用語

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)

ACTとは

ACT(アクト)とは、Acceptance and Commitment Therapy(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の略称で、認知行動療法の中の1つの心理療法です注1。元々は心理療法やカウンセリングにおいてメンタルヘルスの問題に対し用いられていましたが、近年ではACTトレーニングとして健康な人々への教育などでの活用も盛んになっています。

ACTでは、心理的柔軟性と呼ばれる行動的側面を増やしていくことで、自分の行動を妨げる思考や感情にとらわれることなく、いきいきした生活を送ることを実現しようとします。具体的には、セラピストとの会話や自身の日常での実践を通じて、「いま、この瞬間」自分の中にある思考や感情を受け容れながら(アクセプタンス)、自分自身が大切にしたい価値に向かって行動パターンを作り上げる(コミットメント)ことを目指します。欧米の有名 IT 企業でも取り入れられている「マインドフルネス」の方法も使いながら、行動変容を促す手法として注目されています。

ACTの様々な問題に対する効果は、多数の研究をまとめたメタ分析をさらに20件レビューした論文によっても明らかにされています1)。また産業領域においてもさまざまな研究と実践が行われつつあり、生産性やウェルビーイングの向上との関連が示されてきています。したがって、ストレス対処のセルフケアをはじめ、生活習慣の改善や職場の安全教育、キャリアやリーダーシップ開発等にも活用が期待されています。

心理的柔軟性とは

心理的柔軟性とは、勝手に湧き上がる自分の思考や感情にとらわれることなく、自分自身が大切にしたい考えをより採用し、いきいきとした生活を送るための行動的側面のことです。具体的には専門用語になりますが、アクセプタンス、脱フュージョン、「今、この瞬間」への柔軟な注意、文脈としての自己、価値、コミットされた行為、と呼ばれる6つのコアプロセスから構成される行動のパターンのことを指します。それぞれについて簡単に説明します。

・アクセプタンス:自分の思考や感情をあるがままに観察しようとする
・脱フュージョン:自分の思考の内容と距離をとり、思考とアクションの自動的な結びつきを弱める
・「今、この瞬間」への柔軟な注意:過去を思い出してつらくなったり、将来の心配を延々としてしまったりせずに、現在の瞬間に注意を向ける
・文脈としての自己:自分は○○である、といった思い込みや執着を弱め、自分の中に生じる思考や感情そのものと、それを感じている自分の違いについて区別できるようにする
・価値:望む人生の方向を意識し言語化する
・コミットされた行為:望む人生の方向に向かうための目標を設定し、アクションを実行する

先が見えない予測困難な時代といわれている今、どのように自身の思考や感情と付き合っていくかが大切になります。この状況に適応する鍵である従業員の心理的柔軟性を高めて、生産性やウェルビーイング向上を図るため、人事担当者の方はACTの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
注1 ACTは「認知行動療法の『第三の波』」、または「第三世代の認知行動療法」とも呼ばれますが、近年では文脈的認知行動療法と称されることが多いです。

[引用文献]
1)Gloster, A. T., Walder, N., Levin, M. E., Twohig, M. P., & Karekla, M. (2020). The empirical status of acceptance and commitment therapy: A review of meta-analyses. Journal of Contextual Behavioral Science, 18, 181-192.

(Visited 39,978 times, 11 visits today)

参考記事