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職場に必要なメンタルヘルスケアは?取り組み内容やポイントを解説

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「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

さまざまな環境変化によってストレスを感じやすい現代、メンタルヘルス対策は従業員が各々で対処するものではなく、企業が積極的に取り組んでいくべき課題です。職場におけるメンタルヘルスケアの取り組みは、従業員の心の健康維持を目的とするだけではなく、企業のさらなる成長、競争力の強化という点でも大きな役割を果たします。今回は、職場に必要なメンタルヘルスケアについて、種類やステップを踏まえながらわかりやすく解説します。

職場におけるメンタルヘルスケアとは

仕事をしている人

はじめに、職場におけるメンタルヘルスケアの意味を押さえておきましょう。

職場におけるメンタルヘルスケアとは

メンタルヘルスとは、直訳すると「心の健康」です。日常のストレスに対処しながら、穏やかな気持ちでいられること、やる気に満ちていることは、心が健康であるといえるでしょう。

職場におけるメンタルヘルスケアは、すべての従業員がいきいきと働けるよう、気配りと援助をすること、かつそれが円滑に行われるような仕組みを作り実践することを指します。従業員が自分自身のメンタルヘルスを良好に保てることは、企業にとっても非常に重要です。自らの持つ可能性を認識し、やる気のある状態で業務に取り組めれば、従業員のパフォーマンスや生産性の向上、ひいては組織の成長と発展にも貢献します。

企業としては、従業員の衛生管理のみならず、生産性向上の側面からも従業員のメンタルヘルスケアが求められています。

厚生労働省で示されるメンタルヘルスケアの定義

厚生労働省では、メンタルヘルスケアの定義を以下のように示しています。

メンタルヘルスケアとは、全ての働く人が健やかに、いきいきと働けるような気配りと援助をすること、およびそのような活動が円滑に実践されるような仕組みを作り、実践することです。

また、メンタルヘルスケアの対象を「すべての従業員」としており、それぞれの状態に合ったケアをすることが重要です。

①健やかに、いきいきと働いている健康な人
②勤務はしていても過剰なストレス状態にある半健康な人
③ストレス関連疾患に罹ったり、精神障害の症状を呈している人

出典:厚生労働省「こころの耳」

職場におけるメンタルヘルスケアの必要性

体操をする従業員

従業員一人ひとりの心の健康を保つことは、従業員自身にとってプラスとなるだけではなく、企業・組織にもポジティブな影響を与えます。職場のメンタルヘルスケアに取り組むべき理由は、単にメンタルヘルス不調者を減らすことのみならず、以下のようなメリットも含まれます。

<職場のメンタルヘルス対策を進めるメリット>

  • 従業員の心身の健康維持
  • 職場の活性化・生産性の向上
  • 組織の競争力強化・人材獲得力の向上

従業員の心身の健康維持

すべての従業員が、メンタルヘルスやストレスケアに関する基本的な知識を得ることで、自分自身および他の従業員のメンタル不調にもいち早く気づけるようになります。また、自分が不調を感じた時にも、適切な対応をとれるようになるため、心身の健康を維持しながら働くことができます。

職場の活性化・生産性の向上

心身に不調をきたしながら仕事をしている状態(プレゼンティーイズム)で、本来のパフォーマンスを発揮するのは難しいといえます。プレゼンティーイズムによる損失は大きく、その損失額は1人当たり約60万円にのぼるという試算もあります。さらに症状が悪化し通院や入院の必要が生じた場合、企業の保険費の負担が増える可能性もあり、コストの観点でも、プレゼンティーイズムの原因の一つとなるメンタルヘルス対策に取り組む意義は大きいといえるでしょう。

メンタルヘルスケアに取り組むことで、従業員の心身の健康が保たれていると、その人が本来持っている正常な判断力や思考力、クリエイティビティを発揮することができます。それぞれが強みを活かし、活発なコミュニケーションがなされれば、新しいイノベーションが生まれる可能性も高まるでしょう。

仕事のパフォーマンスは、心がポジティブな状態で意欲的な時に向上するため、結果的に生産性や業績の向上にもつながります。このように、メンタルヘルスケアの取り組みは、安定的な企業運営、組織の成長という観点からも重要といえます。

組織の競争力強化・人材獲得力の向上

従業員のメンタルヘルスケアに力を入れることは、企業そのもののイメージアップにも大きく貢献します。

企業の将来性を評価する指標はますます多様化しています。特に近年は、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげようとする「人的資本経営」や、従業員の心身の健康維持・管理、増進を経営的な視座から推し進める「健康経営」の取り組みが特に重視されています。

また、「心身ともに幸福な状態で従業員が働いている企業が成長する」「従業員の幸福度が企業の業績を左右する」といった、「ウェルビーイング経営」の視点で企業を評価し、投資の意思決定に活かす動きも多くみられます。企業の競争力強化、加えてCSR活動という観点でも、従業員の心身の健康に関する配慮は重要なファクターであり、企業価値の向上には不可欠なものといえるでしょう。

