日々の生活を送る中で、ストレスを避けて通ることは難しいものです。同じようなストレスに直面しても、うまく乗り越えられる人とそうでない人がいるように、ストレス耐性の高さは一人ひとり異なります。ストレス社会と呼ばれる今、ストレスにうまく対処する力を身につけることは大変重要です。今回は、ストレス耐性が低い・高い人の特徴や、ストレス耐性を高める方法などについて詳しく解説します。
目次
ストレス耐性とは?
ストレス耐性とは、ストレスを感じる原因(ストレッサー)に直面した際に、適応し対処できる能力を表します。ストレッサーは心理・社会的、物理的、科学的要素などさまざまで、これらの刺激を受けることで心身にストレス反応が生じます。
ストレス耐性の高さは一人ひとり異なるので、困難な状況に直面した時にうまく乗り越えていける人もいれば、難しく感じる人もいるでしょう。
ストレスについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
ストレス耐性を決める6つの要素
ストレス耐性の高さには、以下6つの要素が深く関わっています。
- ①容量
- ②感知
- ③処理
- ④経験
- ⑤回避
- ⑥転換
各要素の特徴についてみていきましょう。
①容量
容量とは、ストレスをどの程度受け止められるか、どのくらい溜めていられるかを示します。容量の大きい人は精神的な許容範囲が大きく、ストレスを受けても心身の不調を感じにくいのが特徴です。一方、容量が小さいとわずかなストレスであっても耐えることができません。
容量は一人ひとり違うだけではなく、その時々の心身の状態によっても変わってきます。もちろん、明確で具体的な容量が決まっていたり、リミットがあったりするわけではありません。
②感知
感知とは、「ストレスだ」と気づく力を指します。感知能力が高い人は、ストレスに敏感であるといえます。一方、感知能力が低い人はストレスの原因となるものがあっても、それ自体に気づくことがなければ、ストレスを感じることもありません。すなわち、感知能力が低いほどストレス耐性が高いといえるでしょう。
感知能力は、「几帳面」「せっかち」「おおらか」「楽観的」など、個々の持つ性格に影響されることが多いと考えられています。
③処理
処理とは、ストレスの原因に対処し、取り除いたり弱めたりする力のことです。処理能力が高い人は、ストレスを感じるような困難やトラブルに直面した場合にも、問題解決のために適切な行動がとれます。一方、処理能力が低いと焦ったり、パニックに陥ったりしやすく、冷静な対応が難しい可能性があります。
④経験
経験とは、過去にストレスを感じるようなできごとにどの程度直面したことがあるか、という経験値のことです。「過去何度も同じようなタイプのストレスを経験」し、そして「その都度対処した経験」が積み重なると、徐々にストレスに慣れてきます。その結果、ストレスを感じにくくなったり、ストレスへの対処が上手にできたりするようになります。
ただし、人によっては繰り返し似たようなストレスを受けることで、かえってストレス耐性が低くなる可能性もあるでしょう。
⑤回避
回避とは、ストレスを感じるようなできごとや、状況を避けられる力を指します。ストレスの要因となるものから根本的に離れることで、ストレスによる影響を受けにくくするのが特徴です。
回避の力は性格が大きく関係しているといわれており、物事を割り切って考えられる人はストレス耐性が高いとされています。また、心身の状態が良好に保たれていると、ストレスを回避する力が高くなるともいわれています。
⑥転換
転換とは、ストレスを感じるネガティブな状況を、ポジティブに捉え直す力のことです。例えば仕事で失敗してしまった時、「また同じミスをしてしまった」とマイナス方向だけに考えてしまうのではなく、「失敗したけど、うまくできた部分もあった」「成長につながった」など、プラスの面を見つけることができる人は、転換の能力が高いといえます。
ストレス耐性が低い人と高い人
同じストレッサーでも、人によってストレスへの反応は異なります。ストレス耐性が高ければ、ストレスフルな環境の中でも高いパフォーマンスを発揮でき、心身の健康を維持しやすくなります。一方、ストレス耐性が低くストレスを強く感じやすいと、心身の不調を引き起こしかねません。
ストレス耐性が低い人の特徴
ストレス耐性が低い人には、いくつかの特徴的な傾向がみられます。これらの性格や考え方は、仕事を遂行するうえではプラスに評価される部分も多いですが、ストレス耐性という意味では注意したいポイントです。
まじめで責任感が強い
まじめで責任感が強い人は、与えられた仕事を「きちんとやり遂げなければ」という考えから、トラブルや問題が起きた時にも「自分でなんとかしよう」「自分がやらなければ」と無理をしてキャパシティオーバーになってしまうケースがあります。周りに頼れず、一人で抱え込むことでストレスを溜めてしまいます。
几帳面で完璧主義
几帳面で何事もきっちりと取り組む完璧主義な人も、ストレスを抱えやすい傾向にあります。コツコツと努力を重ねられるタイプであるため、職場では優秀な人と評価されやすいですが、いっさいの妥協ができず自分を追い詰めてしまう、他人にも完璧を求めるなど、ストレスの多い状況に陥りやすくなります。
周囲に合わせすぎる
