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ジョブ・クラフティングとは?メリットや実践手順、おすすめ研修例を紹介

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

急速に変化する市場への対応や働き方の多様化などを背景に、従業員がより主体的に仕事に取り組める環境づくりが一層重要性を増しています。「自らの仕事にやりがいを見出す」手法の一つに、ジョブ・クラフティングという考え方があります。本記事では、ジョブ・クラフティングの定義や視点を整理し、そのメリットや導入手順、おすすめの研修についてご紹介します。

ジョブ・クラフティングとは?

黄色と黄緑に分かれた壁紙の中央に置かれた鉛筆

はじめに、ジョブ・クラフティングの定義や目的、ジョブ・デザインとの違いについて押さえておきましょう。

ジョブ・クラフティングの定義

ジョブ・クラフティング(job crafting)とは、アメリカのレズネスキー博士とダットン博士によって提唱された概念です。「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」と定義されます(Wrzeniewski & Dutton, 2001)。

簡単に言えば、自らの認知や行動を主体的に変容させて、「やらざるを得ない」あるいは「退屈な」「苦手な」「興味のない」仕事を、「やりがいのある仕事」として認識し、前向きに取り組めるようにしていく考え方です。

ジョブ・クラフティングが注目される背景

ジョブ・クラフティングが注目される背景には、市場ニーズの多様化や細分化、トレンドの変化が加速していることが挙げられます。不確実で流動的な市場変化に対応するためには、スピーディーな意思決定と行動が求められます。そのためには上からの指示を待ち、指示を受けてから動くのではなく、熱意を持って主体的に行動する従業員の存在が不可欠です。

また働き方や仕事に求めるものの多様化も、ジョブ・クラフティングが関心を集める要因の一つです。与えられた仕事を淡々とこなすのではなく、やりがいや充実感を持って働きたいという人も増加しています。

ジョブ・デザインとの違い

ジョブ・クラフティングと似た文脈で語られることの多い考え方の一つに、「ジョブ・デザイン」があります。どちらも従業員がやりがいやモチベーションを高く持って仕事に取り組めるようにするためのアプローチという点は共通していますが、ジョブ・デザインは企業あるいは上司が主体となり、従業員のモチベーションが高まるように仕事の割り振りや職務を変更するため、従業員は受け身的な立場となります。

一方、ジョブ・クラフティングは従業員が主体となって取り組みを進めることが特徴です。また、ジョブ・クラフティングは一人ひとりの「仕事の捉え方」を変えてモチベーション向上を目指す、ジョブ・デザインは組織の視点から「仕事の設計」を変えるため、アプローチ方法がそれぞれ異なることもポイントです。

【ジョブ・クラフティング】 3つの視点

黄色の背景と並んだ3つの星

レズネスキー博士らは、ジョブ・クラフティングを、「タスク・クラフティング」「関係性クラフティング」「認知的クラフティング」の3つの視点に分類しています。次に、各視点の特徴と例についてご紹介します。

タスク・クラフティング

タスク・クラフティングは、普段取り組んでいるタスクの量や内容、取り組むための方法そのものを変化させることです。

【例】

  • 仕事の効率化を進めるために、新しいツールを導入する
  • 仕事に優先順位をつけ、急ぎのものから作業を進める
  • 仕事の質を上げるために、工程を加える

関係性クラフティング

関係性クラフティングとは、業務を遂行する上で関わりを持つ人との関係性を見直したり、変化させたりすることです。仕事の中には、チームの同僚や上司とコミュニケーションをとりながら進めていく必要のあるものも多いでしょう。他者の存在が、自分の仕事の捉え方に対する手がかりをもたらし、仕事経験にも影響を及ぼす可能性があると考えられています。

【例】

  • これまで関わりが少なかった部署のメンバーとコミュニケーションをとれる場に参加する
  • より積極的に上司や先輩にアドバイスを求める
  • チーム内でフィードバックし合えるようメンバー同士の関係性を深める

認知的クラフティング

認知的クラフティングは、個々のタスクや担っている仕事全体についてどのように捉えるのか、仕事に対する認識や考え方を変え、より価値のある取り組みにしていくものです。このプロセスを経ることで、社会とのつながりや貢献といった幅広い側面から自分の仕事を見つめ直すことができます。これにより、自身の仕事に誇りややりがいを感じられるようになることが期待されます。

