一人の退職をきっかけに、次々と従業員が離職していく「連鎖退職」は、企業が憂慮すべき深刻な問題です。相次ぐ従業員の退職を止められない場合、組織の衰退を招き、最悪の場合倒産につながってしまうおそれもあります。今回は連鎖退職が生じる原因と、企業が取り組むべき対策について詳しく解説します。
目次
連鎖退職とは?
連鎖退職とは、一人の退職を引き金として、他の従業員が相次いで退職してしまうことを指します。どの企業にも起こりうることであり、従来のように業務が回らなくなるなど、企業運営や経営に深刻な影響を及ぼす問題です。連鎖退職には、主に2つのタイプがあるといわれています。
【ドミノ倒し型】
ドミノ倒し型とは、退職によって他の従業員に負荷がかかることで起こる連鎖退職です。特に、人数が少なく業務量が多い部署・チームにおいて起きやすいタイプとされています。
【蟻の一穴型】
蟻の一穴型は、特定の従業員の退職をきっかけとして、喪失感から他の従業員も退職することです。組織ではなく、その従業員に対して強い思い入れを持っている人が多い場合に起きやすいタイプといわれています。また、そもそも会社に対して不信感がある中で優秀な社員がどんどん退職していくと、それが決定打になり「自分も早く転職したほうが良いのでは」と焦り、退職に至るケースもあります。
連鎖退職が発生する主な原因
退職が相次ぐ原因はいくつかあり、複数の要因が重なっている場合も少なくありません。自社における原因は何なのかを見極め、早急に連鎖を断ち切る必要があるでしょう。ここからは、連鎖退職を生じさせる要因についてご紹介します。
エース・キーマンとされる従業員が退職した
主力として会社に大きく貢献してきた従業員や、影響力の大きな従業員の退職がきっかけとなって、連鎖的に退職が起きることがあります。例えば、これまで高い成果を上げていたエース従業員が退職すると、「ずっと成績トップだったあの人が突然辞めるなんて、もしかしたら先行きが良くないのかも」「何か深刻な問題が起きているのかもしれない」と、会社の将来に不安を感じてしまうのです。
また、人望が厚く、多くの部下から慕われていた従業員が辞めてしまった場合、「憧れて、尊敬していた人が辞めてしまったら、これから何を目標にしてがんばればいいのだろう」「あの人が辞めてしまったらこの会社で働く意味はない」と、モチベーションを失ってしまうケースもみられます。
人手不足によって負担が増加している
退職した人の穴を埋めるには、一人ひとりの業務量を増やして対応しなければならず、長時間残業や休日出勤を強いられることもあります。残る従業員に負担が集中し、慢性的な過労などの状態に陥ってしまいます。
負担がかかる状態が改善されなければ、肉体的、精神的ストレスからメンタル不調を引き起こしてしまう可能性もあるでしょう。「人手不足なのに退職するのは無責任」と考えていた従業員も「これ以上は耐えられない」と判断し、さらなる退職につながりかねないため注意が必要です。
職場に対する不満があり、帰属意識が低い
給与が低い、残業が多い、有給休暇が取りにくいなど、従業員が会社に対する不満を抱えていた場合、ある一人の退職をきっかけに、それらの不満が一気に噴出し、退職が相次ぐこともあります。特に、仕事に対するモチベーションが高くない、会社への愛着や貢献意欲が薄い従業員が多く、帰属意識が低い場合、この連鎖退職が起こりやすいといわれています。
「このまま働き続けても正当に評価してもらえないだろうから、自分も早く転職したほうが良いかもしれない」と自身の将来について考える契機となり、「この機会に自分も退職しよう」と行動的な従業員から退職に向けて動き始めてしまうのです。
人間関係やマネジメントに問題がある
特定の部署に所属する従業員ばかりが次々と退職していく場合、その部署の人間関係やマネジメントに問題がある可能性があります。ビジネスはチームで進めていくものであり、働く上でコミュニケーションを取ることは必須です。
ところが、コミュニケーションが取れず、失敗を許さない雰囲気で相談しにくい、上司の主観による人事評価がなされていて不平等感がある、ハラスメントが横行しているなど、不満や要望を伝えることが難しい環境では、連鎖退職という形で問題が表面化します。
連鎖退職が企業に及ぼす影響
連鎖退職は、企業にとって深刻な事態をもたらすおそれがあります。次に、連鎖退職によって引き起こされるさまざまな問題を解説します。
従業員が不満を募らせる
