従業員のモチベーションや働きがい向上は、企業において最も重要な課題の一つでしょう。自社の従業員にいきいきと働いてもらいたい、仕事を通じて成長してもらいたい、離職せずに長い年月勤めてほしい、そう考える経営者が注目すべき概念の一つに「ワークエンゲージメント」があります。本記事では、ワークエンゲージメントが注目されている背景や、ワークエンゲージメントの向上がもたらすさまざまなメリット、具体的な高め方について、わかりやすく解説します。
目次
ワークエンゲージメントとは?
労働人口の減少、ワークライフバランスの実現、リモートワークの普及など、企業を取り巻く環境や働き方が多様化している現代。企業はただ人材を雇い給料を支払うだけではなく、働く人が主体的に仕事に取り組める環境を整えることが求められています。そこで、注目されている指標の一つが「ワークエンゲージメント」です。従業員が積極性を持ち、チームワークを発揮して働くことは、企業の成長にもつながるでしょう。まずは、ワークエンゲージメントの定義と、従業員エンゲージメントとの違いについて解説します。
ワークエンゲージメントの定義
「ワークエンゲージメント」とは、仕事にやりがいや誇りを持つと同時に、働くことで活力を得ている、充実した心理状態を指す言葉で、オランダのウィルマー・B・シャウフェリ教授によって提唱されました。厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」においては、「働きがい」について「ワークエンゲージメント」の概念を用いて分析しています。
同白書では、ワークエンゲージメントを「仕事から活力を得ていきいきとしている」「仕事に誇りとやりがいを感じている」「仕事に熱心に取り組んでいる」の3つが揃った状態と定義しています。
ポジティブな心理状態で仕事に取り組んでいる従業員は、ワークエンゲージメントが高いといえます。一時的・一過性のものではなく、持続的であり、仕事全体を前向きに捉えているのが特徴です。
ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違い
従業員エンゲージメントとは、従業員と企業の結びつきの強さを示す指標で、明確な定義は存在しません。「従業員エンゲージメントが高い」とは、自社への信頼や理解が深く、組織への愛着、帰属意識、貢献意欲を高く持っている状態のことです。
ワークエンゲージメントのベクトルが「仕事」に向いているのに対して、従業員エンゲージメントは単に個人の仕事への意欲だけではなく、組織との関係性も含めた多様な要素を内包しているといえます。
ワークエンゲージメントの3要素
ワークエンゲージメントは、「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素がいずれも満たされることで「高い」状態と判断することができます。ここでは、ワークエンゲージメントの3要素について詳しくご紹介します。
活力
活力(Vigor)は、仕事に取り組むにあたり、高いエネルギーを持っている状態を指します。活力を備えている従業員には、以下のような特徴があります。
- ストレスを感じにくく、ポジティブな思考で仕事ができる
- 心理的な回復力があり、努力をいとわない、困難な課題へも積極的に取り組める
- 失敗した時や上手く進まない時なども諦めずに粘り強く取り組める
熱意
熱意(Dedication)は、仕事に強い関心や意欲があり、自らの業務やキャリアに対する誇り・やりがいを持っている状態のことです。熱意のある従業員は、仕事に対する興味や探求心が旺盛で、業務改善や効率化、新しいサービスの開発などにも積極的に取り組めるため、会社の業績アップに寄与する要素とも捉えられています。
没頭
没頭(Absorption)は、仕事に集中できている状態を指します。従業員が集中して仕事に取り組めていると、業務のスピードや品質の向上に寄与します。生産性アップや人為的なミスの削減にもつながるでしょう。
ワークエンゲージメントに関心が寄せられる背景
ワークエンゲージメントに関心が集まっている背景には、ビジネスや企業を取り巻く環境の変化があります。
生産年齢人口の減少
一つ目の要因が、生産年齢人口の減少です。少子高齢化の影響を受け、人手不足は業界を問わず深刻化しているといえます。このような状況にあっても、企業が持続的に成長を続けていくためには、従業員の意欲を引き出し、一人ひとりの能力を最大化させることで生産性を上げていくことが求められます。
人材流動化の加速
終身雇用、年功序列といった雇用システムから、成果主義へのシフトが起こっている今、”一つの企業に勤め上げる” という意識は薄れてきています。より良い環境を求めて転職するというスタイルは今や当たり前の価値観として受け入れられつつあり、人材の流動化はさらに加速しています。
