近年は、さまざまなハラスメントが社会問題として取り上げられていることもあり、企業のハラスメントに対する問題意識は高まりつつあるといえます。しかし、ハラスメント被害者がさらなるハラスメントを受ける「セカンドハラスメント」についての理解はそれほど深まっておらず、十分な対策がなされているとは言い難い状況です。今回は、セカンドハラスメントの定義や種類、企業がとるべきハラスメント対策について解説します。
目次
セカンドハラスメントとは
はじめに、セカンドハラスメントの概要と問題点を整理しておきましょう。
ハラスメントの「二次被害」
セカンドハラスメントとは、ハラスメントを受けた従業員が被害を相談・申告したことによって生じる二次被害のことです。勇気を出して相談したにもかかわらず、相談窓口の担当者や周囲の従業員からバッシングされたり、威圧感のある対応をされたりすることで、被害者はさらなる精神的苦痛を受けてしまいます。
セカンドハラスメントに潜む問題
セカンドハラスメントは、一次被害であるパワハラやセクハラなどと比較すると認知度が低いといえます。しかし、セカンドハラスメントの事実が明らかになった場合、従業員からの信頼は大きく損なわれてしまいます。また、ハラスメントが発生しても相談されなくなり、事態がより深刻化するおそれもあるでしょう。対外的にも、「ハラスメントを隠蔽する会社」という印象を与えかねず、企業のイメージや価値が大きく下がる可能性があります。
セカンドハラスメントの加害者には「セカンドハラスメントをしている」という認識を持っていないケースも少なくありません。なかには「被害者のためを思って」という善意や親切心から、無自覚にセカンドハラスメントに当たる発言をしている人もいます。このような無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)も、セカンドハラスメントの対策を難しくしている一因です。
ハラスメント被害者は「意を決して相談したのに取り合ってもらえなかった」「裏切られた」と感じてしまい、さらに大きな苦しみを抱えてしまいます。
セカンドハラスメントの種類と具体例
セカンドハラスメントは、誰もが加害者となる可能性があります。次に、セカンドハラスメントの種類について、具体例を挙げながら解説します。
ハラスメント被害の事実を信じない・否定する
「ハラスメント被害の事実を申告しても、周囲や担当者に信じてもらえない」という状況は、セカンドハラスメントに該当します。事実を軽視するような発言は、被害者を苦しめることにつながるため注意が必要です。特に、ハラスメント行為の目撃者がおらず証拠が提示できない、加害者が社内での評価や評判の良い人物である、といった場合に起こりやすいでしょう。
【例】
- 「あなたの勘違いではないですか?」
- 「考えすぎだと思いますよ」
- 「そんなことあるはずがないでしょう」
ハラスメント被害者を責める
ハラスメント被害者を責めるような発言は、典型的なセカンドハラスメントです。特に、セクシュアルハラスメントを受けた被害者に対して、あたかも本人に非があるかのような言葉を投げかけるケースが多くみられます。被害者は、「自分が責められるくらいなら、相談しないほうがましだ」と感じ、泣き寝入りしてしまうこともあります。
【例】
- (セクハラ被害者に対して)「そんな格好をしているのが良くなかったのではないですか?」
- 「なぜ安易に二人きりになったのですか?」
- 「なぜその場で逃げなかったのですか?」
- 「お金目当てで告発したのではないですか?」
加害者を擁護する
ハラスメント加害者を擁護することも、セカンドハラスメントにつながります。加害者をフォローしたり、味方をしたりするような発言は、被害者に「ハラスメントを軽視している」「真剣に対応する気がない」という印象を与えかねません。穏便に済ませたいがために、被害者をなだめる、告発の取り下げを促すような発言をすることもセカンドハラスメントとなる可能性があります。
【例】
- 「◯◯さん(加害者)は誰に対してもそんな態度ですよ」
- 「◯◯さん(加害者)に悪気はないと思います」
- 「◯◯さん(加害者)がいなくなったら仕事が回らなくなってしまいます」
- 「会社やチームのことも考えてほしいです」
特定の価値観を押し付ける
ハラスメント被害者の心情を汲み取らず、個人の価値観を押し付けて解決しようとする姿勢もセカンドハラスメントとなります。事実関係を確認せず、主観的な思い込みに基づいてものごとを判断してしまうと、被害者が不当な扱いを受けるだけではなく、ハラスメント行為の隠蔽につながる可能性もあります。