職場におけるメンタルヘルスの3つの段階

メンタルヘルスケアは、「一次予防」「二次予防」「三次予防」の「3つの段階」に分類されます。職場におけるメンタルヘルスケア施策は、それぞれのステップごとに適切に進めることが大切です。

一次予防《未然防止》

一次予防とは、ストレスによるメンタル不調を未然に防ぐ段階です。メンタルヘルスケアは、不調を感じてからのケアや、悪化を防ぐための取り組みではなく、この「一次予防」が特に重要です。メンタル不調に陥ってしまう前に自らのストレス状態に気づくこと、職場組織としてそれを支援し、対策していくことが求められます。

2015年から従業員数50人以上の事業場で義務化されている「ストレスチェック」もこの一次予防にあたります。また、厚生労働省は2024年9月、「ストレスチェックの実施義務対象を労働者50人未満の事業場まで拡大する」ことを盛り込んだ骨子案を、メンタルヘルス対策に関する検討会で提示しました。

二次予防《早期発見》

二次予防は、メンタルヘルスの不調を早期発見し、状況に応じたケアを行う段階です。従業員が「自らの不調にいち早く気づける」「周囲の同僚の不調に気づける」、そして「必要に応じて専門家へ相談するなど、適切な対処を早急にとれる」ことが重要となります。

二次予防の取り組みにおいては、従業員一人ひとりにメンタルヘルスへの理解を深めてもらうことに加え、同僚・上司など、周囲がいち早く異変に気づき、気兼ねなく相談できる職場風土を醸成することが大切です。

また、周囲に不調を相談しづらい場合でもアクセスしやすいよう、メンタルヘルスケア専門の外部機関と連携した相談窓口を設置する、産業医との面談機会を設けるなども効果的です。カウンセリング窓口は、誰でも利用できること、不調を感じる前でも気軽に相談できることを丁寧にアナウンスしましょう。

三次予防《職場復帰支援》

三次予防とは、メンタルヘルス不調で休職した従業員の職場復帰を支援する段階です。休業から復帰までの流れを明らかにして、制度・ルールとして整えることが必要です。

施策としては、休職中の不安や焦りを緩和するための精神面のフォローや、専門家の指導による職場復帰支援プログラムやトレーニングの導入、復帰後の従業員に過度な負担がかからないような業務量の調節などが挙げられます。三次予防を適切に行えないと、メンタルヘルス関連疾患の再発や離職に至る可能性もありますので、慎重かつ適切にフォローしましょう。

職場におけるメンタルヘルスケアの種類「4つのケア」

1から4まで書かれたブロック

職場におけるメンタルヘルスケアは、以下の4つのケアを継続的、かつ計画的に実施することが必要です。中長期的な視座のもと、職場の実態に即した取り組みを進めていきましょう。

<メンタルヘルス対策の「4つのケア」>

  • セルフケア
  • ラインによるケア
  • 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
  • 事業場外資源によるケア

①セルフケア

セルフケアとは、従業員が自らのストレスに早めに気づき、適切に予防・対処することです。例えば、しっかり休息・睡眠をとることのほか、軽い運動、趣味の時間を設けることなどが挙げられます。

適切なセルフケアを行うには正しい知識が必要となるため、セルフケア研修などを実施して、メンタルヘルスケアの基本を学んでもらうと良いでしょう。併せて、年1回以上の実施が義務付けられている「ストレスチェック」によって、各々が自分の心身の状態を把握することも効果的です。

②ラインによるケア

ラインによるケアとは、部下のいる管理監督者が実施するケアです。管理監督者は、日ごろから従業員への目配りを心がけ、部下の相談に応じながら、職場環境の改善や部下の異変※の早期把握と対応、メンタル不調の従業員の職場復帰支援などを担い、職場の活性化を図ることが求められます。

※部下の異変の例:早退、遅刻、無断欠勤、活気がなくなる、不自然な言動がみられる、ミスが増える、など

ケアをより実効性のあるものにするためには、監督者自身が研修などを受講し、メンタルヘルスケアや不調予防の取り組みについての視点を持つことが欠かせません。

③事業場内産業保健スタッフ等によるケア

事業場内産業保健スタッフ等によるケアは、産業医や衛生管理者らによる支援を指します。従業員数が50人以上の事業場には産業医の選任義務があります。また、規模が大きい組織では、産業医以外にも看護師や保健師、心理職などが在籍している場合もあるでしょう。

専門的な知識を持つ産業保健スタッフと、人事・総務部門の従業員らが協働して、より効果的なセルフケアおよびラインケアを進められるよう、企業におけるメンタルヘルス対策の企画立案や推進を行います。

④事業場外資源によるケア

事業場外資源によるケアとは、メンタルヘルスケアに関する専門知識を有した外部機関や、サービスを活用することです。各企業のメンタルヘルスの課題に沿ったアドバイスやサポートを受けて、解決を図りたい場合に有効です。また、自社の産業保健スタッフと専門機関の協力体制を敷くことにより、さらに効果的に施策を進めていけるでしょう。