優秀な人材の確保・定着や、従業員の離職防止の観点からも、ワークエンゲージメントを高めて働きがいを感じられる職場作りを行う必要があるのです。
ワークエンゲージメントと関係が深い概念
ここからは、ワークエンゲージメントと関係が深い3つの概念と、その違いを明らかにしていきます。
ワーカホリズム(ワーカホリック)
ワーカホリズム(ワーカホリック)とは、従業員の活動水準が高いものの、「働かなければならない」と仕事に対して否定的、強迫的な感情を抱いている状態です。活動水準が高いという部分では、ワークエンゲージメントと一致していますが、仕事に対してポジティブな心理状態であるのが「ワークエンゲージメント」、ネガティブな心理状態であるのが「ワーカホリズム」です。ワーカホリズムの状態で成果を出すことも可能ですが、その状態は長く続かず、心身の不調を招くこともあります。
バーンアウト
バーンアウトとは、従業員の活動水準が低く、仕事に対する感情が否定的な状態です。ワークエンゲージメントの対極に当たる考え方で、「燃え尽き症候群」という別名でも知られています。仕事にエネルギーを費やしたものの、期待したような成果が得られなかった場合などに生じやすいといわれています。
職務満足感
職務満足感とは、仕事に対してポジティブな感情を持っているものの、活動の水準が低い状態で、ワーカホリズムの対となる概念です。従業員はやりがいを持って働いていますが、仕事に没頭しているわけではないため、組織への貢献度は低くなりやすいとされます。
ワークエンゲージメント向上につながる2つの「資源」
ワークエンゲージメントを生み出すのは「仕事の資源」と「個人の資源」2つの要素です。これらがそれぞれ、あるいは相互に影響し合うことでワークエンゲージメントの向上につながります。
仕事の資源
仕事の資源とは、過度な業務量や仕事に対するプレッシャーを和らげるとともに、仕事を楽しいと感じて、モチベーションを高める要因で、外部から与えられるものです。無理なく働けて、やりがいを感じられる環境作りが重要です。
【仕事の資源の例】
- 管理しすぎない、一定の裁量権の付与
- 前向きな気づきを与えられるコーチング
- 正当な評価
- スキルアップ支援
- キャリア開発
個人の資源
個人の資源とは、仕事に対するストレスを軽減し、モチベーションや意欲を高める、その人自身が持つ内的要因を指します。個人の資源を充実させるためには、従業員が仕事を「自らやっている」と主体的に捉え、やりがいが持てるよう促すことが重要です。
【個人の資源の例】
- 自己効力感
- 楽観性
- レジリエンス
- ポジティブ思考
ワークエンゲージメントを高めるために企業ができる取り組み
仕事で強いプレッシャーがかかっている、フィジカル・メンタル面の負担(仕事の要求度)が多い場合、従業員はストレスを感じ、ワークエンゲージメントが下がるといわれています。一方で、「仕事の資源」が豊富であれば、プレッシャーを感じていてもワークエンゲージメントが高まるという指摘もあり、仕事の資源を充実させ、活用していくことが重要です。
ただし、「仕事の資源」と「個人の資源」は密接した関係にあり、どちらかの資源だけを高めても、ワークエンゲージメントの向上にはつながりません。仕事の資源が充実すると個人の資源も充実する、という好循環を生む環境作りが求められます。ここからは、仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)に基づき、従業員のワークエンゲージメントを高める取り組みをご紹介します。
業務効率化
現在の業務に無理や無駄がないか、特定の従業員に業務の負担が偏っていないか、一人ひとりの業務量や労働時間を正確に把握し、業務効率化につなげます。実態を踏まえた上で、必要に応じてITツールなどを導入して改善を進めていきましょう。
裁量権の拡大、挑戦・成長できる機会の提供
自分の能力を発揮できる、やりたいことに挑戦できる環境であれば、従業員は意欲的に仕事に取り組むことができます。例えば、業務に一定の裁量権を与える、従業員が自ら希望する部署へ異動する「社内FA制度」の導入、新規プロジェクトへの参加機会の提供などが挙げられます。
柔軟な働き方制度の構築
フレックスタイム制やリモートワークなど、柔軟な働き方ができるよう制度を整えましょう。希望するワークライフバランスの実現に向けて、従業員が主体的に仕事に取り組むことが期待できる他、無理のない働き方ができるようになることで、従業員のストレスや疲労が軽減される可能性もあります。
コーチング・1on1の活用
部下の現在の状態や強みを把握し、適切な支援につなげる1on1や、前向きなフィードバックで部下の能力を引き出し、行動を促すコーチングの実施も、個人・仕事の資源を充実させることにつながります。コーチングスキルやコミュニケーションスキルを高める研修機会を提供することで、上司が自信を持って部下に対応できるようになるでしょう。
