私共は当社ストレスチェック利用顧客の結果データを『アドバンテッジタフネス白書』として毎年まとめ、顧客へ向けてベンチマーク情報として提供しております。白書データの結果から、20代の「高ストレス者※割合」が減り、「高エンゲージメント者※割合」が増している、つまり“いきいき”と働く若手社員の割合が増えているということが分かりました。(『アドバンテッジタフネス白書2024』データを参照:『アドバンテッジタフネス白書』は当社顧客へのみ提供している情報資料となります)
※高ストレス者とは、高いストレス状態にあり、メンタルヘルス不調リスクが強い者を意味しています。
※高エンゲージメント者とは、ワークエンゲージメント=仕事に対する熱意を強く持ち仕事に取り組んでいる状態を意味しています。
背景として、生産年齢人口の減少による慢性的な人材不足や人的資本経営の機運の高まりから、若手の離職防止を目的とした取り組み(キャリア、ダイバーシティ等)が強化され、「働きやすい環境/働き続けやすい環境」の整備が進んだことが影響していると推察されます。
白書データからは若手社員には大きな課題がないように見え、カウンセリングの利用も多くないように思われるかもしれません。しかし実際は、カウンセリング利用者のうち約25%は若手社員の利用です。若手社員からは様々な内容の相談が寄せられていますが、その中でも「今は特に問題はないが、今後についての不安がある」という相談は少なくありません。つまり、ストレスチェック等の数値に課題が見られなくても、若手社員が将来に対しての不安を抱えていることがうかがわれるため、定期的なフォローが必要になると思われます。
今回は当社カウンセラーの私より、将来に不安を抱く若手社員の背景や人物像、改善のポイントなどをカウンセリングの具体的な事例とともにご紹介していきます。
目次
なぜ若手社員は将来のことを不安に思ってしまうのか
前述のようにカウンセリングを利用する若手社員のうち、「今は特に不安はない」ものの「今後についての不安」を語られる方が多い印象があります。
<例>
- 配属された部署で活躍する見通しが持てない
- 今は先輩のフォローがあるが、今後一人で仕事をするイメージが掴めない
- 部署に後輩が入ってきたら、教えられる自信がない
内容は様々ですが、共通点として「現状に大きな課題を持っていなくても、中長期的な先を考えることで不安になっている」が挙げられます。このような不安を持ってしまう理由としては、企業側が若手に求める人物像が変化してきていることが挙げられます。
これまでの時代では、社員には与えられた作業を指示通りに迅速かつ正確に実行できる力が求められてきました。しかし、AIやIoT(モノのインターネット)の導入が進む現代では、単純作業や同じルーチンワークは機械に任せられることが多くなりました。その結果、現在では自らの頭で考える力が強く求められるように変遷してきています。
若手社員は「自分で考えること」が求められている一方で、経験が浅いがゆえにどのように動けば良いのか分からず、先々もうまく見通せず何となく不安…となることがうかがえます。
事例~若手社員のAさんの場合~
ここからは、前述のような背景によって将来への不安が大きくなり、当社カウンセラーにご相談いただいた方の具体的な事例を紹介させていただきます。
今回のご相談者はAさん、勤続2年目の20代男性です。
大学時代に学んでいたことが評価され、専門知識が必要な部署に配属されました。仕事の難しさは感じているものの、毎日新しいことを吸収できる環境にはやりがいを感じ、成長実感も持てているようです。また、教育担当として年次が1つ上の先輩がおり、分からないことは先輩に質問することで対応し、仕事に躓く様子も見られません。大きなストレスを抱え込むことなく、目の前の仕事を一生懸命こなす日々を過ごしていました。
しかしある時、自分では解決できない難しい課題に直面してしまった際に、いつものように先輩に質問をしたところ、先輩から瞬時に適切な解決策が返ってきました。Aさんは先輩の優秀さに感動する一方で、「自分が将来同じような知識を身に付けられているのか」「1年後に先輩と同じレベルに達することができるのか」という不安が押し寄せてきました。