【例】
- 「私が若い頃はもっと大変だったんです」
- 「うちの会社ではよくあることですよ」
- 「社会人なのだから、それくらい我慢したほうがいいですよ」
- 「自分ならハラスメントとは感じませんが」
告発内容を社内に広める、加害者に知らせる
ハラスメント被害の相談を申告者の許可なく社内に広めたり、加害者本人に伝えたりすることはセカンドハラスメントに該当します。ハラスメント被害はセンシティブな問題であるため、プライバシーへの配慮が不可欠ですが、相談窓口の担当者が情報共有をする過程で不用意に情報が漏れてしまうおそれもあります。
噂話レベルであっても社内に話題が広まれば、「ハラスメントだと告発されるかもしれないから、刺激しないようにそっとしておこう」と被害者が必要以上に気を使われる、逆に「すぐ告げ口する人」だと噂されて風当たりが強くなるなど、被害者が居づらい雰囲気が生まれる可能性もあるでしょう。
特に深刻なケースは、加害者に相談の事実が伝わってしまうことです。時期尚早な段階で担当者が加害者に事実関係のヒアリングをすると、円満な解決ができなくなってしまったり、逆恨みでハラスメントがエスカレートしたりするリスクもあります。たとえ良かれと思ってやったことでも、被害者への配慮に欠けた行為は、相談を受けた側の対応としては不適切です。
被害者にペナルティ・不利益を与える
ハラスメント被害者に不利益やペナルティを与えるような言動も、セカンドハラスメントの一つです。本来ならハラスメントの加害者を異動させたり、懲戒処分したりするなどして対応すべきところ、加害者が重役であるなど社内で重い立場を担っていて異動が容易ではない場合があります。
しかし、代わりに被害者を異動させて解決を図る、不利益をちらつかせて告発を思いとどまらせるようなケースは、セカンドハラスメントに当たります。
【例】
- 「あまり大ごとにするとあなたも社内に居づらくなるかもしれませんよ」
- 「◯◯さん(加害者)は重役だから、あなたが転勤することになりますよ」
- 「あなたの評価が下がって昇進できなくなるから、告発はやめたほうがいいと思います」
セカンドハラスメントの原因
続いては、セカンドハラスメントが起きる原因についてみていきましょう。
ハラスメントを軽視している
セカンドハラスメントが起きる大きな原因の一つが、ハラスメントそのものを軽視していたり、被害者以外の要素を守ろうとしたりする意識が存在していることです。ハラスメント被害者より優先して守られるべきものはありません。しかしこの前提が守られず、「企業としての価値を損なわないこと」に意識が向いてしまうと、ハラスメント被害者の心情を思いやることができなくなってしまいます。
被害者は、単にハラスメントを受けたことによる苦しみだけではなく、事実を打ち明けることや、それによって被害の事実を認めざるを得なくなってしまうことにも苦痛を感じています。ハラスメントの相談を受ける中で、「気にすることない」「大したことない」などと被害を軽んじるような言葉をかけるのは、さらに被害者に精神的負担をかける可能性があるでしょう。
セカンドハラスメントへの認識が薄い
セカンドハラスメントの加害者は、自身が加害者となり得る可能性を認識しておらず、無自覚にセカンドハラスメントを行っていることが多くあります。ハラスメント行為に無関心である、黙認する、もみ消そうとするといった無責任な行動も、セカンドハラスメントへの意識が薄いことが背景にあります。
ハラスメント対策が形骸化している
企業や担当者の認識が甘い場合にも、セカンドハラスメントが起きやすいでしょう。ハラスメント研修などが行われていても、「うちは雰囲気がいいからハラスメントはないと思うが、パワハラ防止法で対策が義務化されているからとりあえず研修を実施している」といったように、教育機会を提供することが目的となっているケースも少なくありません。
「研修をやって終わり」の状態では、ハラスメントへの問題意識が薄れ、実際にハラスメント被害が発生した場合に適切な対応ができない可能性があります。
セカンドハラスメントの対策
セカンドハラスメントを生じさせないためには、どのような対策を行えば良いのでしょうか。ここからは、セカンドハラスメントを防止するためにできる対策を詳しく解説します。
ハラスメントに関する研修の実施
