体的には、以下のような人が被害を受けやすいでしょう。
【責任感が強い】
真面目で責任感が強く、何かトラブルや問題が起こったときに「自分に非がある」という思考を持っている人は、モラハラ加害者に狙われる可能性があります。
【自己主張が苦手】
大人しく、自己主張が苦手で、理不尽な言動を受けても言い返せず、耐え続けるような人は、モラハラ加害者にとって都合の良いターゲットとなりうるでしょう。
【自己評価が低い】
自己評価が低く、相手の言うことを鵜呑みにしがち、相手に依存しがちな人は、モラハラ被害者となる可能性が高いです。
ただし、これらのような人物ではなくても、「加害者より目立った立場にいる」「加害者の意思に沿わない言動をした」など、モラハラ加害者にとって都合の悪い存在と認識された場合は、ターゲットになってしまうおそれがあります。
モラハラを防止するために企業が取り組む対策
ここでは、職場のモラハラを防ぐために、企業が取り組むべき対策についてご紹介します。
ハラスメント対策ルールの策定・周知
職場のモラハラ対策として最も重要なのは、「モラハラを許さない」という企業の姿勢を明確にし、社内に周知・浸透させることです。社内規定や就業規則に、モラハラを含む各種ハラスメント防止のためのルールや罰則を明記し、経営層らトップが積極的かつ継続的に発信を続けることで、未然防止を目指します。
全従業員を対象にハラスメント研修を実施
ハラスメント研修を実施することも有効です。このような研修は、加害者になりやすい管理職など、一部の従業員のみを対象として実施するケースが多いかもしれませんが、共通認識を持つために、本来はすべての従業員に対して研修を行うことが望ましいです。特に、新入社員など年次が浅い従業員は、自分の置かれた環境を「当たり前のもの」として捉えてしまう懸念があります。モラハラがある状況でも「これが普通だ」と感じていると、被害に気づけない可能性もあるでしょう。どのような行為がモラハラに該当するのかを理解してもらい、適切なコミュニケーションの方法を学ぶことで、自身の発言や振る舞いの見直し・改善につなげます。
また、新入社員、中堅、管理職など階層を分け、それぞれの立場にマッチした内容で研修を行うことで、モラハラ問題をより自分ごととして理解できる可能性があります。全員が研修を受けることで、モラハラに対する共通認識ができるため、チームや部署内でのハラスメントに気づきやすくなるという副次的な効果も期待できるでしょう。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、ビジネスシーンにおいて必要となる対人コミュニケーションの基礎能力とされるEQ(感情マネジメント力)向上を目的とした研修を提供しています。研修では、EQ行動特性検査(EQI)で自身の行動傾向を可視化し、多数のワークから課題解決に向けた行動変容のヒントを習得、具体的な行動目標を策定・実行します。
研修を通して個々の非認知能力を高め、チームワークの強化やコミュニケーションの質の向上を目指し、モラハラ防止につなげます。
サーベイによるハラスメントの兆候把握
モラハラを含む各種ハラスメントは、多くの場合、役職者など社内で立場の強い人物から、立場の低い、弱い相手に対してなされることが多いでしょう。また、モラハラは言葉や振る舞いなどによるいやがらせのため、身体的・物理的な暴力以上に目に見えづらく、実態が顕在化しにくいことも特徴です。職場におけるモラハラの兆候を把握するためには、主に年に1度実施するストレスチェックのような「センサス」も有効ですが、パルスサーベイの活用がより効果的です。サーベイは従業員が不安なく回答できるよう匿名で行い、組織全体のハラスメント傾向をチェックしましょう。
<職場のモラハラ把握に役立つ質問例>
- 仕事を行う上でストレスを感じることはあるか
- 部署内の人間関係は良好か
- 上司・同僚などから人格や能力を否定されるような発言を受けたことがあるか
- 業務上必要な連絡を共有されなかった経験はあるか
- 残業を強制されたことはあるか など
組織・個人の課題解決を促進するパルスサーベイ「アドバンテッジpdCa(ピディカ)」。メンタルヘルス業界シェアNo.1のアドバンテッジリスクマネジメントが提供する、毎月のサーベイ調査を通じて複合的な課題を抽出・解決します。
業界No.1の実績と膨大な量のデータ解析から導かれた、組織をプラスの方向へ変えるための組織改善ワンストップサービス「アドバンテッジ タフネス」。独自メソッドによるストレスチェック+αで個人・組織の課題を特定。課題に合わせて様々なソリューションをご提案します。また施策がやりっぱなしにならないよう万全のサポート体制をご用意。定期的な効果検証でPDCAサイクルを回すことで生産性向上を実現します。
ハラスメントに関する相談窓口の設置
モラハラを始めとする、職場における各種ハラスメント防止に向けた体制づくりとして、相談窓口を設けることも有効です。既にカウンセリングサービスを導入している企業も多いかもしれませんが、ハラスメント問題が疑われる場合に、しかるべき企業連携がスムーズに行われるサービスであることが望ましいです。また、従業員が利用しやすいよう、対面での面談だけではなく、電話・メールなどでの相談にも対応できるものがよいでしょう。
<相談窓口を設置する際のポイント>
- 相談者のプライバシーは守られること、不利益が生じないことを周知する
- 社内SNSやポスターなどで相談窓口の存在を発信する
- 担当者を置き、どのように対応するかを明確にしておく
当社が提供する「アドバンテッジ タフネス カウンセリング」では、本サービスをご契約の企業様を対象に、「ハラスメント相談連携ダイヤル」を開設しています。当ダイヤルは、会社には直接伝えづらいハラスメントの事実を、第三者の観点から客観的にヒアリングを進め、情報を整理することを目的としています。当社が相談者の一次対応を請け負うことで、企業が行為者への事実確認や措置など、その後の対応をスムーズに行えるよう、後押しします。
モラハラの相談を受けた際の対処法
前提として、職場におけるモラハラを「生み出さない」ための取り組みを進めることが重要ですが、万が一社内でモラハラ事案が発生した場合に備え、適切な対応方法を理解しておくことも大切です。最後に、従業員からモラハラ被害の相談を受けた際の対処法について解説します。
職場のモラハラ被害対応の流れ
モラハラなど、ハラスメント問題への対応は、プライバシー保護の観点から慎重に行うことが求められます。一方で、時間をかけすぎてしまうと、その間に事態が深刻化してしまうこともあるため、スピード感のある対応も必要です。モラハラ被害の相談や申告があった場合は、以下の流れで対応を行いましょう。
<モラハラ対応の順序>
1.速やかかつ正確に事実関係を確認する
2.モラハラの有無を判断する
3.調査報告書を作成する
4.被害者への配慮の措置を行う
5.加害者に対する処分等の措置を行う
6.再発防止措置を講じる
適切な対策で職場のモラハラを防止
モラハラとは、言葉や振る舞いによって相手に精神的な苦痛を与えるいやがらせを指します。職場におけるモラハラは、役職や立場に関係なく、従業員全員が加害者・被害者となる可能性のあるハラスメントですが、業務上必要な指導・叱責の延長として行われるケースや、役職者が下の立場の従業員を相手に行うことも多く、被害が表面化しづらいことも事実です。モラハラを含め、各種ハラスメント行為の防止に向けた取り組みは、企業の責務です。未然防止を念頭に起きつつも、万が一発生した場合に備え、適切な措置・対応を取れるよう、さまざまな面から対策を行っていきましょう。