また、さらに上の年次(30代の中堅社員)の人達は、より多くの仕事量を高度なレベルでこなしているため、「自分は到底そのレベルに達することができないのでは…」と思ってしまいました。
先のことを考えたことで漠然とした不安が出てきてしまったため、今の気持ちを整理すべくカウンセリングを利用しようと考えました。
将来に不安を感じる若手社員へのカウンセリングでの介入とは
上記のAさんのようなケースはカウンセリングの場でよく語られるご相談です。今回のご相談者に対して、カウンセラーはどのように介入したのかについてご紹介します。
まずは、専門知識が求められる部署で一生懸命に仕事に取り組むことができていること、分からないことを一人で抱え込まず先輩への相談行動ができていることなど、「できていること」を肯定的に受け止めてフィードバックしました。
その後、身近に優秀な方がいるプレッシャーや、先々の見通しが持てない不安について、カウンセラーは相談者の立場や感情を想像しながら共感的にお話を伺いました。
そして、話を伺っていくと、Aさんが感じていることは先々に対する漠然とした不安であり、決して自分自身を否定的に捉えていないことが分かりました。
(以降は相談者とカウンセラーの会話内容)
カウンセラー:「Aさんは今後のことについて不安を持ち始めたのですね。なお、今現在の課題や不安はありますか?」 Aさん:「今は周りにサポートもらいながら仕事に取り組めているので、心配事はないです。ただ、このままで良いのかなと考えてしまうんですよね…自分が成長できているのか分からなくなる時があります」 カウンセラー:「今現在の大きな心配はないとのこと。でも、成長できているかなど明確な先の見通しが分からないのですね。そのような自分自身をどう捉えていますか?」 Aさん:「うまくやっていける自信は持てないけれど、自分ってダメだなとまでは考えていないです」 |
ここでカウンセラーは、Aさんが自信を失っているのではなく、“漠然とした不安”に巻き込まれている状態だと見立てました。
先のことを考えて行動をすることは大事ですが、見通しが持てないことをぐるぐると考えても答えは出てきません。そこでカウンセラーはAさんと今まで「できたこと」を一緒に整理し、着実に成長していることの振り返りを実施しました。
<例>
- 入社してから身に付いた知識やスキルの棚卸
- 仕事における成功体験の振り返り
- 周囲から褒められたこと、評価されたことの確認 など
また、成長速度には人それぞれのペースがあること、最初はぐんぐん成長してもある時を境に成長を感じられなくなる時期が来ること(プラトー現象)を説明し、Aさんが感じることはきわめて自然であることをフィードバックしました。
そうすることで、Aさんは“漠然とした先々の不安”ではなく、“今できていること”に目を向けられるようになり、不安から抜け出す視点を見つけることにつながりました。
また、今後も先輩と比較をしたり、思った通りの成長ができないと感じることがあるかもしれないため、不安に巻き込まれずに対処できる方法として、「数えられるもの」をもとに行動することを提案しました。「先輩のレベルになるように頑張る!」という抽象的なものではなく、「先輩のレベルになるために、〇〇を〇個実施する」というように、自分で確認できることを積み重ねることが自信につながることをお伝えしました。
まとめ
今回は将来のことに不安を抱く若手社員に対して、カウンセリングの介入事例をご紹介しました。若手社員は現状に大きな課題がなくても、先々のことを考えて不安を感じてしまう傾向が見られます。しかし一人で先々のことを考えても答えは出ないことが多く、かえって不安が大きくなってしまうこともあります。
カウンセリングでは自身の現状や気持ちを話していただき、これまでの振り返りを行いながら、カウンセラーからの客観的な意見や問いかけによって、若手社員が感じる不安を軽減することができ、かつ今後の行動指針までをアドバイスすることができました。
今回のケースのような、将来に不安を抱いている社員へのアプローチとしても有効なカウンセリングに関して、ご関心のある方はお気軽にこちらからお問い合わせください。
皆様のご相談をお待ちしております。
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