ハラスメントは、「誰もが被害者または加害者」となる可能性があります。セカンドハラスメント含め、自覚なくハラスメントをしている従業員も少なくないため、どのような言動がハラスメントに当たるのかを理解してもらうのを目的に、全従業員を対象に研修を行うことが有効です。
ハラスメントへの理解が深まれば、自然と「セカンドハラスメント」防止にもつながります。研修では、自身の考え方や行動について振り返りながら、行動変容を促せるような内容を扱うことが重要です。
併せて、ハラスメントの相談を受けた場合の対応方法について学ぶ機会も設けましょう。アドバンテッジリスクマネジメントでは、従業員向けのハラスメント研修プログラムも取り扱っています。
アドバンテッジリスクマネジメントのハラスメント防止研修では、管理職から一般社員、相談窓口担当者向けまで、あらゆる社員に向けた研修をご提案します。アンコンシャス・バイアスやEQなどハラスメントの根本的要因に踏み込んだ研修もご提供しています。
心理的安全性の高い環境の構築
ハラスメントを相談する際に、誰もが安心して自分の意見や気持ちを伝えられる「心理的安全性」の高い環境を構築することも重要です。日頃からコミュニケーションが充実し信頼関係が築ければ、ハラスメントおよびセカンドハラスメントも発生しにくい環境が生まれるでしょう。
傾聴力の向上
ハラスメントの被害者から話を聞く場合は、相手の言葉を否定したり、安易な同情やアドバイスをしたりするのは避け、親身になって傾聴することが大切です。ハラスメントの有無の判断とは切り離して考え、聞き役として状況把握につとめることが、セカンドハラスメント防止につながります。またトラブルを生じさせないためにも、ヒアリングを通して知り得た事実は第三者に許可なく口外しないようにしましょう。
ハラスメントの相談窓口の設置
セカンドハラスメントを含む各種ハラスメント防止に向けた体制づくりとして、相談窓口を設けることも有効です。相談者に不利益が生じないことを周知し、適切な対応ができるよう運用体制を整えます。
外部のカウンセリングサービスを導入する場合は、ハラスメントの相談があった際に企業としてしかるべき連携がスムーズに行われるかという点にも注目します。従業員が利用しやすいよう、対面での面談だけでなく、電話・メールなどでの相談にも対応できるものが望ましいでしょう。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、ハラスメント相談の対応も可能なカウンセリングサービスを提供しています。
心理専門家による24時間・土日祝・全国対応。働き方に合わせた幅広い相談方法でSNSやWEB面談も可能、多言語までカバー。従来の傾聴型のカウンセリングではなく、考え方や行動の変化まで支援する「認知行動療法」のアプローチをカウンセリングで行います。
ハラスメントの相談を受けた場合の流れ
最後にハラスメント行為が発生した場合や、ハラスメントを相談された場合の対処方法について、基本的な流れをご紹介します。人事担当者として重要なプロセスとなりますので、理解を深めておきましょう。
ハラスメント対応の基本的な流れ
ハラスメント対応は、センシティブな問題であるため慎重な対応が求められます。ハラスメント被害者から申告があった場合には、以下の手順で対応しましょう。
<ハラスメント対応の順序>
1.事実関係を迅速かつ正確に確認
2.ハラスメント行為の有無を判断
3.調査報告書の作成
4.被害者への配慮の措置
5.加害者に対する処分等の措置
6.再発防止に向けた措置
より詳しい対応方法については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
無自覚に起きやすいセカンドハラスメントを防ぐ
セカンドハラスメントとは、セクハラやパワハラなどのハラスメント被害者が、周囲や第三者に被害を申告・相談した際に起きる二次被害です。比較的認知度は低いものの、他のハラスメントと同様に深刻な問題でもあります。
加害者の肩を持つような軽はずみな発言や、被害者を責めるような言葉がけによって、ハラスメント被害者にさらなる苦痛を与えることがあってはなりません。たとえ励ますつもりであったとしても、思い込みや個々の価値観に基づいた発言は、自覚なく相手を傷つけてしまいかねないため注意が必要です。企業としても、ハラスメントそのものを生じさせない環境づくりと併せて、セカンドハラスメントについての理解を深めていく取り組みが求められます。