【例】

  • 自分の仕事が社会にどう貢献しているのかを考える
  • 仕事を通して顧客に提供する価値は何かを考える
  • 自己の成長と仕事との結びつきを考える

ジョブ・クラフティングを導入するメリット

グレーの背景と木の階段とダーツボード

ジョブ・クラフティングを実践することは、従業員個人だけでなく、組織にも大きなメリットをもたらします。続いては、ジョブ・クラフティングのメリットについて解説します。

従業員エンゲージメントの向上

自分が会社や組織に提供できる価値を見出し、意識変容につなげるジョブ・クラフティングの取り組みは、従業員のエンゲージメント向上に寄与します。業務との向き合い方を見直すプロセスの中で、自らの仕事が組織や社会にどのような影響を与えるのかを深く理解できると、「仕事をやらされている」という感覚が「やりがいのある仕事をしている」「自ら進んで仕事をしている」という認識に変化し、「この会社で働き続けたい」「この会社で成長したい」という意欲につながります。

また、ジョブ・クラフティングでは、業務の向き合い方を見直すだけではなく、ビジョンや目標の共有なども丁寧に行うため、自社のビジョンや理念への共感も深まるでしょう。従業員の創造的なアイディアや能動的な取り組みを認め、意見を積極的に取り入れる、部署内外の従業員との関係性構築を促進することも、エンゲージメント向上に貢献します。

生産性の向上

一人ひとりの意識の変化は、組織全体の生産性向上にも大きな影響を与えます。例えば、仕事上の問題点や課題を自ら改善しようとする、業務の効率化を図ろうとする、従業員同士で協力し合うといった姿勢がみられるようになります。

仕事に対して前向きに取り組める人が増え、チームや組織がポジティブな雰囲気であれば、生産性向上のための大きな変化やイノベーションも受け入れられやすくなるでしょう。自発的に業務に向き合うことで新たなアイディアが生まれる、さらなるパフォーマンス向上が見込める可能性もあります。

コミュニケーションの活性化

組織内のコミュニケーションが活性化することもジョブ・クラフティングのメリットです。主体性を持って仕事に取り組んでいる状態であるため、適切なコミュニケーションがとれるだけではなく、積極的かつ建設的な意見交換も可能となります。メンバー間に信頼関係が構築されていれば、「ミスをすぐに報告できる」「相談やアドバイスを求めやすい」など、心理的安全性の高い環境がつくられます。

従業員の離職防止

ジョブ・クラフティングによって、従業員の離職率低下も期待できます。仕事にやりがいを感じられない場合、より魅力的な仕事や待遇の企業に転職してしまうことも少なくありません。しかし、やりがいを見出していれば、待遇や給与だけではない、自社ならではの魅力に価値を感じてもらえるため、「長く働きたい」という気持ちが生まれ、定着につながります。

ジョブ・クラフティングの実践手順

縦に重なった123が書かれた木のブロック

ここからは、ジョブ・クラフティングの進め方について解説します。

①業務内容を洗い出し、現状を把握する

まずは、従業員一人ひとりが自分の取り組んでいる業務やタスクをすべて洗い出し、現状を把握します。自分の仕事を丁寧に振り返って作業を細かく分類し、すべての項目を抽出することが重要です。併せて、各タスクにかかる時間や重要度を明確にしておくとよいでしょう。

②自分の強み・弱みを多角的に分析する

次に、従業員自身が自分のスキル・能力、あるいは強み・弱みを分析します。これまでに仕事でどのような成果を挙げたか、成し遂げたことはあるか、また自分の興味や関心、特技などあらゆる視点から強みを明確にします。

なかには、自分自身と第三者の認識にズレが生じている可能性もあるため、上司や同僚など客観的な視点を取り入れることも必要です。じっくりと自分を見つめ直すことで、どのように仕事に向き合っていきたいかという理想を見出せるでしょう。

また、現状では活かしきれていないスキルや不得意なこと、苦手なことなども分析し、課題を見つけることも大切です。

③業務の捉え方や取り組み方、他者との関係を見直す

洗い出したタスクと自己分析によって明確になった自身の強みを組み合わせ、「業務の捉え方」を根本的に見直します。今取り組んでいる仕事は周囲にどのような影響を与えているのか、組織にどのような利益をもたらし、顧客や消費者にどのような価値を提供しているのか、その意義を明確にすることで、「やらされている」仕事を「価値のある仕事」として認識できるようになるでしょう。

併せて、よりやりがいを感じられるようにするために改善できることや、工夫できることはないかという視点でも業務を整理します。同時に、周囲の人との関わり方についても検討し、協力し合える関係性を築くことも必要です。

