私達は、日々さまざまなストレスを受けながら過ごしています。「自分はストレスを感じにくいほうだ」と思っていても、知らず知らずのうちにストレスを抱えていることもあるでしょう。「最近疲れが取れにくい気がする」「なんとなく体がだるい」など、ちょっとした体の不調は隠れたストレスのサインかもしれません。今回は、無自覚にストレスを抱えてしまう理由や対処法、心身に表れるストレスサインについて解説します。
目次
無自覚なストレスとは
はじめに、ストレスの定義について整理しておきましょう。そのうえで、”無自覚なストレス状態”とは何かを明らかにしていきます。
ストレスとは
ストレスと耳にすると、「嫌なこと」「悪いこと」というイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし広義のストレスとは、「外部からの刺激を受けて生じる緊張状態」を指すもので、ストレスそのものにネガティブなニュアンスはありません。
外的刺激(ストレスの原因)のことを「ストレッサー」、ストレスを受けたことによって生じる心身の反応を「ストレス反応」と呼びます。適度なストレスを受けると、人はそれを乗り越えたり適応したりするために成長します。その経験が達成感や喜びにつながるため、ストレスが全くない状態は必ずしも理想とはいえません。
しかし、適応できる度合いを超えた過剰なストレスは、心身に悪影響を与える「悪い」ストレスとなってしまいます。
ストレスに”無自覚な”状態とは
ストレスに無自覚な状態とは、過剰なストレスによって心身に負担がかかっているにもかかわらず、その自覚がなく、ストレスに気づけていない状態のことです。「自分はストレスとは無縁だ」と感じていても、知らず知らずのうちにストレスが溜まっていることもあります。ストレスに気がつかない状態でいることは、見方を変えれば「ストレス耐性が高い」とも捉えることができるため、悪いことではないと感じるかもしれません。
しかし、ストレスに無自覚で適切なケアができていないと、ストレスによる負担が蓄積し、突然心身の不調をきたしてしまうおそれもあります。
働く人を取り巻くストレスの原因
ストレスの原因(ストレッサー)は、「物理的ストレッサー」「化学的ストレッサー」「生物(生理)的ストレッサー」「心理・社会的ストレッサー」の4つに分けられます。現代は、その中でも心理・社会的ストレッサーが多いとされており、メンタルヘルスの不調を引き起こしやすいといわれています。
働く人を取り巻くストレスの例は以下の通りです。
ストレスの例
- 上司や部下など、職場の人間関係に悩みがある
- 仕事が忙しく、残業が多い
- 昇進し、責任が重くなった
- 仕事にやりがいを感じられない
- 自分のキャリアに不安を感じている
- 子育てなどプライベートのバランスの取り方で悩んでいる
無自覚にストレスを抱えてしまう理由
では、なぜストレスに対して無自覚な状態に陥ってしまうのでしょうか。ここでは、3つの観点からその理由を探っていきます。
ストレス耐性が高い
ストレス耐性が高い人は、同じストレッサーであっても捉え方が異なるためにストレスを感じにくいといわれています。しかし自分のストレス耐性を過信するあまり、自覚なくストレスを抱えてしまう可能性があります。
ストレス耐性を決定づける要素の中でも、特にストレスをどの程度受け止められるかという「容量」や、ストレスを感じるようなできごとを避ける「回避」の能力は、人によって異なるだけではなく、同じ人でも、その時の状態によって変わるものです。自分はストレスに強いほうだから大丈夫だろうと捉えていると、心身が限界になっていてもそれに気づけないこともあります。
ストレスに慣れ、感覚が鈍くなっている
長期間慢性的なストレスに晒されることで、徐々にその状態が「当たり前」「普通」のものとなってストレスに慣れてしまい、感覚が鈍ってしまうことがあります。ストレスから逃げられない環境で特に起こりやすいといわれており、人間がストレス状態に適応するための「防衛機制」の役割を担っているとも考えられています。ストレスのサインを見落としやすい状態でもあるため、無自覚なストレスを抱えやすくなってしまうでしょう。
代償行動でストレスを和らげている
ストレスから逃れるための適応機制の一種である代償行動も、時に無自覚なストレスを抱える原因となり得ます。適応機制とは、ストレスを受けて傷ついた心身を守るために行う、無意識で本能的な行動のことです。