1on1ミーティングの具体的な実施方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
当社が提供する管理職向けの「リーダーの1on1面談力向上研修」では、現場感覚のロールプレイの実施や具体的な行動プランの策定をサポートし、上司と部下が1対1で面談を行う「1on1」の実践ノウハウを身につけることを目指します。
ジョブ・クラフティング
「ジョブ・クラフティング」によって、従業員の「仕事をやらされている」という意識を、「やりがいを持って主体的に取り組んでいる」という意識に変換させていくことも大切です。働き方やコミュニケーション方法を自ら工夫することにより、仕事に対しての意欲が向上し、心理的ストレスの軽減、自尊心の充実につながります。
業務の洗い出しや従業員自身の強みの分析などを通して、仕事や職場に対する捉え方を見直しましょう。ジョブ・クラフティングは自主的な取り組みが基本ではありますが、研修などを実施し従業員に働きかけることで、取り組みを促進させることもできます。
組織の中で自分の強みを活かし、自発的な行動が取れるようになることを目的とした、全社員向けのエンゲージメント向上研修です。ワーク形式で、自分自身でエンゲージメントを高めるためのセルフプロデュース計画の立案を行います。
従業員が自ら考え、工夫し、適応できる力を伸ばしていくことにつながります。
「メンタルタフネス」とは、「困難に直面した時、ネガティブな感情に振り回されることなく、解決のためのアクションを起こせること」で、いわばストレスへの対処スキルです。「メンタルタフネス」は、もともとの「性格」ではなく、「開発できるスキル・能力」です。ストレスへの向き合い方を学ぶと、ストレスが生じた時に適切に対処ができます。前向きな気持ちで仕事に臨むためのヒントを得られるため、個人の資源を高めることにつながります。
適切なフィードバックと評価
従業員が納得のいくような、適切なフィードバックと評価をすることも重要です。成果をきちんと評価できる透明性の高い人事評価制度を設けるだけではなく、日々の業務のどの部分を評価しているのか、経緯を含めて伝えることが大切です。昇格・昇給といった外発的動機づけを高めるだけではなく、やりがい、意義といった内発的動機づけを促すことにもつながります。
メンタルヘルスケア対策
従業員の意欲や熱意を高めることだけに注力すると、目標達成を達成した後や超えられない壁に当たった際に「バーンアウト」状態に陥ってしまうこともあります。従業員の心身を健康に保つため、ストレスチェックを活用したメンタルヘルス対策を実施する他、ストレスによって深刻な状態になる前に適切な対処ができるよう、従業員が悩みを相談できる窓口を用意しておくことも有効です。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、20年以上におよぶ研究開発に基づく豊富な知見とデータベースを結集した「アドバンテッジ タフネス エンゲージメントプラス」を展開しています。ワークエンゲージメントの実態把握(測定)を行うことができる他、結果に応じて、ワークエンゲージメントを高める施策もラインアップしています。
ワークエンゲージメントの測定方法
自社のワークエンゲージメントの高さ・低さを知るには、ワークエンゲージメントを実際に測定することが有効です。続いては、ワークエンゲージメントの測定に用いる、3つの測定尺度を解説します。
MBI-GS
MBI-GSは、ワークエンゲージメントの対極に位置するバーンアウト(燃え尽き症候群)を測定する方法です。従業員は「消耗感(疲労感)」「職務効力感」「冷笑的態度(シニシズム)」の3つの尺度に対し、16項目の質問に回答します。得られたスコアが低いほど、ワークエンゲージメントが高いことを表します。
OLBI
OLBIも、MBI-GSと同様、バーンアウトによってワークエンゲージメントを測定します。従業員は「消耗感」および「冷笑的態度」の尺度について、ネガティブ・ポジティブ項目で構成された質問に回答します。
UWES
UWESは、最も活用されている方法で、ワークエンゲージメントの高さを直接測るものです。従業員は「活力」「熱意」「没頭」の尺度について、17項目の質問に回答します。各要素の数値や総合的な結果を見ることで、安定した計測ができます。
<短縮版UWES>
オリジナルのものに比べて質問数が少なく、9つの質問に限定された短縮版と、3つの質問に絞られた超短縮版も存在します。
ワークエンゲージメントを高めて企業力をアップ!
ワークエンゲージメントの向上は、従業員の心身の健康状態に寄与するだけではなく、経営的発展にも大いに役立ちます。働き方が多様化する今、人材管理にも大きな変革が求められていることは確かです。価値ある企業として、厳しい競争社会を生き残っていくためにも、「ワークエンゲージメント」の観点から施策に取り掛かってみてはいかがでしょうか。