<事業場外資源によるケアの例>

  • 従業員支援プログラム(EAP)
  • 労災病院・診療所
  • 都道府県産業保健推進センター
  • 地域産業保健センター ほか

職場におけるメンタルヘルスケアの具体施策

タブレットで仕事をする人

職場のメンタルヘルスケア対策を進めていくにあたり、具体的にどのような取り組みを行えばよいのでしょうか。

ストレスチェック結果やパルスサーベイの活用

ストレスチェックの結果やパルスサーベイを活用して組織全体のストレス状態を把握し、環境改善につなげていきましょう。ストレスチェックは、従業員が自らのストレス状態に気づくきっかけにもなるため、ストレスチェックの結果をすぐに従業員へフィードバックする、受検結果を活用して、カウンセリングやeラーニングなど必要な対策を案内し、従業員がそれらを活用できるような環境をつくり、改善に向けた行動を促します。

一般的に、ストレスチェックは年1回のみ実施する企業が多いため、それ以外の期間の状態把握を目的に、パルスサーベイを実施すると良いでしょう。パルスサーベイとは、従業員自身や組織の満足度などについて問う調査で、月1回など短期的に繰り返し行われるものです。実施頻度が高いため、変化に気がつきやすいメリットがあります。

メンタルヘルス研修の実施

メンタルヘルス研修を行うことで、従業員にメンタルヘルスについての正しい知識を学んでもらうことができます。正しい知識を持っていると、自身のメンタルヘルス不調にも早めに気づけるようになるほか、進んでセルフケアに取り組むなど、ストレス軽減のために適切な行動をとれるようになります。

研修はすべての従業員を対象に年1回など定期的に行い、リマインドや知識のアップデートを図りましょう。管理職に対しては、メンタル不調者の早期発見や適切なアプローチの重要性について伝えることも大切です。

<メンタルヘルス研修のテーマ例>

  • ストレスへの理解と対処法
  • メンタルタフネス度※の向上
  • 【管理職向け】メンタル不調者の早期発見とアプローチ法 など

(※困難に直面しても、悪い感情に振り回されずに前向きに対処できる能力)

1on1などでメンタル不調のサインを見極める

1on1を行う上司と部下

1on1とは、上司と部下が1対1で話し合う面談のことです。1on1では、部下が主体となって、今の自分自身の状況や悩みなどを伝えます。上司は、対話の中でメンタル不調のサインがないか、部下の話に耳を傾けながら、対話を通して思考や問題の整理をサポートします。

1on1の進め方については、以下の記事で詳しく紹介しています。

産業保健スタッフや外部によるサポート体制構築

産業保健スタッフや外部の専門家に相談できる窓口を整えておくことも不可欠です。カウンセリングは、ストレスによって心身が深刻な状態になる前でも気軽に利用できること、キャリアや自己実現に関する相談もできることを周知し、積極的に活用するよう呼びかけます。安心して使えるよう、相談は匿名でもできること、秘密は守られることなども併せて発信しましょう。

また、従業員が大きなストレスを抱えてしまっていた場合に備え、必要に応じて産業医や専門機関と速やかに連携できるよう、その後のサポート体制についてもしっかりと整えておくことが大切です。

職場におけるメンタルヘルスケアの注意点

大量の資料とびっくりマークが書かれた木のブロック

最後に、メンタルヘルスケア推進時の注意点をチェックしておきましょう。

企業による安全配慮義務の履行

雇用主である企業は、労働契約法第5条の安全配慮義務に基づいて従業員の心身の安全と健康を守らなければなりません。メンタルヘルスケアの分野においては、企業は産業医などの専門家から助言やサポートを受けながら、メンタルヘルスケアに関する知識を習得し、適切に対処していくことが求められます。

不調に陥った従業員に対して不利益な取り扱いをしてはならない

メンタルヘルス不調に陥った従業員に対し、企業は適切なケアやサポートを行うことが求められると同時に、メンタルヘルスの問題を理由に、解雇や退職の推奨、雇用契約更新の拒否など当事者に不利益な取り扱いをしてはなりません。その他労働関連の法令に違反する措置や、「配置転勤命令権」の濫用にあたる措置は認められないため注意しましょう。

職場のメンタルヘルスケアは「未然防止」がカギ

さまざまな表情の顔文字

職場のメンタルヘルスケアは、企業が果たすべき社会的責任でもあり、従業員が心身ともに健康な状態で働くことをサポートする重要な取り組みです。ストレス時代と呼ばれる今、誰もがメンタル不調を抱える可能性があることを念頭に、「未然防止」を一つのキーワードとして、全社一丸となってメンタルヘルス対策を進めていきましょう。

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【筆者プロフィール】

「アドバンテッジJOURNAL」編集部

「アドバンテッジJOURNAL」編集部
導入企業数3,140社/利用者数483万人のサービス提供実績と、健康経営銘柄に3年連続で選定されたアドバンテッジリスクマネジメントの知見から、人事領域で関心が高いテーマを取り上げ、押さえるべきポイントやつまずきやすい課題を整理。人事担当者や産業保健スタッフの“欲しい”情報から、心身のヘルスケアや組織開発、自己啓発など従業員向けの情報まで、幅広くラインアップ。「ウェルビーイングに働く」ためのトピックスをお届けします。

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