連鎖退職が発生すると、残る従業員に負担が集中してしまいます。業務量が増える、残業が常態化するなど、労働環境が悪化するおそれもあるでしょう。人員補充や業務分担の見直しといった適切なフォローがなされなければ、従業員は会社に対する不満を募らせてしまいます。
サービスの質が低下する
連鎖退職により従業員の数が減少すると、業務のスピードやサービスの質が低下します。例えば、顧客からの問い合わせに速やかに対応できない、高度なスキルを持つ人材が退職してしまい、知識やスキルが不足した状態で対応せざるを得ない状態では、顧客の満足度が低下するでしょう。
業績が悪化する
少ない人数で業務をこなさなければならず、従業員に過度な負担がかかっている状態では、従業員がストレスを感じ、パフォーマンスが低下してしまうこともあります。生産性が下がり、「納期に間に合わないことが続く」「品質が低下している」といった状態はさらなる顧客離れを招くのみならず、契約不履行となればトラブルにもなりかねません。売上や業績に悪影響を及ぼすだけではなく、訴訟リスクにもつながります。
企業イメージが低下する
連鎖退職は、企業イメージの低下を招くこともあります。退職した従業員が自社への不満を家族や知人に話したり、SNSや口コミサイトなどに投稿したりすると、「あの会社は従業員がどんどん辞めているらしい」「人手が足りなくて業務が回っていないらしい」などといった噂が広まる可能性もあるでしょう。
ステークホルダーに評判が広まれば、信用を失ってしまうかもしれません。仮に自社の現状とは異なることが書かれていたとしても、一度情報が拡散されてしまうと、企業イメージを払拭することは難しくなります。人材の採用や新規の取引などにもネガティブな影響を与えかねません。
組織が衰退・倒産する
業績の悪化、サービスの質やイメージの低下に対して適切な対処ができなかった場合、市場における企業の競争力が失われ、持続的な成長が難しくなるため、最終的に組織の衰退や倒産につながるおそれもあります。連鎖退職の穴を埋めるための採用コストは決して軽くなく、「一人辞めたらまた採用すればいい」と安易に考えていては、取り返しのつかない事態を招きかねないでしょう。
連鎖退職を断ち切るための対策3選
続いては、連鎖退職を食い止め、立ち直るための対策を3つご紹介します。
内部環境の迅速な改善
退職した従業員の穴埋めをするため、残る従業員に業務を分担させて安定化を図る対策を取る方法は、逆効果となります。現状の従業員の業務内容や生産性などを精査し、別の部署から人員を確保する、難しい場合は採用やアウトソーシングで補充を行うなどして、従業員のさらなる退職が生じないよう対策を打ちましょう。残業を減らすための取り組みや評価制度の見直しなども有効です。
既存従業員へのフォローアップ
退職者が出ると、残る従業員に不満が生まれやすくなるため、適切なケアやフォローも必要です。従業員同士が気軽にコミュニケーションが取れる関係性を構築し、仕事の悩みや不満を共有できれば、心理的な負担の軽減につながります。また、部下の現在の状態や悩み、課題を把握し、適切な支援につなげる1on1の実施も有効です。
管理職の意識改革
現場を率いる管理職やリーダーの意識改革も重要です。連鎖退職への危機感を持っていない場合、影響を軽視してしまい、引き止められなくなって初めて事の重大さ、深刻さに気づくケースもあります。マネジメントスキルの向上や定着率を高めることの重要性について学んでもらい、率先して働きやすい職場づくりに取り組んでもらうことも一つの方法です。
連鎖退職が起きづらい企業を目指すために
連鎖退職が起きづらい組織を目指すためには、さまざまな取り組みが必要です。最後に、人材の定着やモチベーション維持、帰属意識の向上という観点からも重要な、従業員のエンゲージメント向上を図るための施策についてご紹介します。
理念やビジョンの浸透
企業理念やビジョンを従業員に共有・浸透させ、全員が「企業として目指すべきもの」「顧客や社会に何を提供するのか」を理解している状態をつくりましょう。理念に込められた想いやストーリーなども含め、丁寧に、繰り返し発信していくことが大切です。
従業員が理念やビジョンに共感し、組織における自分の役割を見出すことができれば、組織と従業員が方向性を一致させて進んでいくことができ、モチベーションの維持、離職防止に寄与します。
従業員のキャリア形成・スキルアップ支援