協調性が高い人は気遣いができ、周りの状況に合わせながら臨機応変に行動ができます。ただし、周囲に合わせすぎて自分の意見を言えない、過度に抑え込んでしまうことがストレスとなり、疲弊する可能性があります。
気持ちの切り替えが難しい
気持ちの切り替えが難しく、失敗を引きずりがちな人は、ストレス耐性が低いといわれています。過去の小さなミスを気にして、一日中悩んでしまったり、やるべきことに集中できなくなってしまったりすることもあるでしょう。オンとオフの切り替えができず、プライベートの時間でも嫌な気持ちを抱えてしまうため、徐々にストレスが溜まっていきます。
ストレス耐性が高い人の特徴
次に、ストレス耐性が高い人の特徴を4つご紹介します。
自己肯定感が高い
自己肯定感が高い人は、ストレス耐性も高い傾向にあります。自己肯定感とは、「ありのままの自分を受け入れる」感覚のことです。
自己肯定感が高い人は自分の軸を持っていて、他人からの評価を気にしすぎたり、叱責されても必要以上に自分を責めたりしません。たとえ失敗しても、「自分自身の価値は変わらない」と感じるため、強いストレスがかかる状況でも心身に影響を受けにくく、自分の信念に基づいて問題解決のための行動をとれます。
自分軸があり“マイペース”
自分の軸を持っていて、良い意味でマイペースでいられる人も、ストレス耐性が高いといえます。自分の意見を抑え込み、周りに合わせて無理をしないため、ストレスを感じるできごとをうまく回避できます。
ポジティブで楽観的
困難な状況に直面しても「なんとかなる」「成長するチャンスだ」と、ポジティブで楽観的な考え方ができる人は、ストレス耐性が高いでしょう。失敗しても深く落ち込んで悲観的になりにくく、「次に活かそう」「切り替えて頑張ろう」と前向きに捉えられるため、ストレスの影響を受けにくいといえます。
「今やるべきこと」に集中できる
ストレスの多い状況にあっても、「今やるべきこと」に集中できる人は、ストレスを感じにくいといえます。目の前の作業や仕事に没頭できると、「失敗したらどうしよう」といったネガティブな思考や悩み、不安にとらわれにくいため、高いパフォーマンスを発揮できます。
自分の考えや感情に振り回されている状態に対処し、より大事なことに集中できるようにするプロセスである『グラウンディング』については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ストレス耐性をチェックする方法
ストレス耐性の高さは一人ひとり異なり、またその人の心の状態によっても変化するものです。続いては、ストレス耐性をチェックする方法についてご紹介します。
「ストレス耐性度チェック(STCL)」
インターネット上でもいくつか掲載されていますが、心療内科受診者に対して用いられている「ストレス耐性度チェック(STCL)」があります。これは「冷静な判断をする」「前向きである」「配慮をする」といったような20の質問に対して、めったにない(1点)・ときどき(2点)・しばしば(3点)・いつも(4点)の4択から回答し、合計点からストレスの耐性度合いをチェックするものです。合計点が20~40点ならストレス耐性が低い、40~50点なら平均的、50~80点ならストレス耐性が高い人と定義されます。
外部の適性検査ツールを利用する
専門企業が提供しているストレス耐性をチェックする各種適性検査を活用する方法もあります。それぞれ特徴や強みが異なるため、自社に合ったものを選択しましょう。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、ストレス耐性に関する項目を含む適性検査サービスを提供しています。
当社が提供する適性検査「アドバンテッジ インサイト」は、環境変化に対応し高いパフォーマンスを発揮できる人材に求められる特性を測定する検査です。主にEQ能力、コンピテンシー、潜在的なストレス耐性を測定しており、ビジネスにおいて大切なストレスに対する強さをもつ人材や、能力だけでなく行動力を伴った人材など、求める人材像をさまざまな指標から数値化・可視化して見極めることが可能です。
【個人】ストレス耐性を高める方法
ストレス耐性を高めるためには、自分自身のストレスに適切に対処する「ストレスコーピング」が役立ちます。ここでは、ストレス耐性を高めるために個人ができる取り組みを2つご紹介します。
ストレスの捉え方を変える
ストレスの捉え方を変える、思考のフレームワークを身につけることも有効です。下記にていくつかご紹介します。
【ABC理論】
ABC理論とは、アルバート・エリスが提唱した概念で、Activating events(できごと)、Belief(信念、認知)、Consequences(結果)の頭文字をとったものです。平たく言えば、A「できごと」をどのようなB「信念」で捉えるかによって、C「結果」が変わるという考え方です。
例えば目標を達成できなかった時、「自分はダメなんだ」と考えるのではなく、「結果はダメだったけど次に活かして頑張ろう」と捉えることで、モチベーションが生まれます。
【SOC(首尾一貫感覚)の向上】
SOCとは「Sense of Coherence」の頭文字をとった言葉です。SOCを構成する有意味感(どんなことにも意味がある)、把握可能感(これからの展開や未来がわかる)、処理可能感(自分ならできる)の3つの感覚を高めることが、ストレス耐性の向上につながるとされています。