代表的な代償行動としては、お酒やたばこをたしなむ、食事や買い物をするなどが挙げられますが、中には依存症になり得る行為や、自らの健康を損ないかねない行為もあります。気晴らしにもなり一時的なストレスを和らげる効果はあるものの、ストレスを感じる事柄の根本的な解決には至らないため注意が必要です。
ストレスを放置するリスク
過剰なストレスは、心身の不調を引き起こしかねません。ストレスに関する研究が進み、近年ではストレスそのものが高血圧や糖尿病のリスクを高めるという指摘もなされています。また、先述した「代償行動」によって飲酒量や喫煙量が増えると生活習慣が乱れ、生活習慣病の発症や悪化を招いてしまう場合もあるでしょう。
これまでのように思い通りの生活ができなくなると、それがさらにストレスとなって、メンタルヘルスに影響を及ぼすこともあり、悪循環に陥ってしまいます。過剰なストレスは、メンタル面にも大きな影響を与えるため、適応障害やうつ病など、メンタルヘルス疾患の発症リスクを上げることにもつながります。ストレスによって心身が深刻な状態に陥った場合、休職や離職せざるを得ない状況となるかもしれません。
ストレスによる心身への影響については、以下の記事でも詳しく解説しています。
無自覚なストレスのサイン
日々忙しく過ごしていると、ストレスのサインを「疲れているだけだろう」「少し休めば良くなるだろう」と、一時的な不調と捉えて軽視してしまう可能性があります。”隠れストレス”に適切に対処するためには、心身に表れるわずかなサインや変化に気づくことが重要です。ここでは、具体的なストレスのサインについてご紹介します。
身体面のサイン
ストレスの表れ方は人それぞれですが、身体面に起こり得るサインの例は以下の通りです。
身体面のストレスのサイン
- 頭痛やめまい、耳鳴りがある
- 肩や首がこる
- 疲労感があり、全身がだるい
- 胃痛や腹痛がある
- 下痢や便秘をする
- 食欲がない、あるいは過剰に増加する
- 動機や息切れがする
- 夜なかなか眠れない、夜中や明け方に目が覚める
- 体調を崩しやすくなる
メンタル面のサイン
メンタル面に起こり得るサインの例は以下の通りです。
メンタル面のストレスのサイン
- 気分が落ち込む
- やる気が出ない
- 不安や緊張、イライラを感じる
- 仕事に集中できない
- 何をやっても楽しいと感じられない
- 自分を責めてしまう
行動面のサイン
隠れストレスのサインは、行動にも表れることがあります。この場合、本人ではなく周囲が変化や異変に気づくことも多いです。
行動面のストレスのサイン
- 遅刻や早退が多くなる
- 仕事でミスを繰り返す
- 人とのコミュニケーションや交流を避ける
- お酒やたばこの量が多くなる
- 身だしなみを気にしなくなる
- 急に泣き出す
【個人】無自覚なストレスに対処する方法
私達の心身に影響を及ぼすストレスの原因はさまざまです。例えば、念願の昇進や希望する部署への異動、結婚や子どもの誕生などは喜ばしいできごとですが、責任が増えることや環境が変わることにストレスを感じることもあります。
ストレスは、誰もが知らず知らずのうちに溜めてしまっている可能性があることを理解しておくことが大切です。自分では気づきにくいストレスに対処していくためには、自分のストレス状態を正しく把握し、適切にケアをする「ストレスコーピング」が有効です。ここでは、従業員個人ができる取り組みについてご紹介します。
セルフモニタリングで自分自身の状態を知る
ストレスの自覚がなくても、継続的に自身と向き合うこと自体が非常に重要です。自分が今どのくらいストレスを抱えているのか、どの程度疲れているのかなど、ちょっとした気分や体調の変化に自身で気づくことが必要です。自分の心身の状態を継続的に観察し、分析することを「セルフモニタリング」といいます。セルフモニタリングを通して、ストレスの原因や心身のストレス反応を明確にし、適切なケアへとつなげましょう。
セルフモニタリングを行う際は、以下のような点を意識するとよいでしょう。
<意識すること(身体面でのストレスのサイン)>
- 自分の現在の状況
- ストレッサーと考えられるもの
- ストレスが生じた時の自分の気持ち
- ストレス反応(身体面、精神面、行動面)
セルフモニタリングについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。
生活習慣を整える
基本的なことではありますが、生活習慣を意識して整え、睡眠や休養をしっかりとることが大切です。睡眠は心身の休息や回復という役割を担っています。忙しい時は睡眠不足になりやすいですが、十分に睡眠がとれていないとイライラや集中力の低下、ケアレスミスの増加などを招き、さらにストレスを生じさせることもあります。併せて、バランスのよい食事や定期的な運動、入浴(湯船に浸かる)など、規則正しい生活を心がけることも、ストレスへの対処として有効です。