従業員一人ひとりのキャリアプランを理解し、今後のキャリアをイメージできるような研修を実施したり、新しい挑戦ができる環境を提供したりすることで、モチベーションや働きがいの向上を目指しましょう。長期的なキャリアパスを提示し、成長を実感してもらうことで、「会社は自分のことを大切にしてくれている」「この会社にもっと貢献したい」という意欲が高まり、定着につながります。
【例】
- キャリアデザイン研修
- スキルアップ支援
- 階層別研修
また、キャリアについて悩みを抱えたときの受け皿として、カウンセリング窓口を設けておくことも大切です。カウンセリングというと、メンタルヘルス不調など悩みがあるときの活用をイメージするかもしれませんが、今後のキャリア形成に関する相談など、前向きな相談でも気軽に活用することができます。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、自らの工夫によって自律性・適応能力を磨き、意欲高く業務に取り組めるメンバーの育成を促すプログラム「エンゲージメント向上のセルフ・プロデュース研修」を提供しています。
「アドバンテッジ タフネス カウンセリング」は、心理専門家によるカウンセリングサービスです。対面でのカウンセリング以外にも、メールやオンライン面談、SNSを使ったチャット相談など、従業員が気軽に利用できる相談方法をご用意。従業員のキャリア構築のお手伝いをさせていただくキャリアカウンセリングのほか、メンタルサポートにもご活用いただけます。従来の傾聴型のカウンセリングだけでなく、出来事に対する考え方や、行動に変化を起こすことを目的とした「認知行動療法」のアプローチまで行えるため、自己理解が深まり、課題の整理が可能となります。
ワークライフバランスの推進
残業が多い、有給休暇を取りづらい、育児や介護などとの両立が難しい状況では、エンゲージメントは高まりにくく、連鎖退職が起きてしまう可能性があります。従業員一人ひとりの価値観を尊重した、多様な働き方を実現するためにも、コアタイム制度やテレワークの導入、有給休暇の取得促進など、ワークとライフのバランスを調整できる環境づくりが重要です。これにより、職場への満足度が高まれば、従業員が退職を考えることも減るかもしれません。これらの取り組みは、経営側が一方的に進めるのではなく、従業員の意見を反映させつつ、課題解決につながるような取り組みを行うことが大切です。
コミュニケーションの活性化
風通しの良い社内環境を整え、コミュニケーションを活性化させることも重要です。良好なコミュニケーションを取れる状態であれば、業務内容や労働環境に対する不満をしっかりと吸い上げ、適切に対処できる他、従業員の退職のサインにいち早く気づき、フォローを行うことも可能です。例えば、定期的な1on1ミーティング、部署や部門を超えて交流できるイベントの実施などが挙げられます。
アドバンテッジリスクマネジメントでは、ビジネスシーンにおいて必要となる対人コミュニケーションの基礎能力とされるEQ(感情マネジメント力)向上を目的とした研修を提供しています。研修では、EQ行動特性検査(EQI)で自身の行動傾向を可視化し、多数のワークから課題解決に向けた行動変容のヒントを習得、具体的な行動目標を策定・実行します。研修を通して個々の非認知能力を高め、チームワークの強化やコミュニケーションの質の向上を目指します。
エンゲージメントサーベイによる状態把握
定期的にエンゲージメントサーベイを実施し、従業員の状態や変化の兆候把握につとめます。エンゲージメントが低下している状態では、連鎖退職が起こりやすいため、サーベイによって原因を分析し、向上のためのアプローチの検討・実施につなげる必要があります。
アドバンテッジリスクマネジメントが提供する「TOUGHNESS」×「pdCa」は、自社の課題把握と解決にお役立ていただける、サーベイを起点とするワンストップサービスです。従業員のメンタルヘルスやエンゲージメント状況をセンサスで定点観測。高精度な現状把握を可能とするパルスサーベイとの組み合わせにより、離職につながる小さな変化を見逃しません。
連鎖退職を食い止め従業員が定着する職場へ
連鎖退職が起きると、残る従業員への負担が大きくなってしまうだけではなく、生産性や業務の質の低下、業績の悪化など、組織の維持・成長を揺るがす深刻な事態へと陥ってしまう可能性があります。退職が相次ぐ背景には、企業や職場環境に対する不満が隠れている場合も少なくありません。退職の連鎖へとつながってしまう前に、速やかに環境を改善することと併せて、定期的なサーベイなどで離職につながる小さなサインを拾い、従業員のモチベーション維持や帰属意識の向上を図る施策を打ち出しましょう。