ジョブ・クラフティング導入のポイント

最後に、ジョブ・クラフティングを導入する際のポイントと注意点をチェックしておきましょう。

従業員の主体的な姿勢を尊重する

ジョブ・クラフティングは、従業員が主体的に取り組みを進めることが重要です。そうはいっても、従業員自身が完全に主体的に取り組むことにはハードルがあるかもしれません。企業側はそのきっかけを提供し、支援することが求められます。ただし、従業員が「上の命令でやらされている感覚」を抱いてしまうと、せっかく業務との向き合い方を改善しても、本質的な意味でやりがいを見出し、モチベーション向上につなげることは難しいでしょう。

企業や上司の価値観を押し付けたり、強制したりすることは、ジョブ・クラフティングの意義から外れてしまい、単なるやりがい搾取になる可能性がある点にも注意しなくてはいけません。メリットや実践方法を伝える、理念や価値観を共有することは重要ではあるものの、あくまでも従業員の主体性が尊重されるよう取り組みの方法を工夫することが大切です。

業務の属人化を避ける

ジョブ・クラフティングによって従業員の主体性を引き出すことは大切ですが、行き過ぎると業務の属人化が起こってしまいます。「この仕事は●●さんに聞かないとわからない」といったように、一部の業務が特定の従業員に依存している状態は、デメリットといえるでしょう。

企業としては、ジョブ・クラフティングによるメリットを得ながらも属人化を避けるために、定期的な情報共有やフィードバックを行い、業務の標準化を目指すことが求められます。

取り組みをシェアできる場を設ける

仕事を共有し合う社員達

ジョブ・クラフティングは、一連のプロセスを繰り返し実施していく必要があります。より効果的に実践していくためにも、従業員がお互いの取り組みについてシェアする機会を設けるとよいでしょう。この後にご紹介する研修などを実施するのも有効です。

ジョブ・クラフティングの対象とする業務を見極める

ジョブ・クラフティングは、各々がやりがいを見出し、主体的な行動につなげる取り組みです。そのため、チームワークが求められる業務へ導入すると個々の方向性が一致せず、対立したり、統制がとれなくなったりする可能性があります。業務の性質やシーンを慎重に見極め、適切に活用していきましょう。

ジョブ・クラフティングにおすすめの研修

清潔感のある会議室

ジョブ・クラフティングにつながるおすすめの研修についてご紹介します。当社アドバンテッジリスクマネジメントでも、ジョブ・クラフティングの取り組みに効果的な研修プログラムを提供しています。

困難も前向きに対処できる“メンタルタフネス”の向上

「仕事をやらされている」という感覚を「自ら進んでやっている」という前向きな意識に転換していくには、メンタルタフネス度の向上が重要です。「メンタルタフネス度向上研修」は、自分の「考え方のクセ」を振り返り、困難に対して前向きに対処するスキルを習得する研修プログラムです。

親しみやすい観点で整理された「ストレスを感じやすい考え方のクセ」について触れ、段階的に検討するワークで自分自身の認知の振り返りも行います。研修を通して、仕事に対してポジティブに向き合い、捉えるためのヒントを得られるため、ジョブ・クラフティングの取り組みの一環として有効です。

*メンタルタフネス:困難に直面しても、悪い感情に振り回されずに前向きに対処できる能力

自発的な行動を取れるようになる“セルフ・プロデュース力”の向上

ジョブ・クラフティングのプロセスの中で重要な「自分の強みを把握する力」「意欲的に仕事に取り組む意識」を高めていくには、従業員の自律性を育成することも求められます。「エンゲージメント向上のセルフ・プロデュース研修」は、組織の中で自分の強みを活かし、自発的な行動が取れるようになることを目的とした全社員向けのエンゲージメント向上研修です。

自分自身でエンゲージメントを高めるためのセルフ・プロデュース計画の立案をワーク形式で行います。従業員が自ら考えて工夫し、適応できる力を伸ばしていくことにつながります。

ジョブ・クラフティングで個と組織の成長を目指す

明るく開放的な職場

組織のパフォーマンス向上という観点においても、従業員のモチベーション管理は重要な課題です。ジョブ・クラフティングは、従業員が自らの工夫を加え、主体的に仕事を作り上げていくための取り組みです。ただし、個々がやりがいを見出すことに主眼が置かれているため、すべての業務への導入が望ましいとは言い切れません。従業員の主体性を尊重しつつも、組織としての成長も目指せるよう慎重にアプローチを進めていきましょう。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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