自分に合った方法でリフレッシュする
自分がリラックスできることや楽しいことを行い、無自覚に抱え込んでしまったストレスを解消することも重要です。「コーピングリスト」を作って、自分に合ったリフレッシュ方法をいくつか持っておき、その時々に適したものを実施するとよいでしょう。
【例】
すぐに取り組めるもの:深呼吸をする、コーヒーを飲む、軽いストレッチをする など
時間がある時にできるもの:音楽を聴く、本やマンガを読む、ヨガをする、買い物に行く、ドライブをする など
コーピングリストの作り方については、以下の記事で詳しく紹介しています。
家族や友人、専門家に相談する
誰かに話を聴いてもらうことは、ストレスによる心身へのネガティブな影響を弱めるといわれています。ストレスを明確に自覚していなくても、心の中のモヤモヤや不安を話すことで心理的な安心感を得られ、隠れたストレスが軽減される可能性があります。
また、カウンセラーなどの第三者に相談することも一つの方法です。カウンセリングは、ストレスによって心身が深刻な状態になってしまう前でも利用することができます。ストレスケアの最初のステップとして気軽に活用するのもおすすめです。ストレスの自覚がない人にとっては、自分の状態を定点観測するという意味でも、定期的に話を聞いてもらうことのできるカウンセリングは効果的といえます。
【人事の方へ】従業員の無自覚なストレスに対処する方法
ストレスケアが重要とはいっても、自分自身の「無自覚」なストレスを「自覚」できる状態にするのは難しいものです。企業は、従業員が無自覚なストレスに気づけるようなきっかけ作りと、適切に対処していくための支援に取り組んでいくことが大切です。最後に、従業員のストレスを見逃さないために、企業側ができることをご紹介します。
1on1でストレスの兆候を把握
1on1とは、上司と部下が1対1で話し合うことです。1on1の主な目的は、部下が上司に対して今の自分自身の状況や悩みなどを伝えることです。部下に隠れストレスのサインが見られる場合、対話を通して思考や問題の整理を手助けすることで、意識をポジティブなものに変換させたり、ストレスを軽減したりすることが可能となります。1on1の進め方や成功のポイントについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
ストレスチェックの活用
ストレスチェックなどの結果を活用すると、従業員が自分自身の状態を知ることができるため、無自覚のストレスに気づくきっかけになります。また組織全体が抱えるストレスの程度の把握にもつながるため、今組織で起きている課題を見つけることもできます。ストレスチェックの結果をすぐに従業員へフィードバックする、カウンセリングやeラーニングなど必要な対策を案内し、従業員が適宜それらを活用できるような環境を作ることも大切です。
「アドバンテッジ タフネス」は、自社の課題把握と解決にお役立ていただける、サーベイを起点とするワンストップサービスです。従業員のメンタルヘルスやエンゲージメント状況をセンサスで定点観測し、ストレス状態やストレスへの対処行動状態を可視化します。高精度な現状把握を可能とするパルスサーベイとの組み合わせにより、優先的にアプローチするべき部署やチームの把握も可能です。
また、組織課題を見える化し改善を促進するパルスサーベイ「アドバンテッジ pdCa(ピディカ)」も提供しています。pdCaは、当社が有する総合サーベイ「アドバンテッジ タフネス」の指標や基準に合わせて構築しているため、比較が容易となり、前後の変化も捉えやすくなります。サーベイのデータを活用し、従業員のストレスを見逃さないようにしましょう。
セルフケアの支援
従業員自身が、自らの抱えるストレスに対処できるよう、サポートすることも重要です。以下のようなセルフケアに関する研修を検討してみても良いでしょう。
ストレスに気づき、適切なケアを行いましょう
無自覚なストレスは、知らず知らずのうちに心身をむしばみ、深刻なメンタル不調や重大な病気を引き起こす可能性もゼロではありません。従業員が心身ともに健康で満たされた状態で働ける「ウェルビーイング」な経営が求められる今、企業としてメンタルヘルス対策に取り組む意義は大きいといえます。サーベイやツールを活用し、現状把握につとめるとともに、従業員が自らストレスケアを行えるようサポートを行いましょう。