【加点主義】
減点主義ではなく、加点主義で成功体験を増やしていくことも大切です。問題点や反省点ばかりに目を向けるのではなく、その中でもうまくいったことや気づきに注目する、次の目標にフォーカスするなど、プラスの面を意識します。
ストレスコーピングを実践する
自分のストレスを理解し、うまく対処する「ストレスコーピング」を実践してみましょう。自分の考え方や行動思考などを知っておくと、ストレスが溜まりにくくなります。
例えば、自分がどのような場合にストレスを感じるのか、その時どのようなストレス反応が生じるのかを把握しておくことも一つの方法です。つい悪い方向に考えてしまう心のクセや思考パターンを、「認知の偏り」といいます。自身の認知の偏りを知っておくと同じようなストレスを抱えた時に、「悪い方向に考えるいつものクセが出ている、でも実際はきっとそれほど悪いことではない」と、楽観的に物事を捉えられる可能性があります。
また、自分なりの方法でリフレッシュし、ストレスを解消することも重要です。ストレスに対処する手段は複数持っておき、すぐに取り組めるものも知っておきましょう。十分な睡眠を取る、適度な運動をする、深呼吸をするなども有効です。
【企業】従業員のストレス耐性を高める方法
近年は、働く人のメンタルヘルス問題が深刻化しており、厚生労働省が実施した令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、現在の仕事や職業に関することで、強い不安やストレスを抱えていると答えた人の割合は82.2%にのぼっています。
職場におけるメンタルヘルス対策の重要性が高まっている今、従業員のストレス耐性を高めるための取り組みを進めていくことは、企業にとっても重要です。ここからは、従業員のストレス耐性を高めるため、企業側が実施すべき取り組みをご紹介します。
ワークライフバランスの推進/従業員の健康管理に努める
基本的なところではありますが、からだが健康な状態であることは、ストレスを許容できる“容量”を広く保つことにつながります。そのため、従業員の生活が仕事に偏りすぎないようワークライフバランスを推進し、従業員の健康管理に努めることが重要です。
日常的な長時間労働や休日出勤などを見直し、働き方を工夫しなくてはいけません。例えば、リモートワーク制度の導入、休暇制度の取得を促進するような仕組みづくりなどが挙げられます。
1on1などを通じてコミュニケーションを活性化させる
職場におけるコミュニケーションを活性化させることも重要です。悩みや困りごとを相談しやすい環境であれば、ストレスに直面した時でもチームのメンバーや上司に話を聞いてもらうことで、ストレスにうまく対処する方法を見出せたり、困難な状況をポジティブに捉え直せたりする可能性があります。
これらは、ストレス耐性の要素における「処理」や「回避」の能力を高めることにつながります。1on1など、従業員と定期的な面談の実施も有効な方法の一つです。
社内でのフォローが難しい場合は、産業医などの産業保健スタッフや外部相談窓口を設置するなど、第三者に相談できる環境を整えることもおすすめです。
心理専門家による24時間・土日祝・全国対応。働き方に合わせた幅広い相談方法でSNSやWEB面談も可能、多言語までカバー。従来の傾聴型のカウンセリングではなく、考え方や行動の変化まで支援する「認知行動療法」のアプローチをカウンセリングで行います。
ストレス理解や、「メンタルタフネス」向上の研修を実施する
ストレス耐性を高めるための研修の実施も有効です。従業員全員がストレスに対する理解を深めれば、自身のストレスに適切に対処できることが期待されます。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、自分の「考え方のクセ」を振り返り、困難に対して前向きに対処するスキルを習得する「メンタルタフネス度向上研修」を提供しています。親しみやすい観点で整理された「ストレスを感じやすい考え方のクセ」について触れ、段階的に検討するワークで自分自身の認知も振り返ります。
※メンタルタフネスとは:困難に直面しても、悪い感情に振り回されずに前向きに対処できる能力
さらに当社では、「アドバンテッジ インサイト」の結果を用いて若手社員のストレス耐性を高める、「ストレスマネジメント力向上研修」も提供しています。当研修の受講者は事前にWeb検査を受検し、現在のストレス状態や、ストレスを感じやすい性格傾向、ストレスに対処する力、ストレスを緩和する力などを測定します。研修ではストレスに関する基礎知識をはじめ、検査結果から自身のストレス耐性の特徴を知り、自身の特徴に合った対処方法を学ぶことで、ビジネスにおけるストレスにしなやかに対応できる人材を育成します。
ストレス耐性を高めてメンタル不調を未然防止
ストレス耐性の高さは、メンタルヘルスの不調に大きく関係しています。しかし、どの程度のストレスを許容できるか、乗り越えられるかは一人ひとり異なり、またその時々の状態によっても変化する可能性があります。従業員のストレス耐性を高めるための施策は、企業のメンタルヘルス対策推進の観点からも重要です。ストレスチェックの結果分析、研修の実施、定期的な面談の実施など、幅広く取り組みを進めていきましょう。